檻の中の君へ、もう届かないこの言葉を。
まだ完結ではないです。
一日、二日おきに更新しようと思っています。
九時〜十一時くらいです。
1回目更新(3月21日)
震えそうになる手に力を入れて、
「ねぇ、外に出ない?」
私は見の前にいる少女に笑いかけた。
やっと、此処から出られる・・・そう、思いながら。
【五歳】
「セイラ、お前は聖女なんだ。だからーー」
男の人が、私に手を翳す。
「ーーはっ!」
目が覚めると、そこには見慣れた天井があった。
「ひさしぶり、このゆめみた」
服がぐっちょりと汗で濡れている。
ふぅ、と浅く深呼吸する。
ガシャン
少しの機械音。
静かに部屋のドアが開く。
「セイラサマ、チョウショクデス」
いつもご飯を持ってくる、“ロボット”だ。
椅子に腕をつけたかのような形の“ロボット”。
触ってみると、とても硬く、冷たい。
「ありがとう」
“ロボット”にお礼を言う。
けれど、いつも通り、返事などしない。
“ロボット”は僅かな機械音だけたてて、出ていった。
ーーこの塔は、機械で溢れていて、人間なんか、見たこともない。
本の中の子達のように、誰かとご飯を食べたことなんかない。
「いただきます」
東にある国では、こうして食前に祈るらしい。
パンをちぎって口に運び、味の薄いスープを飲む。
作ってから時間が経ったのだろう。
冷めたスープはいつもの味だった。
「ごちそうさま」
ご飯を作ってくれているのも、“機械”なのか?
そんな事を考えながら、食後のお祈りをした。
カーテンをサッと開ける。
外の濃密な朝の光が部屋の中へと入り込む。
檻のように金属の格子がはられた窓から外が見える。
小さな世界に住むこの頃の私は、
外は全てが輝いて見えた。
「そら、きれい。そと、いきたいなぁ」
白い鳥が連なって遠くへ飛んでいく。
その時、太陽の光が鳥に反射した。
白かった鳥は、銀色になったみたいに、輝いた。
「うわぁ・・・!」
私は、目をきらきらさせながら飛んでいく鳥を見つめていた。
この塔から見える外の景色は、
綺麗な空と深い緑の森だけだ。
それだけでも、私を外の世界へ魅了していた。
そして同時に、窓にはられた鉄の格子は、
私を縛り付ける“檻”のように感じた。
そう自覚すると、少し気分が沈んだ。
「ほん、よも」
気分を変えるために、塔の図書室へ行くことにした。
たんたん、と石で作られた階段に足音が響く。
螺旋状になった階段の底は、不思議な怖さが漂っていた。
ずっと覗いていると、吸い込まれそうな錯覚がする。
・・・あの夢を見た後のこの階段は、いつもより怖く見えるのだ。
「・・・」
下から感じる、得体のしれない怖さを無視して、
図書室に繋がる通路のドアを開けた。
「いたっ!」
本の紙で指を切ってしまった。
ぷくっと赤い血が膨らんで、指を伝う。
指に赤い血の道ができる。
切った所がピリピリとして痛い。
「ひかりのまほう・・・つかえるかな?」
読んでいた、古ぼけた本に書いてある、魔法の使い方。
光の魔法の行を目で追っていく。
限られた人しか使えない、という文字は、この時の私には見えなかった。
「ゆびがなおるイメージ・・・いつもの、ゆび?」
血なんて出ていない、普通の指を想像する。
次に、体の底にある熱を意識する。
その優しい熱を、怪我をした部分に流し込む。
すると、怪我をしていた部分が仄かな光に包まれる。
微かに暖かいと感じるその光は徐々に消えていく。
思わず閉じていた目を開けて、指を見る。
もとから怪我なんて無かったかのように、
いつもの指がそこのあった。
「・・・すごい」
思わず呟く。
「まほう、できた。できた、まほう」
目の前で起きた光景が未だに信じられなくて、
そう、繰り返していた。
「つぎは、どのほんよもうかな〜」
次に読む本を広い図書室で探す。
もう文字は読める。
タン、タタンッ、とスキップしながら図書室を進む。
カカンッ
「・・・なに?」
一箇所・・・二メートルくらいの範囲が踏んだ時の足音が違ったのだ。
「?」
カン、カン
もう一度踏んでみる。
よく聞くと、金属のような音がする。
しゃがみ込んで、変な音のなる床を調べてみる。
床に耳を当ててみる。
『・・・た・・・て!!!・・・か!!!』
何か聞こえる。
なんだろう?
何故だか、この音を聞いていると悲しくなってくる。
ぞわぞわと鳥肌が立つ。
急に怖くなってきた。
「・・・へやにもどろう」
怖くて、不安になってきて、陽の当たる部屋に戻ろうと、階段に繋がるドアを開けた。
「・・・・・・や!・・・だ・・・か!!」
あの不思議な怖い声が螺旋階段の下からも聞こえる。
さっき聞いたのよりも、ずっと小さく聞こえる。
階段の下の方がいつもより暗く見える。
ーーーこわい!!
なんだか、聞いているだけでぞわぞわする。
泣きたくなってくる。
「・・・なにがあるんだろ?」
ふと、気になった。気になってしまった。
もう、怖さは消えていた。
悲しそうな音に誘われるように、階段を降りていく。
深く、暗い闇へ、降りていく。
タン
最後の段を降りる。
遂に、一番下まで来た。
「・・・して!!だ・・・か!!こ・・・ に・・・!
だ・・・て!!!」
不思議な音もすぐ近くに聞こえる。
これは、声・・・?
壁から突き出た階段の下に、隠れるように、
その扉はあった。
金属で出来た、とても重厚な扉だ。
「うぅーん」
扉に体重をかけて開けようとする。
しかし、五歳の体重ではあまり意味はなく、
扉は少し動いただけだった。
でも、此処まで来れば、何と言っているかは分かる。
「たすけて!!だれか!!だして!たすけて!!」
・・・助けを、求めている・・・?
胸がきゅっと締め付けられる。
体の奥から熱いものがふつふつと湧き上がってくる。
・・・助けなきゃ!
「ぬぅぅーうー、がぁぁぁ!」
渾身の力を込めて、扉を押す。
やっと開いた隙間に、サッと体を入らせる。
入った部屋は、紙や資料がぐちゃぐちゃに積み重なっていた。
錆びた、鉄の匂いがする。
部屋の、窓にはられた格子と同じ匂いが。
奥に檻が見える。
そして、声のする方には・・・
「「え?」」
私と同じ姿をした少女が、困惑した表情で此方をじっと見ていた。
「「あの、」」
2人して同じことを喋ってしまう。
声も姿と同様、同じなようで、重なると一人が喋っているように聞こえる。
「あ、あなた、だれ?」
びっくりしてお互い沈黙を破れずにいたが、
目の前の少女が先に沈黙を破った。
「わ、私はセイラ!!ひと?ひとだ!!
にんげん・・・!あはっ、あははははっ!!
やった!私、ひとりぼっちじゃない!!」
気づくと、視界が涙で滲んでいた。
「・・・セイラ・・・?」
“ロボット”じゃない、“人”がいた。
そんな事で舞い上がってしまった私の名を、
その少女は遠慮がちに呼んでくる。
「うん!セイラ!私は、セイラ!」
未だに困惑している、私とそっくりなその少女に、
笑顔でそう答えた。
【六歳】
「やっほー」
「・・・また来た」
私が扉を開けると、呆れたような顔で、私の姿をした少女はそう言った。
「で、今日はなにをもってきたの?」
私が背中に隠していた手を見てそう言う。
興味津々、といった感じだ。
・・・ちゃんと楽しみにしてんじゃん。
「今日はね・・・じゃーん!」
後ろ手で隠していた籠を目の前に突き出す。
「・・・中、見えないけど」
・・・また呆れられた気がする。
「ごめんごめん。今日はね、私の作ったクッキー!」
得意になって籠に被せていたクロスを勢い良く取る。
中には、ちょっっと不格好だが、ナッツの入ったクッキーがあった。
「セイラの作った、クッキー!?おいしいの?それ!」
え!?と、驚いたふうに、少女はそう言った。
「え?」
その言葉は、自信満々だった私を傷つけた。
見開いた目から大つぶの涙が溢れ出てくる。
「せ、セイラ・・・?」
本心、だったのだろう。
悪気も何も無い。
・・・困ってる。私が泣いたから。
止めようとしてるのに、涙は止まらない。
・・・この場に、居づらくなってしまった。
「きらい!」
クッキーの入った籠を少女に・・・少女の入った檻に投げ、振り返りもせずに、地下室を出た。
●●●
「行っちゃった・・・」
地下室の扉を出る、わたしとそっくりの少女を、呆然と見つめる。
悪気は無かった。
初めて人にクッキーを作って貰ったから。
嬉しくて。
でも、機械の作った完璧なものしか食べてこなかったから、少し不安で。
「・・・言い訳、だな」
セイラが泣いた。
わたしがたとえ、どんな思いで言ったとしても、セイラが傷つき、泣いたのだ。
謝りたい。
セイラに会って、謝りたい。
「うあぁぁぁぁぁ」
なんでだろう?
涙が止まらない。
“喧嘩”って、こんなに、辛いんだ。
謝りたい。なのに、ここから出られない。
目の前の檻がこれほど嫌におもったのは、初めてだろう。
「また、きてくれるかなぁ?」
喧嘩したのに、会いに来てくれるのか?
悲しみの後に来た感情は、不安だった。
「あれ?これって・・・」
そんな時、見つけた。
セイラが投げて行ったクッキーの入った籠だ。
それが、檻のすぐ前・・・私にも手が届くところに落ちていた。
●●●
ぐすぐすと鼻をすすりながらコンコンとドアを叩く。
すると、ロボットが出てくる。
「ドウイタシマシタカ?セイラサマ。
ゴハンハマダデスヨ?」
おたまを持ったロボットが聞いてくる。
此処は、塔の厨房だ。
「もういっかい、クッキー、つくりたいの!」
もう一度ロボットに教わりながら、クッキーを作る。
まぜて、こねて、のばして・・・
「できた・・・!」
さっき焼いたのよりも綺麗なクッキーができた。
「なかなおり、できますように・・・!」
もう私の事なんか、嫌いになってるかもしれない。
会いに行くのも、嫌と思われるかもしれない。
だけど、仲直りしたい。
この塔で出会った、初めての友達だから・・・!
深くそう祈ると、クッキーが仄かに光った気がした。
「?」
不思議に思ったが、すぐに光は消えたので気のせいかと考え直す。
それに、そんな事よりも大事な事がある。
私は、クッキーを籠につめて、地下へと向かった。
評価感想お願いします。




