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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第一章 召喚、リングル王国
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第二十四話

前半は魔王軍視点


後半は主人公視点です。

 平原地帯、境界線付近。大河を挟んだ魔王領にて大量の人ならざる兵士達が、巨大な橋を建造していた。

 その集団は魔王軍、千に上る軍勢がリングル王国を侵略するべく長い道のりを経てやってきたのだ。

 その筆頭たる第三軍団長、アーミラ・ベルグレットは目前に迫った戦を前に自分を鼓舞するように声を上げる。


「橋も完成間近! 我らは魔王様の矛、その身を粉にしてその力を捧げん!!」


 彼女の声に呼応するように、唸り声を上げる兵士達。

 満足そうに頷くアーミラに、黒色の鎧を纏った騎士は呆れたようなため息をついた。


「軍団長、少しやる気を出し過ぎ。正直、うざいよ」

「そうは言ってもな……昂ぶるものはしょうがないだろう。それより貴様、上官に向かってうざいとは何事だ!」

「はぁー、すいませんでしたー。こんな面白みがない戦場に駆り出されてイライラしているだけでーす」


 やる気の無いようにそう呟いた部下にビキリと青筋を浮かべるアーミラ。

 しかし、軍団長相手に不遜な態度を取る黒色の鎧を纏った兵士を咎める者はいない。


「……まあいいだろう。だがな、形式的には貴様は私の部下だ。指示に従ってもらうぞ?」

「分かってるよ」


 面倒くさそうにそう言い放った黒色の鎧の兵士は、踵を返しどこかに歩いてゆく。

 残されたアーミラは額を押さえる。


「はぁ……有能なのはいいんだが、どうしてこうにも扱いづらい……だが、戦が始まれば否が応でも従ってもらうさ」

「苦労しているようだね」

「ヒュルルクか……いいのか? お前のお気に入りの子守をしてやらなくても?」


 軽薄な笑みを浮かべながら彼女に歩み寄る魔族、ヒュルルク。

 彼のお気に入りというのは、彼が創り出した魔物「バルジナク」。この侵軍での戦略兵器である。


「皮肉は言わないでくれよ……で、進み具合はどうだい?」

「見た所……あと、数刻で完成するだろうな」


 横目で建造されつつある橋を見ながらアーミラはそう呟く。

 橋の材料は、半分は切り取った木々―――残りは魔法で作り出した物質の有り合わせ。強度はお世辞にも高いとは言えないが、大勢が渡るには十分だろう。


「でもさぁ……今この橋を壊されたら色々マズいよね。士気も下がっちゃうし」

「そうさせないために、四六時中対岸を見張っているのだろう?……あまり不吉な事を言うな」

「ははは、ごめ――――」


『軍団長!!前方から何か飛来してきます!!』


「は?」


 刹那――――、前方から落ちてきた太く棒状の何かが作りかけの橋に直撃する。橋に深々と突き刺さった棒状の何かは一回り大きい大木。

 橋にビキビキと罅が入り、大木が突き刺さった部分から無残に崩れてゆく。


「なっ……何だ!何が起こっているんだ!?橋がッ」


 あっという間の出来事に、兵士もアーミラもヒュルルクも呆然とするしかなかった。しかし、我に返った彼女は対岸を超えた遙か遠くに、一つの人影を見つける。

 微かに見えるのは特徴的な翠色の髪――――師から聞いた、その髪色を持つ人物はただ一人しかアーミラは知らない。


「ロォォォォォォォォォズ!!!!」


 怒る狂う雄叫びは対岸で笑う人の形をした鬼へと向けられた。











「全く、どうなってんの……」


 頭からあの狐少女に見せられたイメージが離れない。

 ……何が楽しくて友達が血まみれの光景を四六時中見なくちゃいけないんだ?

 あの少女は僕に何を伝えたかったんだ?

 恩を返してもらう必要がある?

 どのような意図があって僕に接触したんだろうか。

 ローズが獣人の中には特殊な能力持ちが居ると言っていた。もし、そうだとしたらあの少女の持つ魔法は他人に幻術を見せる事なのだろうか? それとも……。


「未来を見せた……?」


 あるのかそんなこと? いや、僕はこの世界の魔法についてまだまだ知らないことが多すぎる。未来予知なんて魔法、ないとは言い切れない。

 でもどうして僕にそれを見せた?あの光景は本当の出来事なのか、そしたらカズキと犬上先輩は――――。


「駄目だ。駄目だ駄目だ!」


 ベッドから飛び起き、頭を横に振る。窓から見える外は茜色に染まっている。

 大きなため息を吐いた僕はベッドに寝転り、天井を見つめる。


「……訳が分からなすぎて逆にイライラしてきた」


 何で、恩を押し売られてこんなに悩まなければいけないのだろう……?

 考えてもいつまでたっても答えが出ないなら、直接聞いてみるのが良い。

 ……よし、とりあえずとっ捕まえて、お話してみるか。




「どこだあんのッ幼女!!」



 僕は風になる。

 後、僕の思考が若干変態的になっているのは、あの狐少女への恨みが入っていることとは関係ない。

 宿舎から飛び出して、城下町の方に走り出す。


 まずは、僕が手を掴まれた場所の方に向かう。恐らく形容できないような形相で町を走っている僕はかなりおかしい分類の変質者に見えるだろうが、この町の住人は全く気にしない。何せ今の僕は訓練服という奇行許可証を持っているのだ。

 むしろ普通にしている方が変に思われる。


「―――いない!」


 さっき少女が居た所ナシ。

 次は、最初に狐少女を見かけた露店。あの店なら誰かしらに話しを聞けば―――


「閉まってる!」


 そもそも開いてすらいない、不覚ッ。

 次は路地裏――――


「広すぎて分からない!?」


 僕はバカか……。

 しかし、何処を探しても狐少女はいない。

 道行く人に話を聞いても、知らないの一点張り、それに加えて僕と目を合わせないのが余計傷つく。しょうがない、粗方大通りは探し終えたから、最後の場所に向かおう。


「王国の外へ向かう門の所だな……」


 勿論、期待はしていない。

 だけど、いないと思っている場所に実はいましたなんてこともありえる。いやむしろ僕は最後に門という名の希望薄な場所を残しておいたのだ。


「ここには狐の獣人なんて来ないぞ?」

「ですよねー」


 分かっていたさ、夢も希望もないってことはね……。

 門番のトーマスさんにそう言われ僕は上がりに上がったテンションを肩と共に落としながらトボトボと町の方に歩き始める。


「……結局話も聞けなかった……」


 何故あれほど探しても見つからなかったのだろうか、僕は探せる場所は全部探した、それも街中で出せる最高の速さで……これは流石におかしい。

 未来を予知して、僕の追撃(?)から逃れている……とか?


「そんな便利な事、あるわけないかー」

「何があるわけないって?」

「ひょっ!?」


 僕の背後から聞こえる、昨夜に出掛けた鬼団長の声。

 だが、怖くない。もうこんなの慣れた事さ、ゆっくりと後ろを振り返ると―――そこには体中砂埃まみれのローズ。

 ……何と言えばいいのやら、とりあえず一言。


「砂もこびりつく良い団長とはこの事ですね!」

「ほほう、褒めてくれるとは嬉しいじゃねえか……どれ、顔貸せ握りつぶしてやろう」

「ぐぬおぉぉ……!」


 顔が……爆散するッ。

 顔面をアイアンクローされ、宙吊りにされた僕。

 いや、ホントごめんなさい。だからヤメテ。


「城に報告することが有る。ついでに来い」

「もー、どうにでもしてくださいよ」


 アイアンクローからは解放されたが、そのまま捕虜のように持たれ運ばれる。

 このお手軽感、僕はぬいぐるみか何かですか?


「さっき、あるわけねえとか、何か言ってたが……何してたんだお前?」

「あー、それは人を探してたんですよ」

「……はぁ?」

「何ですかその間。まあいいや、訳有って、金髪の獣人の少女を探していたんですよ」


 そういえば、この人この城下町の事、結構知っていそうだな。聞いてみても損はないだろう。


「……あぁ、あの獣人の事か、お前が訳分からねえ事を言っていた時の……あの娘がどうしたんだよ?」


 この際、面倒くさいのでローズが抱いている誤解は置いておく。


「あの娘について何か知ってる事はありませんか?」

「………二年前にひょっこり一人でこの国にやって来た娘だ。十二になったばかりの獣人の娘がたった一人でこの国に来たのは驚いたが……それだけだな」


 一人で、十二歳の獣人の子供が?

 それが本当だったら、とてつもないぞあの狐少女。捕まえようと思って捕まえられる自信が今なくなったわ。


「はぁ……」

「……人の趣味に口出しする主義はねえが……その、やめとけよ?」

「今、優しい一面を見せられても逆に困るんですけど……」


 痛い……滅多に見られない憐憫の眼差しが痛い!!

 何時ものローズに戻って!こんな優しいのローズじゃない!!

 精神的に打ちのめされながらも僕はローズに抱えられ、城に連れてかれるのだった。



 僕を抱えたまま王様のいる大広間に足を踏み入れるローズ。

 余程、僕のお手軽感が気に入ったらしい、全く降ろす気がない。


「ローズ?何故ウサトを……」

「報告致します。境界線付近にて魔王軍の進軍を確認」

「ッ、やはり来ていたか!魔王軍の進軍状況は?」


 魔王軍、ついに来てしまったのかッ。何故ローズが砂埃にまみれているのかと思えば、たった一人で偵察に行っていたからなのか。

 しかし魔王軍が近づいてきているというのに、現実感が沸かない。これは僕がまだ元の世界の常識で物事を考えているせいなのか……それとも只単に危機感がないからかもしれない。


「奴ら、どうにも河を超えるために急ごしらえの橋を造っているようで―――」

「なんと!クッ……そうなると魔王軍はすぐに――――」

「完成する前に、ぶっ壊しておきました。これで後数日は時間が稼げるでしょう」

「………よ、よくやってくれた」


 この人偵察の意味分かっているのだろうか……。

 王様も、感嘆を通り越して表情が硬直している――――でもすごい、流石僕らの団長。


「明日、民に魔王軍来襲の旨を伝える。今日は本当にご苦労だった。危険なことをさせてすまなかった……」

「気にせずに、では―――」


 そう王様にいい放った後に、大広間から去っていくローズ。

 彼女と共に僕も当然の如く出て行く。


「理解したかウサト」

「まあ……はい」


 理解したというのは、魔王軍が来ているという状況のことかな?

 意図は分からないけど、彼女も何か考えがあっての行動だろう。


「戦争が始まる前に、お前には色々注意しなくちゃいけねえことがいくつか有る」

「注意すること?」

「ああ、重要な事だ。ここじゃなく、宿舎の方で話してやる」


 注意すべきこととは何だろうか。

 だが今僕が気にする事はそこではない。


「団長、そろそろ降ろしてください」

「……忘れていた」


 それは酷いと思うよ。

遅くなりながらも、感想返信致しました。


感想を送ってくださりありがとうございました。

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[一言] >この人偵察の意味分かっているのだろうか……。 「威力偵察」……あると思います!
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