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第百五十三話

お待たせしました。

第百五十三話です。

 強面共と国中を走り回り、ブルリンを背負ってナックとフェルムを追い掛け回したり、救命団としての日常を過ごしていた僕だが、今日は訓練ではなく城に足を運んでいた。

 城内の一室に集められたのは、僕とアルクさんに、アマコとネアの四人。

 用意された椅子に座らされた僕達の前には、旅に出る際に僕とアマコに他国について説明してくれた女性、アルフィさんがペンを片手に期待に満ちた瞳でこちらを見ていた。


「全員集まったようですね」

「そうですね」


 旅の道中で起こった出来事の報告。

 しかし、報告するには一時間二時間では時間が足りないくらいに濃密な旅を送っていた自覚はあったので、アルフィさんに一旦報告をまとめてもらい、それをロイド様にお見せすることになった。


「あー、楽しみですねー。波乱万丈に満ちた冒険譚を聞くことができるなんて! 想像を絶する経験をなさったと伺いましたので、私、昨日は楽しみすぎて夜も眠ることができませんでした! それでそれでウサト様、今日の報告の形式としては、私が報告書を書いていきますので、貴方様は軽い気持ちで旅のことを話していただくだけで結構です! え? そんなに早く書けるのかって? いえいえ心配いりません。なにぶん職業柄速読速筆には慣れておりますので!」

「ウサト、こいつ話長くない? 早口すぎて半分くらいしか聞き取れないんだけど」

「この人、全然変わってないなぁ」


 一緒についてきたネアとアマコがやや引いたように、そう口にした。

 この人とはたった一度しか会っていないけれど、インパクトが強いからしっかりと覚えている。


「アルクさん、僕が話した方がいいですよね?」

「そうですね。記憶が朧げな部分は私達が補足します」


 いざ、報告するとなると緊張するな。

 話す内容が混乱しないように、頭の中で順序立てて話していこう。


「アルフィさん、報告を始めても大丈夫でしょうか?」

「はい、いつでもどうぞ」

「では、まずルクヴィスを出発してから——」


 サマリアールへ到着する前に、ネアに騙され、その結果邪龍と戦わなければならなくなった事態について話していく。

 テンション高めで聞いてくれていたアルフィさんだが、三十分ほど経つと、その表情を強張らせ始めた。


「えー、その肩にいるフクロウが使い魔で、吸血鬼で、ネクロマンサーで……邪龍を蘇らせた張本人ぅ? なんでサマリアールに着いてもいないのにそんなことになっているんですか? 話に聞いていたよりもずっと大変な目にあっているじゃないですか、これ……?」


 次にサマリアールでの出来事について話していく。

 これについては、ルーカス様がリングル王国に、王族の呪いを解いたことに僕が関係していると知らせてくれたので、僕も正直にサマリアールで起こった出来事を話すことができる。


「サマリアールの呪い!? なんで書状を渡しに行ったのに、そんな物騒なことに巻き込まれているんですか!? え、幽霊に物理攻撃は効いた? そもそもどうして幽霊に殴りかかろうとするんですか!?」


 なぜか怒られてしまった。

 とりあえず怒りを鎮めた後に、報告を再開する。

 次にミアラークでの出来事を報告していくと——、


「これは記事で知っていましたが、龍人相手に素手で挑むとか……えぇ……」


 露骨に引かれた後に、獣人の国ヒノモトについての報告も済ませる。

 この報告に関しては、獣人の文化に関心のあるアルフィさんは異常な食いつきを見せたので、獣人の国の機密に触れない程度の情報を話しておいた。

 時間にして二時間。

 全ての報告を聞き終え、束になった報告書を整えた彼女は、一つ呼吸を置いた後に顔を上げた。


「結論から言います。これをこのままロイド様に見せれば、衝撃のあまり倒れます」

「そこまでですか!?」

「できることなら私も卒倒したい気分です……。行く先々で危ない目にあいすぎですよ……」


 どこか疲れたような表情を浮かべるアルフィさんに、なんと言っていいか分からない。

 肩の上のフクロウは「まー、当然よね」とほざいている。

 確かに普通とは違う旅を送っていた自覚はあるけど、そこまでの衝撃があるだなんて思いもしなかった。


「とりあえず、報告書の方はこちらでまとめておきます」

「すいません。お任せすることになってしまって……」

「いえいえ、それが私の仕事でもありますから。それに、驚きこそしましたが、私にとっても興味深いことが沢山聞けましたので、むしろ私がお礼を言いたいくらいですよ」


 僕としては、そのまま徹夜でもしそうな笑顔が怖いのですが。

 嬉しそうにはにかむアルフィさんにぎこちない笑みを返していると、ふと疑問が思い浮かんだ。

 書状を他国に渡すことが僕達の旅の目的だったわけだけど、その後はどうなるのだろうか?


「あの、僕達は預かった書状を各国に渡してきたわけですけど、その後ってどうなるんですか? やっぱり、同盟を組むという形になるんですか?」

「そうですね。今は次の魔王軍の襲撃の為に、他国との連携を図っているのです」


 他国との連携か。

 魔王軍という脅威に立ち向かう上で力を合わせるのは何よりも重要なことだろう。


「順調に進んでいるんですか?」

「それはもう、ウサト様とカズキ様、スズネ様のおかげで滞りなく進んでおります」


 良かった。僕達のやったことは無駄じゃなかったんだな。


「最初に命を受けた時は、僕が書状を渡せるか不安だったんだけど、やればできるもんなんだなぁ」

「というより、出会う先の王様とかが特殊な人が多かっただけだと思う」

「そうよね。ちょっと悪い言い方だけど、まともな人がいなかったわね」


 言うな、そう考えると心当たりがありすぎるから。

 ノリが軽く、僕を籍に入れようと画策するサマリアールの王、ルーカス様。

 出会った時はポーションまみれだったミアラークの女王、ノルン様。

 最初から僕達を罠に嵌める気満々だった獣人の国ヒノモトの長、ジンヤさん。

 ……今思うと、本当に色々な人にあったんだなぁって思う。


「今回は前の失敗を踏まえて、いくつかの対策を講じているところです」

「対策? 魔王軍に対してのですよね?」

「はい。その対策の一つが、魔王軍の進軍をいち早く察知することにあります」

「それは確か、魔王領近くに見張りの兵を置いているというものですか?」


 アルクさんの言葉にアルフィさんが頷く。


「アルクさんは知っていましたか。先の戦いでは、あまりにも魔王軍の襲撃を予期するのが遅すぎたので、見張りの兵を置くことになったんです」

「……なるほど」


 前は、本当にいきなりの出撃だったからな。

 時間があれば、こちらも色々と対策を講じられるから、魔王軍に好き勝手にやられる心配はなくなる。


「あとは……。そう遠くない時期に三つの近隣国の代表する者が集まって会談の場を設けることになりました」

「近隣国というと……?」

「カームへリオ王国、ニルヴァルナ王国、そしてウサト様の向かったサマリアール王国の三国ですね。そこにリングル王国を加えた四国の代表が、魔導都市ルクヴィスにて会談を行うことになります」


 カームへリオにニルヴァルナか……。

 先輩とカズキが書状を渡した国……だよな? カームへリオに関しては、先輩と僕の記事が出回った場所であるから名前だけは覚えている。


「もしかするなら、書状を届けたカズキ様、スズネ様、ウサト様も会談に向かうことになるかもしれませんね」

「僕が行っても意味がなくないですか? ほら、僕って治癒魔法使いですから、体面的にカズキと先輩だけで……」

「それはないよ、ウサト」

「自分が普通の治癒魔法使いだって本気で思っているの?」

「ウサト殿はもっと自分に自信を持っても大丈夫ですよ」


 体よく断ろうとしたら、即座に仲間からの訂正を食らってしまった。

 ネアには後で、訓練という名のお仕置きをするとして……ルクヴィスに会談かぁ。

 時間があればキリハ達に会えるかもしれないけど……。


「まあ、会談自体は少し先ですから、今はそこまで悩まなくても大丈夫です」

「そう、ですね」


 会談のことは置いておこうか。

 とりあえず旅の報告を終えたので、そこで解散ということになった。



 城の守衛としての任に戻るアルクさんと別れた僕達は、ゆっくりとした足取りで城内を歩いていた。

 珍しく人型の姿で一緒に歩いているネアを横目に見たアマコは、彼女へ質問をした。


「それで、ネアは救命団でうまくやっているの?」

「そんなわけないでしょ……!」


 隣を歩いているアマコの質問に、ネアはややオーバーに反応する。

 そこまで強く否定することないんだけどなぁ、と内心で思っていると、わなわなと震えながらネアがアマコへ詰め寄る。


「この隣にいる化物は相変わらずの訓練バカだし、その周りのおっそろしい顔の奴らもこいつと同じくらいやばいし、そのボスに至ってはもう言葉にできないくらいにデタラメよ! ウサト以上とかもう頭がおかしくなりそうよ!」

「訓練バカとはなんだ」


 救命団の日常の大部分は訓練が占める。

 僕は毎日の習慣をただ続けているだけだぞ。


「悔しいけど……! あそこでまともなの、あの魔族しかいないじゃない!」

「ナックは? 確か彼も救命団にいるよね?」

「……小っちゃくなったウサトって言えば分かる?」

「あー……うん」

「ちょっと待てぃ」


 アマコも納得するな。

 小っちゃくなった僕ってどういうことだよ。

 ナックはなぁ、僕が言わずとも自主練を率先して行う救命団員の鑑のような存在なんだぞ。

 そうアマコに説明すると、さらに微妙な表情を浮かべられた。

 いかん、話の内容を変えよう。


「そ、そういえば、ネアはフェルムとは結構仲良くなったよね」

「はぁ!? んな訳ないでしょうが!」


 それこそ認められないとばかりに、ネアは反論してくる。

 傍目で見ていると、そんな仲悪いようには見えないんだよなぁ。


「あの生意気魔族、私のご飯のおかずを奪ってくるし、布団の敷き方が雑だし、洗濯だって適当だし、子供のままでかくなったってくらいにだらしないのよ!?」

「……アマコ、どう思う?」

「似た者同士だから、認めたくないだけだと思う。後、無意識に世話をやいてることに気づいてない」

「だよなぁ」


 流石は、元村娘。

 結構、しっかりしているから世話をやいちゃうんだろうなぁ。

 あえてフェルムと一緒の当番にしておいて正解だったのかもしれない。

 しかし、日常生活でだらしない部分がある、か。

 彼女自身の出自と、コーガから聞かされた闇魔法使いの境遇を考えたら無理はないと言える。


「だけどやっぱり、ここは活をいれるべく、本腰をいれてフェルムの訓練に取り組むべきかな?」

「なにを考えてそんな思考に至ったかは考えたくもないけど、熊背負って町中追い掛け回しておいて、まだなにかやろうっていうの……流石にそれは同情するんだけど……」

「いや、君も例外じゃない」

「……え?」


 僕の言葉に、ネアが顎に指をあてて首を傾げた。

 アマコは「あ、またなにか始まった」と小さく呟いた後に、フードを目深に被った。

 フェルムは、日常生活のだらしなさをなんとかしたいけど、ネアにもなんとかしたい部分はある。


「前々から思っていたんだ。君の体力面を鍛えなきゃって」

「で、でも、私……魔術とかで補助するタイプだし……ほ、ほら! ウサトの訓練にも魔術を使って参加しているでしょ? そ、それで十分じゃないの?」

「今までは見学……つまりお試し期間だ」


 必死な様子で、そう話すネアに僕はゆっくりと首を振る。

 今の訓練に関しては僕も確かな成果を実感している。だけどそれはあくまで僕だけを鍛える訓練にすぎない。

 それじゃいつまで経っても、ネアとブルリンは成長しないままだ。


「今後、コーガのような手段を選ばない敵と戦う時、君の存在が必要になるかもしれない。だけどそれは、耐久力の低い君が真っ先に狙われるような戦いでもあるんだ」


 コーガとの死闘を思い出し、強く拳を握りしめる。

 本当は僕だって戦うような状況に遭遇したくないけど、考えなくてはならない。

 強い敵と戦うことは、ネアが攻撃される危険が高まるということだ。


「そのためにどうするか? 決まっている……訓練しかない」

「前々から思ってたけど、訓練で何もかも解決しようとするのやめて! 私、無駄に筋肉とかつけたくないの!」

「心配するな。鍛えるのは体力と、“ここ”だ」


 格好つけながら親指で自身の胸を示す。

 そう、救命団で鍛えられるのは肉体だけじゃない。どんな罵倒、苦しみにも耐え抜ける精神力も鍛えられる。


「心が強くなれば、どんな事態にでも冷静さを保つことができる。そう、例え鼻先を剣が掠めようともね」

「そこに至ってしまった私に、果たして心は存在するのかしら……?」


 ……。


「……あるッ!」

「その間はなんなのよぉ!」

「僕がその証拠だ。ネア、僕に心がないと思うのかい?」

「貴方の存在自体が不安にさせる要素という事実が分からないの!?」


 酷い言われようだ。

 普通の高校生だったあの頃と比べれば、ちょっとだけ変わっているかもしれないけど、僕は僕だ。


「ねぇ、ウサト」

「ん?」


 どうやって、ネアを説得しようかと考えていると、今まで黙り込んでいたアマコが声をかけてきた。

 涙目だったネアが助けを求めるような視線をアマコに向けるが、それに構わず言葉を発する。


「今度、救命団に行ってもいい?」

「別に構わないけど……特に面白いものはないと思うよ? 僕を含めた団員が訓練しているだけだし」

「ウサトがいるなら、いい」


 フードを被ったままで表情を伺えないけど、照れながらそう言ってくれるのは分かった。

 なんというか、心が温かくなるとはこういうことを言うんだな。


「……」

「……」

「……今この話必要!?」


 十数秒ほどの沈黙に耐えられなかったのか、ネアが声を荒らげた。

 当のアマコは、ジト目でネアを睨みつける。


「ネア、そろそろ諦めたら?」

「他人事だからそう言えるんだろうけど、私からしたら死活問題なのよ……!」


 救命団員として訓練を受けるのがそんなに嫌なようだ。

 うーむ、流石にそこまで辛い訓練をさせるつもりはないのだけど、どう説得しようか。

 流石にローズに一任するのは、酷すぎる……というより、雌ライオンの支配する領域に小動物(ネア)を放り込む感じになってしまう。


「あ、ウサト」

「げ……」

「え?」


 後ろから聞こえてきた声に振り返る。

 動きやすい服装に着替えたカズキと、先日知り合ったエルフの少女、フラナさんが並んで歩いていた。

 僕を見つけたカズキは、嬉しそうに手を振りながらこちらへ駆け寄ってきた。


「ウサト、今日はどうしたんだ?」

「旅の報告をしにね。カズキとフラナさんは今から訓練?」

「ああ、俺もウサトに負けないように沢山訓練しなきゃって思ってな。な、フラナ!」

「え、ええ……」


 相変わらず爽やかな親友だぜ。

 だけど、彼が訓練している姿を見ると、僕も負けていられないって気持ちになるな。

 ……ん? そういえば……。


「あれ? 先輩は?」

「あ、そうだ……。先輩、ウサトに会いに救命団に行っちゃったんだ……」

「入れ違いになっちゃったかー……」


 なにか僕に用事でもあったのだろうか?

 まあ、先輩ならなにもなくても会いに来そうだけど、悪いことしちゃったな。

 入れ違いになるくらいなら、事前に教えておけばよかった。


「ウサト、この後どうするんだ?」

「え? そりゃあ、救命団に戻っていつも通りに訓練をしようかなって……」

「じゃあ、俺達と一緒にやらないか?」


 カズキの意外な申し出に僕は驚いた。

 僕の反応にカズキは照れくさそうに頬を掻く。


「いや、思い返すとさ。俺達って一緒に訓練とかしたことないからさ。ウサトも城から離れた場所に住んでるから機会もそう多くないし、今なら丁度いいかなって思って」

「よし、やろう」


 考える前にそう口にしていたが、後悔はない。

 というより、これを断れるほど僕は人間をやめていない……!

 いや、例え人間をやめても僕は了承をするぞ……!

 先輩? 先輩はいつか帰ってくるだろう。


「二人はどうする?」


 隣のアマコとネアに聞くと、どちらもついてくるようだ。

 アマコはともかく、ネアは勇者としてのカズキの力を知りたいようだ。


「へへっ、じゃあ早速訓練場へ行こう! フラナも早く!」

「あ、ちょっと待って、カズキ!」


 嬉しそうに外へ向かっていくカズキについていくフラナさん。

 訓練を見ることはあっても、一緒に訓練をするのは初めてだな。旅を経て、カズキの力がどれだけ成長したのかも知ることができる。


「でもなぁ……」


 訓練に参加することを了承した時、フラナさんが僅かに表情を引き攣らせていたのが少し……いや、かなり気になった。

 なにがフラナさんにそんな顔をさせたのか、僕には全く見当がつかない。



アルフィは第四十四話に登場したキャラですね。


次回、またフラナの常識が試される……!


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