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第百二十一話

予告通り、今話から第六章開始です。

 ミアラークで、僕達は龍人と化した騎士カロンさんと戦った。

 我を失い暴走した彼はとてつもない力を有していたが、ミアラークの勇者、レオナさんと力を合わせて、誰一人犠牲にすることなく戦いを終わらせることができた。

 綱渡りの連続であった戦いだが、得るものは大きかった。

 治癒魔法の系統強化を完成させることができたのだ。……といっても、完成しなかった原因は僕が救命団としての”初心”を忘れていたことにあるのがなんとも不甲斐ないが、これでこの旅の目的の一つであるアマコのお母さんを救う為の条件が揃ったともいえる。

 最後の目的地、獣人の国。

 ミアラークを出発した僕達は、凍り付いた湖の上を渡り、獣人達の領域へと足を踏み入れた。


「やっぱり、獣人って道とか作らないんだね……」


 ミアラークを出てから一週間と少しが過ぎた頃、僕達は、木々が生い茂る林の中を進んでいた。

 ここには道というべきものがほとんど存在しない。なので、先頭を歩いてくれているアマコがいなかったら、今頃ここで迷子になっていただろう。


「うん。道があると待ち伏せの危険があるからね。だから、私達獣人は決まった道を作らないで、目印だけを置くの」


 度々、木に刻みつけられた傷や、積み重ねられた石を見つけたけど、それがアマコの言う目印なのだろう。

 僕にその目印の意味は全然分からないけど……。

 アマコの話を僕の肩の上で聞いていたネアが、気だるそうにしながら口を開く。


「しっかし、獣人ってのは面倒くさい種族よねぇ。話を聞けば、到達するのも困難な山奥に住んでいるんでしょ? しかも、道は作らないし、あるのは原始的な目印だけって……文化が違うどころか、時代すら違っているように思えるわ」

「否定はしない。実際、面倒臭いし」

「い、意外とあっさり認めるわね。一応、自分の故郷なのに……」


 自身の故郷の話になんの興味もなさげに答えたアマコに、逆にネアが驚く。


「私達獣人は、人間とは別方向の発展を遂げるように努めてきた。その過程で、発展の必要のないものは全て切り捨てて、独自の文化を築いてきたの」

「ふむ、興味深いですね。私達人間とは異なった文化……叶うなら、この目で見てみたいものです」

「アルクさんが想像するような、面白いものじゃないよ」


 ……ミアラークを出てからアマコの表情はあまり良くない。

 その理由は恐らく、ミアラークでノルン様から聞いたことが関係しているのだろう。

 ”獣人達は、なにかを探している”

 その”なにか”はアマコだと、僕は考えている。勿論、確証はないけど、そうでなければアマコがあそこまで怯える理由がない。


「ウサト、難しい顔してる」

「ん、ごめん。ちょっと考えに没頭してた」


 悩んでいたのが顔に出ていたのか、逆にアマコに心配されてしまう。

 やっぱり、僕って表情から考えていることが読み取りやすいのだろうか。

 ハルファさんみたいに常に笑顔を浮かべていればいいのか? ……いや、彼と同じような方法を取れば、皆に別の意味で心配されるからやめておこう。

 ……獣人の国に思考を戻そう。


「アルクさん、ミアラークを出てからずっと考えていたことがあるんですけど」

「なんでしょうか?」

「書状のことです」


 馬を引いているアルクに声をかけた僕は、最後の書状が入っている荷物をさわる。

 これまで、ルクヴィス、サマリアール、ミアラークの三つの場所に書状を渡してきたけど、最後の目的地はこれまでとは事情も含め、何もかもが違ってくる。


「やっぱり……渡さないほうが、いいですよね?」


 獣人と人間の関係は非常に良くない。

 ミアラーク出発前にファルガ様が言っていたように、獣人は人間を憎んでいる。そんな彼らに、人間の僕達が助けを求める書状を渡すのは、どう考えても無理だ。

 むしろ煽っていると思われてもしょうがない。


「あまり良い反応はしないことは確かです」

「そうですよね……」

「ですが、行ってみないことには分かりません。獣人の国に入り込んだ人間は多くはありません。その大多数は邪な目的の為に入り込んだ者ですが、貴方は違います」


 アルクさんは、僕の隣にいるアマコに視線を向ける。


「アマコ殿の母親の為に、貴方はここまで来た。それは、紛れもない善意であり、誠意です。獣人はあくまで敵意に対して敵意で応えたに過ぎません。こちらから歩み寄ることができれば、協力を申し入れる状況を作ることも可能かもしれません」

「……アルクさんの言うとおり、獣人は話の分からない人ばかりじゃないよ。頭の硬い人の方が多いけれど、ちゃんと話せば分かってくれる人もいる」


 歩み寄り、か。

 ……アマコと初めて話したときのことを思い出すな。

 僕にカズキと先輩がフェルムにやられてしまう予知を見せたアマコを捕まえたことから、ここまでの道のりが始まったといってもいいだろう。

 あれから半年も経っていないけれど、色々なことが起こりすぎてもう何年も前の話に思えてくる。

 なんとなく感傷に浸っていると、肩の上のネアが呆れたような溜息を吐いた。


「貴方ならいつも通りにしていれば大丈夫でしょう。だって、私やブルリンみたいな魔物にも仲良くできるような変人なのよ? 今更、獣人に会うことに不安がっても不気味としか思えないわ」

「地味に酷いこと言うよねネアって……僕としては真面目に悩んでいたんだけど……」

「ホッホホー、貴方が真面目にって笑っちゃうわねー。行き当たりばったりの癖して……あ、ごめんなさい! 指を構えるのやめて!」


 無言でデコピンの構えを取ると翼で顔を覆い、その隙間から僕の顔を伺うネア。

 ……でも仲良くとは思ってくれているんだよな。

 口に出すと思い切り否定されそうなので言わないけど。


「実のところ、ウサト殿なら大丈夫かなと思っています」

「大丈夫って……」


 珍しくあやふやな言い方をするアルクさんに首を傾げる。


「これまでの旅路は決して生易しいものではなかった。それこそ、どこかで心折れてしまってもおかしくはないほどの試練を乗り越えて、今の貴方がいます」

「はは……。一部は僕が勝手に首を突っ込んでしまったようなものですけどね。……本当に、アルクさんには迷惑を掛けっぱなしですよ……」


 ネアに操られてしまったり、サマリアールの歴史的な鐘を破壊してもらったり、カロンさんという強敵と一緒に戦ったりと、客観的に見て本当に散々な目に遭わせてしまったと思う。


「私は貴方についてきたこと、全く後悔していませんよ? むしろ良かったとすら思えるほどに、冒険に満ち溢れていました」


 爽やかにそう言葉にしたアルクさんに何も言えなくなる。

 僕は、本当に仲間に恵まれているんだな……。

 何度も言うのはアレなんだけど、僕は結構厄介事に首を突っ込んでいる。

 普通なら、トラブルメーカーである僕から離れたいと思うはずなんだ。


「……」


 肩にいるネアと、後ろを歩くアマコとブルリンに視線を向ける。

 アマコはお母さんを助けるためについてきたけれど、これまで文句一つ言うことなく一緒に来てくれている。

 ネアは……これも自分で言うのもアレだが、結構散々な目に合わせちゃっているのだけど、それでも僕についてきてくれている。

 ブルリンは僕の相棒、ある意味で一番心を通わせている存在だろう。


「ウサト、なんか目が優しい。大丈夫?」

「ふ、普通に怖いんだけど……ちょ、ちょっと前向きなさいよ」

「グファ~」

「君達は、僕のことをなんだと思っているのかなぁ!?」


 ちょっと感傷に浸ったらこれだよ!

 ネアに至っては本気でビビっているし!!

 僕が優しい目をして何が悪いと言うんだ。あれか、僕にしてみればローズが前触れもなく優しく接してくるみたいなことなのか?

 ……想像したら、鳥肌が立った。

 なんというか、これまでのイメージ的に厳しいままのローズが一番合っていると再認識させられる。それに慣れてしまったのが、悲しいところだけどね。


「ん? アルクさん、そういえば剣が二つになっていますね?」

「ああ、これですか?」


 ふと、アルクさんが装備している剣を見て首を傾げる。

 彼の腰には、いつも携えている剣の他にもう一振りのやや小ぶりな剣があった。


「一応、予備の剣としてもらっておいたんです。今までのことを考えると、剣が一つじゃとても足りないと思いまして」

「あー……確かに」


 邪龍の時は僕が彼の剣を折ってしまったし、今回もカロンさんの翼に砕かれてしまった。

 そう考えると、予備の剣を用意するのはいい考えだと思う。


「肝心な時に剣を折られてしまって、何もできないというのも嫌ですからね」

「はは……」


 大小二つの剣を巧みに操る炎騎士……かっこよさに磨きがかかるなぁ。

 ……もし僕が、治癒魔法以外の魔法を扱えていたら、どうなっていただろうか?

 ローズとも出会わずに、普通の魔法使いとして訓練をする自分の姿を思い浮かべて、思わず苦笑してしまう。

 水や炎の魔法を扱っている自分なんて想像できない。

 試しに聞いてみようかな? 客観的に見て、僕はどんな魔法を使っているのだろう。


「アマコ、ネア。僕が治癒魔法以外の魔法を扱っている姿って、想像できる?」


 二人に聞いてみると少しばかり悩んだ末に、微妙な表情でこちらに顔を向ける。


「殴る、かしら……?」

「投げる、とかかな?」

「ねえ、魔法を扱っている姿って言ったよね? なんで肉弾戦限定なの?」


 僕の言い方が悪かったのか……?

 それともあれか? そもそもの僕の戦い方からしてそうイメージされやすいのか?


「―――、ウサト!」

「ん、どうした?」


 僕のこれからの方向性について考え込んでいると、突然に頭の耳をピーンッと動かしたアマコが驚愕の面持ちでこちらに振り返る。


「右斜め上方向から何かが飛んでくる!」

「は?」


 アマコの言葉に反射的に斜め上の方向を見上げる。

 瞬間、風切り音と共に二つの矢が僕の胴体に突き刺さらんとばかりに迫っているのが見えた。


「フッ」


 反射的に僕は、右腕の籠手を展開させ、胴体目がけ飛んできた二つの矢を掴み取る。

 この程度の速さ、覚醒したカロンさんの拳以下だぜ。

 でも、なんで矢が僕に飛んできたんだ?


「ねえ、アマコ。貴女が忠告してなかったらこいつに矢、当たってた?」

「ううん。掴めはしないけど、避けてたよ」

「えぇ、それでも避けれちゃうの……」

「その代わり、ネアが地面へ振り落とされてた」

「なんでよ!?」


 僕を見て、ドン引きしているネアは置いておくとして、今は僕を狙ってきた襲撃者についてだ。

 これで僕を誰かと勘違いして矢を放ってしまったのなら、穏便に済ませられるけど―――、


「そうもいかないか……!」


 続けて僕目がけて放たれた矢を再び掴み取り、へし折って地面へ投げ捨てる。

 明らかに僕だけを狙っている。

 人違いじゃないとしたら、明確な敵意があるということだ。


「そこかァ!!」


 矢が放たれてきた方向に、人の気配。恐らく、僕に矢を射った張本人は、獣人だろう。

 このまま撃たれっぱなしでは分が悪いので、反撃させてもらおう。

 右手に全力の治癒魔法弾を生成し、気配のする方向に全力投球する。真っ直ぐに飛んでいった治癒魔法弾は、少し離れた、葉が生い茂る枝に激突し、四散する。

 『ひぃぃ!?』という情けない声が響く。


「チィ、外したか……!」

「ウサト、顔、顔。目がやばい人になってるわよ」


 ……突然の襲撃に言動が荒ぶってしまった。

 小さく深呼吸をして、一旦落ち着いた僕は他に矢が飛んでこないか警戒する。


「ウサト殿、大丈夫ですか!?」

「ええ。でもいきなり矢を撃ち込んでくるなんて……。分かっていたけど、これが人間への普通の対応なんですよね……! クッ……!」

「平然と矢を掴み取った上に反撃までしておいて、自分が人間扱いされていると思っていることに驚きが隠せないんだけど……」


 ネアの言葉を無視した僕は、矢を射った者がいる方向を強く睨み付ける。

 すると、ガサガサ! と大きな音を立てて、茂みの中で何者かが動き出した音が聞こえた。

 僕と同じ方向を見つめていたアマコは、音がする方向を指さす。


「ウサト、あの子を捕まえてきて」

「あの子? もしかして知っている人?」

「うん。……多分」


 多分て。

 まあ、このまま仲間を呼ばれて、面倒なことになるのも避けたいし。とりあえず誤解を解くために捕まえるか。


「アルクさん、荷物をお願いします! 行くぞ、ネア!!」

「はあ、分かったわよ……」


 恐らく、相手は獣人。

 生半可な気持ちで追いつけるような相手じゃないはずだ。

 だけど、地に足をつけて走るなら―――僕の得意分野だ。


ウサト「わーい」

因みに襲撃者がウサトを狙った理由は、見た目が一番弱そうな人間だったからです。


今話から始まった第六章のテーマは「信頼」です。


※活動報告に第五巻発売についての活動報告を書かせていただきました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 弱そう?(首を傾げる)
[一言] 恐怖、威圧、恫喝の間違いでは?
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