第九十五話
お待たせしました。
第九十五話です。
「いわんこっちゃない……!!」
目の前で骸骨に呑まれていくウサト。
そんな彼を身動きを取れないまま、見ていた私はすぐに助け出したい気持ちを抑えて、ひたすらにルーカスとエヴァに魔術をかけ続けていた。
「ネアちゃん、ウサトさんが……!」
「今は自分の心配をしなさい! 今、私から離れればウサトの二の舞よ!」
耐性の呪術は一つの対象にしか施せない。
私がルーカス、エヴァに触れている今だからこそ、耐性の呪術の効力が発動されているのであり、ルーカスかエヴァのどちらかが離れれば耐性の呪術の効果範囲から離れてしまう。
「すまない。戦えない僕が足手まといになったせいでウサトが……」
「ッ、ウサトがあの程度でくたばるはずがないじゃない! いちいち不安になること言わないで、自分の心配だけをしなさい!!」
私の後ろで悲観的な表情を浮かべたルーカスに一喝する私だけど、実際のところかなり焦っている。
ウサトは物理攻撃にはアホみたいに強いけど、精神的な攻撃には弱い。
昨夜の時点でたった数体の骸骨の精神攻撃で苦しそうにしていたのに、数えきれないほどの骸骨達のそれを食らってしまっては、ウサトの心が壊れてしまうかもしれない。
私の主はここで終わって、主のいなくなった使い魔の私は前と同じように野良の魔物になる。
「……ふ、ふふ」
何を思っているんだろうな、私も。
ウサトの使い魔になる前に死ぬ覚悟なんてできていたはずだ。
今更、帰る場所なんて無い。強いて言えば、ウサトの使い魔としての地位が今の居場所だ。
今ここで、短い間だけでも私を外の世界へ出ようと決心させた人間の為に命を投げ出すのも悪くないのかもしれない。
「―――最後まで付き合ってあげるわ。成功しても失敗しても、私は使い魔としての役目を全うしてやるッ!」
「ギィッ!!」
「ガァ!」
「とっておきを見せてあげるわ!!」
ウサトを捕えた時と同じように、鎖をこちらへ投げつけてくる骸骨に薄らと笑みを浮かべた私は、耐性の呪術にさらに魔力を籠める。
すると、私達三人を覆う耐性の呪術の文様が膨れ上がるように浮き出し、球体の結界に姿を変える。
「やれるもんなやってみなさい……!」
これなら呪いそのものである骸骨も鎖も触れることができない。その代わり、魔術がその場に完全に固定されて、魔力も多く使っちゃうけど、こいつら相手にはかなりの効力があるはずだ。
「ジ、ァ……ッ!!」
骸骨達によって投げつけられる鎖も全て、結界が弾く。
力任せに体当たりをぶつけてくる個体もいるけど、それも意味を成さない。
「ネアちゃん!? 私達を守るためにそんな……」
「ウサトが貴女を助けるって言ったから私はここまでしているの! だから、貴女は黙ってそこで見ていなさい!!」
押し寄せてくる骸骨達の衝撃に耐える為に、手を前に突き出して魔術の維持に専念する。
耐性の呪術は確かに強力な効力を有する魔術だけど、決して壊れない魔術じゃない。設定した耐性の攻撃ならいくらでも耐えられるけど、それ以外の攻撃にはあまり強くない。
だから、衝撃と重さでかかる負荷は私が魔力で補強していくしかない……!!
『やはり、一筋縄でいかんか』
「……ッ!!」
ひたすらに骸骨達の猛攻に耐えていると、祭壇の前の床から今まで見た骸骨とは明らかに違う雰囲気を放つ個体が現れる。
骸骨である点は変わりないが、高価だったであろうボロボロのローブと杖を持ったそいつはカタカタと歯を鳴らしながら言葉を発していた。
「とうとう姿を現したわね……!」
『私が出て来たのはほんの些細な気まぐれに過ぎない。既に治癒魔法使いは我が手中にある、後は主らを片付けるだけで我が悲願は成就する』
サッと、眼前のそいつが手を挙げると骸骨の首から伸びる鎖が後ろに引っ張られ、強制的に攻撃が止まる。
気まぐれね、実際は勝ちが見えて姿を現したって所でしょうけど。
しかも、他の連中と違って言葉が通じていることに加えて、攻撃を止めてみせたからにはこいつは呪いをある程度操れるということになる。
そして我が悲願という言葉からして―――、
「随分と執念深いゲス野郎ね、魔術師。死刑と見せかけて、死した自分の魂を呪いに縛り付けるなんて正気の沙汰じゃないわ」
「魔術師、だと? まさかあやつが民を魔術の生贄にして王に処刑された魔術師か!?」
ルーカスが驚くのも無理はないでしょうね。
まさか、数百年前に生きていた人間が自身を呪いに縛り付けてまで勇者に執着しているとは思わないでしょう。
「よく考えればおかしい話よ。サマリアールの民を呪いの生贄にしたのは王と魔術師の二人なのに、何故か王族しか呪われなかった。本来ならば、魔術師の子孫であるフェグニスの一族も呪われていないとおかしい。貴方が呪いの方向を王族のみに移し替えていたから……そうよね?」
『ほぼほぼ正解だ。だが、私の呪いを維持させる役目を担わせるためでもある』
つまり、フェグニスもこの死にぞこないに利用されていたってことね。
そう考えれば、あそこまで勇者に執心するようにさせる教えも呪いみたいなものだ。
「ウサトをどうするつもり? どちらにせよ魔力の供給源を失った貴方はいずれ消滅する運命にあるわ。勝ちを確信しているといっても、それは一時のものよ」
『ク、ククク……』
? 何がおかしいの?
肩を震わせた魔術師は空洞の瞳をこちらに向けると、底冷えするような声を発する。
『もう魔力の供給なぞ必要ない』
「……どういうこと?」
『私の魔術『束縛の呪術』を用いれば肉体に魂を縛り付けることも可能。私が新たな肉体を手に入れることができれば、魔力の供給も、今ある呪いも必要ない』
「それはこの世の理から外れた行いよ……! 死んだ者は生き返ることは許されない! ましてや、死んだ人間が生きた人間を乗っ取るなんて……まさか!?」
『気付いたようだな。あの治癒魔法使いが私の新たな肉体だ』
目的はサマリアールにウサトを縛り付けることじゃなくて、ウサトの体を乗っ取るためだったっていうの!?
今、ウサトが骸骨達にやられている精神攻撃。
何十、何百人の思考を一気に流し込まれたら、常人なら心が壊れてしまう。
その思考に至り、血相を変えた私を見た骸骨は、再びケタケタと不快な笑い声を上げる。
『奴らは実に単純でな。叶わぬ願いを求めて、生者に取りつき喚き散らすだけの道化だ。だがそれでも数は多い。奴らの聞くに堪えない怨嗟の声と記憶を常人が見せられれば、心を壊すことも可能だろう』
「それじゃあ、ウサトは……!」
『延々と地獄の光景を見せられているだろうな』
咄嗟に骸骨達に囲まれているウサトを見る。
凄まじい数の骸骨達に囲まれているせいで、彼の姿は見えないけど、あの中では延々とサマリアールの民の憎悪と忌むべき記憶を見せられ続けている。
まともな人間なら一分ともたない……ッ。
「やめてください……なんで、そんなことをするんですか……」
ぼそりと、小さな声でエヴァが魔術師にそう訊く。
魔術師はフンと鼻で笑うように嘲る。
『理由なんぞ単純だ。私は勇者を崇めている。崇めているからこそ、私は勇者を求めた。捕まえて、永遠のものにしようとした。結果、それは失敗した』
「そうね。貴方程度の魔術で邪龍を倒す勇者を縛り付けられるはずがないもの」
確かに魔術は強力だけど、遥か格上の相手には簡単に対処されてしまう。
ましてや対象は邪龍すらも倒した勇者だ。素の力も凄まじいだろうし、なにより腕力だけの存在であるはずがない。
『……あの時、彼はただの一撫でで私の全力の呪いを切り裂いた。彼は、そのまま呪いを壊さず姿を消した。まるでこれが私への罰だと、私の罪だと』
「なら、その失敗を糧にして、努力すれば―――」
『黙れ、世間知らずの小娘が』
ここで初めて、感情を籠めた声が魔術師から発せられる。
その声にびくりと体を震わせるエヴァ。
『あの方の領域にただの人間が努力して辿りつけるわけがないだろうが……だが、失敗を糧にするというのは当たっているな。私は同じことを繰り返すほど頭の悪い人間ではない』
そこで一旦区切った魔術師が次に発した言葉は、私が想定した中で一番も最悪で、忌避すべきものであった。
『だから考えた。私が勇者たる資質を持つ人間になればいい、と』
……。
私が言うのもなんだけど、こいつは正真正銘の怪物だ。
その為に沢山の罪の無い人達の命を犠牲にして、自分すらも魂だけの存在となって呪いの一部分になるなんて……。
『今、大人しく呪いの贄になれば、治癒魔法使いと一緒になれるぞ? 消えた母親にも会わせられる』
「……っ、嫌です! まだ、まだウサトさんは頑張っているんです!! 私が今、ここで生きることを諦めていいはずがありません!!」
『既に治癒魔法使いは我が手中に落ちている。奴の心を壊し、我が術式を施すのにそう時間はかからない。……せめてもの慈悲とも思い、楽な消え方を選ばせようと思ったが、無駄だったようだな』
「……どの口がッ!」
魔術師の言葉に私は悪態をつく。
慈悲なんて優しい言葉を言っているようだけど、どのみち消すのは決まっていると言っているようなものだ。そんな選択肢を狭める言葉しか吐けない時点で、この魔術師が慈悲なんて言葉から遠い位置にいる外道なのが分かる。
「お前は絶対に勇者になれない」
その時、ルーカスがそんなことを魔術師に言い放った。
冷静に発せられた言葉には、静かな怒りが込められていた。
『……なに?』
「そんな言葉しか吐けないお前は絶対に勇者になんてなることは無い」
『面白いことを言う。勇者とは圧倒的な力を有する存在だ。あの治癒魔法使いもそう、治癒魔法で肉体を再生し続けることで肉体の限界―――上限を延ばし続け強くなっていく特異な存在だ。そんな彼になれば、私は強大な存在になれる。違うか?』
「いいや違うな。力だけに魅入られたお前に言っては無駄だろうけど、言ってやる!」
力強く前へ踏み出し、私の横に移動したルーカス。
私は無言で横にずれて、彼が話しやすい様に魔術師と向き合わせる。
「大事なのは力じゃない、それを扱う者の心だ。僕はウサトという人間の一端を知ってそれを理解した。彼は確かに凄い力を持っているが、その力を蹂躙する為ではなく救うために使っている。それがどれだけ難しいことかお前には分からないだろう?」
『だからどうした? 志や信条で勇者にでもなれるというのか? あまりにも愚かな思考だ』
「愚かなのはお前だ。何が勇者を崇めているだ。お前が崇めているのはその力だけだろう……!」
ルーカスの言葉に魔術師が不意をつかれたのか、少し言いよどむ。
それに構わず、彼は続きの言葉を紡いだ。
「きっと邪龍を倒した勇者も民の為に命を賭して戦ったはずだ。しかしそれを無意味にしてしまったのがお前と当時の王だ。それなのに、お前はそれを後悔するどころか何百年にも渡って生贄にした民の魂を利用し続けた……そんな人の尊厳を踏みにじるような奴が勇者なんてものになれるはずがない!!」
……確かに、前代の勇者は邪龍に苦しめられているサマリアールの民の為に戦ったはずだ。その為に寝ずに戦い続けて、その末に邪龍の口の中に飛び込み、その心臓に刀を突きさした。
だけど、戦いが終わった彼を待っていたのは、救ったはずの国からの裏切りと、自分を縛り付ける為に生贄にされた救ったはずの民の亡骸だった。
……これじゃあ、人間に愛想尽かすのも当然かもしれない。
「娘を助けられないと諦めていた僕が今ここに居るのは彼のおかげだ。彼が助けると言ってくれたから、希望を捨てずにいられる……お前にはそれができるのか? お前は人に希望を抱かせることができるのか? 何百人もの罪無き民を犠牲にし、挙句の果てにその魂すらも利用して……ウサトの体を乗っ取ろうとする卑怯者にそれができるのか!!」
感情を露わにしてそう言い放ったルーカスに、魔術師は言葉を発さない。
その代わり、先程からカタカタと鳴らしていた嘲笑が消え、ただ不気味な雰囲気だけが目立っていた。
『もういい……所詮は何もできない王の戯言。貴様の魂を壊して傀儡にしてやろう』
「っ」
魔術師の腕が動くと同時に抑えていた結界に魔力を籠め、発動させる。
瞬間、今まで鎖で動きを封じられていた骸骨達が一斉に結界に目掛けて殺到してきた。
「く、うぅ……」
「ネアちゃん!」
「大丈夫か!?」
「下がってなさい!」
骸骨達の猛攻を結界で受け止め、苦しげな声を上げた私を心配するルーカスとエヴァを下がらせる。
『大した魔術だ。流石は魔物……いや、ここは敬意の念を籠めて吸血鬼と呼ばせてもらおうか。だがいくら呪いを弾き返す魔術でも、これだけの数の呪いを受け続ければいずれ魔力が尽きる』
「んなことっ、貴方なんかに言われなくても分かっているわよぉ……!!」
歯を食いしばり、耐えながらそう言い返す。
今やっていることは時間稼ぎに過ぎない。
『なぜそこまで耐える? 今、お前がしていることは無意味なことだ。治癒魔法使いはもう助からない、じきに心を壊し、その抜け殻に私が入り込み、私の計画は達成する』
「フ、フフ、そういう割には随分とウサトの精神を壊すのに時間がかかっているじゃない……!」
ウサトが骸骨に捕まってから何分も経っているのに、骸骨達は一向に彼から離れようとしない。
それってつまり、まだウサトは諦めていないってことじゃない?
無言になる魔術師を見て、ウサトが今の今まで耐えられている事実があいつの予想していないことと確信する。
『……いくら肉体が強くとも精神が人間、しかも未熟な子供のまま。いくら希望を持っても無駄だ』
「……フフ」
なんだろう、絶望的な状況なのにこいつの言葉に笑みを浮かべてしまう。
「今の貴方、凄く滑稽だわ。勝利を確信して、調子に乗って、見るにも耐えない醜態を晒している姿は……癪だけど、本当にあの時の私の状況と似ている」
きっとウサト達から見たあの時の私は、目の前の魔術師を見ている私と同じように見えていたのだろう。自分の策がうまくいって、相手を侮った結果、痛い目にあった私と同じだ。
「貴方のような小物が企てた計画なんて絶対に破綻するわ。なにせ、貴方が今手に入れようとしている人間は普通の尺度じゃ測れないようなとんでもないことをしでかす奴よ。思い通りに事が進むと思ったら大怪我するわよ……!!」
普通の人間は治癒魔法を戦闘には用いないし、邪龍と真正面から戦おうとしない。
まずあの男が強靭な肉体だけで成り立っている前提からしておかしいのだ。
それをこの魔術師は分かっていない。
『……この場で使える魂全てをお前にぶつけて、終いにしてやろう』
どこか苛立ちの感じられる言葉と共に、大きく両腕を上げた魔術師。
その動きに応じて床から何百もの鎖が伸び、今までの比じゃないほどの数の骸骨達が現れる。
『予備はいらん。どちらにせよ体が手に入った今となっては用済みだ。魂が擦り切れてなくなるほどに使い潰してやろう』
「貴方って本当の外道ね……!」
『最期に私の役に立てるのだ。これ以上の喜びはないだろう?』
流石にこれだけの数の攻撃を一斉に食らってしまったら私の魔力ももたない。
かといって今の私に守る以外の手は無い。
絶望的な状況に心が折れそうになるが、それでも私は必死に自分を振るい立たせて結界に魔力を籠める。
『行け』
「っ!!」
『『『ガァアァァ』』』
浮かんだ骸骨達が私の結界に殺到する。
来るべき衝撃と負荷に備える為に目を瞑る。
『ガー!?』
『ア、アァ……!』
「……?」
しかし、来るべき衝撃が来ない。
聞こえる骸骨達の声も、獣のような叫び声から驚愕と困惑の混ざったものへと変わっている。
困惑したままゆっくりと目を開けると―――、
「……なによ、これ」
―――私の前には、骸骨から私達を守るように立っている半透明の白い人影が浮かんでいた。
よく見れば前どころか、周りを取り囲むように何人もの白い人影が私達を囲んでおり、骸骨達の猛攻を防いでくれていたのだ。
●
「私達を守っているの……?」
突如現れた、白い人影。
その中で一際目を引いたのは、私達の前で両手を大きく広げ骸骨達から守ってくれている長い髪の女性の人影であった。
白い光を放っている点は他の人影と同じだけれど、腰ほどまでに届く長い髪は青色に彩られ、その容姿はどこか背後のルーカスの腕の中にいるエヴァと似ていた。
「来て、くれたんですね……」
「これが何か知っているの? エヴァ」
嬉しそうにそう言ったエヴァに目の前の白い人影のことに聞いてみる。
「この人たちは悪い人達じゃありません。いつも、怖い夢から私を守ってくれた優しい人達なんです……」
怖い夢から守ってくれた……。
精神的に追い詰めようとするサマリアールの民の呪いから、彼女の心を守っていた存在がこいつらってことなのかしら?
どうして今になって出て来たの?
まさか、エヴァの危機に呪いから飛び出してきたってことなのかしら?
「お父様、もう大丈夫ですよ! この人たちが守ってくれます!」
「……」
「……お父様?」
エヴァの言葉が聞こえなかったのか、私の前にいる白い人影を凝視しているルーカス。
暫し見つめて、息を呑んだルーカスは涙ながらに声を震わせながらエヴァを抱きしめる手を強め、口を開いた。
「ああ、そうか……そうだったのか、君は体が無くなっても、この子の成長を近くで見守っていてくれたんだね……。全く、やっぱり僕は君には敵わない。別れの言葉なんて君にとっては必要なかったんだな、だって君はずっとエヴァと一緒だったのだから……」
声を震わせるルーカスの言葉に、小さく振り向いた青い髪の女性は優しげな微笑を浮かべる。
ルーカスの言葉を聞いたエヴァは目を瞬かせる。
なるほど、この女性がルーカスの……。
ということは周りにいる人影は呪いによって消されてきた歴代の王族達ってこと、ね。
『ありえない!!』
そんな時、魔術師の怒号が広間に響く。
『何故今になってお前達が出てくる!! お前達は魔術も覚えていないただの人間のはずだ!! 呪いの慰めとして肉体を消し去り、魂を捕えた貴様らが表に出てくることなぞ……!! いいや、そんなことはどうでもいい!! 今、お前達が表に出た程度で私の優位は動かない!!』
その言葉と共に、魔術師は鎖をさらに引っ張り上げ、さらに多くの骸骨達を人影に殺到させた。
『フ、ハッ、ハハハ!! 何人集まった所で幾百の亡者の怨念を止めることはできぬ!!』
魔術師の言う通り、周りの王族達だけじゃ骸骨達を止められない。
事実、骸骨を受け止める度に、白い影が煙のように揺らぎその姿がおぼろげなものに変わっていく。
私達の前にいる女性の人影も例外ではない。しかし、女性は骸骨達の攻撃を気にも留めてないのか、こちらに再び振り向くとゆっくりと唇を動かした。
『―――』
「え?」
声は聞こえない。
だけど、確かに私達に何かを伝えようとしている。
一体何を……。
「大丈夫……と言っています」
「エヴァ、貴女、この人が何を言っているのか理解できるの?」
「は、はい。なんとなくですけど……」
呪いを受けていたエヴァを守っていた影響で、ある程度の意思疎通ができるようになっているのだろうか? それとも単純にこの女性がこの子の―――、それは今考えるべきことじゃないか。
何が大丈夫なのだろうか。事態はさっきと変わらず八方塞がり、そんな状況で大丈夫と言われても全然そうは思えない。
そんな私の懸念に女性は安心させるような優しげな笑みを浮かべると、短く続きの言葉を紡いだ。
『――――――』
「もう、彼は起きたから……?」
困惑しながら、そう私に伝えたエヴァの言葉に首を傾げる。
起きたって、この状況で起きるっていえば……。
『ハハハ、今更何をしようが全て無駄よ! 私の長い時を賭けた計画は成功する! お前達は皆、魂を壊され私の傀儡となるのだ! ハ、ハハハハ!!』
「ッ、うっるさいわね……あいつ……」
本性を曝け出したのか、品性も欠片の無い笑い声を上げる魔術師。
何か言い返してやろうか、と魔術師の方を睨み付けた私だけど―――魔術師の背後にいたウサトを取り囲んでいた骸骨達が蜘蛛の子を散らすようにバラバラに離れていく光景が目に入ったことで、さっきの女性の言葉の意味を理解する。
『ハハハハハ!!』
自身の後ろで起こっている異常事態に気付かず笑っている魔術師の背後から、一つの人影が近づく。
彼の姿が鮮明に見えると同時に、どういうことか私達を攻撃していた骸骨達の動きが徐々に鈍っていく。彼が魔術師のすぐ後ろへ迫る頃には、骸骨達は鎖に引っ張られたまま、結界に当てさせられているほどまでに攻撃が弱っていた。
「……たっく、起きるのが遅いっての……って、え?」
意気揚々と軽口を叩く私だけど、俯いた彼の姿を見て慄く。
なにせ、離れているこちらにまで感じられる怒気と血管が浮くほどに力が込められた腕が見えたからだ。
「おい」
『は?』
ドスの利いた声と共に、高笑いをしていた魔術師の背後から伸びた手ががしりと頭を掴む。
『な、な……な、お前は……』
「どうしたの? 笑ってよ。バカみたいにさ。今のうちに笑っておかないと―――」
そのまま魔術師の頭を床にめり込むほどの力で叩きつけた。
大きく砕ける床と、砕け散る魔術師の頭蓋骨を冷たい目で見下ろしたウサトは、いつものような笑みを浮かべながら拳を鳴らす。
「もう二度と笑えなくなるよ?」
人って本当に怒っている時は自然と笑みを浮かべると、どこかから来た旅人から聞いたことがあるけど、今のウサトがその状態なんだろう。
完全にキレているその姿に、私は本当にウサトがここまでキレることをしなくて良かったと心の底から思うのだった。
少し長くなってしまったので、二話に分けました。
予告の部分が入りきらないとは思いませんでした……。
後半は明日の同じ時間帯に更新いたします。




