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第百六十五話

文明の利器ってすごい(Twitterで更新予告しながら)


お待たせしました。

第百六十五話です。

 ルーカス様とエヴァとの再会を果たした後、宿にいるカズキと合流した僕達は、ウェルシーさんとシグルスさんが戻ってくるまでの間、明日に備えて休息をとった。

 旅の経験もあり体力的には疲れてはいなかったけれど、ちょっと精神的には疲れていた。なにせ、今日1日でカームへリオのカイル王子とナイア王女、ルーカス様にエヴァというあまりにも濃い人たちと立て続けに会ってしまったのだ。僕としても少し情報を整理する時間が必要だった。

 しかし、自室で自分の考えをまとめていると、「ウサトくーん、遊びにきたよー!」というまるで同級生の友達の部屋に突撃する男子高校生みたいなノリで、先輩が僕の部屋に侵入してきやがったのだ。

 どこにいても変わらない先輩に呆れはしたけれど、僕も大事な会談を目の前にして緊張しすぎていたかもしれないと自覚して、カズキも呼ばないかと提案した。

 そんな感じで、一つの部屋に集まった僕達三人は、日が暮れてウェルシーさんとシグルスさん達が宿へ到着するまで、他愛のない話に花を咲かせていたのだった。


「では、皆様。明日行われる会談の詳しい内容についてご説明します」


 そして今、ちょっと慣れない豪勢な夕食の後、あらかじめ用意された椅子とテーブルが並ぶ部屋に集められた僕と先輩とカズキ、そしてウェルシーさんは明日の会談についての予定を説明してくれていた。


「今日で、カームへリオ王国、ニルヴァルナ王国、サマリアール王国、そして私達リングル王国の代表が揃いました。全ての参加国が揃ったことで明日、会談が行われることが決定しました」


 幾分かほぐれたとはいえ、やはり重大な会談が行われると聞くとまだ緊張してしまう。


「前にお話ししましたが、この会談は皆様と各代表たちの顔合わせという名目もありますので、その肩書に相応しい振舞いを心がけるようお願いします」

「ああ、分かってるよ。な、ウサト」

「ええ、勿論。明日の会談では団長モードでいきますよ」


 カズキの言葉に同意した僕は、眉間に力を入れて不機嫌マシマシといった雰囲気のまま笑みを浮かべる。するとウェルシーさんが引き攣った笑みを浮かべて、こくこくと頷いた。

 そんな彼女に先輩が質問をする。


「会談の長さはどれくらいになるかな?」

「会談がいつ終わるかは、その内容によります。……恐らく一日では終わらないでしょう。各王国が魔王軍と戦う際に加勢する援軍の人数。それにより予想される負担、損害など、細かく話し合い決定していかなければなりませんので」

「なるほど、確かに助けを求めるだけで終わり、とはいかないだろうしね。私達は魔王軍との戦いの後についても考えなくてはならないということか」


 そう呟いて思案している先輩に、失礼だがちょっと意外だ、と思ってしまった。


「あ、今の先輩ちょっと生徒会長っぽいですね」

「元の世界でも生徒会長だったよ……?」

「今となっては完全な死に設定と化してますよね」

「なぁ!? わ、私だって本気を出せばバリバリ生徒会長設定を生かせるよ!」


 猫を被っていたとはいえ、実際クールビューティな生徒会長で通っていたのは確かだ。

 今となってはクールビューティ(笑)で、コミカルな感情豊かで楽しい先輩ではあるけども。


「は、話を続けます。それで……今日突然決まったことなのですが、ウサト様」

「はい?」

「会談の最中に、魔王軍の軍団長と単独での戦闘経験のある貴方様に、戦った当時の状況について説明してもらいたいそうなのです」

「……え?」


 各国が代表する会談の中で、僕がコーガと戦った時の状況を説明する?

 それはあまり大勢の人の前で話すことに慣れていない僕にとっては、とてつもなく難易度の高いものであった。

 それこそ生徒会長であった先輩におあつらえ向きだろう。


「説明は私どもがすると申し出たのですが、ニルヴァルナ王国とカームへリオ王国の代表のお二方が、どうしてもウサト様の口から聞きたいと希望していたので……申し訳ありません」

「あ、謝らないでください! でも、僕はヒノモト……獣人の国での出来事については話せないのですが……」


 ヒノモトで起こった内乱騒ぎは、下手をすれば人間の領域にまで影響を与える大事件になりかねないものだったからだ。それを獣人のことを深く知らない人どころか、国を代表する人たちに知らせてしまったら、獣人に対する意識を過激なものへ変えてしまわないという保証はない。


「いえ、それについては獣人族に協力を仰ごうとした魔王軍の企みを阻止した、といった形で説明しております」

「それなら、大丈夫そうですね」


 嘘は言っていない。

 確かに魔王軍、コーガたちは協力を仰ぐために獣人族の族長であるジンヤさんとの交渉を行った。

 それを阻止するために、そしてアマコを助けるために僕達が動いた末にコーガと戦うことになったという流れだけども……。過程こそ複雑だが、結果的には事実だ。


「ウサト様が説明するのは軍団長との戦いへ至るものではなく、その驚異的な戦闘力についてです。正直なところ、軍団長クラスの実力を持つ魔族との戦闘経験があるのはウサト様と騎士のアルクと……ローズ様のみです」


 ローズも? もしかして、右目を傷つけたという魔族、ネロ・アージェンスのことだろうか?

 ……いや、それは今気にすることではないか。


「ですが、治癒魔法使いの僕が説明なんてしていいのでしょうか? 他国では治癒魔法の認識は未だに改まっていないはずでは?」

「その心配はいりません。サマリアール、カームへリオの両王国も形こそ違えど貴方様を認めております。そしてニルヴァルナ王国は……恐らく、大丈夫だと思います」

「え、どうしてですか?」


 ニルヴァルナ王国の言い方だけ、ちょっと違和感がある気が……。


「ニルヴァルナ王国の方は、なんといいますか……良い意味でも悪い意味でも腕力が物を言う方々なので、ウサト様なら大丈夫かなーって」

「……」


 すっごい笑顔で言われたんですけど。

 カズキも納得したようにうんうんと頷いているし、え、なに? ニルヴァルナ王国の代表の方って筋肉見ただけで戦闘力とか分かる人たちなの?

 それとも殴り合いをすれば認められる人達? それならやりやす……いや、違う! 違うぞ、僕! 見た目はローズになりきれても僕は普通の文明人なんだ! そんななんでも拳で決めつけるような野蛮さなどありはしない! 


「あ、でも安心してください。代表の方はとても明るい方でしたよ」

「は、はぁ……」


 安心していいのか分からない情報に曖昧な返事をしながらも、僕は明日の会談への不安を募らせるのだった。



 会談が行われる当日の早朝。

 太陽が出て間もない時間帯、僕は会談への緊張を紛らわすべく日課の訓練を行っていた。

 大事な会談を控えているため、いつもどおりの訓練、とは言えないけれど体を動かしていれば不安も緊張も忘れることができる。

 でも、少しだけ予想外だったのが、こんな朝早くから訓練場を利用している人が僕以外にいたからだ。


『フンッ! ヌゥン! オォラッ!』


 先ほどから訓練場の的を相手に鍛錬を行っている痩身の男が一人。

 右手には手斧、左手には鉄が大部分を占める円盾。傍目から見ても凄まじい速さで力強く武器を操っている男性は、相当な実力者に見えた。


「しかもさっき、棍棒と槍を使ってたよな……」


 何より目を引いたのは、扱っている武器によって戦い方が大きく変わっていることだ。

 僕以外に訓練してる人を気にしつつ訓練場を走っていると、ふと僕を呼ぶ声が聞こえた。


「おーい、そこの少年」

「ん?」


 疑問に思いながらも振り返ると、先程まで的を相手に斧を振り回していた精悍な顔つきの男性がこちらに手を振っているのが見えた。

 とりあえず、呼ばれているようなのでそちらに向かってみる。

 年齢にして三十代前半ほどの男性は僕よりも頭一つ分以上高く、遠くからでは痩身に見えた肉体も、よく見ればかなり鍛えられているようだった。

 短く切り添えられた髪に、頬に刻まれた切り傷が特徴的な男性に訝しみながら話しかける。


「どうしましたか?」

「俺と同じようにここで訓練をしているのが気になって、つい声をかけてしまったんだ。君はルクヴィスの学生かな?」

「いえ。僕はリングル王国から来た者です」

「ほう、リングル王国から……」


 顎に手を添えて、思案気な表情を浮かべる男性。

 僕としても目の前の男性が何者か気になるけれど……他の王国の騎士だろうか? まさか僕みたいに大事な会談前に体を疲れさせるようなことをするとは思えないし。


「まあ、今はそれは良いか……。俺の名はハイド、ニルヴァルナ王国からやってきたんだ」

「僕はウサト・ケンと申します」

「ウサト……? なるほど、彼が言っていたのは君だったか」

「はい?」

「ああ、いや気にしなくてもいい。それより……ふーむ、少し失礼」

「うぉ!?」


 両肩と腕を平手で軽く叩かれる。

 有無を言わせぬ威圧感に少しばかり戸惑うが、すぐに手を引いたハイドさんはニカッ、と満面の笑みを浮かべる。


「君とは仲良くできそうだな!」

「え? あ、はい」


 謎の筋肉理解をされてしまったのだけど、なんだろうか。

 今まで僕が会っていそうで会っていなかった性格だ。ニルヴァルナ王国の方って聞いたけど、本当にカズキとウェルシーさんの言う通りなのか……。

 ハイドさんの背後を見れば、彼が先ほどまで扱っていた武器が一纏めにされている。確認できるだけで、棍棒、槍、ハルバード、剣、手斧などかなりの種類があるように見える。


「こんなにたくさんの武器を扱えるんですか?」

「扱える数は多いが、練度の低いものは一流には程遠いよ。しかし、俺達の戦いは、時には相手の武器を奪うことも想定している。ある程度の武器の扱い方を自分の体に覚えさせておけば、敵の攻撃を予測したり、奪った武器を即座に自分のものとして扱うことができるってわけさ」

「なるほど……」


 考えたこともなかったな。

 武器の扱い方を知れば、相手がその武器を使っている時の対処法が分かるなんて。


「ま、俺が主に扱うのは斧と盾なんだけどな。剣と違って花形ではないが、斧も良いところはある。語ってもいいかな?」

「え、ええ、構いませんよ」


 そんな目を輝かせながら「語ってもいいかな?」なんて言われたら頷くほかないのですが。

 満足そうに頷いたハイドさんは、僕から離れ地面に置いていた手斧と円盾を拾い、軽く素振りをする。


「強く、重く、それでいて刃こぼれもあまり関係ない。継続戦闘においては、剣よりも優れている」

「ええ、確かに斧は、一撃一撃が重く、使い手の力が合わされれば真正面から相手の防御ごと叩き潰すことができますからね……。むしろ刃こぼれしていく方が、恐ろしいとさえ思えます」

「うんうん、分かる」


 分かるらしい。

 カロンさんのことを思い出して正直に言ってみたけど、反応が返ってきてすごく嬉しそうだ。


「しかしだ、熟練の斧使いが武器にするのは威力じゃない。相手を引っかけることなんだ」

「引っかける?」

「この部分がそうだ」


 ハイドさんが短く持った斧の鎌状になっている部分を指さす。


「この鎌状になっている返しで相手を引っかけることによって、武器の奪取、動きの阻害、止めを刺しにいくことができる。こうやって——」


 的の肩にあたる部分に、斧の柄の部分を叩きつけ、そのまま“返し”を引っかけたハイドさんは、そのまま力任せに的を引き寄せて、強く握った円盾の縁の部分で殴りつけた。

 凄まじい一撃に、的はひしゃげて真っ二つになった。


「——次の攻撃の布石にすることができる。刃の部分を避けただけでは、躱したとは言えない。肩に当たれば体勢が崩せる、手首に当たれば武器を落とせる、膝に当たれば転倒させることもできる、首なんてもっての外だ。だから、熟練の斧使いを相手にするときは、刃を避けるだけではなく、その後の対策も必要なんだ」

「……今まで考えもしませんでした」

「力任せに振るっているうちは脅威じゃない。本当の使い手というものは威力よりも確実に相手の戦闘力を奪うことに主眼を置いているんだ」


 いつの間にか、ハイドさんの言葉に聞き入っている自分がいる。

 僕が武器を使うことはないけれど、その対策などはかなり有用なものだ。魔王軍の兵士の中には斧を使う人たちもいたから、かなり参考になる。

 真面目に聞いている僕を見て、盾と斧を地面に下ろしたハイドさんは快活な笑い声をあげた。


「ハッハッハ! こんなに教え甲斐のある若者は久しぶりだ。近頃の新人は皆、自分が扱う武器以外を知ろうともしないからな、全く……ただでさえ実戦は相手の系統が分からない状態で戦わねばならないのに……あいつらは初見の武器を相手にする時、その場しのぎで戦うつもりなのか……?」

「あの、ハイドさん?」

「ん!? ああ、すまない」


 なんだろう、この人はニルヴァルナ王国で教官かなにかをやっている人なのだろうか?

 説明も僕にも理解できるくらいに分かりやすかったし、何より他国の人っていう距離感を感じさせない接しやすい性格でもあるし。


「ふむ、そろそろ時間か」


 やや斜めに上がった太陽を見て、ハイドさんがそう呟く。


「訓練の邪魔してすまないな、ウサト」

「いえ、僕としても有意義な時間でしたので」

「そう言ってもらえて嬉しいな。俺はそろそろ行くが、君はどうする?」

「僕もそろそろ宿へ戻ります」


 僕の言葉に頷いたハイドさんは、訓練場の出口に足を向けてそのまま歩き出す——、がその途中でこちらへ振り返り、手を振った。


「それでは会談の場で会おう、若き治癒魔法使いよ!」

「!」


 快活に笑いながら訓練場から出ていくハイドさん。

 最後の言葉からして、僕のことを知っていた? まさか名前だけで僕が治癒魔法使いだって分かったのか?

 ハイドさんの言葉を不思議に思いながらも、僕はかいた汗を流すべく水のある宿へと一旦戻るのだった。



 朝の訓練中にハイドさんという不思議な人と出会った後、僕はしっかりと身なりを整え、会談が行われる大図書館へと向かった。

 ウェルシーさんの案内の元で、大図書館内を進みながら新しい衣装に身を包んだ先輩とカズキを見る。


「僕はいつもと変わらないですが、先輩とカズキの格好はちゃんとしていますね」


 救命団を象徴する団服の僕とは違い、先輩とカズキは白を基調とした服を身に着けている。

 背と右肩から伸びるマントに、装飾が施された軽装の鎧。そして動きやすさを重視させたブーツといった、まさしく“勇者”といった雰囲気全開の衣装だ。

 男性用と女性用の違いはあるようだけど、どちらもかっこいい。


「うんうん。それに全体的にウサト君の団服と色が近いから、統一感あるよね」

「でも、こんなに真っ白だと、かなり目立ちそうですよね……」


 マントに手を添えて苦笑するカズキ。

 確かに僕達三人が並んだら、かなり目立ちそうだな。

 そんなことを話していると、先導してくれているウェルシーさんが振り返る。


「皆様が並んでいると、とても絵になりますよ」

「そうですか?」

「ええ、本当です。もうすぐ会談が行われる講堂へ到着しますので、心の準備を」


 おっと、意外と入り口から近い場所にあるのか。

 大図書館っていうぐらいだから、階段とかを上らされると思っていたけど違うようだ。少し歩くと、ウェルシーさんの言う通り、講堂の入り口らしきものが見えてきた。

 それと同時に、そこで背を向ける形で立っている数人の男女が、こちらを伺うようにしているのが見えた。その姿を確認したカズキは、どこか懐かし気な笑顔を浮かべ、その者達へと駆け寄った。


「お久しぶりです! 戦士長!」

「ん? おお、カズキじゃないか! 元気だったか!」


 男性が二人に、女性が一人。

 カズキの声でこちらに振り返った男性の顔を見て、僕は絶句する。

 僕よりも圧倒的に高い身長に、いかにも精悍な顔つき。


「いやしかし、まだ細いままだな。肉を食え肉を」

「ははは、他の人より食べてるつもりなんですけどね。あ、それより以前お話した俺の友人達を紹介しますよ!」

「そうだな、俺もニルヴァルナの代表として挨拶をしなければな」


 そう言って、こちらを見やり僕に気付き、にやりと笑みを浮かべた彼は、まるで友人に対して挨拶するように片手を上げた。


「お、朝の訓練ぶりだな、ウサト。改めて、ニルヴァルナ王国戦士団、戦士長のハイドだ。今日はよろしく頼む」

『え?』


 先輩達だけではなく、あちら側のハイドさんの部下らしき人たちまでもが呆けた声を漏らす。

 ま、まさかそんなことがあるなんて、予想できるはずがない。

 なぜに僕は、リングル王国の誰よりも先にニルヴァルナ王国の代表に会っているのだろうか…?


訓練バカは引かれ合う……!


ニルヴァルナの爽やか筋肉、ハイドさんでした。

因みにですが、斧の用途・戦い方については、私のイメージで表現させていただきました。

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