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第百五十七話

たくさんの感想ありがとうございます。

多くの感想が寄せられ、私自身楽しみながら拝読させていただいております。


お待たせしました。

第百五十七話です。

 思えば、僕が今まで戦ってきた相手は何かしらの突破口があった。

 邪龍は、数百年の封印で劣化した肉体。

 サマリアールの呪いは、ネアの魔術による攻撃。

 ミアラークの龍人カロンさんは籠手の防御と回避を組み合わせた体術。

 魔王軍第二軍団長コーガは、治癒連撃拳での防御貫通。

 絶対に勝てない相手なんて存在しない。

 なら、ローズにだって一泡吹かせられるはずだ。


「おぉッらぁ!」

「うぉぉぉ!?」

「ひゃあああ!?」


 力比べをしている状態からとんでもない力で振り回され投げ飛ばされた僕は、ネアの絶叫に顔を顰めながら、宙を舞っているこちらへ拳を振り下ろそうとしているローズを睨む。

 身動きの取れない空中じゃ、拳を避けることは不可能だけど、僕にはこの籠手がある!


「ッ、治癒破裂掌!」

「あ?」


 咄嗟に右方向に向けた籠手から治癒破裂掌を放ち、ギリギリ拳を避ける。

 危うくリアル空中コンボを食らうところだった……!


「あぐっ! このッ!」


 背中から地面に落ちたものの、地面を殴りつけた反動で飛び起きた僕は、後ろに下がりながら三発の治癒魔法弾を投げる。

 時間稼ぎ用の治癒魔法弾を前にしても、ローズは余裕を崩さない。


「ハッ、考えることは同じだな」


 ローズの右腕がブレた次の瞬間、彼女へ向かっていった治癒魔法弾が全てかき消された。

 僕と同じ治癒魔法の魔力弾で相殺してきた!?


「まさか、団長も治癒魔法弾を……!」

「驚くほどでもねぇだろ? 普通に放つより投げたほうが速いんだからな」

「……確かに!」

「それはアンタらだけだと思うぅ!」


 僕は単純に魔法を打ち出す才能がなかっただけだけど、今となっては投げた方が速い。

 というより、素で僕より速く打ち込めるとか、やばすぎる……!

 もう一度団長の右腕がブレた瞬間、魔力弾が凄まじい速さでこちらへ迫ってくる。それらを転がりながら回避し、ローズに攻撃を与えるべく走り出す。


「ネアァ! 左腕に集中して打撃への耐性を!」

「ええ!」


 籠手のつけられていない左腕に耐性の呪術の文様が覆われる。

 これで、両腕でローズの攻撃を防ぐことができる! 後は、どれだけ僕の攻撃が通るかだ!

 固く右拳を握りしめローズへ放つが、それはあっけなく叩き落される。


「同じことの繰り返しじゃ、何年たっても私に拳は届かないぞ」

「ッ!」


 お返しとばかりに肩を砕かんばかりの手刀が振り下ろされるが、それを耐性の呪術が込められた左腕で受け止める。

 左腕から魔術の文様が罅割れる音がするが、ネアが即座に魔術を修復する。


「! ……それが二つ目の魔術か」

「そう何度も同じ手を使う訳ないでしょう……!」

「むぐぐ、治した傍から壊れるとかどうなってんのぉ……?」


 攻撃を防げたが、これではネアが長くは保たない。

 このまま、攻勢に出るしかない!

 一気に懐に入るべく踏み込もうとするも、それを阻止するように横から叩きつけるような肘が飛んできたことで、無理やり左腕で防御させられる。


「おっも……!」


 問答無用で後退させられ、顔を上げた次の瞬間にはローズは僕の服の胸倉を押さえつけるように掴みとっていた。


「察するに、その魔術で受けられる攻撃には限界があるようだな」

「うぐ……!」


 駄目だ。初動の時点で僕が完全に負けている。

 攻撃をしようにもその前に潰され、防戦一方になるしかない。

 掴んだ襟を外そうにも、ローズの拘束はそう簡単に外れず苦悶の声を漏らすしかない。


「……少しばかり強めでやるぞ。耐えろ」

「ッ、ネア! 僕から離れろぉ!」

「え、ウサっ……」


 咄嗟の判断でネアを僕から引きはがした瞬間、突き飛ばすように襟を放したローズが遠心力の乗った横蹴りを僕へ叩き込んだ。

 かろうじて籠手で防御することができたが、ネアにかけられた耐性の呪術は一瞬で砕け散り、受け止めきれなかった衝撃は、僕の体を大きく吹っ飛ばした。


「……う、ぐぁッ!」


 視界が一瞬のうちに移り変わる。

 まっず……! このままじゃ訓練場の外の木々に激突する! この勢いで人間ピンボールなんて御免だ!

 体を苛む激痛に顔を顰めながら、右拳での裏拳を木に叩きつけ衝撃を相殺する。


「ぐ、おおおお!」


 訓練場の周囲に生える木々に激突しながらも、なんとか地面へ叩きつけられる。

 荒くなった呼吸を整えながら、治癒魔法を纏う。

 どこまでぶっ飛ばされた……? 木々に囲まれて訓練場がある方向が見えない。

 つーか、あの怪力怪獣、どんだけ凄まじい蹴りを叩き込んでくるんだよ……! 僕じゃなかったら大変なことになっていたぞ!?


「ゲホッ、ガハッ……ふぅ」


 呼吸をすることさえ苦しいけど、ちゃんと生きている。

 ネアの魔術と籠手のおかげで、大怪我はしていない。

 小さな怪我は、治癒魔法ですぐに癒える。

 心は依然として折れていない——まだ戦える。


「……あぁー、クソ、こうやってぶっ飛ばされるのは本当に久しぶりだ……」


 ローズにぶん殴られて回避を身に付ける訓練の一環で何度もぶっ飛ばされたけど、ちゃんと手加減してくれてたんだなぁ。

 そして今、全力でないにしても前以上に力で攻撃を仕掛けてくる。

 それって、それだけの力を使うくらいに僕が成長したってことだ。


「だけど、このままやられるがままってのは気に入らないなぁ……!」


 僕だって殴られっぱなしでいられる訳がないし、この程度で諦めるほど僕は潔い人間じゃない。

 やるからには、試せること全部やってやる……!


「僕のやることは変わらない……」


 いつだって僕は戦いの中で活路を見出していた。

 治癒魔法で全快近く回復し、立ち上がると訓練場のあるであろう方向から、何かが風切り音のようなものが聞こえてくる。


「なんだ?」


 正体不明の音に嫌な予感を抱く。

 木々の合間を縫うように頭上から降ってきた“ソレ”に思わず唖然とした。


「ッ、うおおおおお! 嘘だろォ!」


 根っこから引き抜かれた数本の樹木。

 あまりにも理不尽且つ、遠慮のない範囲攻撃に流石の僕も絶叫しながら拳を構えるのであった。



 ウサトの師匠であるローズさんがどれくらい強いのか、実は気になっていた。

 でも、流石にウサトに何もさせず、一方的に殴り飛ばすほどだとは思わなかった。

 あれが、私がこの王国で最初に頼ろうとした治癒魔法使い『救命団団長ローズ』。ウサトが最も信頼し、恐れている人。


「ね、ねぇアマコ。さっき人間を蹴ったとは思えないえぐい音が聞こえたんだけど……と、止めたほうがいいんじゃないの?」


 先ほど、ウサトがローズさんに蹴り飛ばされ林の中に消えていった光景を目にしたフラナは声を震わせて、林の中を指さした。


「大丈夫だと思う」

「いやいや! 今の聞いたでしょ!? ガバゴォって音が鳴ったんだよ! おおよそ人から鳴っていい打撃音じゃないから!」

「ちゃんと籠手で防いでたし、多分ウサトなら衝撃も和らげていると思うからそこまでダメージは負っていないはず」

「そういう問題じゃないでしょ!」


 私も目で追えたわけじゃないけれど、ウサトならそのくらいのことはできるのを知っている。


「あぁぁぁ、もう私の中の人間の定義が崩れそうだよぉ……。人間ってあんな動きできるの? スズネも変態的な動きしてたけど、ウサトとローズさんに至っては訳が分からない理不尽さがあるよぉ……」


 頭を抱えてぶつぶつとそう呟いているフラナに苦笑する。

 まあ、ウサトのことを知らない人なら誰でもこうなるだろう。……いや、正直隣にいるフラナが私以上に驚いているから、かえって冷静になれているだけだけど。


「そういえば、自分に幻影魔法をかけるのはやめたの?」

「自分でやってて空しくなったよ……。非現実的な幻影よりも、非現実的な光景を見せられちゃったから……」

「そ、そう」


 ウサトとローズさんが戦い始めた時、あまりに衝撃的な光景をみたフラナは自分が幻影を見せられていると勘違いして、自分に幻影魔法をかけてたけど……その結果は、あまり良くないものだったようだ。


「あのさ、アマコがあまり驚いてないのってウサトは同じようなことを何回もしてるってこと?」

「うん。いつも無茶ばっかりしてる」

「……心配にならないの?」


 勿論、心配になるに決まっている。

 だけど、それで止まるような人じゃないのは一緒に旅をしてきた私が一番理解している。


「ウサトのことを信じてるからね。それに、そう簡単に折れるような人じゃないし」

「……ははは、そうじゃなきゃ素の状態で私の幻影魔法をレジストできないよね」

「うん?」


 なんの話だろう? まあ、いいか。

 ウサトが何かしらやらかしたことを察して、視線をローズさんへ向ける。

 彼を尋常じゃない強さで蹴り飛ばしてから、ローズさんは訓練場の端の方でジッと林の奥を見つめている。


『そろそろか』


 そんなことを呟いたローズさんは、手近な木に両手を添え力任せに引き抜い……え?

 あまりにも常軌を逸した行動に、フラナだけではなく私も言葉を無くす。

 

“木を引っこ抜いて、砕いてぶん投げた”


 素手で丁度いい大きさにまで木を砕いたローズさんは、分断された丸太を片手で掴み無造作に放り投げた。

 ウサトの姿さえも確認できない林に投擲された木は数秒ほどしてウサトの悲鳴と、何かを鉄で弾いた甲高い音が聞こえてきた。

 信じられないけど、ウサトの位置を予測して投げているようだ。


「ねえ、アマコ。もう一度聞くけど、ウサト……大丈夫なの?」

「……駄目かもしれない」


 私は少し甘く見ていたのかもしれない。

 弟子は師匠に似る、とよく聞くけどローズさんも例外ではなかった。

 いや、むしろ彼女はウサト以上にとんでもない行動をする人だった。



「あの鬼畜悪魔、出鱈目にも程があるだろォ!」


 降り注ぐ丸太を拳で砕きながら、訓練場へ真っすぐ突き進む。

 おかげで休む暇もあったもんじゃない!


「っと」


 気を抜きかけると、丸太に直撃しかけるが咄嗟に治癒破裂掌を放出し加速した勢いで横に転がるように回転し回避する。

 とりあえず状況を把握するため、地面に膝をつきながらその場で呼吸を整える。


「はぁ……まさかここで治癒破裂掌が役に立つとはね」


 元より回避と防御、そして回復に用いることができる技だけど、こういう自分の動きだけでは間に合わない攻撃にも対応できるという点でかなり有用な技だ。

 だけどローズを前にして中途半端な回避を使ってもまるで意味がない。

 その場凌ぎで治癒破裂掌で攻撃を躱しても、凄まじい反応速度で追撃が叩き込まれてくるからだ。


「……魔力の、放出?」


 待てよ、これってうまく使えないか?

 魔力放出の加速を緊急回避に用いられるなら攻撃する際への加速にも使えるかもしれない。

 自分の周囲に強烈な勢いで丸太が落ちていく中で、思考に没頭する。

 一つ、可能性が見つかれば、後は手繰り寄せるだけだ。


「そもそも、どうして僕は治癒破裂掌を掌だけしか出せない技だと思い込んでいるんだ?」


 ファルガ様に与えられたこの籠手は、無類の堅さを発揮する特性の他に僕の魔力操作の補助をしてくれるものでもある。なら、別に籠手に覆われた腕、手の甲、指からでも治癒破裂掌は放てるはずだ。

 自身の右腕の籠手に意識を集中し、籠手に覆われた腕の側面から治癒破裂掌と同じ要領で魔力を放出させる。


「うぉ!」


 破裂掌と同じ、空気を弾く音と共に腕の側方から魔力が弾けバランスを崩しかける。

 不可能じゃない。不慣れだからか力の調整はできていないけれど、今はこれで十分すぎる。

 自然と口角が上がる。

 絶望的とも思えた、戦いに希望が見えた。


「ウサトぉ——!」

「ん?」


 頭上からの叫び声に顔を上げると、フクロウ状態のネアが凄まじい勢いでこちらに降下してきていた。

 咄嗟に、両手で受け止めると彼女は怒りを露わにして僕の肩に飛び乗った。


「貴方ねぇ! いい加減に危なくなったら私を放り投げるのやめなさいよ! 私だって自分の身は守れるわよ!」

「……ああ、ごめん。そうだよな、君だって一緒に戦ってきたもんな」


 ネアの言葉に一瞬だけ呆気にとられ、次に笑みを浮かべる。


「ネア、行くぞ」

「勝算はあるの? これ以上やっても意味ないわよ」

「新しい戦い方を思いついたんだ。名付けて、第三の戦闘法『治癒アクセル拳』だ!」

「……せめて、治癒加速拳にして。ダサすぎて笑えない」


 ……かっこいいと思うんだけどなぁ。

 ネアが僕の方に飛んでいくのを確認したのか、ローズも丸太を投げるのやめたようだ。

 流石に、彼女もネアを巻き込みかねない攻撃はできないだろうからな。


「さあ、正真正銘の全力で行くぞ。僕も出し惜しみはしない」


 最早、魔力の余裕も何もかもを度外視にして、ローズに一泡吹かせてやる。

 そう決意を固めた僕は、ローズが待ち受けているであろう方向へ飛び出した。


治 癒 ア ク セ ル 拳


治癒破裂掌から派生した新たな戦い方です。

分かりやすく表現すれば『足からかめ●め波』理論です。


今回のローズの戦い方は、ぶん回した肘でウサトの攻撃を潰し、襟掴み拘束してからの回避不可能の胴体粉砕キックという、控えめに言ってえげつないことをしていました。

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