第6話:好きにしていいんだよ?
「なっ……なんで……」
隆起した下腹部を見て、戸惑いの余りに後ずさってしまう。
忘却の彼方にあったはずの感覚。
何年も無反応を貫いてきたはずの部分に、炎のような熱が奔流のように流れ込んでくる。
痛みすら伴うほどに張り詰めた感覚は、まるで自分の身体ではないかのように強烈な違和感と、否定しようのない現実を突きつけてきた。
「別に、そこまで狼狽えるようなことでもないでしょ。ただの生理現象なんだから」
そんな俺を見て、白河がやや呆れるように言う。
男子が目の前でこんな事になったら引くか恥ずかしがるのが普通だろう。
しかし、こいつはむしろ喜んでいるようにさえ見えた。
「でも、私の身体に性的魅力は感じてくれてるってことでいいんだよね?」
「ちがっ……これは……」
違わない。
これはずっと沈黙を続けていた。
俺の順風満帆な人生において、唯一と言っていい傷だった。
だから、復活させるためにあらゆる方法を試した。
それでもことごとくダメだったモノが、こうもあっさりと……。
それも相手は聖奈じゃない。
本来、俺がそうなるべき女性ではなく、目の前のこのおかしな女にだ。
その事実が俺の混乱に拍車をかけた。
「先生なら……この身体、好きに使ってくれてもいいんだけど……?」
そう言いながら、白河が更に服をはだけさせていく。
もう上半身はほとんど下着姿だと言ってもいい。
けれど、制止の言葉は全く出なかった。
俺の目は、その胸元に釘付けになってしまっていた。
彼女が俺の方へと一歩足を踏み出す。
同時に、簡素な下着に包まれた胸がゆさっと揺れる。
間近で見るそれには、男として抗えない魔性があった。
手を伸ばして、鷲掴みにしたい。
雄としての本能が理性を、ヤスリのようにゴリゴリと削ってくる。
ゴクリと生唾を飲むのと同時に、血流が下腹部に流れ込んでいく。
痛いくらいに膨張したモノが、更に硬度を増していくのがはっきりと分かる。
「ほら、見て……? 私の身体……いやらしいでしょ……?」
そう言って下着を露出された女に迫られた時に通常、男はどんな想いを抱く?
ほとんどは最高の体験だと思うはずだ。
しかも、相手がモデル体型なのにめっちゃ巨乳な色白美人だったら?
ますます最高だと思うだろう。
自分は今、人生の絶頂にいると考えてもおかしくない。
加えて、それが普段は孤高を気取ってる学校一の優等生だったとしたら?
なんだそりゃ、小学生が考えた最強の給食の献立かよ。
その方がまだ慎みのあるくらいには属性を盛りすぎだ。
けれど、そんな状況にも拘らず、俺には動揺と恐怖しかなかった。
「ほら、ちゃんと見て……? 目を逸らさないで……?」
彼女の妖艶な声が耳をくすぐる。
こんな色のある声が、普段は素っ気のないあの女の口から出ているのが信じられない。
「よく見て……しっかりと記録して……? こんな風に……ね?」
スマホの画面を俺に見せつけながら彼女が妖艶に嗤う。
「私も……先生の作品の一部にして……?」
逆の手では、その魅力しかない身体の肉感を誇示するように触れている。
「だから……俺には、彼女が……聖奈が……」
口を開けば了承の言葉が飛び出してしまいそうな中、何とか理性を繋ぐ。
「はぁ……またそれ? 別に、浮気をしてって言ってるわけじゃないんだから。例えば、高名な画家が女性の絵を描くために題材に合ったモデルを雇うのは浮気になる? それと同じことだと思わない?」
「それは……」
即座に返ってきた反論への答えに窮してしまう。
その耳当たりの良い言葉に、気持ちが揺らいでいるわけじゃない。
秘密を握られている以上は、下手に刺激したくないだけだ。
それに、俺のモノが五年ぶりの沈黙を打ち破られたのも確かだった。
俺の人生を取り戻すための手がかりが、この誘惑の向こうにあるのかもしれない。
「少し、考えさせてくれ……」
しばしの沈黙の後、俺はそう答えた。
尚も決断できなかった俺に、白河が小さな溜め息を吐く。
「そう。じゃあ、決心できたら教えて。私としても不本意なことはしたくないから」
彼女はそう言うと、最後にスマホの画面を最後にチラッと俺に見せた。
まるで自分が何を知られているのか忘れるなと示すように。
サラシを蒔き直し、乱れた制服を整えた白河が教室から出ていく。
一人残された部屋に、昼休みの終了を告げる予鈴が鳴り響いた。
甲高いその音は、まるで順風満帆な人生の崩壊を告げるように不吉に、俺の耳へと突き刺さった。




