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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第九章 次なる戦いへと向けて
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第二百六話

お待たせしました。

第二百六話です。

 犬上先輩とカズキの勇者の武具を見せてもらった後、先輩にフェルムと同化した状態を見せて欲しいと頼まれてしまった。

 先輩があの姿の僕に興味を持つのは分かっていたけど……。


「でもなぁ……」

「……なんだよ」


 ちらりとフェルムを見ると、ジト目で返される。

 フェルムはあの状態になるのが嫌みたいだし、強制はしたくないんだよな。

 あ、そうだ。


「フェルム、腕だけってできる?」

「……は? 腕だけってどういう意味だ」


 首を傾げる彼女に、僕は左腕を上げる。


「ほら、君の魔法を僕の腕に部分的にくっつける、みたいな」

「……形だけなら」

「それじゃあ、頼むよ」

「……」


 なぜかむすっ、とした表情になったフェルムは、掌から闇系統の黒い魔力を僕の左腕へと伸ばすと、それが戦争の時と同じような鋭利な形状の籠手へと変わり、僕の肘ほどまでを覆う。


「よし!」


 右の銀色の籠手と対照的な、かつての黒騎士を思わせる、鋭利な黒色の籠手。

 僕の左腕が変わったところを見た先輩は、笑顔のまま首を傾げた。


「ん? んん?」

「うお、ウサト! どうなってるんだ、それ!」

「今は、フェルムの闇魔法の魔力を借りている状態になるのかな? 後は……こうやって……」


 左腕を覆う黒色の籠手を、前腕から伸びるような剣へと変える。

 シャキン、と軽快な音と共に伸びた剣を二人に見せる。


「剣みたいに形状を変えることができるんだ」

「そんなこともできるのか! かっこいいな!」


 感心するように頷いたカズキに気分を良くした僕は、この状態で発動することのできる技を説明することにした。


「フフ、因みにこれを用いて放つ技が、ダークネ――」

「治癒破裂斬。そうよね、ウサト?」

「えっ」

「そうよね?」

「……はい」


 食い気味に訂正するネア。

 彼女の冷たい瞳に睨まれた僕は、肩を落として、大人しく頷くしかなかった。

 やっぱり『暗黒剣・治癒烈波』にしておくべきだったかな……。


「とりあえず、こんな感じですね」

「ちょ、ちょちょちょ……!」


 話を切り上げようとすると、ようやく先輩が動き出した。


「ウサト君!? どゆこと!?」

「え、いや、だから、フェルムの魔法を僕が借りている感じです」

「普通は他人の魔法を借りるなんてできないよねぇ!?」

「もっともな疑問ね」


 肩の上で頷くネアをスルーする。

 確かに、僕の説明が足らなかったな。


「フェルムがここで暮らしていくうちに、彼女の闇魔法の特性が『反転』から『同化』という能力に変化してですね。その『同化』というのが、他人との融合? 同化? みたいな能力で、それで僕はフェルムの力を借りることができたんです」

「ユウゴウ? ロボットォ? ヘンケイ?」


 まず、そのフレーズが出てくるあたり、元の世界で先輩が見ていたアニメのジャンルが分かる。

 

「いえ、ロボットとかではなく、フェルムが僕と同化することによって、能力を使えるようになったんです」

「……いや、ちょっと待って、分かる。分かるんだよ? でも、本能というか、脳が理解することを拒否しているというか……!」

「……うーん、なんと表現するべきか……」


 頭を抱える先輩に頭を捻っていると、見ていられなかったのか、フェルムが僕の近くにまで歩み寄ってきた。

 顔を見れば、目をジト目で口はへの字になっており、見て分かるくらいに不機嫌な様子であった。


「フェルム?」

「実際に見せたほうが早いだろ」

「え、でも、君は嫌なんじゃ―――」

「いいから! 大人しくしてろ!」


 有無を言わさず、僕にそう言い放ったフェルムは、小さく深呼吸をしてから、目を閉じた。

 すると、彼女の体が足元の影に落下するように吸い込まれ、影があった場所から黒い色の魔力が溢れ出る。

 目の前で消えたフェルムに、先輩とカズキが驚く。


「「え!?」」


 フェルムが消えた影は生き物のように地面を移動し、僕の影に入り込むと、足を伝って体を覆っていく。

 団服を着ていないので、左腕の籠手と両足の鎧以外は全身真っ黒なレーシングスーツのような形状へと変化する。

 フェルムとの『同化』。

 彼女の変質した特性により、可能となった戦い方。

 僕とフェルムの力を十二分に発揮できる状態でもある。

 しかし――、


「いきなりはびっくりするよ……」

「よくよく見ると、同化というより纏っているって感じね……」


 僕としても、いきなり同化させられるのは心臓に悪い。

 感覚的には何も不快なことはないのだけども、心の準備というものがある。


『この方が手っ取り早い』

「全く、しょうがないな……」


 僕の内側からエコーがかったフェルムの声が響く。


「う、ううう、ウサト君とフェルムが、合体した!?」

「すげー、どうなってるんだ……」


 とりあえず、驚いている二人に、今の僕の状態について説明するか。

 先輩とカズキに、フェルムの『同化』闇魔法と、それによる恩恵を簡単に説明する。


「な、なるほど、つまりその姿はフェルムの闇魔法を纏った状態ということか……」


 そう呟いて、ジト目で僕を見る先輩。

 心なしか、その視線は据わっているように思える。


「な、なんですか?」

「羨ましいぞ! ウサト君!」

「えぇ……」


 ある意味で予想通りの言葉、しかし、嫉妬からのものではなく、テンションが上がった言動に僕は一歩後ろに後ずさる。


「君は、フェルムと融合することで、その力を扱えるようになったということでいいんだね!?」

「え、ええ、まあ、正確に言うと同化ですが……」

「肩に使い魔のネアちゃんを乗せて、その上魔族のフェルムでさえも魔法として纏うとか、何が起こったらそうなるんだいっ! 女の子を装備していくのは私としては複雑な心境だけども、それ以上に君が羨ましいっ!」


 すっごい早口でまくしたてられ「え? え?」といった相槌しか返せない。

 このテンションは分かっていたが、僕でも対処しきれない。

 カズキは、後ろで朗らかな笑みを浮かべながら見守っているから、頼りにはできない。


「ということで、フェルム! 私とフュージョンだ!」


 何が“ということで”なのか、僕から少し離れ、期待に満ちた目で先輩は腕を大きく広げた。

 流れ的に、フェルムとの同化を試みようとしているのだろうか?

 ……まあ、僕よりも先輩が闇魔法を使った方が強いのは分かりきっているので、フェルムに試してもらおうか。


『無理』

「なんで!?」


 速攻で断られてしまった。

 酷く動揺する先輩を見ながら、フェルムに問いかける。


「フェルム、どうして無理なんだ?」

『ボクの魔力が拒むから。後、スズネが普通にウザイから、無理』

「ぐはぁ!?」

「せ、せんぱーい!?」


 見えない何かに吹き飛ばされたように後ろに倒れる先輩。

 いや、自分で跳んだのだろうけれど。

 というより、どうして貴女はギャグキャラムーブをしたがるのだろうか?

 咄嗟に駆け寄り抱き起こすと、先輩は笑みを浮かべ、足を震わせながら立ち上がった。


「ふ、ふふ、この程度じゃ私の心は折れないさ……! つまり、フェルムの心の壁を壊せばいいんだね……!」

「いや、普通に心を開かせてくださいよ……」

「不屈のスズネの異名は伊達じゃない……!」


 いつ呼ばれたんですかね……?

 僕と同化しているフェルムも、肩にいるネアも引いている。


「スズネって、勇者じゃなくてただの残念な人なんじゃ……」

『なんだこいつ……』


 そんな二人の言葉を聞いても、へこたれない先輩。

 彼女は、僕へ詰め寄ると左腕の籠手と両足の脚甲を見て、目を輝かせた。


「その両足とか、左腕! 黒騎士のとそっくりだね!」

「そうですね。……そういえば、フェルム。この形は君が決めたの?」


 内にいるフェルムに尋ねると、彼女は特に迷った様子もなく返事をする。


『いや、勝手になっただけだ。多分、黒騎士の姿が、ボクにとって印象の強い姿だったんじゃないか? 他意はない』


 なるほど。確かに、纏っていた期間は黒騎士の姿の方が長そうだな。

 もしかしたら、彼女が救命団で生活していくうちにこの鎧の形も、徐々に変わっていくかもしれないってことか。

 それはそれで、見てみたい気はするな。


「かつて敵対していた黒騎士の鎧を纏う……! まさに燃える展開だね……!」

『ウサト。ボク、こいつの言葉が分からない……』


 どうしよう、分かってしまう。

 そして『言われてみれば……』と気づかされてしまった。

 ……と、とにかく、先輩のテンションを下げるべく、今の姿が意図的ではなく、事故でできてしまったものだということを説明する。


「いえ、あの、僕とフェルムにとっても、この姿は予想だにしていなかったんです。コーガとの争いの最中ともあって、なし崩し的にこの状態で戦うことになってしまって……いわば事故みたいなものです」

「つまり、意図的にではなく、想定外の姿と……?」

「……」


 駄目だ!? 説明すれば説明するほど、僕にロマン属性が追加されていく!?

 否定したいけれど、他ならぬ僕が納得させられて恥ずかしくなってくる……!


「と、とにかく! 今の僕達に何ができるかを説明しますね!」


 これ以上、羞恥に晒される前に能力説明に移ってしまおう。

 危険がないように、先輩とカズキから離れる。


「まず、主な能力としては闇魔法の魔力の形状を変えられますね」

「魔力の形状というと、それこそ黒騎士のように?」

「ええ。例えば……フェルム」

『分かった』


 フェルムに声をかけると、闇魔法の籠手に覆われた左腕が変形する。

 剣になったり、盾になったりと何回か武器に変形させて、先輩とカズキへと向き直る。


「こんな感じです。戦場では、ブルリンの背に乗って、彼の鎧を作ったりしたりできます。まあ、ある程度、形に融通の利く能力だと認識していただければ、大丈夫です」

「あらゆる局面に対応できる変形……。私とカズキ君とは違う、君の……いや、君達だけの戦い方ってことだね」

「そこまで大仰なものではないですよ。大抵はうまく扱えないので結果的には拳になっちゃいますし」


 むしろ、剣とかではなく、盾とかハンマーとか棍棒に変形させた方が、僕にとっては好都合な気がする。

 幾分か手加減も効くだろうし。


「あ、それと、全身で魔力の暴発を行えるようになりました」

「……全身?」


 あ、これは補足しておいた方がいいな。

 また無茶をやってると思われてしまう。


「闇魔法に同化されている状態は、この籠手をつけている時と同じみたいなので、魔力をいくら暴発しても僕自身が傷つくことはないんです」


 試しに、近くの木へ目掛け、左腕での治癒飛拳を繰り出す。

 黒色の籠手から破裂音と共に放たれた拳大の衝撃波が木に直撃する。

 小さく揺れる木から先輩とカズキへと視線を戻す。


「後は、足裏で発動してジャンプ力を高めたり、加速に用いたりできるようになりましたね」

「……それはつまり、ブースト移動ができるってことだよね?」

「分からなくもないですが、僕をロボットで例えるのはやめてください……」


 自分がそう言われても仕方のない動きをしているのは分かっているけど、化物、怪物と言われて、次に兵器扱いされるのは嫌すぎる……。


「あの第二軍団長……コーガも同じような技を使っていたけど、あれはウサトの動きを見て覚えていたのか……」

「え? カズキ、何か言った?」


 顎に手を当てて、そう呟いたカズキに首を傾げる。

 コーガ、という名前だけ聞こえたけど、あいつに関連することは僕にとっては厄介事と同じなので、一応訊いてみると、カズキは笑顔を浮かべ、なんでもないように手を横に振る。


「ん、なんでもない。気にしなくてもいいぞ」

「そ、そう? コーガ関連だったら僕に言ってくれ。次に会ったら、ぶん殴っておくから」

「お、おう?」


 笑顔でそう言った僕に、カズキは慄きながら頷く。

 今回の戦いでは、コーガは退却したって話は聞いたけれど、あいつのことだ。また、僕達の前に立ちふさがるに決まっている。

 多分、僕と戦った時以上に強くなって牙を剥いてくる。確証はないけれど、二度戦ってあいつがそういう奴だと、漠然と理解している。


『あのアホ軍団長。殴っても、笑いながら殴り返してくるような奴だぞ』

「なら、僕も殴り返してやるさ」

「そういう、なんだかんだで殴り合っちゃうところが、狙われる理由の一つなんじゃないかしら……?」


 ……確かに。

 でもなぁ。コーガに目をつけられている時点で、戦いは避けられないんだよな……。

 僕にどんな役目も、事情があっても、あいつには関係ないから、笑顔で周りを巻き込んで脅してくるし。


「次の戦いのために、新しい戦法を模索するべきかな……」


 今の僕に必要なものは、攻撃手段ではなく、防御。

 ネロ・アージェンスとの戦いで、完膚なきまでに、それを自覚させられた。

 少なくとも、僕はあの時、ネアの耐性の呪術がなければ一度は死んでいる。


「ただ防ぐだけじゃな……」


 籠手の硬度に任せた防御は有用だろうが、格上には通じない。

 むしろ、ネロがその気なら僕は一瞬で切り捨てられていたはずだ。

 なら、今後の僕の課題は受け止めたり、弾いたりするのではなく―――次の動作に繋げることのできる、防御手段を模索することにあるだろう。


「魔力を、編むイメージで」


 銀色の籠手に覆われた右腕を掲げ、開いた手のひらを見つめる。

 そのまま意識を集中させ、これまでと違ったやり方で魔力を練る。


「……駄目か」


 手を覆った魔力弾は僅かな揺らぎを見せたけど、それだけだ。

 カズキの魔力弾のような弾力には程遠い。


「……ウサト、何してるのよ?」

「カズキみたいに魔力に弾力を持たせられないかなって」


 僕の行動に気付いたネアに、籠手を包む治癒魔法の魔力を見せる。

 数秒ほど籠手を眺めたネアは、ジト目で僕を見る。


「弾力を持たせて、何をするつもりよ」

「特に考えてないけど……防御するときに籠手を覆って衝撃を和らげたりとか……あとは、相手をのけ反らせる治癒反撃掌ってのもいいのかもしれないな……破裂掌より魔力消費が少なそうだし」

「……できそうなの?」


 その言葉に、僕は一度自身の籠手を見てからしっかりと頷く。


「不可能ではない、はず」

「そう。なら、私も手伝ってあげるわよ。魔力の扱いは、私の方が巧いだろうし」

「助かる」


 僕にできることは、最終的に腕全体でこれを行えるように、地道に練習を続けていくだけだ。

 籠手から魔力を消し去った僕は、開いていた掌を握りしめる。

 この技術を習得することができれば、僕自身の動きに変化を及ぼすことができるはずだ。


「これからの課題が決まったな」


 これから何が起こるかは、今でも予想できない。

 でも、今の状況のまま平穏な毎日がずっと送れないのは、分かっている。

 それなら、僕は自分が今できることを見つけ、模索しながら備えるしかない。


「うーん」

「? 先輩、どうかしましたか?」


 すぐ近くでなぜか先輩が唸っている。

 僕の声に顔を上げた先輩は至極真面目そうな表情であった。


「その姿のウサト君は、どのような名前なんだい?」

「……そういえば、特に決めてませんでしたね」

「うん。なら、今から決めよう。名前がないと不便だからね」


 確かに、名前がないと不便だな。

 先輩の言葉に頷き、顎に手を当て、今の姿の名前を考えてみる。

 黒騎士……闇魔法……黒、団服……白……シロクロ……。


「シロクロモードはどうでしょうか?」

「あ、いいね。それ!」


 クマ繋がりで、シロクマとクロクマをかけてみたが、結構いいんじゃないか?

 先輩も、感心したように頷いているし。

 シロクロモード、よし、今度からその名で――、


『「却下」』

「なんで!?」

「嫌よ。そんなフワフワしたの」

『それにするなら、黒騎士モードの方がまだマシだ』


 肩と内側からの強い否定の声に、僕は思わず、そう叫ばずにはいられなかった。

 強く拒否するネアとフェルムと、やんわり「それは……ないと思う」と口にしたカズキの反対があって、名称はなしのまま、シロクロモードの名はボツとなってしまった。

 地味にカズキに否定されて、心が折れそうになった僕と先輩であった。


とりあえず最初に頭に浮かんだ、シロクロモード。

自分でもダサいと思いました。


今回の更新はこれで終わりとなります。

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[一言] 「ユウゴウ? ロボットォ? ヘンケイ?」 まず、そのフレーズが出てくるあたり、元の世界で先輩が見ていたアニメのジャンルが分かる。 勇者ロボット、竜騎士、魔神英雄伝、魔導王、トランスフォーマ…
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