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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第八章 決戦、魔王軍との戦い
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閑話 戦いの後

閑話です。


今回は、アマコの視点となります。

 魔王軍との戦いが終わった。

 リングル王国で、ウサト達の帰りを待っていた私達の元に届いた知らせ。

 それは吉報に違いなかったはずだったが、その中身は全くの真逆なものであった。


“魔王軍が撤退と同時に広範囲に魔法による攻撃を行い、四王国は甚大な損害を被ることになった”


 勝利といえば勝利だろう。

 しかし、実際は完全な痛み分けだ。

 魔王軍にも、人間側にも大きな傷を残しただけ。

 四王国による連合はほぼ壊滅状態、戦える戦力こそ残ってはいるけど、その被害は決して無視できなかった。

 しかし、救命団の人達もまだ戦場で怪我人のために動いてはいるけれど、ウサトだけは違った。

 彼だけが、リングル王国に戻されたのだ。

 それを聞いたとき、彼が大怪我をしてここに帰らざるをえない状態になっていると思い込んでしまって、酷く取り乱してしまった。

 リングル王国の騎士達とスズネとカズキ、それに、ネアとフェルムと一緒に帰ってきた彼は———普通に眠っていただけであった。


『こいつ、最後の攻撃が止むとすぐに気絶しちゃったのよねー……いつもみたいに』


 呆れたようにそう語るネアに、思わず私も体の力が抜けてしまう。

 彼らしいというか、なんというか……心配していたのがバカらしくなっちゃうほどに、いつものウサトであった。

 そのまま救命団の宿舎へと運ばれた彼だが———戦いが終わってから二日経つのにまだ目覚めない。


「ウサト……」


 救命団の宿舎の自室のベッドで寝かされている彼の傍らに付き添いながら、不安げな声を零す。

 静かな寝息を立てて、眠っている彼の顔を見つめながらベッドの傍らに置いた椅子に背中を預ける。


「また、無茶したんだね」


 騎士の人達に聞いたけれど、ウサトは沢山の場所で暴れまわっていたらしい。

 第一軍団長と戦ったり、コーガと戦ったり、第三軍団長と戦って捕まえてしまって、大きな蛇と戦って……最後に騎士の皆を逃がすために最後の最後まで動き続けてくれたりしていた。

 捕まえた第三軍団長は相手側が行った広範囲の攻撃に晒されている時に、どさくさに紛れて、部下らしき兵士と一緒に逃亡してしまったらしいけれど、それでも彼は多くの人のために動いたってことになる。


「……」


 ウサトの付き添いで一緒に帰ってきたネアとフェルムは……ウサトまでとは言わないけど相当疲れていたので、きっと今は自室で休んでいる。

 城にいたナックもウサトが宿舎に運ばれた時に、こちらに戻ってきた。

 ローズさん達はあと数日は戦場で活動しなければならないらしく、まだ帰ってきていない。

 あとは……戦いの時に救援にきてくれたレオナさんも、もうすぐリングル王国に来てくれるそうだ。


「……ウサトは、よく分からないことになっちゃったね……」


 ウサトに関して、騎士の人たちが噂していたことがある。

 ウサトが空を飛び回りながら飛竜を叩き落としていたこととか、背中から悪魔のような翼が生えたのを見たとか、大きなクマの背中に乗って、魔物を蹴散らしながら戦場を走り回っていたとか。

 ……ウサトは何をするにしても、なにかしらの突拍子のない行動をしないといけないのだろうか?

 本人にはその自覚がないのは分かっているけど、なんだ、悪魔って。ついにオーガですらなくなっちゃったよ。


「でも、生きて帰って来てくれて、本当に良かった……」


 大丈夫だとは信じていた。

 彼がどれだけ頑丈で、強いかは近くで見ていた私が一番よく理解していたから。

 だけど、同時に彼の性格や、時に自分の身を顧みない行動に不安も抱いていた。

 だからこそ、今、こうやって無事に戻ってきたことを素直に嬉しく思う。


「……」


 瞼が重くなり、睡魔に襲われる。

 そういえば、ウサトがここに来てからほとんど寝てなかったな……。彼が戦いに向かっていってからも心が休まることはなかったから、今までの疲れが一斉に押し寄せてきたようにも思える。

 ベッドの端によりかかりながら、私はそのまま微睡みに任せて、ゆっくりと瞳を瞑る。


 ――そして、私の魔法は、何度目か分からない未来の景色を見せてくれる。


『いざ! 魔王退治の旅へ!』


 新たに見た予知には、私本人もいて、ウサトと、スズネにカズキもいた。

 場面的にはスズネ達が、馬に乗りながら出発しようとしているところだ。他にも何人かいるようだけど、私の視界には三人しか映ってはいなかった。

 どうやら、私は近いうちにまた旅についていくようだ。

 場面は移り変わり、次に視界は荒れ果てた大地へと切り替わる。


『ここが、魔王領……?』


 予知で見える景色は、リングル王国のものとは明らかに違っていて、植物も木さえも枯れかけており、お世辞にも人が住めるような場所には見えなかった。


『勇者の、過去……』


 さらに、見せられたのは、なんらかの遺跡のような場所。

 石造りの箱の中で寝ている女性。

 その女性が誰かは、私からは見えない。


『僕の籠手の元になった刀の、もう一振り……?』


 光に包まれていくウサトと、彼に手を伸ばそうとする私。

 手が届きかけたその時、再び視界が移り変わる。

 それから、予知魔法で見せられている景色にノイズのようなものが走り、景色が移り変わる。


『はじめまして』


 新たに映り込んだのは、一人の女性の後ろ姿。

 その人は、私と同じキツネの耳と尻尾を持つ獣人。

 ヒノモトで着られている着物のようなものを着ていて、その腰にはカタナのようなものが携えられている。

 そのカタナは、長さこそ違うけれどウサトの籠手の前の形と似ていた。


『会うのは、はじめてだよね?』


 髪も同じ金髪の彼女は、ゆっくりとこちらへと振り返る。

 見えた表情は、どことなく母さんに似ていたけど、母さんより落ち着いた雰囲気をしていた。

 ……いや、多分、母さんと比べると大抵の人は落ち着いて見えるから、この例えはなしだ。

 とにかく、面影は似ていた。


『ふふっ、私とそっくりだね』


 女性は、自身の金髪の髪と私を見比べながら首を傾げた。


『やっぱり、姉さんの髪の色を受け継いでいるからかな……うん』


 彼女が記憶の中の私に話しかけてくる。

 それに私は答えようとはせずに、ただただ無言だった。

 ……これは予知だ。

 今ここで行っている問答は未来で見ることなので、見ていることしかできない。

 そのまま口を噤んでいる私に、女性は困ったように苦笑する。


『これは予知で見る景色じゃないよ?』

「……?」

『君に言っているんだよ? アマコ』

「ッ!?」


 彼女は、確かに()に語り掛けてきた。

 その場にいる私でもない、夢の中にいる私に。

 誰だ、この人は?

 今まで、予知の中で話しかけられるなんてことはなかった。

 いや、私の魔法に干渉できることがあるとすれば、私と同じ魔法を持つ人じゃなければ――、


『私達は、繋がっている。そして、“彼”を通じて私は君たちのことを知っている』


 私と似た獣人の耳を持っている彼女は、にっこりと優しく人懐っこい笑顔を浮かべると、ゆっくりと言葉を発した。


『———彼と一緒に、私を見つけて』


 そう短く口にした瞬間、私の意識は徐々に現実へと引き戻されていく。

 自分が目覚めようとしていることに気づきながらも、せめてもと女性に質問をしようと試みるが、いつのまにか、予知で見えているはずの女性の姿は消え失せてしまっていた。


「……はっ!?」


 そこで私は目を覚ました。

 目を擦りながら、体を預けるように寝ていたベッドから起きると、窓の外に見える景色は明るくなっていた。

 どうやら、朝まで眠ってしまっていたようだ。

 傍らにいるウサトはまだ目覚めてはいなかったが、私は無意識に彼の手を握ってしまっていることに気付く。


「……誰、だったの?」


 もう一度、ベッドに体を預けながら、私は先ほど見た異様(・・)な予知のことを思い出し、肩を震わせた。

 少なくとも、あんな人は知らないけれど、どことなく見覚えがある……気がする。

 でも、一度も会ったことも話したこともないのに、あの人はまるで見知った間柄のように親しげに私に話しかけていた。


「とにかく、予知のことを知らせないと……」


 予知のことは城の人達にも伝えようと考えている。

 予知の全てを信じられるわけじゃないけれど、伝えておいて損はないはずだから。

 だけど、予知以外の部分は、話すべきか迷ってしまう。


「……“私を見つけて”、か」


 あの人の正体も分からないし、信用するべきじゃない。

 もしかしたら、ただの夢かもしれない。


「……起きたら、ウサトに相談しよう」


 だから、早く目を覚ましてほしい。

 もしかしたら、私が思っている以上に、事態は動こうとしているのかもしれないから。

 そう願いながら、私はウサトが起きてくれるのをただただ待つしかなかった。


ウサト「( ˘ω˘ ) スヤァ… 」


登場人物紹介の後に第九章が始まります。

今回の更新はこれで終わりとなりますが、この後に登場人物紹介を更新いたします。

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