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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第八章 決戦、魔王軍との戦い
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第百八十六話

お待たせしてしまい申し訳ありません。


第百八十六話です。

 魔王軍との戦いが間近に迫った今、僕にできることは限られている。

 数少ない僕にできることの一つは、副団長として、ローズの代わりに団員の皆をまとめることだ。

 中央拠点にて、ローズがシグルスさん達の元で作戦会議に参加している間に、僕は団員達と増員の三人を前にして、改めて役割の確認を行っていた。


「灰服のオルガさん、ウルルさん。そして、ゲルナ君、ケイトさん、シャルンさん。皆さんはここで怪我人の治療をお願いします。ですが、ここに魔族の兵士が来てしまった場合は、いちはやく逃げてください。戦う人たちにとって、皆さんの存在は命綱と言っても過言ではありませんから」

「ばんばん人を助けるからねっ!」

「う、ウルル……今、そんな意気込むことないと思うよ……」


 元気よく返事してくれるウルルさんに頷く。

 この人も不安なはずだけど、それでも明るく振舞ってくれているのは僕達にとってもありがたいことだ。

 ウルルさんとオルガさんからゲルナ君達へと視線を移す。

 ケイトさんはにこにこと笑みを作っているが、ゲルナ君とシャルンさんは不安そうな面持ちだ。


「もう一度言うけど、命の危険を感じたらすぐに逃げるように。いや……今の時点で逃げ出したいのなら、正直に言って欲しい」

「……いえ、俺は傷つく人を癒すためにここに来たんです。今更怖気づいて逃げだしたりはしません」

「私も来たからには自分の使命を全うしたいと思います! まだ勇者スズネ様にも会っていませんし、死んでも死にきれません!」


 ゲルナ君とケイトさんの決意を表す言葉を口にする。

 ゲルナ君は、年齢こそ違うけれどナックを連想させるな。なんというか、真っすぐな性格で安心する。

 ケイトさんは……うん、魔王軍との戦いが終わるまで先輩と会わせるのはやめておこう。冗談とは言え、本当に思い残すことはない、的なことになってほしくないし。

 シャルンさんも二人の言葉に深く頷いているので、これ以上の言葉は野暮というものだろう。

 じゃあ、次に強面達とフェルムだ。


「お前達は分かっていると思うが、フェルムのために確認しておくぞ」

「……ああ」

「黒服の役割は、戦場での負傷者の救出と回復魔法での応急手当。分かってるね?」

「言い聞かせるように言わなくてもちゃんと分かってる」


 ふいっ、とフェルムは顔を逸らした。

 フェルム自身、小柄な少女ではあるが魔族である。それも救命団で訓練を受けた魔族だ。

 僕や強面達に及ばないにせよ、彼女には闇系統の魔法による変幻自在の服がある。反転の力を失っても防御面での無敵さは変わらない。


「おい、ウサト」

「うん?」


 声をかけてきたトングの方を見る。

 腕を組んでいた彼は、フッと肩の力を抜いて笑みを浮かべ口を開いた。


「今の今まで呼ぶこたぁなかったが。戦いの前だ、お前のことを認めてやろうってな」

「は?」

副団長(・・・)。俺達は傷ついた味方を救って、んでもって生きて帰って来てやるよ。ま、お前を副団長だなんて呼ぶのは性に合わねぇが、この戦いの間だけはそう呼んでやる」


 そうトングが言うと、それに続くように他の強面達もにやり、と笑みを浮かべた。

 今の今まで「小僧」だとか「ウサト」だとしか呼ばなかったこいつらが……。

 僕は一歩後ずさりながら、衝撃のあまり口を押さえた。


「お前ら……死んじゃうの……?」

「「「死なねぇよ!?」」」


 先ほどのキリッとした雰囲気を崩して、一斉にツッコまれてしまった。

 僕だってこんなこと言いたかないけど、そんなこと言われると困惑してしまうのもしょうがないと思う。


「お前、マジで空気読めねぇのかよ!?」

「嘘だろ……!? 俺らだって恥ずいんだぞ!」

「頭まで筋肉なんじゃねぇの、こいつ……」

「いや、今生の別れみたいな空気だから……」


 悪そうなやつが突然良いことを言い出す――俗にいう死亡フラグってやつだ。

 僕自身、いきなり素直に副団長呼びをされて、素直に戸惑っている。こいつらは対等な間柄だと思っていたから、上官としての呼ばれ方が不気味でしょうがないのだ。

 それでも、副団長と呼ばれ嬉しくないわけがない。


「それじゃ、お前らに蹴飛ばされないように頑張らなきゃな」

「おう、不甲斐ねぇ姿を見せたら速攻で副団長の座をぶんどってやるからな」

「できるもんならね。返り討ちにするから」


 トングと軽口を交わした後に、改めてここにいる仲間達を見やる。

 ここにいる全員に役割がある。それは危険が伴うものもあるし、一瞬の気のゆるみで命が左右されてしまう重要なものでもある。


「ウサト、私は?」


 そんなことを考えていると、不安そうな面持ちのネアが僕の団服の袖を引っ張ってきた。

 素で彼女のことを忘れていた僕は、フッと笑みを浮かべ、その肩に手を置いた。


「ネアは僕のサポート。以上」

「ちょっと雑すぎない!?」


 涙目で詰め寄ってくる彼女をなだめながら、その場は解散となるのであった。



 拠点に来て二日目の夜。

 テントの外に出ると兵達の姿が見えるが、その姿はどこかピリピリしていた。

 恐らく、魔王軍が間近に迫ってきているからだろう。戦いを前にしての恐怖か高揚感かは人によって違うだろうけれど、例外なくここにいる全ての人が平常心ではいられなかった。

 そんな彼らを横目で見つつ、僕は建てられたテントの間を縫うように歩みを進めていく。

 なぜ救命団としての活動拠点を離れて外に出ているかというと、ローズに拠点の前線付近に建てられた壁に呼ばれていたからだ。

 話があるのなら、テントなどですればいいのでは? と思ったけれど、なんとなくそれを言葉にせずに僕はローズの言葉通りに目的の場所へ向かった。


「……いた」


 到着するとローズは壁に増設するように作られた見張り台に立ち、そこで平原地帯―――魔王領のある方向を静かに見据えていた。

 僕は無言で壁に設置された梯子を昇り、彼女の元へと近づいた。


「ウサトか」

「はい。……それで、どうしてここに僕を? 作戦会議のことなら、先ほど聞きましたが」


 やることは前回の戦いのときとそう変わらない。

 戦いが始まったすぐ後の段階では、白服の僕とローズは活動拠点で怪我人の治療に専念し、戦闘が本格的なものになってきた頃合いで出撃し、戦場を駆けてその場で怪我人を癒していく。


「単純に話があっただけだよ。そこまで肩に力をいれなくてもいい」

「そうですか……」


 言われたとおりに肩の力を抜いて、見張り台の縁に両手を乗せる。

 改めて平原地帯を見渡してみると綺麗な景色だなって思う。見渡す限りの平原が空からの月の明かりに照らされ、昼間とは違った表情を見せている。

 この場所が近いうちに戦いの場所になって荒れ果ててしまうって考えると……少し勿体ない気分になってしまう。


「ここに来てからは任せっきりだったが、副団長としてやっていけているか?」

「え? ええ、勿論です」

「ならいい。お前がまともにやれているようで安心したぞ」

「団長」

「なんだ?」

「突然優しくされると、その……不気味です」


 返答は僕へのエルボーであった。

 遠心力の乗った一撃をまともに胸に受けた僕はなんとか足を踏ん張らせて堪える。


「どれ。顔差し出せ。お望みに通りにしてやろう」

「す、すすす、すみません……!」


 手をバキバキと鳴らしながら近づいてくるローズに、慌てて謝罪する。

 防御無視のエルボーとか恐ろしすぎる。


「ハァ……、折角気遣ってやったってのに。お前はいつまでたっても生意気な小僧だよ」

「そ、それほどでも……」

「褒めてねぇよ」


 呆れたように吐息を零したローズは再び、平原へと視線を戻す。

 その視線は、目の前の平原ではなくその先を見ているようにも思えた。


「ネロ・アージェンスは……来るんでしょうか?」

「あくまで予感にすぎないが、来るだろうな」


 今まで見る限り、基本この人の勘って的中してるよね?

 ファルガ様の不可視の魔術すらも感知してくるくらいやばい精度だし。

 でも、話に聞くだけでも凄じい力を持つ魔族の剣士が来るとしたら、もしかして——、


「団長が相手にするつもりなんですか?」

「……」


 ローズは口を開かなかった。

 動揺した様子も見られず、かといって否定している素振りもしない。

 ただ無言の彼女に不安になっていると、ようやく彼女は言葉を発した。


「奴がここに向かってきているのなら、私と戦うことが目的だろうな」

「……復讐でしょうか?」

「それは分からねぇが、奴があの戦いの結末に納得しているとは思えん」


 ローズと当時の部隊の方々を始末するために、ネロ・アージェンスは部下に捨て身の攻撃を指示した。

 それなのに肝心のローズは倒せなかった。それが、ネロにとって我慢ならないこと……ということか?

 ……実は、ローズから過去の話を聞いてずっと訊いてみたいことがあった。

 今なら、聞ける気がする。


「団長にも、復讐したいって気持ちはありますか?」

「ないな。んなもんはとっくに消え失せている」


 あまりにもあっさりと答えてくれたので、肩の力が抜ける。

 その答えに安堵するが、次に疑問に思ってしまう。

 ネロ・アージェンスはローズの大事な部下であり、仲間の仇でもあるのだ。そんな相手に復讐したいと思うのが当然なんじゃないか?


「私にはやるべきことがあったからな。復讐なぞに構っている暇はそもそもねぇんだよ」

「救命団ですか……」

「ああ。それに、あいつらもそれを望んでいるはずがねぇしな」


 ……アウルさん達のことか。

 改めて、ローズのかつての部下達の存在の大きさを再確認していると、不意にローズが笑みを漏らした。


「だが、奴の澄ました面はもう一度ぶん殴ってはおきてぇな」

「いきなり話が物騒になりましたね」


 貴方に本気でぶん殴られるであろうネロ・アージェンスが不憫でならない。

 いや、この人と互角以上に戦えていた時点で、そいつもやばい相手なのか。


「あの、団長。もしネロ・アージェンスと僕が遭遇してしまったら――」

「逃げるべきだな。お前にはまだ早い」

「……逃げられないような時は?」


 すぐに想像できたのは、ネロ・アージェンスの近くに重傷を負った人がいた状況だ。

 僕が逃げてしまえばその人は確実に命を落としてしまい、かといって怪我人を救うために戦ったとしてもローズと同等以上の相手と交戦して無傷でいられるはずがない。

 そんな質問をした僕に、ローズはこちらをみずに答えた。


「全力で凌げ」

「凌げって、戦うってことですか?」

「私が逃げろと言ったとしても、お前は戦おうとするのは分かりきってんだよ。なら、全力で凌いで助けを待て」


 どれだけ好戦的だと思われているんですかね……。

 でも、全力で防御に回れば、ローズと同等以上の実力を持つ相手でも時間を稼げるかもしれないな。

 攻撃に回った瞬間に首を飛ばされていそうではあるけども。


「今のうちに訊いておこうと思ったんだが……」

「はい?」


 ローズの声にそちらを向く。


「お前は治癒パンチを使うつもりなのか?」

「治癒パンチ、ですか」


 殴った相手を癒すパンチ。

 僕はローズが何を言いたいのかすぐに理解できた。


「正直に言うとな、お前にあの技を教えたのは失敗だった。なにせ敵を癒すような攻撃だ。わざわざ魔力を消費しちまうし、何より倒すべき相手を癒してしまう。それは……分かっているな?」

「ええ、もちろん分かっています」


 相手を無傷で無力化する、という点では治癒パンチはこれ以上になく有用な技だろう。

 だけどそれは、戦いの場では無意味な技でもある。

 最初の時の戦いでは、手加減というものを知らない僕がやりすぎないための自衛の手段として使ってはいたけれど、今回は戦いの規模が違いすぎている。

 僕が癒すべき人も遥かに多いし、カバーしなければいけない範囲も広がっている。

 そんな中で、無駄な魔力を消費してしまう治癒パンチを使えるわけがない。


「旅の間で培った応用技は使っていきますが、相手をわざわざ治してしまうような技はしないつもりですよ。僕にも白服としての使命がありますからね」

「……そうか」

「それに、治癒パンチを使わなくても相手は気絶させられますし。そこのところは大丈夫だと思います」


 伊達に物騒な旅を送ってきたわけではない。

 邪龍の時は洗脳されたアルクさん、サマリアールではフェグニスさん達、ヒノモトでは国を守る獣人の兵士達を気絶させてきた。

 ……いや、なんか改めて考えるとすっごい物騒だな。


「思ったよりも大丈夫そうだな」

「……もしかして、心配してくれたんですか?」


 笑みを浮かべながらローズの方を向いた瞬間、僕の額に衝撃が叩きつけられた。

 不意の衝撃に呻いていると、ローズがデコピンを構えたまま笑みを零していた。


「ハッ、心配したんじゃねーよ。お前がヘマやらかさねぇように釘を刺しただけだよ」

「だからといって、デコピンはないと思うんですが……」

「今更そのぐらいどうってことねぇだろ」


 確かにそれほど痛くはなかったけども。

 額を摩りながら、僕は縁に背を預ける。

 肩の力を抜いて顔を上げると、ここからは平原のある方向とは逆の光景にある拠点全体を見渡すことができる。


「……頑張らなきゃな」


 たくさんのテントと焚火の明かりと点々と見える人影を見て、僕は改めて決意を固めるのであった。


治癒パンチ、封印。

よく考えると序盤からデメリットしかない技を使っていたウサトでした。


次話は、別視点の閑話を予定としております。


※『天候魔法の正しい使い方』の二巻についての活動報告を書かせていただきました。


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― 新着の感想 ―
え?治癒パンチって、相手が意識を失うほどの衝撃と痛みを与える拷問技じゃないの?
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