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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第八章 決戦、魔王軍との戦い
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第百九十八話

誤字報告機能すごいですね……。


お待たせしました。

今回も三日に分けて三話ほど更新いたします。

 戦場に毒をまき散らし、暴れまわる巨大な蛇。

 それは、以前僕がリングルの森で遭遇した蛇と形こそ酷似していたが、その大きさはあまりにも違いすぎていた。 邪龍と同じかそれ以上の大きさ。

 体長十五メートル以上の巨大生物がひたすらに暴れまわり、騎士達を苦しめていた。


「く、苦しい……」

「うぐ、ぁぁぁ……!」

「早急に治療が必要な人は僕に! それ以外の方は黒服に預けてください!」


 巨大な蛇から離れたところでも、被害は出ている。

 ハンナを捕獲した場所からそう遠くない後方地点で僕は、蛇の毒に冒された人達の治療を行っていた。


「ウサト殿、彼を!」

「はい!」


 蛇の吐き出した毒を吸い込み喉をかきむしりながら苦しむ人や、毒が触れた箇所を押さえ痛みに悶える人。その時点なら黒服が拠点に連れて行き治癒魔法使いによる治療を受けさせればいいのだが、大量の毒を浴びた場合一刻も早い治療が必要となる。


「系統強化……!」


 系統強化を指先に発動させ、毒に苦しむ騎士の一人に施す。

 濃い緑色の光が騎士の体を覆うと、すぐに騎士の表情は穏やかなものになる。

 治癒魔法の系統強化の特徴である“強化された回復力”のみを発揮させるために、指先のみに最低限の魔力での系統強化を行う。

 これで少ない魔力で致命傷を癒し、黒服に預けることができる……今の僕では完治までさせている余裕はないのだ。


「……まるで邪龍の毒だな」

「そうね。嫌な記憶が思い起こされるわ……」


 一度、邪龍の毒を食らったことがある僕からしてみれば、この毒をまき散らしている蛇が邪龍と無関係とは思えない。

 こちらは風下、微量ながらも空気中に毒の瘴気が混じってしまっている。

 この距離ならほとんど問題はないだろうけれど、あの場で戦っている人たちにとっては違う。


「……」


 魔力が残り少なくなってきているからか猛烈な疲労に襲われる。

 体力面はバリバリに余裕があるが、魔力だけはどうしようもない。


『ウサト……』

「行こう。ここで立ち止まっているわけにはいかない」


 状況は変わり続けている。

 この場を黒服達に任せて、巨大な蛇が暴れている場所へと向かおうとすると――、


「グルァ!」

「おおぅ!?」


 ズザザー! と砂煙をあげながら僕の前に煤汚れた銀色の鎧を纏った青いクマ、ブルリンが滑り込んできた。

 驚きながら後ずさると、彼はその背中を僕へと向けた。


「え? ブルリン?」

「グア!」

「乗れって言っているみたいね……」

「ブルリン、お前……」


 いつも背負ってばっかりの僕が、今度ばかりはお前の背に乗ることになるなんてね。

 これから向かう場所では、ブルリンがいたほうが助かるかもしれないな。

 もしかして、こいつもそれが分かって一緒に向かおうと……いや、考える必要はないか。


「お前がいてくれると心強い!」

「グルァァァ!」


 ブルリンの背に飛び乗り、ベルトを掴む。

 すると頼もしい雄たけびをあげたブルリンは、力強く地面を蹴って走り出す。

 味方の騎士を避けながら速度を増し、あっという間に前線へ到達した。巨大な蛇が暴れている近くには魔物の数も多い。


「ブルリン、いけるな?」

「グルァ!!」


 雄たけびをあげたブルリンが、さらに速度を上げる。

 ———いくら鎧をつけているとしても、これだけの数を突破するとなれば無傷ではすまないだろう。


「フェルム、ブルリンに魔力を被せることはできるか!」

『お前が触れていればできる!』

「頼む!」


 その声と共に、僕の両足から黒い魔力がブルリンの銀色の鎧へと流れ込み、彼の体の上半身部分を覆っていく。

 頭部と体を守る重厚な黒い装甲に、側面からの攻撃を防ぐ楕円状の盾。

 ただひたすらに突き進むことだけに特化させた鎧を被せられたブルリンは、自身の変化に驚くこともなくさらに勇ましい声を上げ、眼前へと迫った魔物へと体当たりを食らわしていく。


「怪我をしたくなかったらどくんだなァ、魔物共! ハハハ! ブルリン! 最高のコンビネーションだぞォ!」

「グルァァァァァ!」


『え、援軍……?』

『魔物が逃げていく……』

『ウサト殿、見る度に滅茶苦茶なことしているな……』


 味方の声は最早気にしない。

 逃げ惑う魔物を追い立てていくと、そう遠くない場所に巨大な蛇の死体を見つける。


「あれは……」

「串刺しにされた大きな蛇……」


 前回の魔王軍との戦いで先輩とカズキが倒した蛇と同じ個体だ。

 よく見れば、蛇の頭と胴体には地面から突き出された円錐状の大きな棘のようなものが突き刺さっており、それにより絶命したように見える。


「地面からの攻撃……ハイドさんか!」


 つまり、今巨大な個体と戦っているのは彼かもしれないってことか。

 ニルヴァルナ王国戦士団、戦士長ハイドさん。

 ルクヴィスの会談で、短い間だけだが手合わせした間柄だが、多くのことを教えてくれた人だ。

 彼ならば、あの蛇にだって後れを取らないはず。


『ウサト、あそこで串刺しにされている蛇は、多分バルジナクっていう人の手によって造られた魔物だ』

「あれは自然の魔物じゃないのか!?」

「どーりで、見当もつかない見た目をしているわけだわ……」


 フェルムの言葉に、僕とネアが驚く。

 人工的に造られた魔物、バルジナク。

 どういう方法であんな存在が生まれたのかは分からないけれど、まさかそんな存在だったなんて思いもしなかった。

 だとすれば、あの大きな個体は強化版バルジナクってことか。


「グァ!」

「っ、見えてきたか!」


 ブルリンの声で前を向くと、大型のバルジナクの姿がはっきりと見える位置まで近づいていた。

 目を凝らせば、ニルヴァルナ王国戦士団の戦士たちが暴れまわるバルジナクを相手に攻撃を続けている。

 その中には、自身も魔法を放ちながら部隊の指揮を行っているハイドさんがいる。


「このデカブツを包囲しろ! 毒に気をつけろよ! そいつを食らえば動きが鈍ることになる!」

「ギシャァァ!」

「っ、おっと! こっちを狙ってきたか!」


 指示を出しているハイドさんに、バルジナクが薙ぐように尻尾を振るう。

 それに対して、ハイドさんが地面に魔力を籠めた槍を突き刺すと、複数の土の壁が地面からせり出し、バルジナクの攻撃を受け止めた。

 その間に攻撃範囲から逃れるハイドさん―――だが、その時バルジナクが頬まで裂けた口を歪めたところを僕は見逃さなかった。

 あの顔は忘れるはずがない。

 デカさは変わってもその残虐さ、狡猾さは変わらない……!


「悪い、ブルリン! 先に行く!」

「グァ!」


 ブルリンの鎧を解除させ、全速力でハイドさんへと向かう。

 その間に、バルジナクはその大口を開け、上顎からせり出した牙から毒のようなものを噴射させている。

 割って入って治癒破裂掌……は間に合わない!

 帯で引っ張るのも駄目だ。

 ならば!

 掌に作りだした治癒魔法弾を、魔力での暴発と共にぶん投げる……!


「治癒ッ、加速弾!」

「ぐほぉ!?」

「「「せ、戦士長ぉぉ!?」」」


 毒に気付いたハイドさんが上を見上げると同時に彼の脇腹に、治癒加速弾が直撃する。

 突然の衝撃に噴き出しながらも、五メートルほど横に吹き飛ぶ。

 次の瞬間には、ハイドさんがいた場所に毒々しい色の液体が吹きつけられ、地面が溶けるような嫌な音が響く。


「さらに、治癒目潰し!」


 続いて掌に生成させた魔力弾をバルジナクの目に当て、その視界を一時的に奪う。


「ギィシャァァ!?」


 不意の一撃に地面に体を打ちつけるバルジナクと、一斉に攻撃に移るニルヴァルナの戦士達を確認した僕は、不可抗力とはいえ思い切り魔力弾で吹っ飛ばしてしまったハイドさんの元へと駆け寄る。

 副官であるヘレナさんが、近くにいる部下達にバルジナクへの攻撃をするように指示しながら、こちらへ近づいてくる。


「すみません! 必要にかられて魔力弾を当ててしまいました!」

「いえ、あれの攻撃から救ってくれたことは分かってます! それより戦士長を……」


 ヘレナさんと共に、未だに倒れ伏しているハイドさんに近づくと、彼は治癒加速弾が当たった部分を押さえながら、苦々しい笑みを浮かべている。


「ヘレナ、もう、俺がいなくても大丈夫だろう。あとは手筈通りに、奴を仕留めろ……」

「あの、戦士長?」

「俺はここまでだ……。不思議だ、死に際なのに体が軽いなんてな……」

「「……」」


 なにやら満ち足りたような顔で目を瞑ったハイドさんに、思わずヘレナさんと顔を見合わせる。

 当たったのは治癒魔法の魔力弾だから、怪我をするはずがない。

 というより、血色もいいし押さえている脇腹には血もにじんではいない。


『なんかこいつ、ウサトっぽい……』

「ええ、ウサトっぽいわね……」


 おい、僕と同じように評価されるのが不名誉みたいなニュアンスなのはどういうことだ。

 肩のフクロウと、うちの魔族娘の呟きに頬を引き攣らせながら、恐る恐るハイドさんへと声をかけてみる。


「は、ハイドさん、貴方は死にませんよ。当たったのは僕の治癒魔法です」

「戦士長、ウサト君が助けてくれたんですよ。さっさと起きてください」

「……」


 短い沈黙の後にスッと立ち上がったハイドさんは、自身の体を触って確認している。

 いたたまれない心境の僕と「なに、この人……」といった感じの視線を向けるヘレナさんと、ネア。

 数秒ほどして、ハイドさんは声を上ずらせながら、こちらへと振り返った。


「ど、どうやら俺は君に助けられてしまったようだな! ハッハッハッ!」

「い、いえ、そんなことは……」

「正直、さっきのは俺も不意を突かれた。まさか壁が消えるタイミングを見計らって毒を吐き出してくるとはな。だが君が来てくれた! 俺にとってはこれ以上ない幸運なことだろう!」


 相変わらず明るい人だなぁ、と思いながら相槌を返した僕は今到着したブルリンと共に戦士達からの攻撃を受けているバルジナクの方へと視線を向ける。


「全く……とんでもない魔物だな。一度見た技には必ず対応してくる賢さと、人を欺こうとする狡猾さを併せ持っているとは」

「一度見た技に対応……?」

「つい先ほど、あれより小さいのを俺の魔法で串刺しにして殺したんだが、奴もそれを見ていたからか、地面から攻撃が来る前に避けるようになっちまったんだ。もしかすると、魔力を感知できる器官を備えているのかもしれないな」


 あの巨体で頭もいいのか。

 今までは有効打を与えることはできなかったようだけど、治癒目潰しで不意の一撃を食らわせたことで攻勢に移ることができたようだ。


「……でも……」


 ……戦っている兵士達の顔色も悪い。

 恐らく、バルジナクが吐き出した毒液から漂う瘴気が、徐々に体を蝕んでいるのだろう。

 中には、血反吐を吐いて膝を突いている人が何人かいる。


「皆、毒を受けていますね。ヘレナさんも」


 ヘレナさんの肩に手を置き、毒を癒す。

 これで大丈夫だが、このままここにいればまた毒の症状が出てしまう。


「あ、ありがとうございます。戦士長は?」

「いや、俺はさっきのでもう大丈夫だ。それよりウサト――」

「今、毒を治療していきます!」


 掌をニルヴァルナの戦士達へと向け、人数分の帯を伸ばす。

 帯が吸着したら治癒魔法を流し込み、毒を治す。


「……っ」


 少ない魔力をさらに失い、視界を霞ませながらも、近くの戦士達の毒を治療した僕は次に今の僕では癒しきれないほどに傷ついた人を、ブルリンの背に乗せる。


「ブルリン、この人たちを頼む」

「グルァ!」

「……うん、君も頑張って」


 戦士達を背中に乗せたブルリンはこくりと頷くと、土煙を立てながら勢いよく拠点の方へと駆け出していく。

 その様子を見送った僕は、バルジナクへの総攻撃を指揮しているハイドさんの隣に並ぶ。


「ウサト、君はもう動かないほうがいい」

「え?」


 バルジナクの近くで魔法や武器での攻撃を行っている戦士たちの治療を行うため、前に飛び出そうとした僕だがそれをハイドさんに止められる。


「魔力の限界が近いのだろう? 短い間でもいい、君は体を休めるべきだ」

「ですが……!」


 思わず声を荒らげてしまいそうになるが、魔力不足により視界がぐらついてしまう。

 バルジナクへと視線を向けたまま、僕の体を支えたハイドさんは僅かにその表情を歪めた。


「今にも倒れそうじゃないか。……君の使命はよく理解しているつもりだが、今は自分を優先させろ」


 やや強めの口調でそう言われた僕は、反論もできずに口を噤むしかない。

 ハイドさんの言う通り、魔力の限界が近い。

 体力には余力があるのに、自分の中途半端な魔力のなさが恨めしい……。


「ギィシャァァァ!」


 すると、バルジナクの掠れたような叫び声が聞こえる。

 見れば、バルジナクの体には数えきれないほどの矢が突き刺さり、魔法による傷が多く刻みつけられていた。

 並みの魔物ならとっくに息絶えてもおかしくないはずなのに、その巨体故にまだ動き続けている。


「攻撃の手を休めるな! 手筈通り、水魔法、土魔法持ちはそいつの足場を固めろ!」

「「「応ッ!」」」


 ほぼ満身創痍な状態のバルジナクを確認したハイドさんは、それぞれの部隊で控えていた数人の戦士へと声を張り上げ、指示を送る。

 威勢のいい声を上げた戦士達は地面に手をつけると、雄叫びと共に水魔法をバルジナクの足元に流し込み、土魔法持ちの戦士がぬかるんだ地面を操りバルジナクの身動きを封じる。


「全員! 一斉攻撃! 魔力が残り少ない者は槍でも剣でもなんでもいい! ぶん投げてでも体力を削り取れ!」

「「「オオオォォ!」」」


 その場にいる全てのニルヴァルナの戦士たちが全力での攻撃をバルジナクへ向けていく。

 砂煙が舞い、バルジナクの姿が朧げなものになるが、確かに奴はそこにいて攻撃を食らっている。

 それをしっかりとその目で確認したハイドさん自身も右手に大量の魔力を籠める。


「この状況なら食らってくれるよな!」


 固く拳を握りしめた彼はそのまま天高く拳を掲げると、そのまま地面へと拳を叩きつける。

 次の瞬間――、砂煙に隠れたバルジナクの頭の部分に地面からせり出した棘が突き刺さった。

 一瞬の痙攣と共に、ぐらりとバルジナクの体から力が抜けていく。

 焦げ臭いにおいと、砂煙に顔を僕は顰めながら、ハイドさんへと話しかける。


「倒せたんでしょうか?」

「確実に頭を貫いたはずだ。あれだけの攻撃を受けたんだ。生きていたとしても瀕死には違いないさ」


 確かに、あれだけの魔法を受けたらただでは済まないだろう。

 徐々に砂煙が晴れていく。その場にいる全員が未だに武器を構える中で、バルジナクの姿が露わになる。


「え?」


 その疑問の声は誰のものだっただろうか……。

 砂煙が晴れたあとに出てきたバルジナクの姿は、僕達が想像していたものとは明らかに違っていた。


「おい、まさか。これって……」


 真っ白に変色した皮膚。

 まるで抜け殻のように空洞となった頭部。

 僅かに破れた皮膚の間から見える、光沢のある鱗。


「脱皮しているのか!?」

「なにあれ気持ち悪!? 鳥肌!?」

『今のお前は鳥だろうが……』


 抜け殻となった外皮を引きちぎるようにして脱皮したバルジナクは、耳障りな雄叫びを上げる。


「自己再生持ちとか反則だろ……しかも微妙に大きくなっている気がするし」


 あれだけハイドさん達が加えた傷が回復しているだけじゃなく、脱皮したからか、心なしかその巨体はさらに大きくなっている。


「とんでもない怪物もいたもんだな……!」

「ハイドさん、どうしますか!?」

「態勢を整える。ヘレナ! 俺と部下達が足止めをしている間、皆を退避させろ!」


 ヘレナさんへと指示を出したハイドさんが、地面から作り出した斧を引き抜いた。

 まだ余力のある戦士たちが彼と同様に武器を構えると、完全な脱皮を果たしたバルジナクが動き出した。


「ギィシェァァァァ!」

「ッ……!」


 先ほどよりも強く、耳障りな雄叫びに思わず耳を押さえる。

 さらなる成長と回復を果たしたバルジナクは、脱皮した外皮を破りさると、その頭を僕達へとその視線を固定させる。


「ギシェァ……」

「! こっちを狙ってくるつもりか!」


 舌なめずりをしながらバルジナクが迫る。

 先ほどまで勇ましく戦っていた戦士達も、完全回復を果たした奴にとっては敵ではない。皆、毒に冒された体のせいで本来の力を出すことも叶わずに、尻尾で吹き飛ばされていくだけであった。


「フェルム、ネア! やるだけやるぞ……!」

『しょうがない……!』

「あー、もうっ!」


 左腕から黒色の剣を作りながらバルジナクと向かい合う。

 状況は本当の本当に最悪だ。

 僕も魔力が残り少ないし、この場にいる戦士達も余力こそはあるが全快したバルジナクを相手にするには絶望的にまで戦力が足りない。


「シェァァァ!」


 大口を開けたバルジナクが僕達へと襲い掛かろうとしたその時、一瞬、何かが輝いたと同時に、バルジナクの頬に当たる部分に白色の槍のようなものが音もなく突き刺さった。


「……え?」

「あの槍は……まさか……」


 槍の先端が氷のような透き通っている白色の槍。

 見覚えのあるそれに思わず声を上げそうになるが、最初に突き刺さった槍に続くように八つの透明な槍が飛来し、とてつもない速度でバルジナクの体に連続で突き刺さった。

 衝撃でバルジナクの体が横転し、地面へと叩きつけられる。


「ギ、ギェェ……!」


 深々と刺さった透明な槍は、強烈な冷気を発しながらバルジナクの体を凍結させ、あっという間にその動きを封じ込めてしまった。


「なにが、起こっているんだ……?」


 困惑するハイドさんだが、僕は安堵のあまり膝を突いてしまう。

 こんなことをできる人は、一人しか知らない。

 バルジナクに最初に突き刺さっていた“槍”がひとりでに動きだし、こちらへ飛んでくると僕達の背後にいた一人の鎧の騎士の手に収まる。


「全く、君はどうしてそう無茶ばかりするのだろうな」


 呆れたような、それでいて安心したような声に僕達は振り返る。

 ―――僕は、その騎士を知っている。

 以前とは違い動きやすさを重視させた銀色の鎧と、一つにまとめられた金髪。

 白色の槍を携えながらこの場へやってきた彼女——レオナさんは、ややぎこちない仕草で僕へと視線を向けてきた。


「すまない。遅くなった」

「いえ、これ以上にない最高のタイミングでした」


 レオナさんは神龍であるファルガ様が作り出した勇者の武具に認められた女性であり、ミアラークが誇る勇者だ。

 かつて、龍の力に溺れてしまったカロンさんを救うために共に戦った仲間で、僕に大切なことを思い出させてくれた恩人でもある。

 彼女は僕の言葉に小さく笑みを零すと、僕の隣に並ぶように歩み出た。


「ミアラークの勇者、レオナ。この時を以てして此度の戦いに参戦する」


 彼女は、凍結させ身動きの封じられたバルジナクへ槍の切っ先を向けてそう宣言するのであった。

鎧を纏ったクマ(ブルリン)と一緒に敵を蹴散らすウサト。

金太郎か何かですかね……?


そして、ここでレオナの登場です。


次話は明日の18時を予定しております。


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