第二百二十話
第二百二十話です。
前話を見ていない方はまずはそちらをー。
魔王領に入って数日ほど経った頃、アマコが予知を見た。
以前の予知からそれほど間隔が空いていないのにも関わらず、見られたその予知の内容は、ほぼ僕に関するものであった。
どうして僕にハイライトが当てられた予知が見られたのかは分からないけれど、なんだかルクヴィスを出た後の時を思い出した。あの時は、僕がお腹を刺される予知を見ていたんだよな。
実際は、ネアが自決しようとした予知だったけれども。
ともかく、予知の内容を話してくれたアマコだけど、どこかぎこちない様子だった。もしかしたら僕達には言えない悩みを抱えてしまったのかもしれない。
アマコ自身は普通に振舞うようにしているけれど、僕としては心配だ。
「———みんな、魔物が襲ってくるよ!」
「グルゥ!!」
アマコが予知を見た翌日。
魔王を目指して旅を続けている僕達は、六度目になる魔物の襲撃に見舞われていた。
先の戦争で沢山の騎士達を苦しめた飛竜とグローウルフ。
そして、グローウルフが従える、やせこけた赤色の狼―――ハングウルフ。
「全く、魔王領ってのはこんなにも魔物が多いものなのかね!」
「とにかく! こいつら全員を追い払いましょう!!」
カズキが籠手に包まれた掌で魔力弾を操り、魔物達へと向かわせる。
光魔法特有の消滅させる力を有した魔力弾は、鉄球のような硬度を保ちながら魔物へと殺到し、退かせる。
「私もッ!」
紫電を纏わせた刀を抜き放った先輩が高速で移動しすれ違いざまに魔物達に一太刀いれていく。
反応できず、見当違いの方向を向いている魔物達の背後に着地した先輩が格好つけながらカチンと納刀した次の瞬間―――、斬られた箇所から強力な電撃が迸り、魔物達を焼き焦がす。
「え、なにあれ。かっこいい」
そんな先輩の動きを後ろで見ていた僕は、そんな感想を呟く。
先輩とカズキが前衛、僕とレオナさんが後衛という形で襲い掛かる魔物と戦ってはいたが、前衛の二人がいてくれれば僕とレオナさんの手は必要ないように思えた。
「何度見ても思うが、やはりスズネとカズキの力は凄まじいな」
氷の剣を周囲に展開させたレオナさんが、二人の戦いぶりにそう口にした。
「勇者の武具を手にしてからまだ間もないというのに、ほぼ使いこなしている」
「たしかに、僕の籠手とはだいぶ勝手が違うはずなのに、もう自分の手足のように扱ってますね。……お?」
先輩の体力が心配だ……。
あれだけの動きを連続で続けるのは相当な体力を消費するらしいので、彼女が移動する先を予測し治癒魔法弾を投げる。
先輩もすぐに迫る治癒魔法弾に気付いたのか、返す刀で魔力弾を切り裂き治癒魔法の魔力を全身に浴びる。
「ウサトくーん! ありがとー!」
「危ないので余所見しないでください!」
魔物達のど真ん中で手を振ってくる先輩に注意しているとレオナさんと肩にいるネアがやや引いたように僕を見ていることに気付く。
「い、今のスズネの動きを目視できる君も、中々に凄まじいと思うぞ?」
「慣れただけっていうけど、あれを慣れで済ませるのはおかしいと思うわ……」
いや、完全には目で追えないのは変わらないんだけど。
「グルァー」
「ん? ブルリン、フェルム、ちゃんとアマコを護ってくれているか?」
「なんでボクは子守りなんてしなくちゃならないんだ」
「フェルム、子供扱いしないで」
僕の後ろで頷くブルリンと、ジトーっと睨みつけてくるアマコとフェルムに苦笑いを返す。
ブルリンとアマコには索敵を行ってもらっており、強力な魔物が接近するのを伝えてくれている。
フェルムは索敵をしているアマコをブルリンと一緒に守ってくれている。
僕と同化することで戦える手段が増えるけれど、今は人手が多い方がいいので、フェルムにはアマコを守ってもらっている感じだ。
「———ッ、グル!」
「ウサト、レオナさん、右から魔物がくる!」
早速、前方の群れとは別の魔物がやってくるようだ。
ドスン、ドスンという音と共に茂みが揺れ、何かが近づいてくる。
「……あっ」
予知でその姿を確認したのか、アマコが僕を見てそんな声を出した。
その反応が気になっていると、近づいてきた魔物が姿を現した。
ヌゥ、と茂みをかき分け姿を現したのは、身長三メートルほどの人型の魔物。その筋骨隆々な体と手に持った棍棒は——、
「オーガか……」
「「あ、ウサトだ」」
「君たち、あとで覚悟しろよ?」
声を揃えてオーガを僕呼ばわりしたネアとフェルムに復讐を誓いながら、オーガの方を見る。
確認できる限り、一体だけではなく、三体いるようだ。
「レオナさん、僕が行きます」
「それは構わないが、大丈夫か?」
「心配はいりません。少し、試したいこともありますし」
オーガから視線を逸らさずにそう返すと、次にフェルムが声をかけてきた。
「ウサト、ボクも同化した方がいいか?」
「……いや、君はここにいてくれ。また魔物が来るかもしれないからね」
「分かった」
右腕に籠手を展開させ、オーガの方へ向かう。
籠手から弾力付与による魔力を編み込みつつ、三体のオーガの前で立ち止まると、頭一つ以上背の高いオーガが唸り声を上げて、僕の前に立ちはだかった。
「一対一の勝負か?」
「ギィ……」
「あ、これは単純に嘗められてるだけね。貴方、見た目は弱そうだし」
普通にへこむ。
まあ、嘗めているならそれでいい。
右の掌に弾力付与をさせた魔力を纏わせ、構えを取る。
「さあ、来い!」
「ガァ!!」
力任せに振り下ろされる棍棒。
それに対して僕は、右手を払うようにし棍棒へと打ちつける。
その瞬間、バチン、という音と共に振り下ろされた棍棒が弾かれ、地面へと逸らされる。
「は?」
「名付けるなら“治癒弾き”……かな」
弾力付与による防御術。
手に纏わせた弾力付与された魔力で攻撃を弾くことで、最小限の力で攻撃を防ぐ技術だ。
これにより力技で弾くよりも、より少ない力で攻撃を弾けるようになった。
呆然と地面にめり込む棍棒と僕を見るオーガに、挑発するように手招きをする。
「さあ、もっと来い!」
「ガアアアアアア!!」
余程挑発に頭が来たのか、力任せに振り上げた棍棒を連続で叩きつけてくる。
嵐のような連撃にネアは「ひゃあああ!?」と情けない悲鳴を上げているが、冷静に右手で棍棒を弾いていく。
「ガ、ハァ、ハァ……! ガァ!」
「ぬんッ!!」
息を切らしながらの、苦し紛れの拳。
それに対し、右の掌で拳を一旦受け止め、そのままはじき返す。
弾かれた衝撃でしりもちをついたオーガを視界に収めた僕は、攻撃を仕掛けていく。
「魔力回し」
弾力付与された魔力を右腕から右足のつま先へと移動。
弾力の備わった魔力を力の限りに踏みつけ、その反動を利用することで一気に加速し、オーガの懐へ潜り込む。
「ギッ!?」
「遅い!」
そのまま再び右拳に魔力を戻し、そのままオーガの胴体に押し出すような縦拳を叩き込む。
「——治癒弾力拳」
「ギィェ!?」
思い切り後ろへ吹き飛んだオーガは、仲間の二人を巻き込むように転倒する。
驚愕の面持ちで腹部を押さえたオーガだが、痛みがないことに気付いたのか怯えの入った目で僕を見る。
治癒弾力拳は、吹き飛ばすことに主眼を置いた治癒パンチだ。
弾力付与と僕の腕力で吹き飛ばす分威力は弱いけど、その分相手をのけぞらせることに長けており、状況によっては相手を殴り飛ばし、強制的に戦闘を切り上げることができる。
「……これも実戦で通用しそうだな」
「ガ、ヒ、ヒィィ!?」
「ん?」
再び構えを取った僕を見て、先ほどまで戦っていたオーガは恐怖の声を上げる。
呆気に取られているのも束の間、恐怖に駆られたオーガは、仲間の二体を伴ってそのまま森へと帰って行ってしまった。
「まだ試したいことがあったけど、とりあえずは撃退成功だね。ネア」
「ほぼ肉弾戦のみでオーガを怯えさせた人間は後にも先にも貴方だけでしょうね……。貴方って本当に化物……」
ミアラークで一度勝った相手だし、そこまで苦戦するほどでもなかった。
しかも相手は僕を侮っていたわけだし。
ジト目で僕を睨みつけたネアは、先ほど僕が繰り出した技を思い出したのか、翼を大きく広げる。
「それより! まずはさっきの技について説明しなさいよ!? どうして、貴方は一緒に戦ってる私に説明をしないのよ!? なによあれ!!」
「系統強化の暴発——系統発破に続く新技術、弾力付与だ。ネア、僕の技はもう一段階、進化する」
「あたまおかしい!」
そこまで言う?
そうこうしているうちに先輩とカズキが前方の魔物を撃退することに成功したようだ。
それを確認し、拗ねてしまったネアをなだめながらレオナさん達の元へと戻ると、感心した様子のレオナさんと、露骨に引いているアマコとフェルムが迎えてくれた。
「弾力付与をあのような形で使うとはな。まさに格闘と反射神経に長けた君だけにしか扱えない技術だ」
「系統強化を暴発させていると魔力の消費が激しいので、それを補う技術でもありますね。さすがに衝撃波が出せる分、暴発の方が強力ですが使い勝手はこっちの方が良い感じです」
攻撃の系統発破と防御の弾力付与というべきか。
「レオナ、あまり褒めないでちょうだい。こいつ、調子に乗ってまた変な技作り出すわよ」
「ついにオーガも歯牙にかけなくなったよね。前も一撃で沈めてたけど」
「もうお前がオーガでいいんじゃないの?」
「グルァー」
おいこら、小動物共。
折角、レオナさんが褒めてくれているのになんてこと言うんだ。
●
魔物を撃退したところで、僕達は再び道なき道を進んで行く。
魔王領は、獣人の国と同じように木々が生い茂る深い森が多くある場所であり、整地された道がない。
なので、土地勘のあるフェルムを先頭にして、アマコとブルリンが魔物の索敵をしながら慎重に進んで行くという形となる。
「あまりこういうことは言いたくないけど、魔王領ってちょっと不気味な場所だね」
「そうだな。一人では、ちょっと来たくない場所だな」
僕の呟きに、近くを歩いていたカズキがそう返答する。
頭上を覆う木々のせいで太陽の光が僅かにしか差し込まない森の中は、暗く陰鬱とした気配が立ち込めている。
木々も青々としている感じではなく、ところどころ枯れているようにも見える。
「カズキはホラーとか苦手なの?」
「人並みには。まあ、見れなくはないけど、進んで見ることはないって感じ。ウサトは?」
「絶対に無理。一番嫌いなものが幽霊だから」
幽霊はガチで無理だ。
元々は幽霊否定派だったけれど、サマリアールの一件で幽霊が存在するのが分かってしまったので、より一層に怖くなった。
それくらい幽霊が苦手だし、今後とも会わないことを願うしかない。
「ははっ、ちょっと意外だな。ウサトなら幽霊でも殴り飛ばすくらいすると思ったんだけど」
「いや、こいつ実体があるなら殴り飛ばすわよ? サマリアールではそうしてたし」
フクロウのネアがそう口にすると、カズキは「マジか!」と驚きに目を見開く。
厳密には、呪いに縛られた魂だったけれど、あれも一応幽霊というカテゴリーに入るのだろう。
フッと、笑みを浮かべた僕は拳を掲げる。
「実体があるなら勝てる。なにせ殴れるから」
「幽霊に殴りかかる人は、貴方くらいでしょうね……」
ネアに呆れられていると、森のどこかから魔物の吠える声が木霊する。
その声に反応して、ブルリンが一定の方向を向くが、すぐに危険はないと判断したのかすぐに前へと向き直る。
「アマコ」
「大丈夫。こっちには来ないよ」
一応、アマコにも確認するもどうやら大丈夫なようだ。
少しでも油断すれば囲まれているってこともあるからな。本当に魔王領は魔物の数が多くて困る。
「……しかし、魔族とかほとんど見ないよね。もう魔王領に入ったのに」
「たしかに。一人くらいは見かけてもいいくらいなのに、魔物としか遭遇しないな」
僕の言葉にカズキが頷く。
フェルムが魔族との遭遇を避けているからかもしれないけれど、本当に魔族の姿が見られない。
「まあ、あっちからすれば俺達はお尋ね者みたいなもんだから遭遇しないに越したことはない。変に騒ぎも起こしたくはないしな」
「実際、一般的な魔族の人達って人間を見たらどんな反応をするんだろうね」
「——多分、どうもしないと思うぞ」
カズキとそう会話していると、前を歩いているフェルムが不意にそう返した。
「魔王軍の兵士でもない魔族はそもそも人間を見たことがない。ここには滅多に人間は足を踏み入れないし、踏み入れたとしても魔物に食い殺されるしかないからな」
「……人間をあまり見たことがないってのは獣人の国と似ているんだな」
あっちも隠れ里に入った時は、奇異の視線で見られていたし。
でも明らかに敵対している分、魔族の方が敵意の視線で見られてしまうかもしれない。
「本来、魔族は貧しい土地に生まれた種族だ。本当は森もここまで生い茂っていないし、魔物もあそこまで元気じゃない」
「つまり、以前とは違うってことか?」
カズキの問いかけにフェルムは前を向いたまま頷く。
「ボクにはほぼ関係なかったけど、魔王のおかげで生活がよくなったらしい。それで魔王のいる都市の周辺に移住する奴らも増えた」
「なるほど、だから魔族の姿も見えないんだな……」
「ここは末端だからな。魔物も多いし、大抵の奴らは別のところに引っ越しているんだろ」
そう語るフェルムの言葉はどこか他人事のように思えた。
彼女の過去を考えれば当然のことなのかもしれないけれど、僕にはそれが少し寂しく思えた。
……気を悪くするかもしれないけど、少し踏み込んでみるか。
カズキから離れ、先頭を歩くフェルムに並ぶように近づく。
「フェルムは、自分の故郷のことをどう思っているの?」
「……もう忘れたけど、どうしようもない場所だったよ。皆、子供のボクを怖がってた」
「君の両親もか?」
「ああ。今となっては顔も覚えてないし、全然気にしてない」
これは気にしてる顔だな……。
思いつめた顔を見る限り、やっぱり思うところがあるのだろう。
快諾してくれたと思っていたけど、僕も配慮が足らなかったな。
「あのさ、フェルム―――」
フェルムに声をかけようとしたその時、再び魔物の雄たけびが響いた。
先ほどよりも近く、それでいて何かに襲い掛かるような敵意が込められた声。
それと共に、甲高い人の悲鳴が聞こえてくる。
「子供の悲鳴……?」
それも一人じゃない。
複数人の幼い子供の声に、フードを目深に被りながら反射的にフェルムの方を向く。
「フェルム、同化を!」
「あ、ああ!」
「先輩!!」
「分かってる! 行こう!!」
先輩も僕と同じようにフードを被りながらローブに隠すように勇者の刀を出現させた。
「カズキ! レオナさん! 先輩と僕で先に向かいます!!」
「おう、分かった!! 気をつけろよ!!」
足の速い僕と先輩が先に向かう。
そうカズキ達に伝え、その場を飛び出した僕は悲鳴の聞こえる先へ向かう。
木々の間を走り抜けている最中、肩の上のネアが訝しみながら話しかけてきた。
「ウサト、私の時みたいに罠かもしれないわよ?」
『相手も魔族だろうしな』
「そうだとしても、子供を見捨てるわけにはいかないだろ!」
「私も難しいことは後で考えるよ!!」
罠の可能性もある、でももし本当だったら年端もいかない子供が魔物に食い殺されてしまう。
だとしたら、僕に見過ごすことなんてできるはずはない。
林の先にいるであろう声の主の無事を祈りながら、僕と先輩は前へ突き進んでいくのであった。
性懲りもなく、新技を作り出すウサトでした。
魔力回しが、地味にえぐい性能してます。
次話は明日の18時を予定しております。




