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第百七十二話

お待たせいたしました。

感想返信ができず、本当に申し訳ありません。


第百七十二話です。

 自分がやらかしたことはちゃんと分かっているつもりだった。

 いらぬアレンジを加えて、まさかの新技を披露してしまったことは完全に僕の自業自得だし、治癒連撃拳自体はそんな反応が返ってくるのを分かってて披露したのだ。


「……」


 先ほどのお披露目で魔力を多く消費してしまった僕は、訓練場の一画に用意された休憩所のような場所にある椅子に座り、各王国の交流戦を見ながら体を休めていた。


「三の型、か」


 場の空気に流されたとか、そういうのは関係ない。

 治癒瞬撃拳、一撃離脱・正面突破の治癒パンチ。

 改めて考えると、この技で的が壊れなかったら、そのまま連撃拳を続行できたんだよな。魔力量の負担は大きいけれど、この技も生き物には向けてはいけない技に違いないだろう。

 ネアが知ったらどんな反応を返してくるかなぁ、と考えていると休憩所にいる僕の背後から声がかけられた。


「ウサト、来たよ」

「ん? アマコか」

「うん」


 交流戦を見に来てくれたのか、アマコが訪ねてきてくれた。

 彼女は僕の隣に座ると、微妙な表情を浮かべて話しかけてきた。


「……なんというか、ウサトって本能で技を編み出しちゃう人なんだね。さっきの、控えめに言って魔法使いどころか人間の使っていい技じゃないと思う」

「そこまで言うか……」


 隣に腰かけたアマコは、フードを被りなおしてこちらへ向き直る。


「キリハ達もびっくりしてたよ」

「どんな反応してた?」

「絶句。というより、あれを見たほとんどの人がこの反応だと思う」


 やっぱりかぁ。

 以前来た時も避けられていたけど、今度は人すら寄ってこなくなりそう。


「因みにスズネとカズキは、スゴイ! とか、かっこいい!って言われたよ」

「まあ、二人の技はかっこよかったからなぁ。うん」


 先輩の十連雷突きなんて、えぐいけど超かっこいいし、カズキの光魔法を駆使した正確無比な魔力操作は目を奪われるほどに見事だった。

 二人の技を思い出しながらうんうんと頷いた僕は、一つ気になったことをアマコに問いかけてみる。


「因みに僕は?」

「やばい、怖い、恐ろしい――」

「それ以上言わないで。僕の心がもたない」

「無理もないと思う。スズネやカズキと違って、ウサトのは物理的な印象が強すぎるから」


 この扱いの差よ。

 これはある意味で治癒魔法の間違った認識を植え付けてしまったのでは?


「そういえば、スズネとカズキは?」

「二人は交流戦をやっているよ。それぞれ他の国の代表の方たちと手合わせをしているんだ」


 カズキはカームへリオ王国の騎士達と、先輩はサマリアール王国の空色の騎士達と、それぞれ別の形式で手合わせを通じて、交流を行っている。

 特に、先輩が今模擬戦を行っている、ルーカス様とエヴァの護衛を務める空色の騎士達の動きには興味を引かれた。

 なんというべきか、それぞれの動きに無駄がないとでもいうべきなのか。混戦を余儀なくされる戦いの場においてでさえも揺らぐ気配すら見せない。

 多対一とはいえ、先輩と戦えている時点で、その実力を疑えるはずがな――、


『みなさーん、がんばってくださーい!』

『ひ、姫様が見ているわよぉぉ!』

『『『おおおおぉぉぉ!』』』

『うぇぇ!? 電撃を分散させながら押し寄せてくる!?』


「……」


 肩がぶつかるほどに組んだ陣形を以てして、電撃の威力を分散させながら果敢に先輩へと向かっていく彼女たちは凄まじい気迫を放っている。

 僕と同じ方向を見たアマコは微妙な表情で、こちらを見る。


「……ねぇ、ウサト。あの人たちって……」

「固い誓いで結ばれた結束で戦う人たちなんだ。そういうことにしておこう」

「……う、うん」


 時として、気合と根性はなによりにも勝る武器にもなるから……。

 それで先輩の電撃を受けた上で突撃をかませるのは普通にすごいのだけれど。

 あれだろうか? エヴァを守るために防御と耐久面を重視しているのかな? サマリアールは魔具に通じている国だし、あの空色の鎧に特別な力が備わっているのかもしれないな。

 そこまで考え、自分の体調を今一度確認した僕は、ゆっくりと腰を上げた。


「さて、と」

「行くの?」

「ああ、さすがに大事な交流戦で何もせずに過ごすわけにもいかないしね」


 僕も救命団の代表としてここに来ているんだ。

 少しでもいいから、他の王国の人達と関わりを持たなくちゃいけない。


「それに、これから一緒に戦う人たちの服装や鎧の形も覚えておかなくちゃ」


 僕の使命は戦場で傷ついた人を救うことにある。

 敵味方の判断を一瞬でも間違えれば、助けられたはずの命を死なせてしまうことになる。

 ……そんな経験は二度とごめんだ。だから、その時に後悔しないように僕は今できることをしなくてはならない。

 アマコと別れ、交流戦が行われている訓練場に入る。

 その場で軽く準備体操をしていると、近くでハイドさんが自身の部下と思われる戦士達と、リングル王国の騎士達の模擬戦を観戦している姿を見つける。

 僕の姿に気付いたハイドさんは、相変わらず気さくに声をかけてきてくれる。


「おぉ、ウサトか。もう体は大丈夫なのか?」

「ええ、全快とはいえませんが魔力にも余裕がでてきました」

「そうか。だが無理は禁物だぞ。君は我々にとっても重要な存在だからな」


 僕を、ひいては救命団への信頼を感じさせるハイドさんの言葉に驚く。

 なんというか、いい意味で真っすぐな言葉を投げかけてくる人だ。


「リングル王国の騎士は粒揃いだな。魔王軍との戦いの経験を積んでいるからか、俺の率いる部隊の者達と対等以上に渡り合っている」


 ハイドさんの言葉を聞き、リングル王国の騎士達とニルヴァルナ王国の戦士達の戦いに目を向ける。

 互いを補い合うように柔軟に戦う騎士達と、雄叫びを上げ、荒々しくも力強い戦いを見せる戦士達。

 それぞれの王国の特徴が如実に表れているように見える戦いは、ハイドさんの言う通り、確かに拮抗しているように見えた。


「この会談にきて正解だった」

「え?」

「部下にいい経験をさせられたこともそうだが、なにより勇者の実力と、噂に名高い救命団の能力を確かめることができたんだ。これだけでもう十分すぎるほどの収穫だ」


 交流戦を眺め、ハイドさんはそう呟いた。

 ……僕も、この機会を無駄にするのは勿体ないな。

 そう思った僕は、あるお願いをするため隣にいるハイドさんに頭を下げた。


「あの……ハイドさん、手合わせをお願いしても構わないでしょうか?」

「……なんだって?」

「あ、い、いえ、無理なら断っていただいても……」

「いや、むしろ大歓迎なんだが……君は本調子ではないのだろう?」


 よ、よかった。受けてくれた……。

 ハイドさんの言う通り、今の僕は魔力を消費してしまったため、その面では本調子からは程遠い。

 だけど、体力面と精神面においては問題ない。

 それに――、


「今、ハイドさんと手合わせをできる機会を逃すと、あとになってものすごく後悔しそうなので……」

「……はははは! なるほど、そういう理由なら仕方ない! よし、やろう!」


 周りを気にせずに楽しそうに笑った彼は、僕の肩を力強く叩いたあとに、彼の近くで控えていた部下、ヘレナさんに僕と手合わせをする旨を伝える。


「ヘレナ、俺は今から彼と戦う。少しの間だがあとは頼んだぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください。話は横で聞いていましたが、あまり熱くならないようにお願いしますよ? 貴方は夢中になると本当に手に負えないんですから」

「フッ、心配するな。俺を誰だと思っている」

「どうして、そこまで自信に満ち溢れているのか私には理解できないんですけど……」


 がっくりと肩を落としたヘレナさんに、なんだか手合わせを持ちかけた僕としては申し訳ない気持ちになる。

 まあ、快く受けてもらえたからといっても僕のしたことは良いことではない。

 元々戦士長という立場とはいえ、国の代表である彼に戦いを申し込んでしまったのだ。


「それでも……」


 やる価値はそれこそ十分以上だ。

 多分だけど、ハイドさんは、ミアラークのレオナさんのように力技では容易に超えられない、技術に重きを置いた戦いをするだろう。

 だけど、それで構わない。

 勝ち負けの問題なんかじゃなく、ここで何を得られるかが僕にとって重要なんだ。


「さてと、本来なら訓練場の武具を使うべきなのだろうが……」


 誰も利用していない場所に移動するが、ハイドさんの手には訓練場で貸し出している円盾しかない。

 武器は使わないのだろうか? と、疑問に思っていると彼は黄土色の魔力を纏い、右足を振り上げ力強く地面へと叩きつけた。

 突然の行動に驚くのも束の間、ハイドさんの目の前の地面から柄のようなものが飛び出してきた。


「えぇ!?」

「よっこらせ、っと」


 ハイドさんが自身の前に飛び出してきた柄を地面から引き抜いた。

 すると柄の先端が刃に変わり、槍のような形状へと変化した。


「なに、ただの特殊な土系統の魔法だよ。魔力を地面に打ち込み、形状と強度をある程度自由に操ることのできる地味な魔法さ。あ、もちろん刃引きはしているぞ」


 れ、レオナさんと同じように魔法で武器を作っているのか……。

 もしかして、レオナさんやハイドさんのような実力者は、魔法の形状を変えて戦いに用いることが基本なのだろうか?

 手に持った槍の調子を確かめるように握りなおしたハイドさんは、未だに驚いている僕に笑いかけた。


「君が望んでいるのは、あらゆる武器に精通している俺との戦いなんだろう? なら、俺の魔法を使った方がいいだろうと思ってな」

「僕のためにそこまで……」

「国が違おうが、どんな系統魔法を持っているかだなんて関係ないさ。確かな意思を持ち、強さを求める者がいるなら、いつだって道を示す。それが、指導者という立場にいる俺の役目だ」


 そう言ってハイドさんは盾を構えた。


「こちらの準備は既にできているが、君の方はどうだ?」

「僕も、いつでも始められます」


 籠手を展開し、いつものように構えを取る。

 魔力消費の多い治癒加速拳は多用できない。それなら、僕の戦い方を少し前のものへ戻せばいい。

 右の掌の中に治癒魔法弾を作りながら、ハイドさんの動きに注意していると、彼が槍を持った右手を大きく振りかぶっている姿が視界に映り込む。


「ぬん!」

「ッ!?」


 槍をぶん投げてきた!?

 突然の攻撃に面食らうも体を傾けて回避すると、今度は盾を構えて突っ込んできた。

 掌に作った治癒魔法弾を打ち消し、左腕を突き出してハイドさんの突進を受け止める。

 決して少なくない衝撃が通るが、それでも攻撃自体は防いだ。

 こっから治癒パンチに――、


「やはり、身体能力では劣るか! なら、これはどうだ!」


 ハイドさんは盾を押し込みながらも、だんッ! と足を踏み鳴らし、地面から飛び出してきた柄を掴み取り、それを下から振り上げてくる。

 かろうじて避けるが、現れた武器を見て肝を冷やす。


「斧か……!」


 盾で隠されて見えなかった!

 ほぼ隙のない武器作成! まだ本領を発揮していない状態にも拘らず、戦法が変則的すぎる!


「足元への注意が疎かだぞ」

「ッ、しま――」


 斧に気を取られた瞬間、ハイドさんの放った蹴りが僕の足に直撃する。

 その隙を突かれ、胴体に盾を叩きつけられた僕は、そのまま持ち上げられた上に勢いをつけて投げ飛ばされてしまう。


「なんのォ!」


 空中で体勢を整え、治癒飛拳を放つ。

 まさか投げ飛ばされながら攻撃してくるとは思わなかったのか、ハイドさんは驚きながら盾を構える。

 盾に治癒飛拳が直撃し、甲高い金属音が響く。


「ハハッ、強烈だな……!」


 治癒飛拳を初見で見切られた……!?

 平静を保とうと努めつつ、着地と同時にハイドさんへ接近を試みる。

 そんな僕に対して彼は、円盾を地面へ放り投げ、魔法で剣を新たに作り出した。


「さあ、来い!」

「はい!」


 斧と剣での二刀流。

 アンバランスに思えるが、単純に手数が二倍になったというだけで厄介極まりない。


「下手に打ち合わずに懐へ飛び込む……!」


 治癒加速拳を一度だけ発動させ、一気に加速した僕はハイドさんの左手の剣を籠手で弾いた後に、治癒魔法を纏わせた左手の掌底を叩き込む。


「ハァッ!」


 掌底は直撃する寸前に斧の柄で防がれてしまうが、それでも僕は力任せにハイドさんの体ごと押し出す。

 衝撃でハイドさんの持っていた剣が手から放れ、僕の目の前の地面に突き刺さる。


「……!」


 軽く後退した彼に微かな手ごたえを抱く。

 掌底だが幾分か威力は通ったはずだ。なら、今のうちに追撃を――、


「君と手合わせし、分かったことがある」

「……っ」

「確かに、君は若き勇者と肩を並べても遜色のない実力を持っている」


 俯いたまま、ハイドさんは罅の入った斧を捨てる。

 無手になった彼は、膝立ちの状態からゆっくり立ち上がり、険しい表情を浮かべる。


「だがな、君は良くも悪くも戦う相手にしか目がいっていない。今もそうだ」


 彼がそう口にした瞬間、先ほど僕の前に突き刺さった剣から微量な魔力が発せられていることに気付いた。

 気付いた時には遅く、僕の腹部目掛け地面から円柱のようなものが凄まじい勢いでせりあがってきた。

 ッ、剣に込めた魔力で地面を操作した!? そんなことができるのか!?


「……ッ!」


 不意を打たれた僕は回避を諦め、籠手を防御に回す。

 衝撃に備え腹に力をいれると、直撃する寸前で円柱は停止してしまった。


「……止まった?」


 いや、ハイドさんが止めてくれたのか……。

 完全に意識の外の攻撃だった。

 土系統の魔法を持つなら想定はできたはず……でも、それができなかったのはハイドさんの言葉通り、彼の動きにだけ集中し、周りを見ていなかったからだ。

 ひたすらに反省しながら落ち込んでいると、大股でこちらへ歩み寄ってきたハイドさんが大きく息を吸った後に話しかけてくる。


「ウサト! 君は強い! 物凄く強い!」

「え? あ、ありがとうございます!」


 思わずこちらも大声でお礼を言ってしまう。

 僕の返事にハイドさんは満足そうに頷いた。


「だが、圧倒的に魔法使いとの対人経験が少ない。いや、君の場合は対人の経験はあるが、その相手が極端すぎたというべきか?」

「……」


 そうかもしれない。

 思い返してみれば、僕の戦った人たちのほとんどが特殊な戦い方をしていた気がする。

 暴走状態のカロンさんとか、腕力と膨大な魔力量に任せていただけで、技術とか関係なかったし。


「魔法使いには先ほどのように遠隔で発動させることを得意とする者や、離れた場所からの搦め手を得意とする者もいる。恐らく、今の君はそれらを相手にする時、必ず後手に回らざるを得ないだろう」

「……はい」

「視野を広く持て。君に足りないものの一つがそれだ。君は相手の動きに注意を向けすぎて、それ以外が疎かになっている。先ほどの手合わせも武器に気をとられたせいで足元への注意が散漫になっていたり、後退させた俺に意識が向き、魔力を仕込んだ剣に気付けなかった」


 ハイドさんの言葉に、僕はコーガとの戦いで負った怪我のことを思い出した。

 肩と腹と足、三か所を同時に貫かれた攻撃。

 あの攻撃も僕がコーガの動きに気を取られすぎて、受けたものだった。 


「と、まあ、偉そうに語ったのはいいが。俺もあっさりと一撃をもらってしまったわけだからなぁ。カッコ悪いったらありゃしない」

『戦士長ぉー! 十代の子供相手に不意打ちかましてる時点で大分カッコ悪いですよー!』

「うっさいわ! そんなこと、俺が一番よく分かってるわ!」


 僕達の手合わせを見ていたのか、野次を飛ばしてきたヘレナさんに、ややキレ気味のハイドさんが叫び返した。

 ハイドさんは一撃をもらったというけど、しっかりと防御されていたし、あんなの一撃とは言わないだろう。

 むしろ本気を出したハイドさんが、どれほどの強さか気になった。

 多種多様の武器を使いこなした上で、さらに土系統による地形を利用した戦い方ができると考えると、かなり強そうだ。


「さて、と。まだ時間はあるようだが、続けるか?」

「もちろんです」


 盾を拾い、土からハルバードを作り出したハイドさんの言葉に強く頷く。

 今まで見えなかったもの、自分に足りなかったものが見つかってくる。

 最初は色々と不安もあったけれど、この会談へ来てよかったと心の底からそう思うのであった。




ハイドは土系統の魔法を扱う人でした。

よくよく考えると相手の足場崩したり、拘束もできたりと色々と応用のできる便利な魔法なんですよね。


※この度、ホラーに挑戦してみようと思い、小説家になろう主催の『夏のホラー2018』に参加してみました。

作品は既に投稿済みです。


ホラー短編

作品名『水の底で安らぎを』


久しぶりのホラー作品なので、怖いかどうかは自分には分かりません(笑)

作者マイページから作品の方へいけると思うので、気になった方はどうぞー。


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