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第百六十六話

更新が遅れてしまい申し訳ありません。

第百六十六話です。

 ニルヴァルナ王国戦士団、戦士長のハイドさん。

 王国の代表が大事な会議のある早朝から、あんなハードな訓練をしているなんて分かるはずないじゃないか! 会談で会おうっていうから、代表の護衛の方かなぁって思いこんでたけど全然違っていた。

 唖然として声も出ない僕に、悪戯の成功した子供のように爽やかに笑っているハイドさん。

 そんな彼に、部下と思わしき橙色の髪をポニーテイルにした小柄な女性が話しかけていた。


「戦士長、彼と知り合いなんですか?」

「ああ、朝に体を動かしていた時にな。日の出から結構なペースで延々と走っている少年がいたから、声をかけてみたんだよ。いやぁ、最初は噂の治癒魔法使いだとは思わなかったよ」


 僕もまさかニルヴァルナ王国の代表とは思わなかったです。

 そして身内から「朝から何やっているんだこの人……」的な視線が突き刺さる。

 ハイドさんの言葉に小柄な女性が、驚愕の表情を浮かべた。


「はぁ!? 会談があるのに、いつも通りの訓練していたんですか!?」

「はっはっは!」

「笑って誤魔化さないでくださいよ! 今日は本当に大事な会談だって言ったじゃないですか!」

「皆まで言うな、ヘレナ。俺とて今日行われる会談が大陸に住む人々の未来を左右する重大なものだというのは知っている。お前もそう言いたいのだろう?」

「わ、分かってるじゃないですか……」


 冷静にそう答える彼を前に勢いを失うヘレナと呼ばれた女性。

 そんな彼女を見、腕を組んだ、ハイドさんはうんうんと頷いた。


「会談を行うならば多少の覚悟も必要だ。だから、朝のうちに体を温めておいたというわけだ」

「今明らかに話の流れがおかしかったですよね。なんでいきなり体を温める話になるんですか? 貴方の中での会談とは戦いにいくことなんですか?」


 快活に笑うハイドさんに、ヘレナと呼ばれた女性は頭を抱える。

 苦労人なんだなぁ、と他人事のようにそのやり取りを眺めていると、ハイドさんの視線がこちらへ向いた。


「カズキ、君の言った通り、彼ともう一人の勇者は、君と同じく確固とした強さを持っているな」

「だってさ、二人とも」

「あ、ああ」

「なんだか照れるね。ウサト君」


 カズキの言葉に曖昧に頷く僕に対して、素直に喜んでいる先輩。


「二人の勇者はいわずもがな、ウサトは身体能力に限っては俺以上だ。全く、共に戦う味方としては心強いことこの上ないな」

「いえ、僕もまだまだ経験不足ですから……」


 しかし、身体能力で勝っていたとしても、この人より強いというわけじゃない。

 朝の訓練風景から、この人は力ではなく技量で戦う人だと直感した。つまり、レオナさんと同じ、魔法と武器を巧みに操り、戦闘を優利に進めるタイプだ。

 最も厄介な点は、あらゆる武器に通じている為、初見の攻撃でも対応できるということだ。

 褒められたことに舞い上がらず、冷静に考えていると、ヘレナさんが信じられないといった表情でこちらを見ていることに気付く。


「え、そこまで凄いんですか? 見た目は普通に見えるんですけど……」

「見た目も普通じゃないぞ? 見ろ、やばいだろ。特に腕と足の筋肉が尋常じゃない。さすがは救命団のローズが考案した治癒魔法を用いた訓練術。最早、人の域を超越していると言っても過言ではない」


 ハイドさんは僕の腕と足を見てそんなことを言った。

 何かしらの魔眼でも持っているのだろうか?

 地味に気になっていると、ヘレナさんが首を傾げながら彼に質問をする。


「毎回思うんですけど、なんで魔眼でもないのに他人の筋肉構造を把握できるんですか?」

「お前も俺の部下なら、おのずと見えるようになる」

「い、嫌だなぁ」


 って、魔眼じゃないのかい!?

 何て特技だ。いや、ちょっと欲しくもあるけども。


「……時間が迫ってきているな。俺達は先に向かうよ。リングル王国の代表諸君、会談の席で会おう。お前達、行くぞ」

「了解です……はぁ」


 爽やかに笑い、マントを翻し会談の会場へ歩いていくハイドさんと、そんな彼の背中を見てため息を吐いてついていくヘレナさん。

 嵐のように去っていったニルヴァルナ王国の代表に、暫しの間呆然とした僕達だったけど、そんな中何かを思いついた先輩がポンッ、と手を叩いた。


「筋肉を見る目……つまりマッスルアイということだね? ウサト君」

「ウェルシーさん、カズキ、僕達も行きましょうか」

「あれれ?」


 すっとんきょうなことを呟いている先輩をスルーする。

 怒涛の展開に少し疲れた気分になりながら、僕達は会談の行われる会場へ足を踏み入れるのだった。



 会談の場は、講堂に似た広い空間だった。

 広い屋内の中に設置された円卓に似たテーブルと椅子。どう見ても大掛かりな広間の様相に委縮しつつも、僕達はウェルシーさんに促された席に腰を下ろした。

 その後諸々の確認を行っていたシグルスさんが到着し、僕達リングル王国の代表のメンバーは全員集合した。

 僕達で最後だったようで、用意された席には他の王国の代表の方々が既に着いている。

 サマリアール王国のルーカス様と、彼の背後に控えている護衛と思われる二人の空色の騎士。

 カームへリオ王国のナイア王女とカイル王子、それと四人の護衛の騎士。

 ニルヴァルナ王国の戦士団戦士長のハイドさんと、部下のヘレナさんを含めた二人の戦士。

 この大図書館の前には、リングル王国を含めた四王国が連れてきた護衛が集っていた。それぞれの国の精鋭がここに集まっていると考えると……なんというか、少しだけワクワクとしてしまう。


「各王国の代表の皆様が揃いましたので、会談を始めさせていただきます。僭越ながら、私、リングル王国専属の魔導士、ウェルシーが会談の進行を務めさせていただきます」


 資料を手に持って立ち上がったウェルシーさんに視線が集まる。

 こういうことに慣れているのか、緊張を感じさせない振る舞いで進行を進める。


「今回は顔合わせという名目もありますので、まずは各王国の代表による自己紹介からお願いします」

「では、最初に僕からでも構わないかな?」


 ウェルシーさんがそう言うと、真っ先に手を挙げたのはルーカス様であった。

 この会談にいる面々の視線が一斉に彼へと集まるが、それでも余裕の表情を浮かべている。


「僕の存在が一番疑問に思われているだろうからね」


 ルーカス様は僕達全員を見回してから口を開いた。


「サマリアール王国を治めている、ルーカス・ウルド・サマリアールだ。諸事情あって騎士長フェグニスがその任を解かれることになってね。彼の代わりを務める者がまだ見つかっていないから、この僕自らが会談に参加することになった。事前連絡もなしに王である僕がこの場に出席することになってしまったが、志は君達と同じつもりだ」


 では、よろしく頼むよ。と、言いそのまま席に座るルーカス様。

 暫しの沈黙の後、今度はカームへリオ王国のナイア王女が立ち上がる。


「カームへリオ王国第一王女、ナイア・ラーク・カームへリオと申します。父に代わり、代表としてこの場に立たせていただいております。上に立つ者として未熟なことは自覚しておりますが、魔王軍という強大な勢力と戦うため少しでも力になりたいと思い、今この場に立っています」


 少しばかり緊張した面持ちで喋り終えたナイア王女が、安堵の表情と共に座ったが、隣にいるカイル王子が勢いよく立ち上がったことで、その表情は強張ったものへと変わる。


「カームへリオ王国第一王子、カイル・ラーク・カームへリオだ。諸君、俺は無駄なことは嫌いだ。よって、物事は単純かつ明確で分かりやあふん!?」


 !? 突然、カイル王子が変な叫び声を上げて飛び上がったぞ!?

 何事かと思い、様子を見守っていると脇腹を押さえて悶えているカイル王子の首根っこを掴んで無理やり元の席に座らせたナイア王女が、若干慌てながら頭を下げた。


「不肖の弟が申し訳ありません……! 立場上、出席させていますが置物とでも認識していただいて構いません……!」

「あ、あねうえぇ……!」

「黙りなさい。どうしてこの方々を前にして“諸君”などと言えるのですか。貴方はどれだけ私に恥をかかせれば気が済むんですか?」


 カイル王子は、なんでここにいるのだろうか? ……いや、それを言うなら立場的に一番低いであろう僕も同じことを言えるのだけど。

 やっぱり、彼は王子として立ち会わなければならなかったのかな?


「はっはっは!」


 若干緩んだ空気の中、円卓の一角から快活な笑い声が聞こえてくる。

 そちらを見やれば、背後で慌てているヘレナさんを他所に、ハイドさんが腕を組んで笑っている姿が視界に映り込む。


「カームへリオ王国の王子殿は度胸のある御人だ。うんうん、やはり若いというのはこれくらい向こう見ずでなければな」


 そう言って、立ち上がったハイドさんは、円卓に座る面々を見回しながらよく通る声で自己紹介を始めた。


「ニルヴァルナ王国戦士団、戦士長のハイドだ。王、王女、王子と続いて些か場違いな気もしなくもないが一国の代表として貴君らと語り合いたいと思っている」


 明るい声色でそう宣言したハイドさんが席に座ったことで、三王国の紹介が終わり、最後に僕達、リングル王国の番となる。

 緊張しないように小さく深呼吸をしていると、シグルスさんが立ち上がり紹介を始めた。


「リングル王国騎士団、騎士団長のシグルスだ。此度の急な会談の召集に応じてくれたこと、リングル王国騎士団を代表して感謝の意を述べたい。この会談が終わりを迎えた時、共に戦う同志として肩を並べられることと期待している」


 ……どうしよう、自己紹介なら大丈夫だけど今になって、僕がコーガと戦ったことを長々と話さなければいけないことが、凄く不安になってきた。

 実のところ、先程からなにかを忘れている気がするんだ。

 とても重要な、忘れてはいけないことをド忘れしている。忘れ物はしていないはずだと断言できるのだけど、胸の奥底で妙な焦燥感が僕の心を苛んでいく。

 もしかして団服を着忘れて……ない。

 籠手に変形する腕輪を外して……ある。

 ローズの物真似はして……いる。

 なんだ? この期に及んで僕は何を気にしているんだ?

 忘れ物がないように、あれだけ散々確認したんだ。うっかりなんて起こるはずがない。


「ウサト君?」

「はい?」

「もう私とカズキ君は終わったから、最後にウサト君だよ」

「えっ」


 考えに没頭していたのか、先輩に肩を叩かれ我に返る。

 気づけば、いつのまにか先輩とカズキの自己紹介が終わり、僕へ会談にいる面々の視線が集中していた。

 ルーカス様は「おいおい、どうしたウサト」と言いたげに苦笑し、ナイア王女、ハイドさんは興味深々といった視線をこちらへ向け、カイル王子は昨日と同じように僕を悔しがるように睨みつけている。

 そんなある意味で混沌とした状況の中で、慌てて立ち上がった僕は、背筋を伸ばしてから改めて考えていた言葉を、できるだけ大きな声で発する。


「リングル王国救命団副団長、ウサト・ケンです。先日、副団長と認められたばかりの若輩者ですが、今日はよろしくお願いします」


 とりあえず問題はなかったはずだ。

 我ながら、当たり障りのない普通すぎる挨拶に辟易とする。それでも顔に出ないようにひたすらに安堵しながらも席に座り、呼吸を整える。

 すると、隣にいる先輩が小声で話しかけてきた。


「ウサト君、緊張した?」

「ええ、何度経験しても慣れませんよ……」

「でもさ、ウサト君はこの後が大変だね」

「そうなんですよね……」


 僕が魔王軍、第二軍団長、コーガと戦闘したことをこの面々の前で説明しなければならないからなぁ。

 正直、ウェルシーさんやシグルスさんに簡潔にしてもらった方が、僕としてはよかったのだけど、ナイア王女とハイドさんの希望で僕自身が説明しなければならなくなった。

 話せない訳じゃないけれど、大変だなぁ。

 ん? コーガとの戦闘を説明……?


「……待てよ」


 今回の会談で僕は、コーガとの戦闘をここにいる全員に話さなければならないんだよな?

 つまり、コーガとどう戦ったのか、どうやって彼を倒したかも説明しなければならない。

 それってさ……つまり、物理的な威力を伴った治癒魔法禁断の奥義、『治癒連撃拳』の説明を、この大勢の前でしなければいけないことなんじゃないか……?

 会談は始まってしまっているので、もう引き返せない。


「ど、どうしよう……」


 今更その事実に気付いてしまった僕は、顔を真っ青にさせるしかなかった。

会談のことで頭がいっぱいで気づけなかったウサトでした。

実際、コーガの倒し方を傍から聞いたら「?」てなりますよね……。


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