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治癒魔法の間違った使い方~戦場を駆ける回復要員~  作者: くろかた
第一章 召喚、リングル王国
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第十五話 

 オルガさんと別れた僕は、城下町を走り回ってから、ローズに言われた通り城周りを走るために城の方に向かった。

 道中、沢山の人たちの注目を集めたけど、僕の服装を見るとすぐに呆れた表情を浮かべていた。

 救命団の奇行は恒例になっていると見て良いのかな?

 そういえば、城周りってどこを指しているのだろうか。単純に城の周りか、城を囲う城壁の周りを走るのか、個人的には城の中を走りたいけど、背にはブルリンも乗っている事からそう簡単に城の中には入ることはできないだろう。

 そう考えながら、走っていると城壁から城への入り口に辿り着く。

 やはり大きい、ローズに拉致され城から出る時は、注視する暇なんてなかったけど、やはり城を守る扉、重厚だなあ。

 扉の迫力に気圧されながら、守衛さんのいる場所にまで歩み寄る。

 守衛さんは、僕の方を見て一瞬警戒するような表情を浮かべていたが、僕の服装を見て血相を変える。


「救命団のウサト殿でありましょうかっ?」

「そうですけど……」


 元気な人だなぁ。


「今日は一体、どのようなご用件で?」

「城壁の中に入りたいんだけど……この子が入っても大丈夫かな?」


 ブルリンが城に入れるか駄目元で聞いてみる。


「ブルーグリズリーの子供ですね。既にローズ様が許可を頂いているので、問題ないと思われます!」

「ええ! 城の敷地内にモンスターを入れてもいいんですか!?」

「ローズ様が安全を保障されているので問題ないかと思われますッ」


 ローズはいつ許可をもらったのだろうか……僕が王国に帰った後かな?

 報告書を記す過程で、ブルリンが城に入れる許可をもらったということなら、僕が城にブルリンを連れて行くことを予想していたかもしれない。

 それに、この人にも信用されている。一体、ローズは何者なのだろう。

 救命団の団長ってこと以外、あの人についてなにも知らないからなあ、僕は。


「じゃあ、入らせてもらっても、大丈夫ですか?」

「構いません。どうぞ、中へ」


 ブルリンを背負い、開かれた扉から城の敷地内に入る。

 ……もし、ブルリンが城の人を襲うようなことが有れば僕がどんな手を使ってでも止めよう。


「暴れたら駄目だからな?」

「グ~」

「何か呑気だな、お前。本当に分かっているのか?」


 完全に僕の背でリラックスしているブルリン。

 この様子だと、あまり心配はいらないようだ。

 城の中には入らず、小走りで敷地内を走る。目的地は城の訓練場、行ったことはないけど、訓練場の特徴はカズキ達の話から、なんとなくだけど覚えている。


「大きい広場って聞いたね」


 我ながら、なんてものを頼りに探しているんだ、と自分でツッコミたい気持ちに駆られるが、生憎これぐらいしか手掛かりがないので我慢するしかない。

 とりあえず城の周りを一周すれば、大体見つかるだろう。そう考え、走っていると前方に大きな広場が見つかる。

 恐らく、あそこが訓練場だろう。


「……おっ」


 訓練場には沢山の騎士さん達が木剣を用いて訓練をしていた。魔王軍との戦いが近いからか、その様相はとても凄じい。

 訓練場の近くにまで近き、訓練場全体を見回すと、端の方で佇んでいる一人の黒髪の少女の姿を視界に捉える。

 あれは、犬上先輩か。


「犬上せんぱーい!!」



 私、犬上鈴音は現在、必殺技というものを開発中である。

 必殺技とは、文字通り必殺の技。必ず殺すと書いて必殺と読む。魔法の訓練は粗方終わったので技の方を磨いていきたいと思っての判断である。

 だが、必殺技と言ってもただ単に雷を出すだけじゃナンセンスだ、それでは普通と変わらない。

 そういう方面の話は男の子の方が詳しいと聞くけど、カズキ君はアテにならない。あの子はそういうものには無頓着だ。


『犬上せんぱーい』

「ふうん?」


 久しぶりに聞く声。

 声が聞こえた方を向くとそこには、この世界にやって来たもう一人の友人であるウサト君がこちらに向かって走って来る。

 そんな彼の姿を見て、私の体は石のように硬直する。

 ウサト君の背には、青色のクマが背負われていたからだ。


「ウサト君、その背中のクマは……?」

「ああ、こいつはブルーグリズリーっていう魔物の子供です。大人しいので人には襲い掛かりませんよ?」


 そう言ってクマを地面に下ろしたウサト君は、しゃがみながらクマの頭を撫でる。

 どうしてウサト君が魔物の子供と一緒にいるのだろう。


「実は僕、10日間ぐらいモンスターが沢山いる森でサバイバル生活してたんですよ。それで色々あってこの子が僕に懐いてついてきたんです」

「そ、そうだったのか。だから、救命団の宿舎に行っても君の姿が見えなかったのか」


 モンスターの沢山いる森の中、詳しい事を聞きたい気持ちがある。しかしあまり問いただすわけにはいかないだろう。

 それより、彼がどうしてここに来たのかが気になる。


「今日は私に会いに来てくれたのかな?」

「前に僕の方へカズキと先輩が来てくれたので、僕も訓練のついでにここに寄ってみたんですよ。……あれ? カズキはいないんですか?」


 悪戯を兼ねて投げかけた質問を軽くスルーされてしまった。

 ちょっとばかしショックを受けつつ、彼の質問に答える。


「カズキ君は、今日の早朝にモンスターとの戦いの経験を積むために王国の外に出て行ったよ。多分だけど、ウサト君と行き違っちゃったんじゃないかな?」

「あー、そうなんですか……そしたら先輩は?」

「流石に王国外に勇者を二人とも出すわけにはいかないから私は留守番さ。カズキ君のことは心配はいらないよ、シグルスもついているし。でも朝からカズキ君がいないから、セリアはご機嫌斜めだったけどね」

「ははは、それは大変だ、でも良かったですよ、同伴する人がいるなら心配はいりませんね」


 私がそう言うと、安堵の息を漏らすウサト君。

 ふふ、友達思いだね。

 しかしだね、やっぱり気になってしまうのは―――、


「グルゥ~」

「ん? もう眠くなったかブルリン。お前ほとんど動いてないんだから全然疲れてないだろ……」


 このクマである。

 野生のクマ(?)というものは初めて見たけど生身で見ると、とても可愛らしい。小さい頃に見たパンダを思い出す。

 一説には、クマは凶暴な生物とされ、一般の人々からは恐怖の対象として見られている。しかし、私の目の前で、眠そうに目を擦りながら横たわっているクマはとてもじゃないが恐怖の対象としては見れない。

 いや、可愛いと断言させてもらおう。


「ウサト君、触ってみてもいいかな!?」

「いきなり大きな声出さないでくださいよ。ビックリしたぁ」

「す、すまない」


 思わず昂ぶってしまった。

 いけないいけない、もっと抑えなくては。


「触っても大丈夫ですよ。噛まれたら僕が治しますから」

「噛まれたら。中々怖いことを言うね……」


 しかし、言質はとった。

 私は高鳴る鼓動と共に手を前に出す。

 異世界で動物と触れ合えるなんて、なんて僥倖、これぞまさに運命だ。

 私の手がクマの頭に近づいた瞬間――――ベしりと私の手をクマの手が叩き落とす。


「あっ……」


 何だいこの虚無感は。待ちに待った瞬間を全てぶち壊したような感覚。

 叩き落とされた手を呆然と見ている私に、気まずそうにウサト君が話しかける。


「せ、先輩、こいつ人見知りなんですよ!」

「落ち込んでないさ! 一瞬のふれあいに、少しだけ興奮しただけさ!!」

「僕と同じような思考に至らないでくださいよ!?」


 ぐぬぬ、羨ましいぞウサト君……!


「そ、そうです。名前、名前を呼んでやれば、こいつも警戒心が薄らいで先輩に触らせてくれますよ!」

「じゃあ、この子の名前を聞かせてくれ」

「ブルリンです」


 ブル……リン?

 それは名前なのか? ……中々いい名前じゃないか。センスがある。

 確かに仲良くなるには、名前を呼んで警戒心を薄めてからだね。私は手を前に出しながら今までにない明るい声でブルリンの名を呼ぶ。


「さぁブルリン!」

「カプッ」


 私の手に噛みつくブルリン。甘噛みしているようなので血は出ていないけど、解放された手にはべっとりと涎が付いていた。

 ウサト君、これがブルリンの照れ隠しなの? 手が生暖かいのだけど。


「なあウサト君、熊鍋って知ってる?」

「駄目ですからね!?」


 冗談だよ。

 涎のついた手を、ハンカチで拭いながら、ブルリンの方を見る。

 クッ、私がありきたりなヒロインだったら、動物に好かれている設定のはずなのに……何故だ。


「もしかして、先輩の心が汚れているかもしれないですね」

「む、それならウサト君が触ってみればいいじゃないか」 

「いいですよ。ふふふ、僕とブルリンの絆を見せてあげますよ、なあブルリン」

「ガブッ」


 ブルリンが噛みついたことから、ウサト君も心が汚れていると見ていいな。

 でも、ブルリンに噛まれながらもウサト君は笑顔だ。若干噛まれている手が赤くなっている気がするが、気にしないでおこう。

 これもきっと、ウサト君の愛だ……うん。

 しばらくすると、ブルリンの口から手を引き抜いたウサト君は、すまし顔で私の方を向く。痛くないのだろうか?


「そういえば先輩、ここで何をしていたんですか?」

「唐突だね。……えーとここでは」

「訓練ですか?」


 どうしよう、必殺技を考えてたなんて口が裂けても言えない。

 ウサト君が真面目に訓練しているというのに、私はそんな事で悩んでいたなんて知られたら、先輩としての面目が丸潰れである。


「ま、魔法の訓練をしていたのさ」

「そうだったんですか、先輩の事だから、何かオリジナルの技とか考えているかと思いましたよ」


 ウサト君、君はエスパーかな?

 私は、君にそう思われるほど何か迂闊な事をしたかい?

 だがこれはいい機会だ、何気なしに技のヒントを聞いてみよう。

 ウサト君にその質問を投げかけてみる。訝しんだ表情で私を見るウサト君だが、彼は律儀に私の質問に答えてくれた。

 十数分程会話していると、思い出したようにウサト君が立ち上がりブルリンの方に寄る。


「じゃ、そろそろ行きます」

「え、もう行ってしまうの?」

「僕も訓練があるので。また来ますので。ほらっ、ブルリン、寝てないで起きろ……ったくしょうがないなぁ」


 ブルリンを持ち上げ、背負いあげるウサト君。

 子供とはいえ、大きな巨体を楽々持ち上げるとは……彼も成長しているってことか。

 彼が行ってしまうことには、少し名残惜しい気持ちもあるが、またこちらから行けばいいのでそれほど悲観する必要はない。


「頑張りなよ、ウサト君」

「はい、先輩もいい技が考えられるよう頑張ってください」

「な!?」

「それじゃー」


 言い返す前に、訓練場の外へ走っていくウサト君。

 ……全く、一本取られたよ。まあ、流石に何度も同じことを質問したら気付かれるか。


「さて、私ももう少し頑張るか」


 でも、ウサト君は私に対してどんどんフランクになっていることに気付いているのだろうか。

 まあいいか。気にするほどでもないし、悪い気はしないからね。


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