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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第一章 召喚、リングル王国
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第十八話

 木々に囲まれた道の先から砂煙をあげ、走ってきた男達。

 清潔感のかけらもない衣服、その手には刃こぼれが目立つ西洋剣とナイフが握られている。

 数にして十五人ほどの集団が僕たちの前方十メートルほどの距離で立ち止まった。

 剣を構える守衛さんと、手を前にかざす黒ローブの人。緊張しているものの犬上先輩も腰に差した剣に手を掛ける。そんな中でニヤニヤと軽薄な笑みを浮かべている盗賊共に僕はどこか落ち着いていた。


「へへへっ、こんな所で獲物を見つけられるたァ、ツイてるなぁ!! なあ兄弟!!」

「「「へい、お頭!」」」


 リーダーと思われる、がっしりとした体形をしたスキンヘッドの男が、子分共にそう言い放つ。

 なんだろう、普通は恐ろしいと感じるはずなのに、全然怖くない。


「ふへへ。お前らぁ、怪我したくなかったら、金目のものを出しな」

「誰が渡すか!」

「いいのかいぃ? この数に勝てると思うのかよ、そうだったらお笑いもんだぜ」


 下品な高笑いを上げる盗賊共。

 僕の隣にいる犬上先輩が、僕の服の裾をゆっくりと引っ張ってくる。

 ……そうか犬上先輩も女の子。いきなり下品な笑い声を上げる男達が目の前にきたら怯えもするよな。


「ウサト君、ウサト君あれ、リアル盗賊!」

「先輩、マジ半端ないっすね」


 全然怖がってねぇ。やっぱり犬上先輩は犬上先輩だった。

 剣を構えている守衛の人と言い争いのようなものをしていた男は、僕と犬上先輩の方を見て、ニヤリと口角を歪める。


「くっくっくっ……後ろの奴も良いモン持っていそうじゃねえか。これじゃあ余計見逃すわけにもいかなくなっちまったぜ」

「貴様! 外道が……!」

「外道? ハハッ、そりゃあ俺たちにとって褒め言葉だ!! ………ん? 魔物がいるな……」


 男が僕の近くに居るブルリンを視界に捉える。数秒ほど見ていると、顔を青くさせうろたえる。

 何だろう? 人間がモンスターを連れている事がそんなにおかしいことなのだろうか。


「ぶ、ブルーグリズリーじゃねえか!! なんてものを連れてやがる!!」

「……? ブルリン、お前って実はすごい?」

「フンスッ」


 「勿論」とばかりに、鼻を鳴らすブルリン。

 普段の生活習慣を改善してからその態度を取って欲しかったよ。

 ブルリンから男の方に目を向けると、自分の子分に慰められている男の姿が視界に移り込む。


「お頭、あいつまだ子供ですよ! 俺たちでもやれますって!」

「そうですよッ!!」

「お前ら……そうだな。平原地帯を超えた俺たちに怖いもん何てねえ!! いくぞお前らァァァ!!」


 子分に慰められるお頭に威厳があるのだろうか。というより、この盗賊共は平原地帯を越えてきたのか? それで装備も服もボロボロなのかな。

 しかし僕たちも襲われる身、手加減する気も云われもない。剣とナイフを構え襲い掛かって来る盗賊共に、護衛の二人が迎撃態勢に入る。正直に言うと僕は戦えない、できることと言ったら人質にならないように逃げまわるだけだ。

 僕も治癒魔法を薄く纏い脚に力をいれ後方に下がろうとすると――、


「えいっ」


 軽い声と共に放たれた紫電が護衛の二人の間を縫って、子分の一人に直撃する。電撃を食らった子分の一人はその場でビクンっと震えながら地面に倒れる。

 僕の隣には、手を指鉄砲のように構えた犬上先輩。

 彼女の雷魔法か。こちらを振り返った守衛さんは、凛々しい笑みを浮かべながら犬上先輩を称賛する。


「流石です。スズネ様! へへ、これじゃあ私たちの出番はなさそうですね!」


 確かに守衛さんの出番はなさそうな威力だが、電撃が直撃した人は大丈夫なのだろうか。


「せ、先輩。殺してないですよね?」

「も、勿論だよ……多分」


 何でどもるんですか。怖いんですけど。

 先輩の一撃を目の当たりにした盗賊共は怖気づいたように足を止める。子分の一人が電撃を食らった人の生死を恐る恐る確かめている。


「い、生きてる……」


 安堵する先輩の声が聞こえる。

 しかし、これはいい牽制だ。この調子でどんどん先輩に電気を出してもらえれば楽に盗賊を片づけることが出来るな。

 そうと分かれば、どんどん先輩に電撃を撃ってもらおう。


「いけっ、犬上先輩、なぎ払え!」

「その言い方止めてくれないかな?」


 ―――と言いつつも、指先から連続で電撃を放つ犬上先輩。

 一人、また二人と子分が地面に沈んでゆく。正直に言って僕達がすることはない。勝手にこちらに突っ込んで勝手に電撃が直撃するのだ。

 電撃で、犯罪者を昏倒させる今の先輩はまさに―――


「人間スタンガンですね……いや、人間デンキウナギです」

「次それを言ったら、流石に私も怒るよ!?」


 次第に盗賊の数は三分の一ほど減り、残り五人となる。自分の子分たちが地面に倒れ伏す光景を見せつけられたお頭は、犬上先輩を指さしその体躯に見合うほどの大きさで叫ぶ。


「魔法使うのはズルイじゃねえか!!」


 ……そんな事を言われても逆に困る。

 そして何故、僕が盗賊を見ても思いのほか冷静でいられた理由も分かった気がする。こいつらは全然顔が怖くないからだ。ローズを10、トングを6とするなら、こいつらは2。怖くないのは当然だった。

 一人で納得する僕。後はお頭と残りの子分を沈めるだけだね。残りも犬上先輩に任せれば危険もなく済みそうだし――――


「ッ……また何か来る」

「何だとッ!?」


 黒ローブの人がまた何かを感じ取ったらしい。僕の眼には何も映らないが、確かに沢山の足音が聞こえてくる。普通の足音じゃない、飛び跳ねるような足音だ。

 黒ローブさんは敵の感知は出来るが、来る方向は分からないようなので、敵がどこから来るかもわからない。


「……来るぞッ」


 前方で戸惑った表情を浮かべているお頭が、右側方から飛び出してきた赤色の猪に吹き飛ばされたのを僕の眼が捉える。


「……ッウサト殿、スズネ殿ッフォールボアですッ離れてください!」

「何でここに、こいつらの生息地はもっと先のはずだ!」


 異常に発達した後ろ足に赤毛……あの猪はフォールボアか!?

 しかも一匹じゃない群れで来ている。護衛の二人は巧く回避しているようだけど、僕と犬上先輩の所に三匹が勢いよく茂みから飛び出してくる。

 僕は咄嗟にブルリンの名前を呼ぶ。


「ブルリン!」

「グオオオオオオオオオ!!」


 後ろ足で立ち、両腕を大きく開きフォールボアを威嚇するブルリン。しかし勢いのついたフォールボアは止まらない。一匹はブルリンが体を張って止めたが、二匹が僕と犬上先輩目掛けて突っこんでくる。

 僕は問題ない、頑丈なのは自覚している。でも先輩は違う、僕が守らなければ――――そう思い、犬上先輩を庇おうするが、気付けば犬上先輩は僕の前に立ち、掌を構え強烈な電撃を放つ。


「犬上先輩!?」

「ウサト君、危ないぞ!」


 放たれた電撃は、一匹のフォールボアに命中するが、もう一匹には躱されてしまう。再度電撃を放とうとする犬上先輩。

 僕の視界に発達した後ろ足を何倍にまで膨らませたフォールボアの姿が映りこんだ。


「まずっ」


 フォールボアの特徴は強力なジャンプ力を生む強靭な後ろ足にある。

 その溜めに溜めた後ろ足から繰り出される、突進は敵対者を空高くに打ち上げ落とす。犬上先輩の電撃は間に合わない。しかも、この猪は犬上先輩の方しか見てない。本能的な恐怖心からか、僕より彼女の方を危険と判断しているのか。

 僕は避けられるが犬上先輩は避けられない。

 当然だ。元の世界では普通の女子高生だったんだ。僕だってこいつの生態を知っていなかったら動くことすらできなかったはずだ。


「くっ」


 僕は咄嗟に犬上先輩の肩を掴みフォールボアに背を向けるように入れ替え、犬上先輩の盾になるように移動する。

 犬上先輩が避けられないなら僕が受けるしかない……! 僕なら多少の怪我なら治せる!

 数瞬して僕の背に強烈な衝撃――――僕は犬上先輩ごと上方に突き上げられる。


「ガハッ……ハッ」

「…………ぁ」


 運よくリュックサックに突進が直撃。それでも身体がバラバラになりそうな痛みを噛み締めながら、即座に治癒魔法を掛け、途切れかけた意識を保つ。犬上先輩は―――気絶している!?


「先ッ輩……ッ!!」


 地面に落下する犬上先輩を頭を守るように抱き、地面に落ちる。下に積もっている木の葉がクッションの役割を担い、衝撃を緩和する。しかし運悪く落ちた場所が急斜面。

 クソッ落ちた場所が悪い。急斜面をごろごろと転がる、勢いが強すぎて止まれない。リュックも背負う部分が千切れ飛び、地面に体を打ち付ける。


「があああああああああああっ」


 視界が暗転し宙に投げ出される。浮遊感の後に押し寄せてくるのは、強烈な流れ――――川に落ちたのだ。水の勢いが強すぎて、犬上先輩を抱えて岸へ上がれない。途方に暮れるように流れに身を任せていると、周りの景色が見覚えのあるものに変わってゆく。

 ――――――あれ、本当に見覚えがあるぞここらへん。

 そうだ、僕がローズに森に投げ込まれた日、グランドグリズリー共から逃れるために川に飛び込んだ所だ。

 つまりこの先には――――


「滝があるじゃん……」


 でも滝を超えれば、流れは緩やかになっているはず。

 一人ならまだしも、今は気を失った犬上先輩がいる……覚悟を決めるしかない。

 目の前に川の途切れが見える、滝だ……犬上先輩をしっかりと抱え、押し潰されそうな水圧と荒れ狂う流れに耐えながら、滝から落下するのだった。


『森』に逆戻り。


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