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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第八章 決戦、魔王軍との戦い
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第二百話

第二百話です。

前話を見ていない方は、まずはそちらをー。


 コーガとの戦いは削り合いといっていいほどの泥沼の争いであった。

 魔族とは思えない高速移動で攻撃をしてくるコーガと、魔力弾とその応用で対応しようとしていく俺。 どちらにも決定打はなく、ただただお互いが消耗していくような戦いへと移り変わっていった。

 そんな戦いの最中、ある変化が起きた。


『己の心を形にせよ』


 コーガとの戦いの最中に、突如として落下してきた謎の浮遊物体。

 銀色に輝くそれが俺の真上で破裂するように大きな光を発したその瞬間、そんな声が聞こえた。

 瞼を開けば、見える世界は真っ白で唯一まともに見える自分の左手の掌には銀色に輝く球体のようなものが乗せられていた。


「……」


 なんとなくではあるが、声の主は敵ではないことは分かっている。

 だからこそ、なぜウサトの視点らしき記憶と共に、そのようなことを言ってくるのかが理解できなかった。

 しかし、これも意味のあることだと思い、その言葉通りに自分の心というものを形にしようとしてみた。

 球体を乗せている左手に意識を集中させながら、小さく口を開く。


「……俺は、皆が言うほど器用な人間じゃない」


 人付き合いはドがつくほど不器用だし、大事な選択を迫られた時も尻込みして自分一人では前に進めないような弱い男だ。

 自分が他人にどう思われている? なんて考えたらそれを知るのが怖くて踏み込めなくなるし、結局、なにもせずにもやもやとした気持ちを抱えたまま時間が過ぎるのを待つしかない。


「でも……」


 ―――俺がこの世界で戦うことを選んだのは自分の意志だ。

 友達のため、自分を慕ってくれる人のため、仲間のために、力を尽くそうと思い剣を取った。例え、今のようにボロボロにされようともあの夜に誓った―――ウサトの前での決断に後悔も間違いはないと断言できる。


「うん……?」 


 そこまで思考すると銀色の光がさらに強まり、左腕に集まっていく。

 それに伴い周囲を明るく照らしていた光が収まり、粒子のように霧散して消えると同時に周囲の景色が戦場のものへと戻る。

 困惑しながらも前方を見れば、黒い魔力に包まれたコーガが数十メートルほど離れたところで腕を組んで、こちらを伺っているのが見えた。


「お、ようやく姿を現したか」

「いったい、なにが……?」

「まさか戦いの真っ最中に光に包まれるとはなぁ。……もしかして、その左腕(・・)は新しい力ってやつなのか? ん?」


 コーガに言われて、自分の左腕を見て息を呑む。

 左腕には銀色の籠手がいつのまにか装備されていたからだ。

 それはウサトの持つ籠手と酷似しているが、それから発せられる雰囲気と籠手を通して体に流れ込んでくる力は尋常なものではなかった。


『貴様が勇者カズキだな?』

「! 貴方は……?」


 先ほどと同じ声が頭の中に響いた。

 首を傾げこちらを伺っているコーガから、声の発せられた籠手へと意識を向ける。


『我が名はファルガ。今、貴様の武具を通して語り掛けている存在だ』

「……これがウサトの言っていた勇者の武具、ということでいいのですか?」

『話が早いな。話せる時はそう多くはない。その間、我は貴様の武具の扱い方を教えよう』


 籠手から声が聞こえたことに驚きながら、声の主がウサトの言っていたミアラークの神龍、ファルガ様であることを察する。

 どうしてこのタイミングかは分からないけれど、今この時を以って、勇者の武具が俺の元にやってきたということになる。


『貴様の籠手は魔力操作を補助するものであり、光魔法をより危険のない魔法として扱えるようにするものだ』

「危険のない、もの……」

『光魔法の危険さは貴様も自覚しているだろう? 触れたものを消し去る魔力、強力ではあるが使い勝手の悪い魔法だ』


 ファルガ様の言う通りだ。

 俺の魔力に触れたものはなんであれ消滅してしまう。自分自身も例外ではないので、拳や剣に纏わせることもほぼできない。

 その難点を籠手で補うことができたということは、俺の戦い方もより自由度が増したものへと変わる。

 右手で剣を握り、構えを取る。

 黙って静観していたコーガは無邪気な笑みを零した。


「おっと、独り言はもういいのか?」

「……」

「なら、遠慮なくいかせてもらう、ぜ!」


 魔力が破裂する音と共にその場から高速で移動するコーガ。

 彼が動き出すと同時に左手から魔力弾を複数放ち、自分の周囲に配置していると、籠手から何かを吸引するような音がしたことに気付く。


「ッ、なんだ? 魔力が回復した?」

『光を魔力に変換させたようだな』


 ……光合成?

 いや、変換するのは栄養じゃなくて魔力だろうけれど。


「とにかく! 魔力切れを心配しなくてもいいってことか!」


 さながら四足獣のように周囲を跳ねるように移動した彼は、スピードが乗ったところで歪んだ爪を振り上げ、魔力の暴発と共に攻撃を仕掛けてきた。

 それに対し、漂わせていた魔力弾を向かわせながら右手で握りしめた剣で切り上げる。


「もう動きは見えてるぞ!」

「なら、これはどうだ!」


 変則的な移動で魔力弾を躱した奴は、剣を反転して避けてしまう。

 コーガの背後で何かが蠢くと同時に尻尾のようなものがこちらへ迫っていることに気付く。


「尻尾!?」

「そらよ!」


 尻尾を生やしたのか……!? これじゃあますます人と戦っている気がしない!

 すぐさま剣で防御するが、尻尾が当たった瞬間に、右手の剣は柄の根元あたりから砕けるように折れてしまった。


「くぅっ」


 耐えられなかったか……!

 牙を剥いて俺を切り刻もうとするコーガに、左腕の籠手を活用した魔力を連続で放——、


『折れた部分は光で補え。柔軟に能力を活用しろ』

「ッ! はい!」


 左腕の籠手を折れた剣の部分に添え、周囲の魔力弾を吸収し、刃として光の魔力を再構成させる。

 消滅の魔力を伴った剣―――いや、人工的な魔剣ともいうべきか……! これなら、防御されずにいける!

 普通の剣より軽量化したそれを目前へと迫ったコーガに叩きつける。


「っ、ハッ、そうくるか!」


 体を逸らされ、直撃こそは避けられたがコーガの魔力の鎧を削り取り、胸から肩の部分に裂傷を与えることに成功した。

 コーガは傷口を押さえながら俺から距離を取ろうとしたが、そうはいかない。

 剣を両手で握りしめ、突きの構えをとった俺は一点に集中させた光の魔力を解放させる。


光点剣・二号(フラッシュポイント2)!!」

「げ!?」


 構成された剣の刃が魔力の放出と共に射出される。

 こいつは光点剣の単純な強化版だが、この籠手があれば軌道を修正し、相手を追尾させることができる!


「面倒なッ、技だな!」


 逃げるのを諦め、肥大化させた両腕を大きく振るったコーガは迫りくる魔力の刃に両腕をぶつけ魔力を暴発させることで、攻撃を無効化させる。

 ……魔力の暴発で相殺されるうちは致命傷を当てるのは難しいかもしれないな。

 柄だけとなった剣に再び光の刃を作り出し、コーガと睨み合う。

 あちらも安易な踏み込みは危険だと理解しているから、もう同じ戦法では来ないだろう。


『カズキ』

「はい」


 ファルガ様の声に返事をする。

 彼は小さくため息を吐くと、静かな声で話しかけてくる。


『貴様は、頭が硬すぎる』

「え?」


 思いもしない一言に、一瞬だけ頭が真っ白になる。

 どういうことかと、思わずコーガから視線を外してしまう。


『柔軟に戦え。ただ魔力弾を操り、放つだけでは未熟の一言に尽きる』

「ですが、どうすれば……」

『ふむ……貴様の友、ウサトやスズネのように直感を頼りにしてみるがいい。戦術と手段は……まあ、置いておくとして、あれらは貴様に足りていないものを備えているからな』

「ウサトと先輩……」


 確かに、二人の戦いは、俺のように息苦しささえ感じるような戦い方じゃない。

 自分の直感に任せ、自由に……時々、その場で技を編み出したりしてその場を打開してきた。


「俺も難しく考えずにやってみるか……。ありがとうございます。ファルガ様」

『礼を言う必要はない。いずれは気づけていたことだからな。……そろそろ、繋がりが切れる頃だ。あとの心配はしなくてもいいな?』

「ええ、なんとかやってみます」

『健闘を祈っているぞ。勇者カズキ』

「はい……!」


 そう返事すると、それっきりでファルガ様の声は聞こえなくなった。

 ……ウサトのいう通り、心優しい方だったな。

 気を取り直して自身の頬を張った俺は、斬られた部分を黒い魔力で覆っているコーガへと意識を向ける。


「さて、難しく考えるのはやめだ」


 掌に魔力弾を浮かべ、それを周囲に漂わせる。

 約三〇個の魔力弾を同時に操作しつつ、ゆっくりと深呼吸をしながら光の剣を逆手に持つ。


「顔つきが変わったな」

「ああ、俺もウサトみたいに暴れようと思ってな」


 俺の言葉にコーガはおかしそうに肩を震わせた。

 仮面のせいで表情は見えないが、嘲っているのではなく単純に面白がっているように思えた。


「ハハッ、できるのか? 俺が言うのもあれだが、相当なもんだぞ。あいつは」

「やってみせるさ」


 傍らに魔力弾を引き寄せ、逆手に握った光の剣で弾くようにしてコーガへと飛ばす。

 そのまま魔力弾を従えながら、コーガへと走り出す。


「自分から向かってきたか!」

「そうしなくちゃ、お前は捕まらないからな!」


 コーガとの戦いで自分から攻めるのは初めてだ。

 近づいてくる俺を見て、背中から四つの鎌を作り出したコーガは襲い掛からせた魔力弾を対処しながら、迎え撃とうとする。

 突進と同時に振るわれた光の剣と、魔力の暴発を利用したコーガの腕が激突する。


「ハァァ!」

「ッ、オォォ!」


 魔力の暴発により生じた棘は、俺の魔力でも容易に消し去ることはできない。

 下手に打ち合わず剣の柄を手放し、近接戦へと持ち込む……!


「やりようはある!」

「その前に串刺しにしてやるよ!」


 魔力を纏わせた籠手を無造作に振るい、コーガの仮面と胸部あたりから突き出された魔力の棘を削り取る。


「ハハ! やっぱ、えぐいなぁ! その魔法!」

「……ッ!」


 後ろに跳び退りながらそう嬉しそうに言葉にした、コーガの表情は無邪気な子供のようであった。

 一歩間違えれば一瞬で命を落とすかもしれない戦いを楽しんでいる。

 きっと、こいつとはどうあっても向き合うことはできない。そう確信すると共に、言葉にならない感情に歯噛みしながら、複数の魔力弾を自身の元へ引き寄せる。


「もう、逃がさない!」


 足元へ浮遊させた魔力弾を一つに集約させ、力の限りに蹴り飛ばす……!

 ウサトの治癒魔法弾と同じ原理で飛ばされた魔力弾は、コーガの手前に迫ると同時に分裂し、彼の体へと襲い掛かる。

 それでも、背中の鎌で大多数は防御されてしまったが、そのうちのいくつかが彼の足に掠る形で抉っていく。


「がっ……!?」


 地面に倒れかけ、動きが鈍ったところで左腕に右手を添え、周囲の光を魔力に変換させながら籠手へと集約―――系統強化を発動させる。

 その足で逃げることはできない! ここで、終わらせる!


「系統強化『集』……!」


 魔力が込められた籠手からはキュィィン、と耳障りな音を立てはじめる。

 それに伴い、コーガへと掌を向けた俺は雄叫びと共にそれを放出した。


「食らえぇぇ!」


 放たれた光の魔力は、強烈な輝きと共に奔流となって、眼前の景色を浸食していく。

 光系統の魔法による広範囲攻撃。

 そのあまりの輝きに放った俺自身も目を開けていられない。

 数秒ほどの短い放出の後に光が収まると、俺の目の前の地面は扇状に削れ、地面に打ち捨てられた武具すらも消滅し、何もかもが消え去っていた。


「やった……のか?」


 そこにはコーガの姿もない。

 ……威力が強すぎる。これは混戦では使えないな。


「……ッ」


 左腕を通して鈍い痛みが走る。

 見れば、籠手の隙間から煙のようなものが放出されており、籠手自体も熱を帯びていた。

 熱さ自体は感じないけれど……どうやらこの技は、それなりの負荷がかかるようだ。

 魔力の使い放題は、さすがに都合が良すぎるからな……。


「とりあえず、この場は終わ――」

「——ところが、まだ終わってないんだよな!」

「ッ!?」


 聞こえるはずのない声に振り返ると、こちらへと拳を叩きつけようとするコーガの姿が視界へ映り込む。


「そらァ!」

「ぐッ……!」


 籠手で受け止めながら、距離を取って彼の姿を見て―――言葉を失う。

 なにせ、コーガの左腕の二の腕あたりから先はなくなっていたのだから。


「あと少し逃げるのが遅れてたら、跡形もなく消滅していたところだったぞ。ハハハ」

「なんなんだ……お前は……まともじゃない」

「俺はな、何よりも戦いが大好きなんだよ」


 淡々とそう言葉にしながら失った左腕から黒い魔力を放出させ、元あった左腕の形へと形成させる。

 それを触手のように分裂させたり、刃のように変形させながら、コーガは依然として変わらない好戦的な笑みを向けてくる。


「理解できないだろ? まあ、世の中には、俺のようにソレしか知らずに生きてきた奴がいるってことだよ」

「……」

「だがまあ、それを理解した上で俺と戦って(遊んで)くれたのが、あいつだけだったからな。そこは感謝しているよ。本当にな」


 そこまで口にして、コーガは魔力で形成させた左腕を鎌状へと変形させる。

 またこいつと戦わなくちゃいけないのか……!

 俺も左腕に魔力を籠めようとするが―――その時、上から五つの大きな影が降りてきていることに気付く。


「コーガ様!」


 俺とコーガの間に割って入るように降りてきたのは飛竜に乗った魔王軍の兵士。

 五体の飛竜は俺を威嚇するように唸っているが、その背に乗っている兵士は怪訝な様子のコーガへと声をかけている。


「コーガ様、ここは退いてください!」

「は? どういうことだ?」

「第一軍団長補佐からの命令です! アーミラ様にも同様の命令を請け負っております!」

「……やれたことは勇者と治癒魔法使いの足止めだけか。我ながら情けないにもほどがあるな……。分かったよ。一旦、本陣に戻るとするか」


 若干肩を落としながら飛竜の背に飛び乗ったコーガ。

 コーガを乗せた一体の飛竜が空へと上がろうとしたところで我に返った俺は、魔力弾を放って飛竜を落とそうとするが、鞭のように振るわれた左腕により弾かれてしまう。


「待て!」

「中途半端で悪いな。光の勇者、また会う機会があったら続きをやろうぜ」


 このまま逃がしてたまるか!

 なんとか飛竜を落とそうと試みるが、それを邪魔するように飛竜に乗った兵士たちが立ち塞がった。

 この場で軍団長の一人を確実に始末しておきたかったのに……!

 あれは放ってはおけない敵だ。

 戦いの中で強くなり、常軌を逸した行動に出てくる。

 なにより、その戦いへの意欲そのものが異常だ。

 襲い掛かってくる兵士と飛竜を片付けるも、既に飛竜はこちらの魔法が届かない空高くへと飛んで行ってしまった。

 遠く離れていくコーガの乗った飛竜を、俺は悔し気に睨みつけることしかできなかった。


ようやく三人の強化が揃いましたね。

防御・万能型のウサト、スピード特化のスズネ、超火力のカズキといった感じに分かれました。

同じ勇者の武器を持つレオナはウサトとは少し違った万能型って感じですね。


今回の更新はこれで終わりとなります。

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