ヘライズと融合魔法-
俺達は無事?に入学が出来た。
「ゴホッ。 いやー…いつもジャップの電気は痺れるなー」
ヴィドールは無事かどうかは曖昧だが…。
まあ、水属性のヴィドールが電気に強い抵抗力を身につけて来ているのは本当だし、良しとするか。
「ゴホッ ゴホッ」
そしてジャップは
"やれやれ…いい加減学習しろ"
的な呆れ顔でヴィドールを見ている。
けど…その内側に優しさの温かみがあるのを俺とヴィドールは承知の上だ。
暫くするとジャップから光の粒が現れ、やがて消えた。
トンッ! トンッ!
「改めて…黒沼 氷殿、ヴィドール殿、入学おめでとうございます」
「同じく」
「ありがとうございます」
「ありがとうございますっ!」
トンッ! トンッ!
「これはパンフレットだ。 魔法ライト学園について分からないことがあれば見るとよい」
「同じく」
俺達は爺さんにパンフレットを手渡された。
それは分厚く、結構重みのある物だ。
…見る気はしないな。
「わかりました」
「はい!」
トンッ! トンッ!
「それでだが…疑問に思う点がある筈だ。 ジョブ、説明を」
「お…承知致しました」
―っ、…説明するってか…?
確かに疑問が解決された訳じゃねぇし嬉しいんだけど…。
わざわざ弱みを握らせる様な真似して、何か企んでやがるのか?
……まあ、先ずは聞いてみるか。
「では…黒沼殿。 知りたいことがあれば聞いて下さい」
―ブッ!!?
…俺が聞くのかっ。
てっきり門番が軽く説明して終了だと思った…。
「おーいクロネコ! 何黙ってんだ?」
「いや、ちょっとな…」
顔の前で手を振るヴィドールに苦笑いを返す。
「ん、そうだな…貴方達は魔法制御の物を身に着けているのですか?」
「いいえ、私は着けておりません。 ですが…そちらの門番、ソティ様は着けておられます」
迷いもせず答える門番。
―俺は驚きながら頭を回転させる。
爺さんの方はあの杖が魔法制御であってるだろう。
わかんねぇのは…若い方だな…。
魔法制御以外に魔力を感じさせない例か。
あるいは魔力が無くなる例か。
魔法制御じゃないっつうなら…。
これは只の俺の勘だが、…魔力が無くなるっつぅ方が怪しいと思ってる。
その例となるものが…不死の者、全身変化、ストーンアイ等。
知っているのはこれだけだが、他にもあるだろう。
そしてこのような人達をヘライズと呼ぶ。
俺は見たこともないから詳しくは知らないが…まあ、
不死の者は、魔力を無くす代わりに一生生きてられること。
全身変化は、魔力を無くす代わりに自分が思うなりたいモノに変化できること。
ストーンアイは、魔力を無くす代わりに自分が見たものを意志関係なく石に変えることだ。
―……ん?
ちょ、ちょっと待て。
俺は…気付いてしまったかも知れない…。
若い門番が目を開けない理由として、妥当なものは…?
「っ、…ストーンアイ」
思わず声に出してしまう…。
「っ!? それってヘライズの…!」
パチパチ…
「御名答、素晴らしいです。 あれだけのヒントで答えを出してしまうとは…」
トンッ! トンッ!
「ハッハッハ!! 君たちに興味が湧いた! 今度色んな話しを聞かせてくれないか?」
笑い出した爺さんに、俺はぐっと眉間に皺を寄せた。
「どうして正体を知られたというのに笑っているのですか?」
トンッ! トンッ!
「試していたんだ。 洞察力と知識をな」
「自分の正体をかけてですか? それにもう合格した筈ですが」
―なんなんだこいつ等は…。
トンッ! トンッ!
「ジョブ、今度こそすべての説明を……の前に、移動しないか? ここで立ち話するよりも中に入って説明しよう」
ヴィドールとアイコンタクトをする。
ヴ―どうする?
自―着いて行こう。
ヴ―把握!
「…わかりました。 移動しましょう」
トンッ! トンッ!
「では着いてきなさい」
ズドゴゴゴォォ…
重たそうな音を出して開く門。
「わぁーすげぇ重そうっ」
ヴィドールの言葉に頷く。
トンッ! トンッ!
「こっちだ」
門番の後についていき、学園の敷地内に入った。
―…すごいっ
沢山の魔力の波動を感じる…。
俺達は学園に入ってすぐのとこ、十階建てくらいの建物に入る。
トンッ! トンッ!
「ここは門番の人達が暮らす家だ……おーい!タドリックー!」
「タドリック?」
ヒトの名前か…? と考えていると、一瞬で目の前にアクセサリーを沢山身に付けた長身の男が現れた。
「っ!?」
ヴィドールはかなり驚いている。
長身の男…ここが門番の家ならこいつも門番の一人だろう。
そして、こいつからも魔力を感じない。
…恐らくはそのジャラジャラのアクセサリーが魔力制御の効果を持つ物だからだろう。
トンッ! トンッ!
「悪いんだが……今すぐ門に行ってくれ」
ジャラ
「…報酬は」
―こいつ等会話の前にトンジャラうるせぇなっ!
しかも報酬とるのか!
トンッ! トンッ!
「そうだな…あいつ等なんてどうじゃ?
爺さんが指を差す先を辿る。
「――なっ!! 何で俺達を指してるんですかっ!!!」
「……」
ヴィドールが喚くのを聞きながら俺は爺さんを睨む。
トンッ! トンッ!
「冗談だって! ハッハッハ!!」
ジャラ
「…了解」
俺達を見て頷いた後、アクセサリーの男は消えた。
「……ほほ本気にしてるっ!!!」
ヴィドールの焦る言葉が響く。
消える間際の男の目…あれは確かに本気だった。
トンッ! トンッ!
「まあ大丈夫だろ」
「…理不尽」
もう一度睨みつけてから歩き出した爺さんを追う。
………………
トンッ! トンッ!
「入れ」
「広いっ! 豪華っ!!」
はしゃぎそうな程瞳をキラキラと輝かしているヴィドール。
ちなみに俺達が案内されたのは爺さんの部屋だ。
トンッ! トンッ!
「座りなさい」
「…失礼します」
「わっ! やべぇ、フカフカすぎ!」
どうみても高級ソファーにそれぞれが座ると、話しを始める。
トンッ! トンッ!
「ジョブ、すべての説明を」
「…承知致しました」
俺の向かいに腰掛けているのが爺さんで、ヴィドールの向かいに腰掛けているのが若い門番だ。
「まず……それぞれの合格理由は知りたいですか?」
「―知りたいっ!」
「っ、…」
いきなり立ち上がり挙手するヴィドールにソファーが波を打つ。
一緒のソファーに座っていた俺はいきなりの事にバランスを崩してしまった…。
「あ、悪い。 気になってさ、あーはは…」
「…別に」
すぐに落ち着いたヴィドールは俺に気付くと謝った。
「ではヴィドール殿。 話しても大丈夫ですか?」
「はい!」
「精霊にランクがあるのを知っていますか?」
「はい」
「では…知っているかもしれませんが、S級ランクの精霊と契約する者はもちろん、遭遇する者すら極僅かしかいないのです」
「え、知らないっ!! そうなんですかっ!?」
「はい。 その点も含めてですが、ここからが重要です。 ヴィドール殿は当たり前の様に使用していましたが……精霊と、自分の魔法を融合させる事はとても難しい事なのです」
「っ!!」
「言葉を話せない精霊と意志疎通をし、どちらとも信頼し合ってる時に出来るのが精霊との融合魔法です」
「……」
「多くの者は精霊との意志疎通が壁で、出来る者は少ないのです。 それにランクが上がる程気難しくなるのが精霊…。 S級精霊との融合魔法が可能なヒトはほんの一握りしかいないのです。」
「っ、……ジャップ」
門番の話しの途中で俯いて、ヴィドールは言った。
「…―ありがと」
涙を堪えて呟く言葉は喜びと感動に震えている。
―俺は微笑ましい光景に心が温まるのを感じた。
…いつも戦闘になると弱気なヴィドールだが、少しずつ……今も心の中で見守り続けているジャップのお陰で、確かなる勇気をつけていっている。
「これがヴィドール殿の合格理由です。 黒沼殿の理由もお聞きしますか?」」
「いや、俺は大丈夫です」
―それよりも……
「貴方は、ヴィドールの融合魔法を正面から受け止めたにも関わらず、傷一つありませんでした…。 どういうことですか?」