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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

檻の中の君へ、届かないこの言葉を。

作者: 紫姫波
掲載日:2026/03/21

まだ完結ではないです。

1週間おきぐらいに更新しようと思っています。

●●●〜●●●の間が少女視点になってます。


ぜひ最後まで読んでくれたら嬉しいです。

震えそうになる自分の手を握り締め、

「ねぇ、外に出ない?」

私は目の前にいる少女に笑いかけた。

やっと、此処から出られる・・・そう、思いながら。


【五歳】


「セイラ、お前は聖女なんだ。だからーー」

男の人が、私に手を翳す。


「ーーはっ!」

目が覚めると、そこには見慣れた天井があった。


「ひさしぶり、このゆめ、みた」

服がぐっちょりと汗で濡れている。

真っ白の服と素肌の間に空気を入れるように、

ぱたぱたと服を動かす。

ふぅ、と浅く深呼吸し、心を落ち着かせる。


ガシャン

少しの機械音。

静かに部屋のドアが開く。

「セイラサマ、チョウショクデス」

いつもご飯を持ってくる、“ロボット”だ。

椅子に腕をつけたかのような形の“ロボット”。

触ってみると、とても硬く、冷たい。

「ありがとう」

“ロボット”にお礼を言う。

けれど、いつも通り、返事などしない。

“ロボット”は僅かな機械音だけたてて、出ていった。


ーーこの塔は、機械で溢れていて、人間なんか、見たこともない。

本の中の子達のように、誰かとご飯を食べたことなんかない。

自分の身長の半分くらいの高さの椅子によじ登って手を合わせる。

「いただきます」

東にある国では、こうして食前に祈るらしい。

パンをちぎって口に運び、味の薄いスープを飲む。


作ってから時間が経ったのだろう。

冷めたスープはいつもの味だった。


「ごちそうさま」

ご飯を作ってくれているのも、“機械”なのか?

そんな事を考えながら、食後のお祈りをした。


カーテンをサッと開ける。

外の濃密な朝の光が部屋の中へと入り込む。

檻のように金属の格子がはられた窓から外が見える。

小さな世界に住むこの頃の私は、

外は全てが輝いて見えた。

「そら、きれい。そと、いきたいなぁ」


白い鳥が連なって遠くへ飛んでいく。

その時、太陽の光が鳥に反射した。

白かった鳥は、銀色になったみたいに、輝いた。


「うわぁ・・・!」

私は、目をきらきらさせながら飛んでいく鳥を見つめていた。

この塔から見える外の景色は、

綺麗な空と深い緑の森だけだ。

それだけでも、私を外の世界へ魅了していた。

そして同時に、窓にはられた鉄の格子は、

私を縛り付ける“檻”のように感じた。

そう自覚すると、少し気分が沈んだ。


「ほん、よも」

気分を変えるために、塔の図書室へ行くことにした。


たんたん、と石で作られた階段に足音が響く。

螺旋状になった階段の底は、不思議な怖さが漂っていた。

ずっと覗いていると、吸い込まれそうな錯覚がする。

・・・あの夢を見た後のこの階段は、いつもより怖く見えるのだ。

「・・・」

下から感じる、得体のしれない怖さを無視して、

図書室に繋がる通路のドアを開けた。


「いたっ!」

本の紙で指を切ってしまった。

ぷくっと赤い血が膨らんで、指を伝う。

指に赤い血の道ができる。


「なに、これ」

指先がジンジンと熱を持つ。

「はっ、はっ、」

初めて見た血、痛みに呼吸が荒くなる。


怪我をしていた部分に光が集まった。


光が消える。

閉じていた目を開けると、指は綺麗に治っていた。


「なおってる・・・」

それも綺麗に。

治そうとなんて、思ってない。

でも、痛くて、怖くて、それで、気づいたら・・・

「・・・すごい」

思わず呟く。


「これは、まほう・・・?

まほうだ!できた・・・まほう・・・かな・・・?

なおった・・・?・・・へんなの」

目の前で起きた光景が未だに信じられなくて、

綺麗に治った指を見て、そう、繰り返していた。


「つぎは、どのほんよもうかなぁ」

スーッと並べられた本に指を滑らせる。

次に読む本を広い図書室で探す。

もう文字は読める。

タン、タタンッ、とスキップしながら図書室を進む。


カカンッ

「・・・なに?」

一箇所・・・二メートルくらいの範囲が踏んだ時の足音が違ったのだ。

「?」

カン、カン

もう一度踏んでみる。

よく聞くと、金属のような音がする。


しゃがみ込んで、変な音のなる床を調べてみる。

床に耳を当ててみる。


『・・・た・・・て!!!・・・か!!!』


何か聞こえる。

なんだろう?

何故だか、この音を聞いていると悲しくなってくる。

ぞわぞわと鳥肌が立つ。

急に怖くなってきた。


「・・・へやにもどろう」

怖くて、不安になってきて、陽の当たる部屋に戻ろうと、階段に繋がるドアを開けた。


「・・・・・・や!・・・だ・・・か!!」

あの不思議な怖い声が螺旋階段の下からも聞こえる。

さっき聞いたのよりも、ずっと小さく聞こえる。

階段の下の方がいつもより暗く見える。

ーーーこわい!!

なんだか、聞いているだけでぞわぞわする。

泣きたくなってくる。


「・・・なにが、あるんだろう」

ふと、気になった。気になってしまった。

もう、怖さは消えていた。

悲しそうな音に誘われるように、階段を降りていく。

深く、暗い闇へ、降りていく。


タン

最後の段を降りる。

遂に、一番下まで来た。


「・・・して!!だ・・・か!!こ・・・ に・・・!

だ・・・て!!!」

不思議な音もすぐ近くに聞こえる。

これは、声・・・?


壁から突き出た階段の下に、隠れるように、

その扉はあった。

金属で出来た、とても重厚な扉だ。


「うぅーん」

扉に体重をかけて開けようとする。

しかし、五歳の体重ではあまり意味はなく、

扉は少し動いただけだった。

でも、此処まで来れば、何と言っているかは分かる。


「たすけて!!だれか!!だして!たすけて!!」


・・・助けを、求めている・・・?


胸がきゅっと締め付けられる。

ーーひとりぼっち、なんだ。

体の奥から熱いものがふつふつと湧き上がってくる。


・・・助けなきゃ!


「ぬぅぅーうー、がぁぁぁ!」

渾身の力を込めて、扉を押す。

やっと開いた隙間に、サッと体を入らせる。


入った部屋は、紙や資料がぐちゃぐちゃに積み重なっていた。

錆びた、鉄の匂いがする。

部屋の、窓にはられた格子と同じ匂いが。

奥に檻が見える。

そして、声のする方には・・・


「「え?」」


私と同じ姿をした少女が、困惑した表情で此方をじっと見ていた。


「「あの、」」

2人して同じことを喋ってしまう。

声も姿と同様、同じなようで、重なると一人が喋っているように聞こえる。


「あ、あなた、だれ?」

びっくりしてお互い沈黙を破れずにいたが、

目の前の少女が先に沈黙を破った。


「わ、私はセイラ!!ひと?ひとだ!!

にんげん・・・!あはっ、あははははっ!!

やった!私、ひとりぼっちじゃない!!」

気づくと、視界が涙で滲んでいた。


「・・・セイラ・・・?」

“ロボット”じゃない、“人”がいた。

そんな事で舞い上がってしまった私の名を、

その少女は遠慮がちに呼んでくる。

檻にぐっと近ずき、少女の目の前で、

「うん!セイラ!私は、セイラ!」

未だに困惑している、私とそっくりなその少女に、

笑顔でそう答えた。


【六歳】


「やっほー」

「・・・また来た」

私が扉を開けると、呆れたような顔で、私の姿をした少女はそう言った。


「で、今日はなにをもってきたの?」

私が背中に隠していた手を見てそう言う。

興味津々、といった感じだ。

・・・ちゃんと楽しみにしてんじゃん。


「今日はね・・・じゃーん!」

後ろ手で隠していた籠を目の前に突き出す。

「・・・中、見えないけど」

・・・また呆れられた気がする。

「ごめんごめん。今日はね、私の作ったクッキー!」

得意になって籠に被せていたクロスを勢い良く取る。

中には、ちょっっと不格好だが、ナッツの入ったクッキーがあった。


「セイラの作った、クッキー!?おいしいの?それ!」

え!?と、驚いたふうに、少女はそう言った。


「え?」

おいしく、無さそうだってこと?

胸の奥がキュッと縮んだ。

見開いた目から大つぶの涙がこぼれた。


「せ、セイラ・・・?」

少女は困惑している。

私がこんなに傷つくと思わなかったのだろうか。

「ちょっ、まっ、な、なかないで!ちがくて、その」


「べつに、いいもん!」

クッキーの入った籠を少女に・・・少女の入った檻に投げ、振り返りもせずに、地下室を出た。


●●●

「行っちゃった・・・」

わたしは、地下室を出ていくセイラを、見つめることしかできなかった。


悪気は無かった。

初めて人にクッキーを作って貰ったから。

嬉しくて。

でも、機械の作った完璧なものしか食べてこなかったから、少し不安で。


・・・こんなの、ただの言い訳だ。

セイラが泣いた。

わたしがたとえ、どんな思いで言ったとしても、セイラが傷つき、泣いたのだ。


謝りたい。


セイラに会って、謝りたい。

「うあぁぁぁぁぁ」

なんでだろう?

涙が止まらない。

“喧嘩”って、こんなに、辛いんだ。


謝りたい。なのに、ここから出られない。

ガンガンと目の前の檻を拳で叩く。

「うわぁぁぁ」

ボロボロととめどなく涙が溢れてくる。

目の前の檻がこれほど嫌におもったのは、初めてだろう。

「また、きてくれるかなぁ?」

喧嘩したのに、会いに来てくれるのか?

悲しみの後に来た感情は、不安だった。


「あれ?これって・・・」

そんな時、見つけた。

セイラが投げて行ったクッキーの入った籠だ。

それが、檻のすぐ前・・・私にも手が届くところに落ちていた。

●●●


ぐすぐすと鼻をすすりながらコンコンとドアを叩く。

すると、ロボットが出てくる。

「ドウイタシマシタカ?セイラサマ。

ゴハンハマダデスヨ?」

おたまを持ったロボットが聞いてくる。


此処は、塔の厨房だ。

「もういっかい、クッキー、つくりたいの!」


もう一度ロボットに教わりながら、クッキーを作る。

まぜて、こねて、のばして・・・


「できた・・・!」

さっき焼いたのよりも綺麗なクッキーができた。


「なかなおり、できますように・・・!」

もう私の事なんか、嫌いになってるかもしれない。

会いに行くのも、嫌と思われるかもしれない。


だけど、仲直りしたい。

この塔で出会った、初めての友達だから・・・!


深くそう祈ると、クッキーが仄かに光った気がした。

「?なんだろ?いまの。みまちがい?」


不思議に思ったが、すぐに光は消えたので気のせいかと考え直す。

それに、そんな事よりも大事な事がある。


私は、クッキーを籠につめて、地下へと向かった。


「セイラ!」

檻の方から私を呼ぶ声がする。

喜びと安堵の入り交じった声だ。

ゆっくりと、俯いていた顔を上げる。


少女は、笑顔だった。

「お、おこってない?」

「おこってないよ」

「私のことなぐりたいとか思ってない?」

「あたりまえでしょ」

「・・・きらいって言ってごめんなさい」

「わたしもひどいこといってごめんね」


仲直り、できた。

それが、とてつもなく嬉しいのだ。

暖かい涙が頬を伝う。

「うぁ、ぁぁぁ」


悲しくないのに、なんで涙が出るんだろう?

嬉しいのに、なんで泣くんだろう?

不思議。

不思議だけど、暖かい。


二人で泣いた。

悲しくない涙を流した。

たくさん。


「あれ?その籠・・・」

やっと気づいた。

私が放り投げて行った籠の中身が、

空っぽになっていることに。

「なんで・・・」

籠は檻の前に転がっていた。


「・・・たべた。たべたよ。セイラの、クッキー」

「・・・へ?」

「わたしが、たべた。

セイラがどこかへ行ってるときに」

「たべて、くれたの・・・?」

「うん。おいしかったよ。ありがとう」

食べてくれた。

嬉しい!

泣いていた顔が嘘みたいに笑顔になる。


「あの、もっかい作ってきたの。クッキー」

だから、

「いっしょにたべよ?」

声をかける。

今度は少女の顔がパアッと笑顔になる。

「うん!もちろん!」


二人で本を読みながらクッキーを食べる。

ちょっぴりかたいクッキーは、

私達が食べたものの中で一番美味しいものだった。


次の日、少女の髪が綺麗になっていた。

少女も何故だか分からないらしい。

なんでだろ?


【九歳】


●●●

「本読も!」

扉からひょこっと頭を覗かせる可愛くて、優しくて、ちょっぴり泣き虫な少女は、セイラ。

わたしの親友。

髪はツヤッツヤでなんかいい匂いがして、

目は金色で喜ぶとキラキラ光って可愛くて、

声は鈴を転がしたような澄んだ可愛い声で・・・

「今日は何を持ってきたの?」

心の中で大絶賛を送ってるなんて悟らせない声で会話する。

セイラは檻の前までタッと走ってきて、

持ってきた本を開く。

「今日はね・・・鳥さんのお話だよ」

鳥・・・。

本の表紙に書いてある翼の生えた生き物を想像する。

・・・?

今わたしの指が勝手に動いたような?


セイラが本を朗読し始める。

「鳥には翼があって、翼を使って空を飛ぶ・・・。

凄いね!鳥さん!

えっと、空には障害となる物もなく、鳥は自由に飛び回ることができる・・・」

そこで、セイラの声が途切れる。

どうしたの?

「いいなぁ。鳥さんは自由で。

私も自由に空を飛び回りたい。

・・・って、此処から出ないと飛べないんだけどね」

ははっ、とセイラは力なく笑った。

無理して笑ってる。

馬鹿だな、セイラは。

此処から出るなんて。

外はどんな危険があるかも分からないのに。

あやす様にセイラの頭を撫でる。


でも、セイラがそう言うんだったら、

「外に出る時は、私も連れてってね。親友でしょ?」

わたしも一緒に。

そう笑うと、セイラの目に涙が溜まり始める。

泣き虫だなぁ、セイラは。

「当たり前!」

ニカッと今度は心からの笑顔でセイラは笑った。

わたしの一番大好きな笑顔で。

●●●


【十歳】


「今日も本読も!」

今日持ってきた本は『救国の乙女』という童話だ。


ぱらりとページをめくる。

ーーこの頃の私達は、この本の内容がどれほど重要なことか分かっていなかった。


『救国の乙女』

昔々、ある一人の美しい少女がいました。

少女の生まれた国は不作が続き、

平民はその日の食べ物にも苦労する様な日々が続いていました。


少女の両親は苦しむ者がいれば、自分達の食糧をあげてしまうような優しい人間でした。

もっと、平和な世であれば報われたでしょう。

しかし、当時の厳しい世界では生きて行けません。


両親は病気になりました。

苦しみ喘ぐ両親を前にして、

少女は疑問が沢山ありました。

なんで、

こんな優しい人たちが苦しまなければいけないの?

なんで、

こんな優しい人たちが傷つかなければいけないの?

なんで、なんで、なんで・・・?


自分達の治療費まで他人にあげてしまった両親は、

あっさりと亡くなってしまいました。

少女は、泣いているだけで何も出来なかった自分を

悔いました。


身寄りのない彼女は働き始めました。

戦場で。

傷ついた兵士を治療する仕事です。

戦場もまた、地獄でした。

手足がなくなっても戦いに行かされるのです。


彼女は自分に誓いました。

この世界を救う、と。

戦争を無くしてやる、と。

彼女を見た神は彼女に光の魔力と、

彼女の愛したものに祝福を与える加護を授けました。


彼女は光魔法を使い兵士の傷を全て癒し、

祈ることによって神に愛国心を示し国に祝福を与えました。

彼女のおかげで豊かになった国は戦争を止め、

隣国と和解し、褒賞として彼女に伯爵位を与えました。


彼女は後に戦場で出会った兵士と結婚し、

伯爵家は今にも続いています。


彼女の名はセラフィーナ。

国を救った乙女です。


「ーー彼女は後に聖女と呼ばれ、

稀に彼女の血筋のものが神の愛し子となる。

だって!すごいねぇ、聖女!」

読み終えた童話は信憑性など全くないありふれたものだったが、私には輝いて見えた。

「セラフィーナ、か」

目の前の少女がふと呟く。

「なんかさ、似てるね。セイラとセラフィーナ」

「そう!?どんな所が!?」

「名前」


二人でお腹を抱えて笑った。

馬鹿みたいな話題だったけど、

おかしいくらい面白かった。


あぁ、こんな日々がずっと続けばいいのに。


【十一歳】


「今日は魔法の本!」

じじゃじゃーんと少女の前に本をつきだす。

もう開く前からわくわくしてたまらない!


「・・・じゃあ、開くよ・・・」

思わず生唾を飲んだ。


「えっと、

皿を洗う魔法(水魔法)

マッチほどの火を指に灯す魔法(火魔法)

埃を集める魔法(風魔法)

え、っと、

本を開く魔法(風魔法)

服を濡らす魔法(水魔法)

髪をチリチリにする魔法(火魔法)

部屋を真っ暗にする魔法(闇魔法)

え、?

誕生日を調べる魔法(光魔法)」

「・・・誕生日なんて調べてどうすんの」

「さぁ?」


なんでだろう。

その魔法に、少し引っかかった。


「次行くね・・・汚水を出す魔法(水魔法)

・・・はぁ!?」


キレた。

もうブチ切れだ。

期待してた分。

「汚水を出す魔法なんて何処で使うのよ!」

隣で少女が笑っている。


「セイラ、それ、その本。

題名っ、はっ!あははっ!」

題名?

開いていた本をひっくり返してみると、、、

『クズ魔法、集めてみました!』


・・・はあぁぁぁ!?

※後でちゃんとした魔法の本を読みました。


【十二歳】


「そういえば、あなたに名前はないの?」

「今更すぎない?」

言われてみれば。

めちゃくちゃ今更だ。


「・・・無いよ。名前なんて。

そもそもセイラはなんで自分の名前知ってるの?」

その言葉に少しだけ考えさせられる。


「ロボット、かな。

ロボットが私の事セイラって呼んでたから」


「・・・わたしの所に給仕に来るロボットは、

わたしの名前なんて呼んだことないよ。

強いて言えば、カンサツタイショウとか、くろーん?だっけ。そう言われてる」

「カンサツ?観察対象?くろーん?

いや、それは名前じゃないでしょ」

でも、そうだとすると、おかしい。


なんでこの子には名前がないの?


私にあって、少女にはない、名前。

私は塔の中なら何処にでも行けて、少女は檻の中。

私は定期的に髪を切られるけど、見たところ切られた形跡がない少女の長い髪。

そしてなにより、私達の同じ顔。


「・・・分かんないよ・・・」

いくら考えても分からない。

そもそもなんで私達はこの塔に閉じ込められてーー

「はい、この話終わり!一緒に本読も、セイラ!」

ぱんっと手を叩いて私の思考を少女が区切る。


「うん・・・」

わざわざ空気を入れ替えてくれたのに、

こんな弱々しい返事しか出来なかった。


【十三歳】


今日は昼食を急いで食べて早くあの子の所に行こう。


ロボットがご飯を持って来てすぐに食べ始める。

口いっぱいに詰め込んで、飲み込む。


「じゃ、ご馳走様!行ってきます!」

手を合わせて勢いよく立ち上がる。

「セイラサマ、ドコへ?」

片付けをしているロボットが聞いてくる。


「・・・図書室だよ。本を読みに行くの」

少女の事はロボットには話してない。

秘密にしてある。

バレたら何をされるか分からないから。


「・・・ソウデスカ。イッテラッシャイマセ」


階段を降りて、図書室のドアを開ける。

今日一緒に少女と読む本を選んで、奥へと進む。


「・・・此処だ」

小さい頃、不思議に思った、床。

少女の声が聞こえた、床。

カンカン

叩くと鉄の音がする。


床に貼られた木の板を剥がす。

思った通り。

板は簡単に剥がれ、鉄の扉が現れた。


「うんしょ、っと」

鉄の扉を押し上げると、長い梯子が出てきた。


「わぉ。底が見えないや」

覗いて見ても、真っ暗で底が見えない。

これを、今から降りるのだ。


ぐっ、ぱっ、と手を握ったり開いたりしてみる。

「体力持つかな・・・?」

まぁ、ものは試しだ。

私は地下室に繋がっているはずの梯子を降り始めた。


「あと、少し、っ」

下に光が見えてきた。


「腕、きっつー」

階段で降りる何倍も早いけど、もうやりたくない。


たんっと着地する。

ぐるぐる腕を回す。

「明日は筋肉痛だな・・・」


辺りを見回す。

資料や書類等の紙が沢山散らばっている。

塔の地下、檻の前の研究室だ。


「ちゃんと着いた・・・」

これで違ってたら絶望だ。


「セイラ・・・?」

廊下の奥から聞き慣れた声が聞こえる。

本を抱え直し、檻を覗く。


「来たよ!」


「・・・早いね。随分と」

「ご飯を急いで食べて、

階段じゃなくて、梯子で来たの」


少女は黙り込んで、何かを考え始めてしまった。

「・・・どうしたの?」


●●●

「・・・セイラ!早く此処から離れた方がいい!」

わたしは焦ってそう言う。


「なんで?」


言う通りに行動してくれないセイラに対して少し苛立ちを覚える。


そんな事説明してる時間、ないのに・・・!


「あぁもう!わたしの所にはまだお昼ご飯が、

ロボットが、来てないの!

見つからないように、此処を離れて!

隠れて!急いで!もうすぐーー」

「カンサツタイショウ、オショクジヲオモチシマシタ」


あぁ。

もう駄目だ。

セイラは唖然として突っ立っている。


ロボットが動いてーー

「セイラサマ、ココデナニヲシテイルノデスカ?」

食事を置いて、空いたアームでセイラを掴む。


セイラが此方を見る。

揺らいだ金の瞳が、怖いと語っている。


「ヘヤニモドリマショウ、セイラサマ」

ロボットがセイラの腕を掴む。

「痛っ!」

セイラの顔が痛みに歪む。

あ、あ、。

ロボットはセイラを掴んだまま、扉に近づく。


「あ、あ、」

何を言おうにも、言葉がつっかえて出てこない。

檻から伸ばした手だけが無意味に空を切るだけ。


「ま、待って、!痛っ、痛い!離して、!」

セイラもアームの上で暴れているけど、抜け出せていない。

ロボットが、扉を開く。


「・・・待って!!待って、行かないで!!」

手を必死に伸ばす。

けれど、遠く届かない。


地下室の扉が閉まる。

もう、何も聞こえない。

●●●


「セイラサマ、ナゼアソコニイタノデスカ?」

部屋に戻った瞬間、ロボットにそう聞かれる。


「・・・塔の中探検してて、たまたま見つけただけ」

今までも何度も、何年も通ってたなんて、言えない。

それだけは、秘密にしなきゃ。


「ナニモ、ミテイナイノデスネ?」

「・・・うん、何も。何も見てないよ」

言葉を、音を出すのにいちいち喉に詰まる。


「なんで・・・何が、何が!何があるの!?

あの地下に、あの子に!」

思わず叫んでしまう。

そんなに念入りに確認されたら、

まるで何かを隠しているみたいじゃない。


「・・・セイラサマハキニシナクテイイノデス。

モウケッシテ、アソコへイカナイデクダサイ」


どう、しよう。

このまま地下へ行けなくなっちゃったら。


・・・また、ひとりぼっち・・・?


嫌だ、嫌だ・・・!


「ーーハイ、マスター。

・・・セイラサマ、

ミッカカンコノヘヤカラデナイデクダサイ」


仲間と連絡をとったのだろうか?

少しの間のあと、ロボットはそう言った。


三日・・・。

この時の私は三日がすごく長く感じた。


●●●

セイラがロボットに連れていかれて、二日経った。

なんだか、心なしか体が重い。

手が震え、勝手に指が動く。

牢の中を歩いてみても、思い通りに動かずに躓いてしまった。


何が、起きてるんだ・・・。

セイラがいなくなって悲しい。

もう来てくれないかも、という不安。

勿論ある。

事実、一昨日からずっと泣いている。

涙の跡がすじになっている。


銀の格子に写ったわたしの顔はやつれている。

でも、悲しいだけじゃ、こんなにはならないはず。

昨日から、どんどん体が動かなくなっている。


・・・まるで、

誰かに体を乗っ取られているみたいに・・・。


セイラと離れて三日経った。


体が動かせない。

それどころか、勝手に動き出す。

手が勝手に檻を掴む。

足が檻を蹴る。

意識も朦朧としてきた。


自分の体じゃ無くなっているみたい。

昔セイラと一緒に本で読んだ、悪魔に乗っ取られる話みたいだ。


どんどん意識が薄れていく。


悪魔でもなんでも、この体ならあげるから、

最後にセイラに会わせて・・・!


薄れる意識の中でわたしは強く、そう願った。


願いが、届いたの・・・?

狭くなっていた視界の中央に、セイラが写った。


驚いた顔してる・・・。

そりゃそっか。

今わたし、

檻を掴んで蹴って壊そうとしてるんだから。

まぁいっか。

もう殆ど目もみえない。

最後にセイラの顔が見れてよかっーー

ふ、っとセイラが笑った。

セイラは檻の隙間から手を伸ばして、

ゆっくりとわたしを優しく抱きしめた。


あったかくて、心地いい。

なんだか、力が流れて来るみたい。

その力は、わたしの頭を支配していた黒いノイズを消していく。


なんだ。

なんだよ。

こんなの、凄すぎる。


セイラ、まるで聖女みたいだ。


暖かいセイラの腕に包まれたまま、

わたしは意識を失った。

●●●


【十四歳】


「来たよ・・・」

薄暗い地下の空間に控えめな声が響く。

此処で“あれ”が起こってから、ロボットには絶対に知られないように、今まで以上に注意しているのだ。


「・・・無理して来なくてもいいのに」

控えめな声が檻の奥から聞こえる。

「無理してないし」

大体、あんなことになっておいてよく言う。


ふぅ、と疲れたように少女は小さな溜息を零した。

・・・また。

最近、少女はよく疲れたような行動をする。

1年前、あれが起こってからだ。

心配、だけど、話してくれない限りはあまり問い詰めないようにしている。


「それで、今日は何を持ってきたの?」

・・・。

「ん?あぁ。ごめん。今日はねーー」


今日もいつもと同じ。

何も無い。

そう信じて私は話す。


「じゃあ、また明日来るね!」

そう言って、檻から離れ、研究室のような部屋を通る。

トン、バサバサッ!

「え、」

どうやら、床に積まれていた何かの資料が足に当たって崩れたらしい。

「はぁ。もうめんどくさいなぁ」

ファイルや書類をまとめる。


最後の一冊のファイルに手を伸ばす。

「・・・え?」

沢山付箋の貼られたファイルの表紙に書いてあったのは、

『聖女量産計画』と言う言葉だった。


「ど、どういう事・・・?」

思わずその場に立ち尽くす。

「セイラー?どうしたの?」

奥の檻から少女の声が聞こえてくる。


「なっ、なんでもない!じゃあね、バイバイ!」

何故だかこれを少女に見せてはいけない気がする。

聖女量産計画と書かれたファイルを抱え、私は急いで地下から出た。


急いで螺旋の階段を登る。

「ッハァ、ハァ、はあ、っ!」

息が苦しい。

口の中が乾いて血の味がする。

でも、早く。

急いで。

ファイルの中を見なくちゃ。


とても長い螺旋階段を登り切り、部屋の前に着く。

ガガ、ウィーン

ドアに耳を当てると、微かな機械の音がする。


ファイルを服の中に入れて隠し、ドアを開ける。

「・・・ただいま」

部屋を掃除していたロボットに声をかける。

「一人になりたいから、出てってくれる?」


「ワカリマシタ」

ロボットは僅かな機械音をたてて部屋から出て行った。


ベッドに腰掛ける。

改めて持ってきたファイルを開く。

心臓の音がうるさい。

嫌な汗が身体中から溢れてくる。


『DNAによる複製が成功した。肉体も安定している』


DNAによる複製?

なんのこと?

ページをめくる手が止まる。


『光の魔力を検知。セイラと同等の魔力量』


私と、同等?

なに?

私に関係があることなの?


『素晴らしい。蘇生に一歩近づいた』


蘇生・・・?

生き返らせる?

・・・誰、を?


『何故だ?光の魔力が無くなっている』


光の魔力が無くなる?

どういうこと?


『まるで、黒く塗りつぶされているみたいだ』


黒く・・・。

あの日の少女を思い出す。

肌が黒く変色していた、あの日の少女の姿を。


『何故?実験は成功していたはずだ』


実験?

なに、それ。


『セイラを、聖女を複製したからか?』


私を、複製・・・?

あの子の言っていたくろーんと言う言葉を思い出す。

もしかして、私を、複製してーー


『セライナ、もう少しで会えたのに。

どうすればいいのだ?何故だ?』


セライナって誰?

私は、何?

あの子は、何?


『黒い魔力が暴走。なんだこの力は。まるで天罰だ』


天罰・・・?

聖女を複製したから、神が怒った?


『複製体に光の魔力を与えると暴走が収まった。

現在はセイラから自然発生する魔力で抑えられている』


私が、暴走を、抑えている?


『黒き魔力の総量が微量だが一月前より増えている。

セイラの魔力で抑えていられるのは、

おそらくセイラが十五になる日まで』


私が十五になるとどうなるの?


『それまで監視を続け、十五になったら処分する。

また、失敗かーー』


処分・・・殺す?

死ぬ?

あの子が・・・?

見ているのが苦しくなって、ファイルをパタンと勢いよく閉じる。


はらり

何かの紙がファイルの紙束の隙間から落ちる。

思わず、拾う。

『憎い憎い憎いーー

あいつさえ、セイラさえ生まれなければ』


ばっ、と投げ捨てる。

ぽろり。何故だか涙が溢れてきた。

どうしようもない現実が、ただ苦しい。

声もあげずに静かに泣く。

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