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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第九章 次なる戦いへと向けて
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第二百十八話

お待たせしました。

第二百十八話です。


第九章エピローグです。


四日に分けて四話ほど更新いたします。

 出発当日。

 ブルリンに食料やその他諸々をいれた荷物を持たせた後、僕は救命団の活動拠点に集った強面達とオルガさん、ウルルさん、ナックに一先ずの別れを告げていた。


「ウサト君、また大変な使命を負うことになったのは聞いたよ」

「オルガさんは、体の具合は大丈夫ですか?」


 今朝目が覚め、見送りにきてくれたオルガさんを気遣う。

 ……肉体的な疲労は治っているのだろうけれど、誰よりも多くの人々を癒してきた彼の心は疲れ切っている。

 僕の気遣いの言葉に、力のない笑みをオルガさんが浮かべる。


「少し動くくらいなら問題ないさ」

「私としては、ウサト君もお兄ちゃんも心配なんだけど……。ウサト君の見送りをしたい気持ちは分かるけれど、あまり無理しないでよ」

「は、はは、心配かけてごめん」


 不貞腐れたようにそう呟いたウルルさん。

 すると、彼女の後ろから暑苦しい雰囲気を纏わせた強面共が、二ィっという笑みを浮かべた。


「オルガはともかく、こいつの心配は無駄だと思うぜ」

「ああ、この前の戦場でまたやべぇことになってたからな」

「ありゃ、悪魔って言われてもおかしくねー姿だったわ。空も飛んでたし」

「俺以上にモンスターしてたぜ」

「まー、実際、魔族もモンスターもビビってたらしいしな」


 こんな時でも変わらないなぁ、この野郎。

 多分、戦場を駆けまわっている時、何度か僕の姿を見ていたんだろうな。僕からも、黒服達の動きは見えていたし。

 トングの言葉を最初に、次々と僕への事実無根の言いがかりを口にする人型モンスター共に、密かに拳を押さえつけながら笑みを保つ。


「ま、そういわれても仕方がないわね」

「その通りだ」

「ウサトだもんね。しょうがないよ」

「グルゥ」


 フッ、僕には味方はいないのかな……?

 ネア、フェルム、アマコ、そしてまさかのブルリンの順番でたたみかけるように同意されてしまう。


「だが、まあ」


 ここは元凶のトングに、一言物申した後に一撃かましておくべきか? と考えていると、奴が続けて何かを話そうとしている。


「お前はいけ好かねぇクソガキではあるが、いなくなったらいなくなったらで、張り合いがねぇからな。心配なんて欠片もしてねぇが、さっさと軍団長でも魔王でも片付けて帰ってこい」


 そうトングが言うと、他の奴らは大人でも泣き出しそうな凶悪な笑顔を浮かべる。

 それは、僕が初めて救命団に来た時から変わらない―――トラウマものの笑顔ではあったが、それと同時に僕にとっては何よりも慣れ親しんだものであった。


「クッ、ハハ」


 こみ上げる笑みを押さえきれず、目元を押さえた手で髪をかき上げる。

 強面達以外の面々が僕を見て、顔を青ざめさせるが、それを気にせずにトング達へと向き合う。


「僕が帰ったら覚悟しておけよ。上官特権で訓練地獄に付き合わせてやるからな」

「ハッ、上等だ。この化物がよ」


 笑みを深めながら互いに言葉を交わす。

 これ以上の言葉は必要ないと、会話を打ち切った僕は次に、未だに青い顔をしているナックへと視線を移す。


「ナック」

「ヒッ、あ、え……」


 え、なにその“恐れてはいけないのに、本能で恐怖している”みたいな顔。

 意志と身体が逆に動いているような反応をするナックに首を傾げていると、隣のアマコが僕の服の袖を引っ張ってきた。


「ウサト。顔と雰囲気が大変なことになってる」

「もうローズじゃなくて、ウサト独自の感じになってるわね……」


 僕独自ってどういうこと?

 たしかにローズを意識してはいないけれども。

 とりあえず、両頬を手で擦って表情? を元に戻す。

 確かめるべく、アマコの方を向いて確認する。


「戻った?」

「うん。いつものウサト。オーガ率が下がってる」


 オーガ率とは? 果たしてそれは数値化できるものなの?

 疑問に思いながら、気を取り直してナックへと話しかける。


「ナック、僕の留守を頼んだ」

「は、はい! 訓練も一生懸命やります!!」


 ナックは背筋を伸ばし、大きな声で返事をしてくれる。


「俺、治癒パンチとか治癒魔法弾みたいな技は、まだまだ俺にはできませんが、俺の、俺だけの“治癒魔法”を見つけるために、まだまだウサトさんに教えてもらいことが山ほどあります!!」

「ウサト?」

「よ、よーし! ナック、僕は意地でも絶対に帰ってくるから、君も頑張れ!! お互いに成長して、また会おう!!」

「ッ、はい!」


 普段から想像もできない低いネアの声に、思わず肩を震わせる。

 し、しまった……! ネアに秘密でナックに技を教えたのがバレてしまった……! 自分の目標と、目指すべき道を見つけた彼の意気込みの言葉は、心の底から嬉しいけど、背後から感じるネアの気配に思わず声が裏返ってしまう。

 その後、中々に締まらないままに、挨拶が終わってしまった。

 だけど、僕にとってはそれはそれでいいのかもしれない。

 別れを惜しんで、悲しんだりするよりも、笑って旅に出て帰るって決意を新たにする方が僕らしいと思えたからだ。



 大河のある場所までの移動は、馬での移動となった。

 僕を含めた旅のメンバーと、見送りのためにきたシグルスさんと二人の騎士、そしてローズが向かうことになったが、僕だけは昨日と同じく走っていくことになった。

 ブルリンに乗るという考えがあったことに今更気づいたけど、今日は彼の背には旅の荷物が載せられているせいか、スペース的にアマコしか乗ることができなかった。

 ローズは肩の傷があるので、普通に馬に乗っていたけど……走っている僕を見て、珍しく頭を抱えながら「帰ったら馬の乗り方を教えとくか」と呟いていた。


「この河の先が魔王領か。話に聞いた通り、魔物の鳴き声がそこらじゅうから聞こえるね」

「渡るときには、気をつけなければなりませんね」


 対岸を眺めている先輩に、返事を返す。

 あちら側からは、昨日と変わらず魔物の気配をそこかしこに感じる。


「では、ウサト。早速橋をかけよう」

「はい。それじゃ、ネア、フェルム」

「ええ」

「分かったよ」


 僕の言葉に頷いたフェルムは、自身の影に沈むように黒い魔力に飲み込まれ、僕の身体と同化する。

 ネアはフクロウに変身し、僕の肩に飛び乗る。

 変形・高速・全身からの魔力の暴発を可能にする姿へと変わった僕は脚甲へと変わった自分の両足を見て、首を傾げる。


「うーん」

『どうした?』

「いや、足は普通の形に戻してもいいかなって。脚甲だと走るときに、ガシャガシャ音が鳴るからちょっと不便なんだよね」

『……こっちの方がかっこいいと思うけど、お前がそういうなら形だけは元に戻してやる』


 僕の内にいるフェルムがそういうと、脚甲が変形し真っ黒なブーツへと変わる。

 つま先で地面を叩いて調子を確かめていると、見送りにきてくれたローズが顎に右手を当て、興味深そうにフェルムと同化した僕を見た。


「ほう、そいつが話に聞いた姿か」

「ええ。こいつがフェルムの闇魔法と同化した姿で、直接的な攻撃力はありませんけど、色々できることは増える……感じですね」

「本当にお前は、私の想定とは別の成長をしてくれるな」

「ま、師匠が師匠ですからね。弟子は師匠に似るっていいますし」

「ハッ、ほざけ」


 ローズと軽口を交わしつつ、準備を終えた僕はファルガ様の槍を手にしたレオナさんに声をかける。


「レオナさん、こっちの準備はできました」

「む、分かった。では、手筈どおり私の魔法で急造の橋を立てよう。皆、河から離れていてくれ」


 僕達に注意し下がらせたレオナさんは、片手で握った槍を大きく振るい八つの氷の槍を作り出す。


「——系統強化」


 レオナさんがそう呟くと、八本の氷の槍は強烈な冷気を纏いはじめる。

 それらは、彼女の意志に従って動き、僕達のいる場所と対角線に位置する対岸に一列に並ぶ。

 氷の槍が配置に移動したのを確認した彼女は、そのまま氷の槍を河へと落とした。


「氷結解放!」


 河に槍の穂先を向け、彼女がそう叫んだ次の瞬間―――大河から八本の氷の柱が突き出した。

 氷の槍に内包させた系統強化を、水中で発動させ橋を作るための道を作った……のか?

 頭では理解できるけれど、凄まじい技術と系統強化の強度のなせる技に圧倒されていると、自身が持っている槍の刃に魔力を纏わせたレオナさんが、薙ぎ払いの体勢に移っていることに気付く。


「続けて、もう一度!!」


 そのまま八本の支柱へと向けて、薙ぎ払いと共に前方に氷の魔力を解き放つ。

 大気を震わせながら対岸へと吹雪と見間違うほどの、魔力が吹く。

 魔力によって生じた白い靄が晴れると、そこには八本の支柱に支えられた氷の橋が存在していた。


「さすがは、ミアラークの勇者だな」

「「「……」」」


 普通に感心しているローズ以外、驚きのあまり誰も声が出せない。

 なんというか、レオナさんが味方で本当によかった……うん。

 氷の橋は幅三メートルほどあり、ブルリンすら楽々乗れるくらいの強度はありそうだ。

 その橋に掌を置いたレオナさんは、魔力を流し込みながら僕へと振り向いた。


「ウサト! 頼む!!」

「え、ええ! フェルム、ネア、やるぞ!」


 レオナさんの隣に膝をつき、彼女と同じように氷の橋に手を置くと、フェルムが橋を補強するための黒い帯、ネアが氷の橋に“衝撃”への耐性の魔術を施した。

 滑り止めのために橋の歩く場所に黒い魔力を網目状に張り巡らせた僕は、レオナさんに頷き、後ろにいる先輩達に橋が渡れるようになったことを伝える。


「もし壊れかけても、最悪僕が力技でもたせます。二人ずつが望ましいので、最初に魔物に対して威嚇できるブルリンと……先ぱ……いや、カズキ。その後にアマコと先輩。その次にレオナさん。最後に僕達の順で行きましょう」

「ねぇ、ウサト君? 今、私とブルリンを渡らせることを避けたよね? なんでかな?」


 ジト目で睨んでくる先輩から目を逸らす。

 そんな僕達に苦笑しながら、カズキがブルリンに近づく。


「それじゃ、ブルリン。行こう」

「グルゥ」

「お、やる気だな。ははは」


 ふんす、と鼻を鳴らすブルリンに爽やかに笑ったカズキ。

 珍しい組み合わせだなぁと、思いながら、もしもの時に備えて黒い魔力を動かせるように備える。


「じゃ、先に行ってくるよ。ウサト」

「グルァ!」

「うん。落ちないように気を付けて」


 カズキとブルリンは、黒い魔力の張り巡らされた氷の橋を慎重に渡っていく。

 しかし、大きなブルリンが乗っても橋はびくともしない。

 無事に対岸へと渡ったカズキが、こちらに手を振ったのを確認した先輩とアマコが橋の前へと歩み出た。


「アマコ、怖かったら……掴まってていいんだよ? むしろ、私が抱きしめようか?」

「かっこいい声で言っても駄目。さっさと行こう、スズネ」

「うぅ、アマコが冷たいよぉ……」


 そして、先輩とアマコも無事に橋を渡っていく。

 残るは橋の維持をしている僕とネアとフェルム、レオナさんだけだ。 


「それじゃあ、レオナさん。後は僕に任せて先に」

「ああ。橋の強度を見るからに、普通に渡っても大丈夫そうだな」


 橋から手を離し立ち上がったレオナさんも橋を渡っていく。

 彼女の手を離れていても、系統強化の氷により作られた橋は依然として存在し続けている。


「さて、次は僕達だな」

「まあ、最悪橋が壊れても貴方なら大丈夫でしょ」

『むしろ、普通に泳いで対岸にいきそうだな』

「できなくはないけれど、安全にいくには越したことはないよ」


 肩のネアと内のフェルムにそう答えながら、僕も橋を渡る準備をする。

 耐性の呪術は残ってはいるけど、黒い魔力は外してしまうので、こちらで滑らないように足の裏に魔力でスパイクを作っておく。


「ウサト」


 いざ渡ろうとすると、後ろからローズが声をかけてきた。


「はい。団長」

「一応、見送りのつもりで来てはみたが、思いのほかお前には言葉は必要なさそうだな」


 首から吊り下げた布に左腕を通しているローズ。

 彼女は、改めて僕の全身を見て、フッと笑みを零した。


「こっからの旅で、お前は今後を左右する選択ってのを迫られるだろう」

「今後を左右するって……?」

「それは知らん。だが、お前にとって重要なものになることは間違いないな」

「……はい」


 ローズのその言葉に頷く。

 これからの旅とその目的を考えれば、そんな選択肢が迫られるのもおかしくはない。


「僕は、その時どうしたら?」

「好きにやれ。自分が正しいと思った方を選ぶのもよし。与えられた選択全部を選んでもいいし、選ばないっつー考えもある」

「ええ……」


 微妙な顔になる僕に、ローズはからからと笑うと右手で僕の頭をがしがしと強く撫でつけた。


自分(テメェ)の可能性を狭めるなよ、ウサト。どこぞの奴に与えられた答えじゃなく、お前が考えて導き出した理想と、答えを信じて行動しろ」

「……はいっ!」

「ネア、フェルム。テメェらもだぞ?」

「え、ええ……」

『は、はい』


 僕が考え、導き出した理想と答え。

 今一度、ローズの言葉を胸の中で反芻させる。


「行ってこい、ウサト」

「いってきます!」


 ローズにそう返事し、前へと向き直った僕はしっかりと氷の地面を踏みしめながら前へと進んで行く。

 魔王領への旅。

 恐怖や不安もあったけれど、ローズの言葉でそれは全部吹っ飛んだ。

 誰の言葉にも惑わされずに、僕はこの目で魔王領と魔族を見て、自分の答えを導き出す。 

 その先に何が待っているのかは分からないけれど、僕には頼れる仲間達がいる。

 それだけで、勇気というものが湧いてくるんだ。



ついにオリジナル笑顔を習得したウサトでした。


第九章はウサトの新技や、各キャラとの関わりを主としたものになります。

三話ほど閑話を更新した後に、第十章へと移ります。


次話は、明日の18時に更新する予定です。

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― 新着の感想 ―
何周目かは忘れましたが、何回読んでもお互いを思いやるローズとウサトの会話にほんわかします。 まぁ、字面ではぶっきらぼうで、とてもそうとは思えませんから、ワタシがそう感じているだけなのかもしれませんが。
笑顔って人を青ざめさせるものでしたっけ?
[一言] 過去にローズが同じような笑い方してたけど、別方向に覚醒しちゃったか
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