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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第八章 決戦、魔王軍との戦い
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第百九十二話

お待たせしました。

今回も三話ほど更新いたします。


このタイミングで明かしますが、第百八十二話でボツとなった強化内容は『右腕の籠手を、足にも装備できるようにする』でした。


 まず我に返って頭に浮かんだことは、自身の魔法に包まれたフェルムの安否であった。

 感覚的には僕の体には問題はない。

 団服の襟を一つ外してみれば、団服の内側が真っ黒に染まっている。団服の色が白から変わっていないのは幸いだけど、その内側が真っ黒なのがな……。


『うおおおぉぉ……』

「!」


 自分の体の変化に戸惑っていると、僕の体のどこからかフェルムの絶叫が響いてきた。

 その声に僕は、どこにも見えない彼女へと声をかける。


「っ、フェルム! 大丈夫なのか!?」

『う、うるさい! 今のボクに話しかけるなぁ! く、おぉぉぉ、嘘だぁぁぁ……』

「……ウサトの中から声が聞こえるわね」


 なんだか苦しそうにしているけど、なんとなく痛みに耐えているような感じではなさそうだ。

 どちらかというと、悶えている?

 無事とは言い切れないが、フェルム自身は大丈夫と判断しても――、


「そら、よっ!」

「ッ、コーガ……!」


 不意打ち気味に繰り出されたコーガの爪を籠手で受け止める。

 彼は黒い籠手に包まれた左腕をまじまじと見ると、楽しそうな笑みを零し、背中から伸ばした鎌の一つを僕の肩へと突き立てようとした。

 咄嗟に籠手で防ごうとするが、コーガは動かそうとした僕の籠手を両腕で掴んだ。


「!? 放せ!」


 コーガに膝蹴りを食らわせるも、それを無視した彼は背中の鎌を僕の顔へと叩きつけた。

 鳴り響いたのは独特の金属音。

 自身の頬から響いたその音に呆気に取られ、左手を頬に添えると硬質な感触が伝わる。

 が、顔面セーフ……?


「ウサト、首元から黒い魔力が……」


 いや、団服の内側の魔力が頬にまで伸びて硬質化したのか……!?


「って、次のが来るわよ!?」 

「っ!」


 黒い籠手に包まれた左腕を掲げ、続けて振るわれた鎌の切っ先を掴み取る。

 強度も申し分ない。

 これなら、右腕と同じ要領で使っても問題なさそうだ。


「なるほど、ある程度の硬さもあるようだし、こりゃあ『反転』の性質は完全に消え失せているって考えていいな」

「いい加減に放せ……!」

「はいはいっと」


 力任せに腕を振り回し、コーガを引き離す。

 しかし、彼の攻撃はまだ終わっていないのか、その背から僕を挟み込むように四つの鎌が迫る。

 四方からの攻撃。

 今の不可思議な体のままで対応しきれるか……!?


『ッ、うぅ、仕方ない!』

「フェルム!?」


 両腕の籠手で対応しようと構えると、左腕の方からシャキンッ! という金属音と共に黒色の剣が伸びてきたではないか。

 前腕から拳を通るように真っすぐに伸ばされた黒色の剣。

 自分の腕の変化に気付き「うぇ!?」と素っ頓狂な声を上げた僕に、フェルムが急かすように声を上げる。


『そいつを使え!』

「は!? 鈍器にしかならないぞ!」

『いいから!』

「ッ、あぁ、もう!」


 左腕を力任せに横薙ぎに振るって鎌を弾き飛ばす。

 一度振るって威力を確認した僕は、左腕の剣と右腕の籠手を合わせて続けて迫る鎌をはじき返していく。


「この左腕は……!」


 驚くほど、黒色の籠手は僕の腕に馴染んでいる。

 それこそ僕専用に創られたファルガ様の籠手と同じくらいに、扱いやすく思える。

 両足も違和感はなく、先ほどと同じ靴を履いているかのようだ。

 先ほど、闇魔法に包まれたフェルムに体に入り込まれた(?)あとなのに、違和感すらない。

 ……右腕の籠手と同じ感覚なら――少し試してみるか。


「ウサト、ボーっとしないで! 左からきてるわよ!」

『後ろからも来ているぞ!』

「僕の目は前にしかついてないんだけどなぁ!」


 左腕の剣に一度視線を移したあと居合のように構え、左腕に魔力を籠める。

 剣は左腕と一体化しているので当然魔力も通るはず。

 コーガが鎌で追撃した瞬間を狙い、円を描くように剣を大きく振るい、それと同時に治癒破裂掌の要領で魔力を暴発させる。


「ぬぅん!」

「なにしてんの、ウサト!?」


 瞬間、左腕と一体化した剣から治癒破裂掌と同じ衝撃波が放たれ、包囲するように襲ってきた鎌を空中ではじき返した。

 まるで斬撃を放ったが如く放射状に放たれた魔力の衝撃——自分のやったことに驚きながら僕は衝撃波を放った剣を見つめ、声を震わせた。


「こ、これを……“ダークネス治癒破裂斬”と名付けよう……!」


 あとで先輩の前でドヤ顔で披露しよう。


『うわぁ、それはないと思うぞ……』

「悪いこと言わないからやめなさい。もっといい名前考えてあげるから。ね?」


 フェルムに引かれ、ネアに優しく諭されたことで精神的なダメージを負ってしまった……。

 しかし、左腕で魔力を暴発させたにも関わらず、怪我も痛みすらもない。


「この左腕の籠手は、僕の腕と一体化しているってことか……」

「はー、なるほど。完全に同化してるってことは、やっぱりそういうことか」


 コーガが納得したように頷いている。

 一刻も早くこいつから逃れたいところだけど、僕達に何が起こったのかを知っているのなら、聞いておかなければならない。


「……お前は、僕に何が起きたか知っているのか?」

「まずはお前の中にいるフェルムに聞いたらどうだ?」


 なにやらニヤニヤしながら、コーガが僕——否、僕の中にいるフェルムへと指さした。

 その表情になにやら意地の悪いものを感じながらも、彼から視線を外さずにフェルムへと話しかける。


「フェルム、これは君がやったのか?」

『ボクの魔法がお前に取りついた。だから使える』


 説明が簡潔すぎじゃないですかね……?

 それは分かるけども、もっとこう……どうして僕に取りついたのかを教えてほしいんですけど。

 僕と同じような疑問を抱いたのか、ネアが僕の中にいるフェルムに話しかけた。


「取りついたって、貴方の意志じゃないの?」

『ボ、ボボ、ボクの魔法が勝手に吸い付いたんだよ! ボクのせいじゃない!』


 ネアの言葉に、フェルムがどもりながら声を荒らげた。 

 とりあえず、物騒な左腕の剣に戻るように念じてみると、手首から伸びた刃は左腕へと戻っていく。


「……僕からでもある程度の操作はできるってことか。ネア、君はどう考える?」

「フェルムの力が貴方にも使えるようになったとしか言えないわよ。当の本人が頑なに説明しないんだもの」


 何か理由でもあるのだろうか?

 単純にフェルム自身が分かっていないって可能性もあるけれど。

 悩む僕達を見かねたのか、コーガは頭の部分だけ仮面を解除させながら、どこか楽しそうに笑った。


「まあ、しょうがない。ぶっちゃけフェルムが口にしたくない気持ちもなんとなく分かる。だが、気遣いから一番遠い場所にいる俺には関係ないので、暴露してやろう」

『ウサトォ! 今すぐあいつを黙らせろぉ!』


 僕の左腕と両足の踵から黒い刃が飛び出すが、それを僕の意志で収めさせる。

 ぐぬぬ、と呻くフェルムに若干申し訳なく思いながら、コーガを睨みつける。


「単純に言うなら、フェルムの変質した闇系統の魔法がそういう能力になったってだけの話だよ。前に言っただろ? 闇魔法は使い手の精神に強く影響される魔法だってな」

「ああ」

「察するにフェルムの闇魔法『反転』は別のものへと変質した。言うなれば……」


 そこで腕を組むコーガ。


「『共存』……いや『同化』か? お前と共に在り、お前と共に戦い、お前と共に死ぬ、フェルムの能力はそういうもんになったんだろうよ」

「……」

「今の攻防が証拠だろ? お前に同化したフェルムの魔法は、勝手に護り、その主導権の半分もお前自身が握っている」


 だからフェルムの魔法は彼女の意志に反して、僕に取りつこうとした。

 今の今までそれに気づかなかったけれど、闇魔法により作られた黒い団服を着たフェルムと接触してしまったから、彼女そのものが闇魔法として僕に取りついたってことか。

 一応、確認のためフェルムへと話しかける。


「そうなのか、フェルム?」

『……』

「フェルム?」

『うぅぅぅ、くぉぉぉぉ……』

「?」


 なにやら悶えている。

 まあ、そりゃ自分の魔法が他人と同化するなんて恥ずかしいに決まっているけど、その変化に至った心境は決して悪いことなんかじゃない。

 むしろたった一人で生きて、戦ってきた彼女が他人を信じられるようになったんだ。

 これ以上になく良いことに決まっている。


「共に戦う……か。よし! フェルム!」

『な、なんだよ……』

「こうなったら一蓮托生だ。僕と君とネアの三人……いや! 三位一体でコーガをぶちのめす」

『……あ、ああ!』


 フェルムの闇系統の魔法は、僕の体と完全に同化している。それこそ右腕の籠手と同じように。

 だとすれば、僕の戦い方に劇的な変化を起こすことができるってことになる。

 新しい戦い方は既に思いついている。

 なら、あとはぶっつけ本番で実践していくだけだ。

 調子を確かめるべく地面をつま先で叩きながら、臨戦態勢へと移っているコーガへと向き直る。


「ネア、大ぶりの攻撃のみに拘束の呪術をお願い」

「任せなさい」

「フェルム、変形する形は君に任せるけど人を相手にするときは刃物は禁止ね」

『腕を大きくするとか、盾とかでも構わないのか?』

「うん。あと一応、忠告。今から変な動きするから二人とも、酔わないように」

「『へ?』」


 二人にそう言い放つと同時に、コーガへと足を踏み出し——脚甲から魔力を暴発させる。

 治癒加速拳とは違った脚力と合わせた加速により一気に接近した僕に、コーガは面を食らいながら、背中の鎌と爪を動かそうとする。


「はやッ……!?」

「治癒速撃拳」


 ——が、その出鼻を潰すべく、両腕で繰り出した治癒速撃拳を連続で叩きつける。

 もう攻撃させる暇も与えないし、その闇魔法も引きはがす……!

 魔力の暴発を連続で発動させ一瞬でコーガの背後へと回り込み、そのわき腹に回し蹴りを叩き込む。


「うぐぇ!? まさか、動き全てがそれか!?」

「ああ! 今の僕は全身で魔力の暴発ができる!」

「なんだそれ! ははは! やっぱ、お前はまともじゃないなぁ!」


 追撃の拳を受け止めたコーガに攻撃が効いている様子はない。

 だが、コーガの背中の鎌は、僕の動きに追いつくことができない。


『し、視界がぐるぐる……』

「が、我慢しなさい、フェルムぅ……! 私も我慢してるんだからぁ……!」


 しかし、魔力の暴発を利用した移動法は味方にも被害を与えてしまうようだ。

 これ以上の負担は二人にとっても危険だ。早めに決着をつけないと。


「今のままじゃ、ちと分が悪いか……」


 このままでは分が悪いと判断したのか背後へと鎌を突き刺し離脱を計ろうとしたコーガだが、不意にその動きを止めた。

 僕には自分の意志で止まったのではなく無理やり止めさせられたように見えたが、彼の体をよく見ればいつのまにか黒い帯が巻き付けられていた。


「はぁ!?」

『逃がさないぞ!』

「拘束の呪術よ! さっさと倒れなさい!」


 二人がサポートしてくれたのか、僕の左手首から伸びた黒い帯がコーガに巻き付き、その帯を通じて拘束の呪術が流されている。

 体に巻かれた拘束を鎌で切断しようとするも、耐性の呪術が施されて切れないようだ。


「お前、サポート周りが優秀すぎじゃねぇ!?」

「僕には勿体ないくらいに優秀だよ! そぉい!」

「うぉぉぉ!?」


 黒い帯を両腕で掴み取り、力の限りに引き寄せる。

 こちらへ引き寄せられるコーガを視界に収め、右足に魔力を籠める。

 ———思い出すのは、書状渡しの旅から帰った後に行ったローズとの模擬戦で食らったキック。

 ネアの耐性の呪術すらも一瞬で破壊し、防御した籠手の上から人間を数十メートル単位で吹っ飛ばすそれをイメージし、眼前のコーガへと放つ。


「オラァ!」

「うぐぉ!?」


 ズンッ、という音と共にコーガの胴体へと突き刺さる蹴り。

 コーガの体がくの字に曲がり苦悶の声を漏らすと同時に足に込めた魔力を暴発させ、治癒連撃拳ならぬ、治癒連撃脚を放つ。


「いい加減気絶しろやァ! 治癒連撃脚ゥ!」

「お前、マジで慈悲とか一切ないなぁぁ!?」


 ボールのように飛んでいくコーガ。

 しかし、その程度で倒せるとは思えないので彼に繋がれた黒い帯を右手に持ち替えながら左腕を構える。


「フェルム!」

『え!? こ、これでいいか!?』

「十分だ! ありがとう!!」


 僕の声に驚きながら、フェルムが左腕を二回りほど大きくさせる。

 それを強く握りしめた僕は、治癒瞬撃拳の態勢に移る。

 このままたたみかけて意識を刈り取る!


「待って、ウサト! 上から何か来る!」

「……!?」


 その瞬間、僕の頭上から熱気のようなものを感じる。

 危険を感じ、頭上を見上げずに全力で後ろにさがった瞬間、僕とコーガの間に炎が滝のように降り注いだ。


「な!?」

『この炎は……!?』


 見て分かるほどに強力な炎の魔法。

 分断された黒い帯を回収し、焦燥しながら空を見上げるといつの間にか上を飛んでいた飛竜から何者かが飛び降りた。

 膝をついたコーガの近くに着地した赤色の髪の魔族―――アーミラ・ベルグレットは、炎を消し去りながら手に持っていた剣を鞘へと納めた。


「勝手に一人飛び出していったバカ軍団長。これはいったいどういう状況だ」

「おい、バカ軍団長って呼ぶのはやめて」

「いいから、早く、話せ」

「……ウサトがフェルムと合体して、とんでもなく強くなった」

「……」

「……」


 何を思ったのか、アーミラは鞘に納めた剣をコーガへと振るった。

 突然味方から攻撃を受けたコーガは慌てて転がりながら避ける。


「な、なにすんだ、お前! 上官だし味方だぞ!?」

「いや、殴られたショックで錯乱していると思ってな」

「そう思っても仕方ないけど紛れもない事実なんだよ!? 見ろよ、あれ! まともな治癒魔法使いの姿に見える!?」


 コーガが僕を指さすと、アーミラがこちらを見る。

 確かに僕の今の姿は普通の治癒魔法使いとは言い難いけれど、コーガに言われるのはなんか癪に障る。


「確かに師匠から生き延び、このバカ軍団長を追い詰めた時点でまともとは言い難いな……。それと同時に、貴様がこの戦場で最優先で倒さねばならない敵だということが確定した。それこそ、我々にとっての障害である勇者以上に危険な存在だ」

「随分と、評価してくれますね……」

「当たり前だろう? 師匠と戦って無傷で生き延びている。それだけで異常だ」


 未だに元気そうなコーガと、どうみても消耗すらしていないアーミラを前にして、焦燥を顔に出さないようにする。

 ここにアーミラが乱入してくるとは思わなかった。

 しかも、僕とアーミラの戦い方は相性が悪すぎる。

 一刻も早くこの場を離れたいのに、どうして軍団長クラスの実力者が集まってくるの?

 ネロとの戦いは自分から頭を突っ込んだようなものだけど、このままだと第三軍団長までエンカウントしてしまいそうな勢いなんですけど。


「確実に仕留める。悪いが、二人がかりで倒させてもらうぞ」

「しょうがねぇ。ここは私情を優先してる場合じゃねーか……」


 剣を引き抜いたアーミラと、鎌を展開させたコーガを前にして構える。

 人数的には三対二でこっちの方が数では有利だ! ……と言いたいところだけど、そんなふざけたことは言ってられない。

 白服の僕が足止めを食らっていることもそうだが、それ以前にこの二人を相手にして無事に切り抜けられるかどうかすら怪しいのだ。

 そこまで考えて、不意にバチィッ、という何かが弾ける音を僕の耳が捉えた。


「この音は……」


 どこからともなく聞こえてくる音。

 木霊するように響いてくるそれが近づいてきていると認識した次の瞬間——僕の隣に先ほどまでいなかった人物が地面に手をつくように着地していた。

 艶やかな黒髪に、電撃を纏ったその姿に僕は思わず惚けた声を零した。


「犬上、先輩……?」

「ああ、今度は私達(・・)が助ける番だよ。ウサト君」


 そう力強く答えた犬上先輩は、逆手に持った剣を地面に突き刺し強烈な電撃をアーミラとコーガへ放った。


真っ先にウサトと同化した理由を理解し、ひたすらに悶えるフェルムでした。


ウサト闇魔法モード(?)

硬い(籠手)、硬い(耐性)、硬い(闇魔法ガード)という防御特化。

加えて、全身で系統強化を暴発でき、左腕などを武器や盾などに変形できる。


……相手からしたら本当に意味が分からない強化ですね。


次話の更新は明日を予定としております。

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