表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
244/568

第二百十九話

新元号は令和になりましたね。


お待たせしました。


第十章開始です。

今回は三話ほど更新いたします。


 魔王領に入って数日。

 襲い掛かる魔物を迎撃しながら進んで行った私達は、交代しつつ休息を取りながら着実に魔王領を進んでいた。

 道中スズネが『いざ! 魔王退治の旅へ!!』と息巻いてはいたが、魔王領に入ってからは魔族というより、魔物との戦いが多かった。

 襲い掛かる魔物も今まで見たことがない種類が多く、それでいて強かったが、勇者三人とウサトとブルリンがいればそれほど問題ではなかった。


『やあ、アマコ』


 ウサトとスズネと交代して、目を瞑った私が次に目を開いたとき、夢で見ることのできる予知の景色と、その景色の中で半透明な椅子のようなものに金髪の獣人の女性が座っていた。


「……どうして、まだいるの?」

『随分とご挨拶だね』


 さも親し気に名前を呼び、私の夢の中に居座っているこの人は何者だろうか。

 いや、私と同じ予知魔法を持っている人なのは、理解できる。

 理解こそできるが、それで警戒を解くはずがない。


『言ったでしょ? 私達は繋がっているって』

「……何の用?」

『少し、話をしようと思ってね』

「その前に、まずは名乗って」


 名前を名乗らない時点で、信用以前の問題だ。

 私の指摘に、彼女は表情を崩さずに人差し指を立てる。


『さて、当ててごらん?』

「……」


 正直、私の中で候補はある。

 彼女の外見は、獣人の国で何度か見たことがあるからだ。

 しかし、それは生きている者ではなく、石像などでだ。


「……カンナギ。貴女は、カンナギじゃないの?」

『君が私をカンナギと呼ぶなら、そうなのだろうね』


 肯定もせず否定もしない。

 しかし、間違ったような反応でもない。


「……話って?」

『君の予知魔法は、周りとは違う。それは認識しているよね?』

「……」


 私の予知魔法は他の予知魔法使いよりも強いらしいのは知っている。

 それに、その予知も微妙に違っている。


『君は、他者に二つの未来を見せることができる』

「……それがなに?」

『君はウサトに未来を選ばせることによって、君にとっての、ひいてはリングル王国にとっての最悪の未来を回避することに成功した』


 勿体ぶった口ぶりと、耳に心地いい声。

 それになぜか嫌悪感のようなものを抱きながら、私は女性の言葉に無言を返す。


『気にならない? 本来の未来の、その先を』

「っ、何をするつもり!?」

『なあに、少しばかり選ばれなかった未来を見せるだけだよ』


 私が声を出す前にカンナギが掌を翻し、空間に景色を映し出す。

 そこには———沢山の人の亡骸と、魔族の兵士達の姿があった。


『本来は、勇者の二人は死んでいた。黒騎士に殺され、その黒騎士もローズに殺され、結果リングル王国は敗戦し、多くの人々の命と尊厳が奪われた』

「……っ! ウサト、は?」

『彼? 彼は当然生き残ったよ?』


 再び掌を振るい景色を変える。

 すると、先ほどとは違う景色―――荒らされたリングル王国の街の中で魔族の兵士に囲まれている一人の少年の姿が映り込む。

 その姿はウサトに他ならなかったけれど、その姿は私の知るそれとはかけ離れていた。


『結論だけ言うなら、彼は変わらず“誰か”のために戦っている。今は、そうだね……リングル王国を奪還しようとしている最中かな? 戦いから二カ月以上過ぎているね』


 いつも着ていた団服はボロボロで、焼け焦げたような跡がある。

 腕の袖には血のような赤いしみが染みついており、彼自身の目が―――これまでとは違う、怒りに溢れていた。


「ウサ、ト?」

『親友を失い。守ると誓った国を守れず、多くの人間を目の前で失った彼は、甘さを捨て去った』


 魔族の兵士がウサトに襲い掛かる。

 しかし、その次の瞬間にはウサトは兵士の兜に包まれた頭を鷲掴みにしており、そのまま腕力のみで持ち上げていた。


『……』

『ひ、がぁ……』


 その頭を掴む手に治癒魔法の魔力が集められる。

 集められた魔力は、系統強化のように凝縮していき―――最後に兵士の顔を巻き込むように破裂した。

 ウサトの手と、兵士の兜の隙間から破裂するように血が溢れ出る。


「……っ」


 内側から破裂し、大きな罅が刻まれた兜を掴んだ手を離したウサトは、傷だらけの手と動かなくなった兵士に目もくれずに、他の兵士達へと襲い掛かった。


「殺、した。ウサトが?」

『こちらの彼には“縛り”が存在しない。怒りと、後悔に苛まれた末に全てを背負い込んでしまった彼は、魔族を殺めることに迷いがないの』


 目にもとまらぬ速さで振り回された手は的確に兵士達の喉を抉り、貫き、力任せに突き出された拳は鎧で守られた体を貫通し、周囲に血をまき散らした。

 首へと叩き込まれた蹴りで首がへし折れ、腕を掴まれ振り回された末に地面へ叩きつけられ何かがへしゃげた音が響く。

 見たくない。

 こんな、救われないウサトは直視することはできなかった。


『誰も死なせないための拳は、魔族の臓腑を刺し貫き、喉をえぐるための武器へと変わり果てた。貴女も、ネアも、レオナにも会うことのなかったもしもの未来―――彼は、魔族にとって恐れられる本物の怪物へとなり果ててしまった』


 あの優しい人は、どこにもいない。

 いるのは、カズキとスズネを護れなかった後悔と魔族に対しての怒りを抱く、恐ろしい怪物だけ。


『少し刺激が強すぎたようだね』

「……」


 何も言えなくなってしまった私に、カンナギは薄ら笑いを浮かべながら腕を組む。


『しかし、この未来のウサトは間違っているのかな?』

「……どういうこと」

『魔族は敵だろう? それなのに情けをかける必要がどこにあるの? 二人の勇者にも同じことが言えるけれど、甘すぎる』

「……」

『魔族は滅ぶべき種族、そうだよね?』


 同意を求めてくるカンナギに私は言いようのない気持ち悪さを抱く。

 言っていることは正しいのだろう。

 事実、魔族によって私達の住んでいるリングル王国は脅かされた。

 でも、それでもこの人の口ぶりは魔族という種族そのものを憎悪しているように思えた。

 続きの言葉も言えずに、暫し無言の時間が続く。

 その時、予知が来るときの兆しを、感じ取る。


『ようやくだね。待ってたよ』


 目の前のカンナギもそれを感じ取ったのか、何もない空間へと目を向ける。

 そのすぐ後に予知の景色が映し出される。

 まず現れたのは、二つの人影。


『え、えーと、はじめまして。僕はウサト・ケンっていうんだ』

『こんにちは、彼の旅に同行しているネアです』


 白と黒の混じった団服を着たウサトの姿。

 しかし、彼の肌は魔族のように黒く、黒い角が生えている。

 そしてなぜかネアも魔族の姿をしている。

 え、ちょっと待って、なんで二人とも魔族みたいに――、


『妻です♪』

「は?」


 魔族姿のネアが口にした言葉に、自分から今まで出したことのない冷たい声が出てきた。

 どういうことだ、と今の時間にいるネアに波及しかねない衝動に駆られていると、目の前に映し出された光景が別ものへと移り変わる。


『ネア、あの技をやる!!』

『え、え!? なに!? なんの技!!』

『治癒爆裂波、否!! 進化したこの技は――』


 籠手に浮かんだ緑色に光り輝く魔力弾に左手を添え、腰だめに構えたウサトと、それを見て慌てるネア。

 あ、これはいつものアレか、と納得しているとまた次へと移り変わる。

 それは、先ほどとは違いサマリアールに似た街並みの中で、巨大な何かと戦うコーガとウサトの姿。

 その何かの姿は見えないけれど、あのコーガとウサトが並んでいるという異常な光景に、私は目を丸くする。


『気に食わないけど、今だけ協力しろコーガ! 僕とお前で奴を倒す!』

『そりゃあ、構わねぇけどさ。なんで俺の足を掴んでるの? ねぇ?』

『デカい武器がいる。だからお前が鎧を変形させて武器になってくれ!』

『ぐぇ!? お、おま、お前ぇ! 言ってること滅茶苦茶だし、それは協力とは言わねぇ!! あ、ちょ、ちょっと、や、やめぇ―――』


 コーガの両足首を掴み、振り回しながら何かに向かっていくウサト。

 もう訳が分からない予知の光景に唖然とする私だが、カンナギは口元に手を当てて肩を震わせている。


『……』

「?」


 なんだ、笑っている?

 たしかに、まさかのウサト三連続予知というおかしなものだったけれど、声を押し殺すほど笑うことだろうか。

 予知が終わり、現実に引き戻される感覚に襲われる。

 それに伴いカンナギの姿も、薄っすらと消えていき、私も抗えぬ感覚と共に瞳を閉じるのであった。




 次に目を開けたときは、まだ空が暗かった。

 本当は朝まで眠るはずだったのに、予知を見たせいで中途半端に起きてしまったようだ。

 私の周りには、レオナ、フェルム、ネア、カズキ、ブルリンが眠っている。

 先ほどの夢の内容を思い出しながら起き上がると、近くでパシッという音が聞こえる。

 そちらを見ると、焚火を間に挟んで向かい合ったウサトとスズネが、球のようなものを尋常じゃない速さで交互に投げ合っていた。

 スズネは右腕に小さく電撃が走っているし、ウサトは籠手をつけている。

 音もなく、ただ球のような何かが二人の間を行き来している光景を見て呆然としていると、ウサトの対面にいるスズネが私に気付く。


「あ、ウサト君、アマコが」

「え、あー、起こしちゃったかな?」


 スズネが投げた緑色の球を掴んだウサトはこちらへ振り返る。


「……ウサト、スズネ……なにやってるの?」

「見張りをしながら、キャッチボールしてたんだ」

「夜も更けてるし、眠気を誤魔化すためにね」


 眠らないためか。

 それは分かるけど———、


「きゃっちぼーるってなに?」

「あ、キャッチボールってのはね。えーと、二人とかで、球を投げて受け止めたりするのを交互にやる遊びなんだ」

「まあ、私とウサト君の場合、どれだけ早くできるか試していたから、エクストリームキャッチボールって名前の方があっているかもしれないね」

「……その球って……魔力弾?」


 ウサトの手にある緑色のボールは薄っすらと光を放っている。

 以前、魔力に弾力を持たせようとしていたけれど、もしかしてそれがそうなのだろうか?


「うん、カズキが使っていた技を参考にした弾力を持つ魔力弾。名付けるなら……治癒弾力弾というべきだね」


 そう言ってウサトが魔力弾を差し出してくる。

 恐る恐る触れてみると、ぐにぐにとした弾力と治癒魔法の人を癒す光が伝わってくる。

 触れているだけで、心が安らぎ疲れが取れていく。

 あれ、なにこれ普通に癒される。


「ウサト、これちょうだい。割と本気で」

「先輩と同じことを……」

「分かる。分かるよ、アマコ。それいいよね、商品化できるよね。名前はチユットボールにしよう」

「先輩は勝手に商業展開しないでください……」


 スズネの言っていることはよく分からないけれど、持ってて精神的な意味でも物理的な意味でも癒される代物だ。

 名残惜しくなりながら魔力弾をウサトに返すと、彼はそれを握りつぶし消し去る。

 ……ウサトにさっき見た予知について話しておこうか。


「ウサト、スズネ……私、また予知を見たの」

「……またか。今度はどんな予知なの?」

「君も大変だね。大丈夫、体に異常とかはない?」

「……うん、大丈夫。ありがとう、スズネ」


 純粋に私を心配してくれるスズネの言葉に頷きながら、先ほどの予知の内容を思い出し、できるだけ簡潔に答える。


「ウサトとネアが魔族になったり、ウサトがまた変な技を出そうとしてたり、ウサトがコーガの両足を掴んで振り回してたりしてた」

「うん……うん!?」


 まあ、そういう反応はするよね。

 でもこれが私の見た予知だからしょうがない。

 ……でも、予知をする前にカンナギに見せられた“もしもの未来”については話すべきだろうか。

 もし、あの時スズネとカズキが殺されてしまったら、ウサトはああなってしまっていたと考えると、これは私の胸の内にしまっておいた方がいいのかもしれない。

 今ここにいるウサトは、絶対にあの未来のようにはなることはない。

 それは、自信をもって言えることなのだから。


IFウサト「レッドファイト!」


このルートのウサトは、アーミラとは顔馴染みになるほどの宿敵同士、コーガは本編と変わらずズッ友状態、ネロは遭遇したら即殺されるレベルの天敵となっております。


次回の更新は明日の18時を予定しております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ