召喚勇者は目立ちたくないので暗殺者にジョブチェンジしました。
鈴村ミコトは目立つことが嫌いな少年だ。だから、勇者になんてなりたくない。クラスメイトと共に異世界召喚されたミコトのジョブは勇者であった。だが勇者は嫌だ。だから、ミコトは勇者のジョブを暗殺者に変更した。幼馴染の鼓山カナデからは逃げ、友人の琴原ユウジとともに旅に出ることにした。ユウジもまた、目立たないようにジョブを変えているのだった。
※細かいことは気にせず読んでください。
※一度手直しのために削除した後の再上げです。
小さいころから、鈴村ミナトは目立つことが苦手な男の子だった。人前に出れば心臓がバクバクと鳴って倒れてしまったり、過呼吸を起こしてしまうからだ。本人はそうなりたくないと思ってしまうのが、より一層その気質に磨きがかかった。
(い、いやだ……俺が、俺が勇者なんて……!)
数分前、ミナトは学校にいた。クラスにはそれなりになじんでいるミナトは、同級生から挨拶を交わして席に座った。目立たないためには、ある程度のコミュニケーションが必要だ。無視したり、変な挙動する方が目立ってしまう。だから、ある程度は仕方ないとむしろ率先して行っていた。
そんな、普通の日だった。おかしな日に変わったのは、その直後の事だった。ミナトは、クラスメイト全員とともに、異世界に召喚されてしまったのだ。
教室の床が光りだしたのを見た誰かの焦った声を聴いてミナトは逃げ出そうとした。でも廊下には出れなくて、一層輝いたと思ったら、見知らぬ場所に飛ばされていた。
そこにいたこの国の姫と王子を名乗る人間と、それを補助した人間の話から、ミナトたちは異世界に召喚されたのだと分かった。その目的が、勇者と聖女の確保であった。
人間たちに従うままに、クラスメイト達が自分のステータスを確認していく。ミナトも自分のステータスを確認したところ――ジョブが勇者であることを確認した。
(目立ちたくない、俺、やりたくない……!)
どうしたらいいのだろうか。ミナトは考えながら周りを見渡した。自分のステータスを確認しながらみんな熱心に自分たちのゲームや漫画知識から内容を紐解いていくのに夢中だった。その中で、一人の女子生徒が声を上げた。
「あの、私、ジョブが聖女って書いてあって……」
その生徒のことをミナトもよく知っている。彼女は、ミナトの幼馴染である鼓山カナデであった。カナデは正義感と使命感あふれる女性で、将来は医者になることを目指して勉強している。
ミナトはカナデのことが、苦手だった。
(も、もっとむり~~~~~!!!!!)
カナデはミナトの目立ちたくない、人前に立ちたくない気持ちを、我がままだと決めつけていた。何度もカナデの無茶ぶりにつれていかれては体調不良で倒れ、カナデの両親から謝罪されることが度々あった。ミナトは高校入学してからカナデとはクラスメイトの距離を保ち続けた。目を付けられない距離で、ある程度の克服をしたように見せかけたのだ。
おかげでカナデの過干渉は減ったが、あくまで減ったに過ぎない。今でもきっかけでカナデがミナトを表舞台に連れていこうとする気配はずっとあるのだ。
もしもミナトのジョブが勇者であることがばれたら。もう、ミナトは悲惨な生活を送る未来しか見えなかった。
(……ステータスって、隠蔽とか改ざんとかできないのかな……おや)
カナデのステータスが魔法使いたちによって皆にお披露目された。それが正しいものだとして、カナデは聖女として認められることになった。クラスメイトが拍手を送る中、ミナトはステータス画面に触れた。
ジョブの勇者を指でなぞる。そうすると、ポップアップ画面が出てきた。
『ジョブを変更しますか?』
え、ジョブって自分で変更できるの?ミナトはそう思いながら、勇者よりましだと思って『はい』を押す。さらなるポップアップ画面が出てきた。そこには就くことのできる職業がずらりと並んでいた。
(ここから好きに選べるのか?もしかしたら、このまま勇者だとバレないのかも)
ミナトはその中で、一番勇者から遠そうな職業を選んだ。暗殺者だ。
(暗殺者が勇者だなんて誰も思わないでしょ。それにこの並びからして……)
「ねぇミナト!」
「うぇ!?」
いつの間にか、側にカナデが来ていた。カナデはにこにこしながらミナトの腕を掴んだ。嫌な予感がした。
「ねぇ、ねぇ、ミナトが勇者なんでしょ?ずっと難しい顔しているし!ミナト昔からそうだよね、難しい問題にぶつかると考え込んで固まっちゃうの!でも大丈夫だよ!あたしが聖女として導いてあげるからね!」
周りのクラスメイトが、カナデを止めてくれようとしているのが見えた。入学した直後、カナデがミナトに無理強いをしたせいでミナトが発作を起こすところを見ているからだ。だから、ミナトはカナデを苦手だとみんなが知っている。知らぬのは本人だけだ。
「落ち着けよ鼓山、ミナトがびっくりしてんだろ」
助け船を出したのは、ミナトの友人の琴原ユウジだ。ユウジもまたミナトの幼馴染の一人であり、ミナトの体質をよくわかっている人間だ。だから、カナデの起こす行動が、ミナトの負担になることを良くわかっている。
「ミナト、お前は勇者じゃないよな」
「う、うん、俺は勇者じゃない」
「嘘だ!だってあたしが聖女なんだからミナトが勇者に決まってんじゃん!」
なんで?と周りが思っていても、カナデは自分のいう事が正しいかのように言ってのける。こういうところも、ミナトがカナデのことを苦手だと思う一部だ。
「……ああ、本当に、彼は勇者ではないですよ。落ち着いてください聖女様」
静観していた召喚した側がさすがに動き、一人の魔術師がミナトの鑑定を施した。自分のステータスは簡単に自分で確認できるが、人のステータスを見る時は鑑定と言う魔法が必要になる。その人は鑑定魔法をメインに活動する魔術師らしい。
「そ、そんな……」
「今回は勇者様にお越しいただけなかったかもしれません。殿下、どうしますか」
その人はそのままそっとミナトとカナデに距離ができるように、カナデの背中を押してその場を離れていった。ミナトはそのしぐさにほっと息をついた。おそらく鑑定するまでもなく、ミナトが緊張して爆発寸前だと気が付いたのだろう。
「もしかしたらまだ勇者に至っていないのかもしれません。皆様、特に剣士職の方にお願いがあります」
そこから、この国が現在魔族による侵略を受け続けていること、定期的に異世界から勇者を呼んで手を貸していることなどを聞いた。この世界の人間だけでは太刀打ちできない問題を神から受け取った召喚魔法を使って解決してきたのだとも。
ミナトはちらりとユウジの方を見る。ユウジは「俺は魔法使いだったぜ」と言っていた。意外だった。ユウジは陸上部員だ。てっきり近接戦闘職だと思っていたのだ。
「勇者と言うのは剣士職の上位職に当たります。レベルを上げ続け、素質のある人が進化するのです。そのため、剣士職の皆様が、まだ勇者に至っていない可能性があります」
つまりは勇者になるためにレベルを上げ続けてほしいのだという事らしい。ミナトはそれを聞きながら、とっさに選んだ暗殺者って何の系統なのかしらと考えていた。盗賊とかの犯罪系の可能性がある。しかし先ほどの魔術師はミナトに不快感を示していなかったので、この世界では普通にある職業なのかもしれないと思った。
「今日は急なことでお疲れでしょう。部屋を用意しました。ゆっくりお休みください」
そして明日また話をしましょう。王子はそう締めくくり、姫と一緒にその部屋を後にした。
*****
「え、ユウジの職業って賢者なのか」
「ああ、なんか偉そうだったから、魔術師ってことにしておいた」
部屋は二人一部屋だったため、ミナトはユウジと同じ部屋になった。そうしてこそこそと小さい声で話し合う。
とっさに暗殺者と言う職業になったからか、ミナトは人の気配にとてつもなく敏感になっていた。この部屋の天井に一人、窓の外に一人、廊下に一人気配があるのだ。だから、ひそひそ話なのだ。
かえって怪しいかもしれないが、しかし他のスキルはどう使えばいいのか今のところ分からないため、仕方なく、今回はこのまま進めることにした。
そこで判明したのが、ユウジが賢者だという事だ。
「いやでもユウジ結構頭いいもんな、納得はできる」
「……んでよ、ミナト、お前が勇者なんだろ?」
ひそひその中でもさらに小さい声で、耳元でそう言われてミナトはぎくりとした。
「スキルで、鑑定……さっきの魔術師が使ってたやつを申し訳ないがお前に使った。お前なら許してくれるだろうと思って……それでジョブが……」
「そうか……いいよユウジだったら。カナデだったら金切り声上げてたかもしれない」
「でも今は暗殺者」
「勇者とかけ離れてるだろ?」
目立ちたくない。だから隠密の道を行く。ミナトはとっさに選んだジョブだが自分にあっていると感じてた。暗闇の方が安心するのだ。明るい場所は、緊張してしまう。
「おーけー、話は分かったぜ親友。お互い隠し通そう」
「……でも賢者は隠さなくてもいいんじゃ?」
「ヒント、聖女が鼓山」
「それ正解ってやつでは?」
勇者でなくても、賢者がすごいジョブなのはミナトもユウジもわかっている。もしもこれがばれたら、待遇がカナデ同様になるかもしれない。カナデは聖女だと分かったから、王子と姫がいる場所に案内されていたからだ。
「剣士職のやつらがかわいそうだな。これからどうなるんだろ」
「さぁ、なるようになるだろ」
目立ちたくない男は勇者になりたくない。目立ちたくない。適度な場所で適度に生きたい。たったそれだけの願いなので、これをどうにか守り抜きたい。聖女がカナデである時点で不安だが、抜け道があるならここから逃げ出すのも手だ。冒険者とかになれるなら、そっちも楽しいかもしれない。でも目立たず、地道に生きる。それが、ミナトにとっての幸せであると思っている。
「明日また集まって説明を聞くんだろ、どうなるんだろうな」
「どうにかなる、で済めばいいんだが」
おなか一杯になるだけのご飯が与えられた。定期的にメイドたちが飲み物を補充しに来てくれる。何やら監視している人が数人いるが、それさえ出し抜ければ問題はないだろう。
「俺は暗殺者」
「俺は魔法使い」
暗示のようなものだった。でも、それで通そうと決めたことなので。
二人はこの後すぐに寝た。
*****
「魔法職、その他職の皆様おはようございます。私はこの国の第一王女、クラリスと申します」
小さく礼をした女性は、彼らが召喚されたときに王子の隣にいた姫だった。服装からして姫だなとミナトが思ったので姫としてきたが、本当に姫だった。
「剣士職の皆様とは別個に、皆様にご説明いたします」
この世界のこと、そしてこれからのことの話であった。この国は世界の中でも随一を誇る大きさの国であり、魔法、剣、生産系統、そのすべてが均等に整った国なのだそうだ。強いているなら特筆して優れたものがない。しかし上位陣の個々の強さはそれなりであり、そのおかげで国を保っているそうだ。
この場にいるのは15名だった。クラスは30名いたので、ちょうど半分だ。逆に言えば14名が剣士職であることに驚く。1名は聖女だ。
「魔法職、生産職の皆様には、それぞれ選択をしていただきます」
この国は魔族からの被害を受けている。国を奪われんとしているのだ。だから国は勇者を求めた。聖女を求めた。過去に有益だったから今回もした。
こんなにも多くの人間が召喚されたのは初めてらしくクラリス王女も困惑していたそうだが、それ以上に召喚された30名はもっと混乱しているだろうと支援を決めたそうだ。
「勇者候補である剣士職の皆様とともに魔族軍と戦うか、それとも一国民として生活を支えるか、です」
求めていたのは勇者と聖女である手前、剣士職の育成が中心になるとのことだった。魔法職は国にも有能な人材がいるから無理に戦う必要はない。クラスメイトが戦うというのにそんなことでいいのかと誰かが言ったが、ここにいるクラスメイトのほとんどが、クラスの中でもおとなしい部類の人間ばかりだった。
「俺は城を出て冒険者に成れたらいいなと思ってます」
挙手をして、ユウジがそう言い切った。ミナトはそれを聞いて、「俺も」と続けた。先に言い出してくれるのはありがたい。追従するのはとても楽だ。同じ気持ちだからこそ、ほっとする。
「私は、自分の力を確かめてから、決めたいです」
次に挙手したのは図書委員の笛川アズサだ。おとなしい性格で本が好きな彼女だが、メガネの奥の目がらんらんと輝いていた。ミナトは、あー、と思う。アズサはいろんな本を読む。もちろんライトノベルも漫画も、である。
今の状況を楽しんでいるのは何もアズサだけではない。アズサの言葉に反応して、何人かも同調した。あとの何人かは城をでて旅をしてみたい、冒険者もいいかもしれないと言った様子だった。すぐさま、みんなの役に立ちたいとは誰も言わなかった。
けれどもクラリス王女は優しく微笑んでいた。
「では城を出たい方向けに装備や旅の準備を整えましょう。残る方にも自分の力を精一杯発揮できるような場所を設けます。存分に力試しをしてください」
止められなかったし、背中も押された。一部の異世界召喚物の話にあるような、威圧的な権力者ではないことにミナトは感謝した。その調子でカナデのリードもしっかりと引っ張ってもらいたいものだ。ミナトはそう思った。
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それから、基本的なスキルの使い方、魔法の使い方のレクチャーを受けて、ミナトとユウジは城を出た。出ることでカナデが何か言ってくるかと思ったが、どうもカナデは聖女としての教育を今しがた詰め込まれているらしく、クラスメイトの前には出てこなかった。それにほっとしながら、ミナトは空を見る。
――ここから、一瞬で勇者を辞めた少年が、友人とともに冒険者として着実に生きる物語が始まる。その先にあるのは幸か不幸か。その未来は、誰にもわからないのだった。
最後までご覧いただきありがとうございます。
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今回の名付け方:和楽器。鈴、鼓、琴、笛




