第二百九話
お待たせしました。
第二百九話です。
今回は、三日に分けて三話ほど更新いたします。
城に向かった僕とネアは、そこで再会したレオナさんと共に、午後の訓練までリングル王国の街を案内することになった。
戦いが終わったばかりなので、人気が少なく、まだ元の街並みには戻っていないけれど、それでもしっかりとお店は開いているので、それらを案内しながらアマコの手伝っているお店まで足を運んだ。
そして午後、カズキとの訓練が間近に迫った頃、僕とレオナさんはウォーミングアップがてらの軽い手合わせを行っていた。
「そこ!」
「甘い!」
突き出した拳がレオナさんが手元で回転させた槍の柄に弾かれる。
そのまま槍を握りなおしたレオナさんは、僕の足に石突きでの突きを繰り出した。
「っ!」
それを一歩下がることで避けるが、レオナさんは踏み込みと同時に槍を大きく横薙ぎに振るう。
リーチを生かした薙ぎ払い! 下手に距離を取るのは駄目か!
右腕の籠手で槍の切っ先を弾き、距離を取りながら改めてレオナさんの姿を視界へと納める。
「近距離ならいけると思ったけど、相手に近づかせない戦い方もあるってことか……」
元より、技術面においてはカズキと先輩を上回るほどの人だ。
強引に近づこうとしても、さっきみたいに反撃を食らってしまう。
「気軽な気持ちで模擬戦をするとはいったが、段々と熱が入ってしまったな」
「あはは……」
いや、最初こそは、気軽な気持ちでやっていたはずなんだけど……何度か攻防を続けていくうちに、結構ガチな感じになってしまった。
勿論、レオナさんの持つ勇者の槍は氷で刃引きしてあるし、お互いに本気ではやらないというルールは守っている。
「今はネアもいないからな……」
午後の訓練に向かう時、ネアは一人アマコのところに残っていた。
来ないのか? って尋ねてみると「ずっとついていくのもアレだし、たまには友人同士、楽しんでいらっしゃい」とのこと。
なので、今の僕は彼女のサポートなしで戦っている。
「レオナさん。そろそろ魔法も使っていきましょうか」
「私は構わないが、君は大丈夫なのか?」
「はい。それに、この籠手の使い方を見直したいので」
いつもは盾代わりしか使ってはいない籠手。
フェルムと同化したことで、無傷で魔力を暴発させる利点がなくなってしまったが、この籠手には魔力操作の補助というもう一つの特性が備わっている。
今まで活用できなかったけれど、魔力に弾力を持たせる技術を身に付ける上でもっと理解を深めなければならない。
「そういうことなら、君と同じくファルガ様の武具を任された者として協力しなければな」
「え?」
そう言ったレオナさんが、右手に持ち替えた槍を一度振るうと、ジャキン! という金属音と共に、槍の形状が剣へと変わった。
控えめに言ってかっこよすぎる変形に僕は驚きの声を上げてしまう。
「え!? それって剣にもなるんですか!?」
「元の形が杖なのでな。君やリングル王国の勇者の武具と比べて、形に融通が利くんだ」
た、確かにカロンさんが使っていた時は斧だったし、他の形態に変化できても不思議じゃない。
驚く僕を見て、笑みを強めたレオナさんは、剣から冷気を放ちながら構えを取った。
彼女の背後には、四つの氷の剣が浮いている。
「さて、剣を使った私の戦い方はもう知っているだろう?」
「……ッ、上等!」
こちらも両手に治癒魔法弾を作り出す。
互いに本気ではないが、それでも気の抜けない手合わせになる。
小さく深呼吸をした後に、レオナさんへ向かって駆け出す。
「治癒魔法弾!」
「迎え撃て!」
走りながら僕の投げた二つの治癒魔法弾と、レオナさんが放った氷の剣が空中で激突する。
●
ミアラークで行った模擬戦と同じ戦い。
違うのは、相対しているレオナさんが戦いに迷いをもっていないことであった。
僕自身、あれから成長している自覚はあれども、その上でレオナさんは技術と魔法で巧みに翻弄し、接近を許さない。
迷いのない勇者としての彼女の強さに、自分のことのように嬉しくなった一方で、彼女のように勇者の武具を十全に扱いきれていない自分に悔しくもなった。
そのまま数分ほどが経った頃、レオナさんの氷の剣を躱しながら治癒加速拳を用いて距離をとった僕に、彼女が驚きの声を上げた。
「少し見ない間に、またおかしな技を使うようになったな! 君は!」
「治癒加速拳っていいます! これも魔力の暴発を応用させた技です!」
「すまない! 今聞くと混乱するから、後で聞こう!」
遠回しに意味不明な技扱いされてしまった。
再び距離を詰めようとするが、レオナさんの放った追尾型の氷の剣に足止めされる。
「その変則的な加速は厄介だが——」
剣を高く掲げたレオナさんが刀身に魔力を纏わせた。
白い冷気を発し始めた半透明の刃を見て、嫌な予感を抱く。
「足が速い君には、こういう技が有効だろう?」
彼女が、剣を振り下ろした瞬間、刀身から強力な冷気の籠められた魔力が放たれる。
それは横に広がると、地面を凍らせながら僕へと向かってきた。
「なっ!? 治癒魔法破裂掌!」
面を食らいながらも、迫りくる冷気を防ぐべく、掌から魔力の衝撃波を放つ。
しかし、冷気を止められたのは一瞬だけで、すぐさま押し返されてしまった。
後ろに下がり、依然として勢いを止めない冷気の壁を睨む。
「駄目か……!」
地面を凍結させながら進む冷気の奔流! これがまともに決まれば、移動が制限される!
治癒魔法破裂掌程度じゃ、まともに冷気を足止めすることができない。
―――ならば!!
「破裂掌で駄目なら、さらに強化すればいい!」
右腕を腰だめに構え、掌に魔力弾を創り出す。
普通なら魔力を籠めるほどに巨大化する魔力弾を籠手の魔力操作能力と系統強化を応用させ、そのままの大きさに留めたまま魔力を籠め続ける。
「? ウサト、何をしようと――」
今にも溢れだしそうな魔力を押さえるため、籠手に左手を添える。
緑色の光をあふれ出しながら、形が歪んでいく魔力弾。
限界ギリギリにまで籠めたソレを、掌を前方へと突き出し解放する。
「はぁッ!」
空気が破裂する音と同時に、掌で圧縮された治癒魔法弾が暴発し、そのまま治癒破裂掌を超えた衝撃波が扇状に放たれた。
それに伴い、治癒破裂掌とは比べ物にならない反動が襲い掛かる。
「ぬぅ……!」
衝撃で倒れそうになるが、足に気合を入れ持ちこたえる。
暴発した魔力弾から発せられた緑色の衝撃波は、迫りくる冷気を押し返し、地面を覆う氷を引きはがした。
治癒魔法の緑色の魔力の粒子と、粉々になり空気中に飛び散った氷が、太陽に反射してキラキラと輝き、幻想的な光景が広がる。
「ふぅー……」
構えたままの掌を下ろしながら、軽く息を吐き出す。
咄嗟に出した割には……成功しちゃったな。
治癒パンチを強化したものが治癒飛拳なら、治癒魔法弾を強化したのがこの技になるのだろうか?
僕の立っている場所で光りながら空中を漂っている緑色の光を見て、首を傾げる。
「衝撃波と一緒に治癒魔法の魔力も飛んでいったのか……」
この場にいるだけで治癒魔法がかけられているような感覚があるので、冷気を相殺させただけではなく籠めた治癒魔法も空気中に散布したような感じなのだろう。
……この技をうまく使えば、直接触れなくても大勢の人を癒すことができるんじゃないか?
効果は激減するけど、その場にいるだけで傷が癒えるってのはかなり有用だと思うし。
「広範囲型の治癒魔法か。名付けるなら、ヒーリングフラッシュか、治癒爆裂波のどっちかだな……」
目の前の景色に目を奪われながら、そんなことを呟いていると、小走りでこちらに駆け寄ってくるレオナさんに気付く。
「……あ」
系統強化を使えるレオナさんは僕がどういう原理でさっきの技を使ったのか分かっているはずだ。
ま、また怒られるかもしれない……。
ローズに怒られるのは耐えられるけど、レオナさんに怒られるのは堪えるので、しどろもどろになりながら近づいてきたレオナさんに、話しかける。
「あ、え、えーと、レオナさん、これは……」
「ウサト。右腕の籠手を外してくれないか?」
「は、はい」
言われたとおりに籠手を解除すると、レオナさんが僕の手首を掴んで右腕全体を観察するように見た。
十数秒ほどされるがままにしていると、彼女は安心したように胸を撫でおろした。
「よかった。怪我はないようだ」
「え?」
「あれほどの技だ。もしかするなら、重傷を負ってもおかしくないからな。一応、確認したんだ」
「お、怒ってないんですか? その、さっきの技については……」
「怒っていないさ。……私も君のやり方にとやかく言うのはやめようと思ってね。一般的に見たら君の用いる技術は危険すぎるものだが、その応用と発想は君だけにしかできないことだ」
そう言って右腕から手を離したレオナさんは苦笑する。
「なら、私がするべきことは咎めることでなく、同じ系統強化の使い手として君を助け、成長を促すことだ」
「レオナさん……」
「まあ、さすがにさっきの技は驚いたけど……」
照れくさそうにしながらそう言ってくれる彼女にこみ上げるものを感じていると、僕達のいる訓練場に近づいてくる二つの気配に気づく。
どうやら、先輩とカズキが来たようだ。
「やっほ、ウサトく―――って、な、なんで寒くもないのにダイヤモンドダストが舞ってるの!? しかも緑色に光ってるし!」
「おぉ、綺麗だなぁ」
まずは二人に今の状況を説明しなきゃな。
とりあえず、先輩とカズキと合流し、今まで模擬戦をしていて、その一環で今のような光景を創り出したことを簡潔に説明した。
先輩は「もっと早く来ればよかった……!」と物凄く悔しがっている様子だった。
その後は、事前に予定していた通りに魔力に弾力を持たせる訓練を行うことになった。
「どう、カズキ?」
籠手に覆われた掌に作りだされた魔力弾をカズキに見せる。
未だ糸口すらも見つけられていない状態だけど、カズキに見てもらえば何か分かるかもしれない。
「ウサトは系統強化の要領でこの魔力を作っているのかもしれないな」
「え、それじゃ駄目なの?」
「なんて言えばいいんだろ……」
顎に手を当て、首を捻ったカズキは自身の掌に魔力弾を浮かべながら、途切れ途切れに言葉を発する。
「この魔力弾を水鉢、注ぎ込む魔力を水に例えるなら、この水鉢の許容量を超えた上で、割れないように水を注いでいくのが系統強化なんだ」
「うん」
「それで、魔力に弾力を持たせるってのは……言うなれば、パズルだな。魔力の間に隙間がないようにきっちりと形を揃えて、それを何重にも編み込んで積み重ねていく……感じなんだけど……」
そう言って、徐々に声が小さくなったカズキは目に見えて落ち込み始めた。
「ごめん、俺、説明するの下手みたいだ」
「い、いや、なんとなく分かるから大丈夫!」
どんよりと肩を落とすカズキをフォローする。
正直、部分部分はイメージできるけど、肝心な部分には理解が及ばなかった。
我ながらポンコツ理解力を恥じるばかりだが、隣で聞いていたレオナさんと先輩は、納得したように頷いていた。
「魔力に弾力を持たせる……いや、長いから弾力付与と呼ぶか。その弾力付与と系統強化では、そこに至る最初の手順からして違っているということだね?」
「そう……なのか?」
「ふむ、カズキ殿は感覚派なようだ」
カズキと同じく僕も首を傾げる。
すると、レオナさんがこちらへ振り向いた。
「ウサト。カズキ殿の魔力の出だしは普通の魔法と違うんだ。ただ体から放出したというわけではなく、その中身を作り込んでいる、と言った方が分かりやすいだろう」
「ただ魔力を放出しているのとは違うんですか?」
「ああ。カズキ殿、スズネ殿、試しに魔力弾を作ってはもらえないか?」
「あ、はい」
「了解っ」
レオナさんに言われて、カズキが魔力弾を作り出す。
よく見れば、魔力が中心に巻き込むようにして球体が形作られていっている。
一方で先輩の魔力弾は僕にとっても見慣れたもので、掌から溢れた魔力の塊が肉付けされていくように固まっていっている。
「違いが分かったかな?」
「はい!」
「普通に魔力を放出する上では、その中身は空っぽだ。しかし、中身がある魔力というのはその実、作り込まれた魔力とも言える」
そもそものスタート地点が違っていたってことか。
魔力の放出なんて感覚に任せていたけど、今度からはそれも意識しなくちゃいけないな。
「時にカズキ殿、君は系統強化を会得したと聞いているが……思うに、君は系統強化の会得にかなり苦労したんじゃないか?」
「え、そうです。ファルガ様の籠手を得て、ようやく成功したんです」
どうして分かったんだ!? といった感じに驚くカズキ。
そんな彼にレオナさんは、納得したように頷く。
「君ほどの魔力の扱いに長けたものが系統強化に成功していなかったのが、おかしな話だとおもってはいたが……これほどの精密な魔力だ。系統強化をしようにも、その継ぎ込む魔力が入る余地がなかったのだろう」
「だ、だから、失敗ばっかりだったのか……知らなかった……」
精密すぎるからこそ、系統強化ができなかったってことか。
それをすぐに見抜けるのもすごいけど、何より教え方がすごく分かりやすいのがすごいな。
今でも僕が話についていける時点で、相当だと思う。
「ウサト君、何か掴めたかな?」
「朧気ながら、って感じです」
話しかけてきた先輩にそう返しながら、立ち上がる。
原理は分かった。
問題は、カズキが無意識に行っているであろう卓越した魔力操作を僕に行えるかだけど、それは籠手の力と根気でなんとかしていくしかない。
「まずは試す。それからです」
「そのひたむきさ、まさにウサト君だなぁ。うん、ウサト君だ」
先輩の言う僕ってなんなんですかね?
なぜか嬉しそうにそう呟いている先輩に足の力が抜けかけながら、籠手に覆われた右腕を掲げる。
危険があるとは思えないけど、もしものことがあってもレオナさんが止めてくれるだろう。
そう考えた僕は、目を閉じて魔力の操作に集中する。
ネアがいなくなった途端に変な技を編み出し始めるウサトでした。
なにげに初の広範囲型の治癒魔法だったりします。
技名の候補は直感で決めました(いつもの)
次回の更新は明日の18時を予定しております。




