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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第八章 決戦、魔王軍との戦い
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第百八十三話

あとから200話突破していることに気付き、驚きました。


第百八十三話です。

ギャグ要素が入ると、異様な速さで筆が進みますね……。


 拠点への出発の日。

 僕達、救命団員は騎士達と共にリングル王国を出発していた。

 出発の際は、アマコにナック、それに王国に住む人々が見送りにきたりしてくれた。今一度、僕達が守らなければならない居場所、リングル王国の景色を焼きつけながら、僕はリングル王国をあとにした。

 道中での移動は前回の戦いと同じく馬車での移動だけれど、以前よりも団員は増えた。

 五人の強面達と、オルガさん、ウルルさん、そして――フェルムにネア。

 僕も合わせて十人の団員が馬車の中にいると考えると、なんだか感慨深い気持ちになるな。

 いや、外には救命団用の鎧を纏ったブルリンもいるから十人と一頭だな。


「それはそうと……ネア、その恰好はどうしたの?」

「ようやく指摘してくれたわね?」


 僕の前に座っているネアが、自信満々な表情で足を組んだ。

 ネアの服装はいつもの訓練服ではなく、僕とローズの着ている団服を黒色にし、その上で女の子用にデザインしたような、可愛らしい格好になっていた。

 僕とローズはコートのような感じだけど、ネアは少し僕の世界の今っぽい感じにアレンジされているな。


「ふふん、これは私の変身能力で作り上げた私専用の団服よ!」

「うん、いいと思うよ」

「え? そ、そう素直に褒められると照れるものが―――」

「すごく身軽そうな服装だから、いざという時は速く動けそうだね」

「……」


 嬉しそうな表情から一転して無表情になったネアが僕の脛を蹴る。

 なんだね? 君もフェルムのように脛を狙うのかね?


「ハッ、そんな見た目なんかにこだわるようじゃ、お前もまだまだだな」


 と、ネアともう一人を挟んだ席で悪態をついたのは魔力で作った黒い団服を纏った魔族の少女、フェルムである。

 彼女の悪態に、ネアは嘲るような笑みを返す。


「ウサトの色違いよりはマシだと思うわね」

「誰がこいつの色違いだ! こいつと同じだなんて……こ、こっちから願い下げなんだよ!」


 泣いてもいいかな?

 色違いよりはマシって遠回しに僕がディスられてるし、フェルムに至っては普通に傷つく。


「お前こそ、そんな格好でいいのかよ!」

「別に構わないわねぇ! さっきので分かると思うけど、どーせ、こいつ鈍感脳筋なんだし!」


 どんよりと僕が落ち込むのを他所に、ネアとフェルムの口喧嘩がヒートアップしかけたその時、二人の間に座っていた人物が、動いた。


「二人ともっ、照れるのは分かるけど喧嘩しないで仲良くねっ」

「あぅ!?」

「うぐぁ!?」


 救命団一のコミュ力の持ち主、ウルルさんである。


「は、離しなさい……!」

「離せぇ……!」

「駄目だよー。仲良くしなきゃ、今から大変な場所に向かおうとしているんだから」


 彼女はにこにことした笑顔のまま、フェルムとネアの肩に手を回すと、そのまま自分のテリトリーに引き込み、手玉にとってしまうのだ。

 そして、彼女が止めに入ったもう一つの理由がある。


「それに、そろそろ止めに入らないと、団長さんの雷がふるからねー」

「「……え? ……ヒッ!?」」


 馬車の窓へと目を向けたウルルさんの視線を追っていくと、馬車を引く馬の手綱を持っているローズが、凄まじい眼力でネアとフェルムを睨みつけているホラーじみた光景が視界に映り込んだ。

 後ろを一瞥しているだけなのだけど、なんだろう、このホラー映画真っ青の迫力。


「ね、分かった?」

「「……」」


 青ざめた顔をして、こくこくと頷くネアとフェルム。

 前回は手綱を操っているローズの隣にいたけれど、今回は馬車に乗ることになった。「お前には拠点でやってもらうことがあるので、休んでいろ」ということではあるけれど、副団長としての仕事を任されるのだろうか?


「ウサト君」

「なんでしょうか? オルガさん」


 僕の隣に座っているオルガさんの声に耳を傾ける。

 ウルルさんの兄であるオルガさんは、僕以上に治癒魔法の扱いに長けた方である。

 そんな彼は、いつもの優しげな表情で口を開いた。


「副団長になった君に、お祝いの言葉を言っていなかったことを思い出してね」

「え、いえ、そんな……」

「どうしても言いたいんだ。僕としても、君が副団長になってくれたことは喜ばしいことだから」


 そう言って、一旦言葉を切ったオルガさんは数秒ほど間を空けて祝いの言葉を口にする。


「救命団副団長就任おめでとう、ウサト君。君がこれからもローズさんを支えてくれることを、心の底から願っているよ」

「……僕に団長が支えられるかどうかは分かりませんけど……」

「君は今の時点でも十分支えになっているよ。君自身も、ローズさん自身も気付いていないだけで」


 僕が支えられているってことはあるかもしれないけれど、その逆って考えはなかった。

 でも、オルガさんがそういうのなら、そうなのかもしれないな。

 彼の言葉を心の中で反芻させた僕は、頷く。


「自分なりに頑張ってみたいと思います」

「うん。魔王軍との戦いが迫っている今じゃ無理だけれど、副団長として悩みがあったら相談してね。こんな頼りない僕でよければだけど……」


 自分で言って落ち込むオルガさんに苦笑いしつつフォローしようとすると、その前にネアとフェルムとじゃれていたウルルさんがオルガさんに声をかけた。


「お兄ちゃんはもっと自分に自信をもっていいのに。最後が締まらなくちゃかっこわるいよー」

「ははは……」

「お兄ちゃん、笑いごとじゃないよ?」

「……はい」


 割と普通の声音で返され、面食らうオルガさん。

 そんな二人のやり取りを眺めていると、オルガさんのいる方とは反対の席から、野太い声が聞こえてきた。

 スキンヘッドの男、トング。

 小太り筋肉質、ミル

 顔に十字傷のある髭達磨、ゴムル。

 救命団の料理担当、頭に巻いたバンダナがトレードマークのアレク。

 見た目ゴブリン、グルド。

 僕の信頼する強面五人衆が、何やら思案げに何かを話しているので耳を傾ける。


「相手が魔族だけじゃねぇって話だよな。どうすんだよ?」

「魔物も混ざってるとか地味に面倒くせぇんだよな」

「ああ、見境がつかなくなるしな」

「大丈夫じゃねーの? 俺らがやることは変わらねぇし」

「ヒヒッ、それもそうだ」


 魔族、魔物、見境、やることは変わらない……なるほど、そういうことか。

 それだけの会話を聞いて内容を把握した僕は彼らの会話に参加すべく、声をかける。


「そういうことなら僕に任せておけ。まずはお前らが魔物と間違われて攻撃されないようにする対処法を考えよう」

「「「あぁ!?」」」


 そう言った瞬間、目を血走らせた強面共に睨みつけられる。

 おかしいな、僕の推察が間違っているとは思えないし……。


「あれ? 見た目が魔物だから、魔王軍が連れてきた魔物と間違われて攻撃されないように話し合ってたんじゃないの?」

「テ、テメェ、喧嘩売ってんのか?」


 怒りのあまり青筋を浮かべているトングに首を傾げる。


「えっ?」

「嘘だろ、こいつマジで言ってやがる。前科があるグルドはともかく、俺達は間違えられてねぇぞ」

「俺も間違えられねぇよ! 多分!」


 ミルの言葉にグルドが反論するが、それを否定するようにアレクが首を横に振る。


「お前ってリングル王国の騎士にゴブリンと間違われて捕獲されたところを姉御に拾われたんじゃないのか?」

「俺の用心棒時代の話をするんじゃねぇ!」

「え、本当に?」


 それで救命団に入ることになったとか、すごすぎる。

 そしてローズの団員の集める基準が分からなくなってきた。


「俺らが話してたのは、魔王軍が連れてくるっていう魔物への対策だよ」

「なるほど、そっちか」

「むしろ、どうしてこっちを思いつかないんだよ……」


 話の流れを戻したゴムルの声に頷く。

 魔物への対策か。

 そういう経験は、強面達の方が圧倒的に豊富だろうし、質問してみようかな。


「お前らは、魔物と相対した時どうする? あ、魔物の近くに怪我人が倒れている場合ね」


 僕の質問に、暫し顎に手を当て考え込む強面達。

 十秒ほどすると、トングから一人ずつ質問の答えを口にしていく。


「急所を狙う」

「止めを刺される前にかすめ取る」

「とりあえずぶん殴る」

「全力で体当たりをかます」

「手ごろな魔族をぶつけて囮にする」

「なるほど。ありがとう、参考にする」


 五人の意見に礼を言う。

 誰一人として『見捨てる』という答えを言わなかったことが素直に嬉しくなる。

 僕達の足なら一瞬でも怯ませることができれば、敵の近くにいる怪我人も助けられるってことだな。

 全力の体当たりは、僕もブルーグリズリーに体当たりをかましたことがあるから、実用性があるのは認識している。


「ねぇ、ウルル。あれって参考にしてもいいの?」

「ボクでも分かる。絶対ダメなやつだと思う」

「普通の人なら無理だけど、ウサト君達なら大丈夫なんじゃないかな?」


 前の席からネア達の呟きが聞こえるが、今はトング達の話に集中しよう。

 ……こいつらとはよく喧嘩はするけれど、それで仲が悪いということじゃない。

 お互い気兼ねなしに言いたいことを好き勝手に言い合えるような関係というべきか? カズキや犬上先輩とは違った信頼関係だと僕は思っている。


「それじゃあ、次はグルドが魔物と間違われないための対策を考えよう」

「「「「異議なし」」」」

「あるに決まってんだろ! このクソボケ共がァ!」


 戦いの場に向かう馬車に乗ってはいるけれど、なんだかんだで僕達は暗い空気にならずに目的地にまで到着できそうではあった。



 出発から大分時間が経った。

 中々長い時間、僕と強面達で魔物対策を話し合っていたけれど、強面達が一つずつ結論を出した。

 まずはトングの『魔物は予期せぬ攻撃に対応できない』という案。

 これは魔族相手でも同じだが、初見の攻撃、それか正体不明の攻撃には対応が遅れてしまうという割と理に適った案である。

 二つ目は、ゴムルの『とりあえず眉間に攻撃叩き込めば怯むぜ!』という案。

 どこソースかは分からないけど、確実性のある案らしい。……試すかどうかは未定だ。

 三つめは、ミルの『目で威圧すれば自然と逃げる』という案。

 ミルが『リングルの闇』に放り込まれた際、ローズが実践したらしいが、人間にできない案を挙げないでほしい。

 四つ目は、アレクの『下手に戦わず、自分たちの使命を遂行する』という案。

 普通に頷ける、説得力のある案だと思う。

 五つ目は、グルドの『同族だと思わせれば、自然と襲われない』という案。

 論外、人間の視点で論じてくれ。

 その後、簡単な議論の末に、トングとアレクの案が魔物への対策として有用だという結論が出たのだった。


「結構、長く感じるもんだね」

「そうだね。お兄ちゃんも、本を読んだまま眠っちゃてるし」


 暇になったのか目を瞑って昼寝をし始めた強面達から視線を外すと、いつの間にか席を移動していたウルルさんが話しかけてきた。

 フェルムとネアは? と彼女の隣へ視線を移すと、二人とも目を閉じて眠っていた。しかも、普段はいがみあっているのに、仲良く肩に頭を傾けている。

 とりあえず、風邪を引かないように二人に脱いだ団服をかけておく。


「ウサト君、あっちに着いたら、増員の治癒魔法使いの人達と会うんだよね」

「ええ、そうですね」

「そっか……どんな人たちなんだろうね」


 一応、資料はある。

 しかし、あくまで資料だけなので、本人に会ってみない限りは分からない。


「話では、二十代の方、僕達と同じくらいの年頃の方が二人。全員で三人ほど来てくれるらしいです」

「三人ね。意外と、多いんだね」

「そうですね」


 治癒魔法使いは人間にのみ目覚める希少な系統魔法だ。

 目覚める人も少ないし、目覚めたとしても自分の魔法を隠したりする人もいるらしいので、確認できる治癒魔法の使い手は驚くほど少ないらしい。

 そんな中で、三人も治癒魔法使いが増えるのは、拠点で負傷者を癒すウルルさんやオルガさんにとって、とても助かる話だろう。


「でも、思惑がないはずがないんだよね」

「そうでしょうね。他国から派遣されたって話ですが、その理由も救命団の内情を知るためという理由があってもおかしくはありません」


 深く考えるのならば、そのためだけに一般人の治癒魔法使いを危険な場所に送り込んだという考えもできる。

 正直、その考えに至った時、頭に血が上りかけたし増援は断るべきだと一瞬思った。けれど、その増員で何十、何百人の命を救えるのかって考えたら、何もできなくなってしまった。

 とどのつまり僕は、これから戦いの場に巻き込まれるであろう数人の治癒魔法使いと、彼らの力を借りて救えるであろう命を天秤にかけてしまったのだ。


「拠点についたら、僕はどんな悪態でも文句でも受ける覚悟です。彼らにはそうする理由があるし、僕も副団長としての立場で、それを受けなくちゃなりませんから」

「全く、ウサト君はなー。そういうところが心配なんだよなー」


 何を思ったのか、下を向いている僕の頭をガシガシと撫で始めたウルルさんに戸惑いの声を上げる。


「わっ!? ちょ、ちょっと、ウルルさん!?」

「でもそういうところ、団長さんにそっくりだよ」


 呆気にとられる僕にウルルさんは、初めて会った時から変わらない明るい笑顔を向けてくれる。


「大丈夫だよ。そんな後ろ向きに考えなくても。ウサト君は一人じゃないし、君が副団長だからって何もかもを背負わせたりしないから」

「え?」

「私達、同じ救命団の仲間だからね」


 そう言って僕の肩を、ウルルさんは元気づけるように強く叩いた。


「それにさ、来てくれる治癒魔法使いの人も、本当に私達のことを想ってきてくれた人かもしれないじゃない?」

「……はい。ウルルさんのいう通りですね」


 魔王軍との戦いが差し迫っていたからか、暗い気持ちになっていたようだ。

 彼女の明るく、そして前向きな言葉で目を覚まさせられた。

 僕は、ウルルさんに頭を下げる。


「ありがとうございます。僕も、自分が思っている以上に思いつめていたようです」

「いいっていいって、君だってまだ私とほとんど変わらない年頃なんだし、悩んだりするのは当然のことなんだから」

「ウルルさんも?」

「それはそうだよ」


 悩んだりするのは当然のこと、か。

 無意識に副団長としての務めを自分だけでやらなくてはならないっていう意識に駆られていたのかもしれないな。

 今、それを気づけて良かった。

 ウルルさんのおかげで、肩の荷が軽くなった気がする。


「——おい、お前ら」


 そんなことを考えていると、手綱を引いているローズが窓を叩きながら、僕達へ声をかけた。

 僕とウルルさんが窓の外を見やると、ローズは道の先を指さしていた。

 そこには沢山の物資や、野営のテントなどが並んだ大規模な野営地が広がっていた。


「まもなく拠点に到着する。寝ている奴を起こしておけ」

「「……はい!」」


 拠点についてからもやることは沢山ある。

 ローズの言葉に強く頷き、引き締めた僕とウルルさんは眠っている面々を起こすべく立ち上がるのであった。


【悲報】先輩、お姉さん属性すらも奪われる。


強面五人衆の見た目の特徴については、コミカライズ版より描写いたしました。

本編には影響は全くないので、ご安心を。


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