今日は雨の日 サイドA
ご飯を食べてむせる時。
A ご飯がのどに詰まった時
B 思わず鼻からも噴き出すくらい不味い時
「A」
自信満々に答えると、聞いた方の父は視線をそらした。
「幸せな奴だな」
現実もわからんなんて、と哀れな客の盛大な咳をじっくり眺める。
「子爵様、娘の料理のお代は結構ですよ」
「当たり前・・・っげほげほげぶっふー」
もう十分吐きだしたくせに大げさだな、と見ていると、イケメン子爵様は水を口に含みながら、大きな深呼吸をした。
「ここにはまともな飯はないのか」
「お任せ下さい、只今ご期待に添えるための準備は着々と進んでおります」
私が微笑んでみせると、イケメン子爵は自分で言っておいてぞっとしたような顔をした。
「…あるのか?いいんだぞ、無理をしなくても。僕はなんならシグの家にでもいってこよう。きっとなにかあるだろう」
「今までのはほんの戯れです、6時間前から煮込んだほろほろ豚バラがあるんですよ、ちゃんと」
親父、信用できるのかそれは、と視線を向ける子爵様に、父は一切視線を合わせずに新聞を広げる。
「私が家庭教師をしていたお屋敷のコックに教えてもらった極秘レシピです、お口に合うことでしょう」
「聞く限りは美味そうだな」
「ええ」
「だがやめておこう、僕も多少なりとも学習はする方だ」
前もそれで酷い目にあった、とげっそりした表情で町のパン屋から仕入れたパンをもさもさと貪り始めた。
「三日前の事をぐちぐちと」
「姉上がいっていた。世の中には進歩しないものはないが、例外がある。それはおまえだ。と」
そして、と言葉を紡いで私をみた。
「君の料理の腕もだ。あきらめ給え、適性と言うものがある」
「ばかなことを、ここは定食屋ですよ。そして父は足が動かない、いまのこの店のコックは私です」
味見役がいなくなったら誰がこの作りすぎてしまう料理を始末してくれるのだ。
「失敗なくして、進歩なしです。共にがんばりましょう。馬鹿にした連中を見返してやるのです」
両手を握り、鼓舞するように微笑むと子爵様は唸った後に小さく頷いた。
「…わかった。そういうことなら付き合う事にしようか」
「豚バラもいい香りがしてきましたね、丁度いい頃あいでしょう。やわらかく美味しい事間違いなしです。今準備しますね」
と、ずっと封印していた鍋を開くと同時に若干嫌な予感がしたが、世の中時には知らない事をする事も大事だ。
皿に盛って、ナイフとフォークと共に提供すると、子爵の手にしたナイフとフォークじゃ肉を切るのに10分程度かかることになった。
子爵は口に入れる前に神妙につぶやいた。
「君、あきらめ給え」