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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第一章 召喚、リングル王国
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第二十三話

本日2話目です

 昨日、宿舎に帰った後に戻ってきたローズは、夜にどこかに出掛けてしまった。

 出かける前に、彼女は僕に休日をくれた訳だけど……。


「何で僕は城下町に出向いているんですかね……」


 手にはローズから渡されたメモ用紙と手紙。メモには無駄に綺麗な地図が描かれている。

 しかし、嫌に注目を集めるな。訓練服は着ていても訓練は行ってないし、ブルリンも連れていない。


『何で普通に歩いているんだろう……』

『そうね……』


 救命団が普通に歩いているのが珍しいのか?

 そのことに驚かなくなってしまった僕は相当毒されているな。

 周りの囁き声をスルーしながら、地図に従い歩いていく。ローズはそれほど難しくない場所にあると言っていたけど……。


「あれかな?」


 様々な店が並ぶ中で、白いレンガ造りの建物が目に入る。

 地図によるとその場所を指しているが、このまま入っていいのだろうか? なんとなく入りにくい雰囲気がする。

 とりあえず、建物の方向に向かって行くと、僕の視界を見覚えのある金色の髪と「尻尾」が横切った。


「ん?」


 十メートルほど離れた場所からから僕をジッと見つめる、狐の獣人の少女。

 何だ? この僕の考えを見透かしているような視線は……。


「……早く行こう」


 何かあの子には関わってはいけない感じがする。

 速足で扉に近づいて、扉を引く。少女は未だに僕を見ていたが、お構いなしに店内に入り扉を閉める。高鳴った鼓動を鎮めながらも、室内を見回す。

 きっちり掃除され、清潔にされている。

 まるで救命団の宿舎みたいだな、と思いながらとりあえずは人を呼んでみることにする。


「……すみませーん!」

『は―――い!』


 奥の方から活発そうな少女の声が聞こえると、数秒ほどして小走りで僕の前に一人の少女が姿を現した。

 背は僕より少し小さい、ブロンドの髪をセミショートにした活発そうな少女。

 彼女の髪色に僕は既視感を抱いた。


「こんにちはー! フルール診療所へ何か御用ですか?」

「……フルール! ……えっと、ローズさんから手紙を預かって来たんですけど……」

「え! 本当ですか!」


 フルールと言えば、僕とローズ以外の治癒魔法使いのオルガさんとその妹さんの名前だったはず。

 と、いうことは、ここがオルガさんの開いている診療所か。

 ローズからもらった手紙を目の前の少女に手渡す。


「ありがとうございます! あ、お名前を伺ってもよろしいですか?」

「僕はウサト、ウサト・ケンです」

「ウサト……? お兄ちゃんからその名前を聞いた覚えが……あっ、新しくローズさんの部下になった人だね!」

「そ、そうです」


 なんというか、すごい元気だ。

 元の世界でも普通に馴染めそうな女子力を感じる。

 多分、この娘がオルガさんの妹さんなのだろう。


「私は、ウルル・フルールです!えと……十八歳です!」

「僕は、十七歳……です?」

「………一つ年下だね!」


 自己紹介の後に自分の年齢を言うのは、オルガさんと似ているな。


「それじゃあ、オルガさんは?」

「お兄ちゃんなら奥の方で患者さんを診てるよ。ウサト君、見学してみる?」


 患者さんを診ている。

 僕とローズさん以外の治癒魔法を見たことがないから、見てみるのもいいかな。治癒魔法の参考になればいいし。


「それじゃあ、お言葉に甘えて……」

「じゃあ、付いてきて!」


 ウルルさんに奥の方に案内される。複数あるドアの内の一つを少し開け、僕を手で呼び出しながら、声を潜ませながら話しかけてくる。


「あまり、声をあげちゃ駄目だからね? お兄ちゃん、集中乱しやすいから……」

「分かりました」


 ウルルさんに促され、扉の隙間から中を覗く。

 隙間からは、オルガさんの姿と……ベッドに横たわる子供の姿。側らに母親らしき人物が子供の手を握っているから、子供は何かしらの病を患っているのか?


「あの子は、何日か前に怪我をした場所から、変なバイキンが入って具合が悪くなっちゃったらしいんだ……症状があまりに酷いから、あの子のお母さんが私たちの診療所を訪れてきたの」

「なるほど……」


『ゆっくりと深呼吸してね……いくよ』


 オルガさんの両手に緑色の魔力が集まってゆく。

 透明さを残しつつ濃い緑色の光を放つ治癒の光。同じ魔法を使う僕だからこそ分かる、あの治癒魔法は僕とは少し違う、特に魔力の濃さ——多くはないが、色が深く濃い。

 両手に集まった魔力を子供の腹部と頭にかざす。するとかざした二点から波のように治癒魔法が広がり、子どもの体を覆う。すごい滑らかな魔力だ、僕じゃああはいかない。

 数秒ほどした後、子どもにかざした手をオルガさんが退けると――――


『うん……もう大丈夫だよ』

『……ほんとだ、きもちわるくない! なおったよママ!』


「すごい……」


 あっという間に治してしまった。先程の衰弱した様子とは裏腹に元気な姿を見せる子供に、母親は何度も頭を下げる。オルガさんは、困ったような表情をしているが、僕から見ても完璧な治癒魔法だった。あの繊細さは僕にはマネできない。


 その後、親子を見送り店内に戻ったオルガさんは爽やかな表情で僕に笑いかけた。


「やあ、ウサト君」

「こんにちは、オルガさん」

「うんうん、君がここに来てくれて嬉しいよ。ウルルはちゃんと挨拶したよね?」

「もー、ちゃんとしたよ。あ、ウサト君、立って話すのもあれだから、座って話そうよ」


 ウルルさんに促され、木製の椅子に座る。テーブルを挟んで向かい合うようにオルガさんとウルルさんも座る。


「ローズさんからの、手紙を届けてくれたんだね。ありがとう」

「いえ、そんなお礼を言われるほどじゃないです。僕も一度ここへ来てみようと思っていましたから」


 実際、来てよかった。オルガさんの治癒魔法を見れて……もしかしたらローズは僕にこれを見せたかったのかな?


「ねえねえ、ウサト君! 救命団の皆はどうしてる?」

「トング達? 特に変わりはないと思うけど」

「そっかー、変わりないよねー。それじゃあ―――」


 患者以外で訪れる人が珍しいのか、沢山質問を投げかけてくるウルルさんに苦笑しつつ質問に答えていると、ニコニコしながら傍観していたオルガさんが不意に言葉を発する。


「ウサト君、今度ここに働きに来ない?」

「え?」

「もう、駄目でしょお兄ちゃんっ、ウサト君はローズさんとの訓練で忙しいんだから!」

「ははは、そうかな?」


 ……うーん、案外いいかもしれないかな。

 オルガさんの魔法を見て勉強させてもらうのはいい案かも。でも訓練があるからなあ。ローズに頼めば一日くらい許可出るか?


「受けたいのは山々なんですが、そこらへんは団長に訊いてみないと分かりませんね」

「いい返事を期待してるよ。僕達も二人で切り盛りするのも中々大変だからね……」

「お兄ちゃんは貧弱すぎるんだよー」

「ははは、手厳しいなあ」


 仲良しだな。兄妹のいない僕にとっては羨ましい光景だ。そういえばオルガさんは、ローズさんの訓練について行けなかったらしいけど、ウルルさんもそうなのかな?

 それともオルガさんと同じように治癒魔法に得手不得手があったのかな?


「ウルルさんは、何で訓練を断念したの?」

「んー? 私がローズさんの訓練に耐え切れなかったっていう理由もあるけど……最終的に断念しようと思ったのはねー」


 苦笑いしながら頭を搔くオルガさんに人差し指を向けたウルルさんは、手のかかる子供に母親が向けるような表情を浮かべながら嘆息する。


「お兄ちゃんが心配だったから」

「ははは……面目ない」


 まるでウルルさんが姉のようだ、と思わず思ってしまった僕は悪くない。

 その後、他愛のない話しをいくつかしていたが、気付けば昼時。昼食を誘われたが、そこまでお世話になるのも悪いので、断っておく。


「じゃあ、またねウサト君」

「また来てねー」

「はい、今日はありがとうございました」


 オルガさんとウルルさんに見送られ、診療所から出る。ずっと訓練やら山籠もりしてたけど、たまには休日も悪くないな。いや実に平和だ、こんな平和でいいのかな。

 何かすごい事が起きる前兆かもしれないな。



「ウサト君か。同年代の子なんて、あまりいないからまた会うのが楽しみだな」

「はは……」


 ウサト君を見送った後、僕はローズさんからの手紙を手に取る。

 あのローズさんが送るほどだ。何か重要なことが書かれているに違いない。

 封筒から手紙を取り出し、緊張しながらも開く。そこに書かれていたのは――――


「……ッ!!」

「どうしたの?お兄ちゃん」


 何てことだ……。

 もうすぐそこまで迫ってきているというんですか?

 焦燥が顔に出ていたのか、妹が不安そうな顔つきで僕を見ている。妹を不安にさせるなんて駄目な兄だな……僕は。


「ウサト君にはまたすぐに会うことになりそうだね……」


 でも、そうは言ってられないのが現実だね。





 診療所を出た後、露店を見回りながらふらふらと歩いていた。

 うん、こういう散歩みたいなことをするのも悪くない。ずっと走ってばっかりだったから逆に新鮮だ。


「何か買って食べようかな……って、お金持ってないな……」


 一旦、宿舎に戻るか。

 踵を返し、宿舎に向かって歩き出そうとすると――突然、誰かに腕を掴まれた。


「っ!?」


 掴まれた手を見ると、診療所に入るときに見かけた狐の獣人の少女がいつの間にかそこにいた。

 ここまで近づかれたのに気付かなかったことよりも、ジッと無機質な瞳に見つめられ思わず悲鳴を上げそうになる。

 僕の手を掴んだ少女は僕の目を見つめながら、小さな声で言葉を発し始める。


「………『見えた』のは貴方だけ。だから、これは貴方のモノ」

「なっ、なに?――――ッ!?」


 瞬間、視界がノイズがかったように暗転する。この少女が何かをしたのか!? 

 頭がぐちゃぐちゃになるような錯覚と共に、僕の頭の中にある映像が浮かび上がる。


 見渡す限りの平原


 武器を持った亜人達


 真っ黒な鎧を着た人影


 血溜まりに沈むカズキと犬上先輩



「ッうわあああああああああああああああああ!?」


 絶叫した。少女の手を思い切り払いのけ、僕は力の限り走り出した。

 あまりにもリアルな光景だった。

 まるで「現実と錯覚するような光景」に吐き気を感じながら、後ろを振り返る。そこには痛みに悶えるように額を手で押さえた獣人の少女の姿。

 彼女と視線が合う――――少女は口を動かし何かを発する。


「……これは、大きな貸し……貴方には……恩を返してもらう必要がある」


 それ以降は一度も振り返らなかった。

 宿舎に帰った僕は、布団に包まりながら、先程の光景を忘れるように努めた。


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