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 魔王領はやはり魔物の量も質も今までとは非にならなかった。ゆえに勇者の疲労も凄まじく、近くにあった村へ忍ぶことになった。ライト王によれば魔王領、つまりプロトン島の左半分にはひとつだけ村があるそうだ。

 しかしそこは村ではない。人が魔物の奴隷にされた穢れた土地だった。農業、鍛冶、建設。魔物どもは人を四六時中こき使い、身体が動かなくなれば始末される。まさに地獄。それ魔物を統べるは大蛇の女王。

 勇者は村民を助けようと動き出した。されど重要なそれら村民はすでに女王に魂を奪われ、朦朧としていた。いい様に使われているのにもかかわらず、村民は女王を崇拝していた。勇者は気分が悪くなった。

 村民が云った。


 「女王は美しい。人間は美しいものには逆らえない。その為ならば命さえも惜しくない。人間とは美しさのために死ねる勇敢な動物なのだ」


 完全に彼らは洗脳させられていた。ゆえに勇者は激怒した。彼らの命だけでなく魂まで奪うなど、どこまで魔物は邪悪なのだ。なんとしても大蛇の女王を始末せねばならないと決意した。

 勇者は大蛇の女王が村にやって来る日まで忍んだ。大蛇の女王は彼らの言うとおり、その姿は人の美女だった。されど尻尾がついていた。魔物である。さらに村民を踏んでは蹴って喜んでいた。邪悪である。

 勇者は我慢できなかった。その場で大蛇の女王を倒そうと家屋から飛び出し、斬りかかった。大蛇の女王はそれをすらりと躱して云った。


 「お前が勇者か。相手してやりたいが、妾は忙しい。用があるのなら外れにある城までくるがいい」


 大蛇の女王は御輿に乗って去っていった。残されたのは女王の手下の蛇頭の兵士数名と、乱心している村民である。村民は勇者に襲い掛かってきた。まるで魔物のような素振りである。

 勇者は村民を決して殺さないように蹴り飛ばし、あとでどうせ回復すればいいやと脚の骨を折りまくった。すると蛇頭の兵士が襲い掛かってきた。うねうねと手や首を伸ばして攻撃してくるが、勇者は黄の力で素早くなってそれを躱し、瞬時に赤の力に切り替え抹殺した。

 勇者はすぐに大蛇の女王が住まう廃城へ急いだ。


 人々が廃城に列をなして入って行っている。そのどれもが手錠を付けられているが、表情は明るい。それを追うとカーテンの中、女王と二人きりで何をしているというのか。中に入った人の影はしばらくすると無くなって、また次の人が入って行った。

 勇者は思った。間違いない。人を喰っている。裏庭を見れば血のこびりついた骨が散乱していた。そこにある骸骨さえ笑って見えるのだから気持ちが悪い。勇者は女王の上、天井裏――ぶちこわして、その首を斬り落としにかかった。

 されど女王の頭はまるで蛇のようにうねって躱した。


 「やってきたか! 勇者!!」


 勇者は襲い掛かってきた人々を粉砕し、女王へ再び斬りかかった。されど女王はすでに人の姿をしていない。衣の中で百の蛇が首を出して、輪郭を為していなかった。その一匹一匹が長く、ひょろりひょろりと動いて、勇者の攻撃を容易く躱す。


 「ふふっ。あてられるものならあててみろ!」


 女王はゆらりすらりと躱し、躱し、そのたびに何かを言って勇者を挑発した。勇者はその挑発に乗らないわけにはいかなかった。女王のその姿はたしかに蛇であるが、人からできた蛇、勇者はその邪悪さに怒らずにいられない。

 それも女王の思い通りか、勇者の剣の大振りの裏を突いてその腹を噛んだ。女王はふしだらに笑った。


 「妾の毒は甘く苦い。すぐに夢に染まって痩せそれば立ってられなくなる。これで終わりだ。ひゃっひゃっひゃ!」


 勇者は真顔だった。勇者は光の使者。治癒の種族だ。だから全く毒が効かない。勇者は大蛇が大笑いして甘い夢を見ている隙に、笑う首を真っ二つにした。斬れた首がなんで、と混乱するも勇者は青の力を瞬時に発動し、それを焼いた。

 こうして一件落着――とはいかなかった。勇者の体に数多の蛇が絡まっていた。


 「すべてが本体。すべてが妾! 百ある一つを殺したところで何も変わらんぞ!」


 ならばと勇者は青の力を発動、自身の体全体から炎を吹き出し、同時に光の力で自身の火傷を治癒した。百は焼き払われてしまった。

 が、残った一匹が大喰らいをした。そこに倒れていた人々を一口で食べてしまった。みるみるその一匹は大きくなり大蛇となった。

 線のようにほそかったものが大理石の柱のごとく太くなった。その獰猛な目、すする舌、その牙。勇者はそれに覚えがあった。大蛇は名乗った。


 「妾こそ魔王様の使者。勇者! ここで貴様など葬ってくれる!」


 大蛇は素早く、力強くしなって、勇者を吹き飛ばし、また噛みつき、叩きのめした。目にも止まらぬ連撃に勇者は抗う術がない。

 しかし勇者には聖剣があった。眩く輝く一刀。勇者は大蛇の攻撃をなんとか躱し、その一撃を放った。光の刃は大蛇の首から上を吹き飛ばした。


 「うがあああああああああああああ……それで? 妾は永遠の生命。不死なるぞ!」


 なんと大蛇はみるみるうちに再生していった。まるで今の攻撃が無かったかのように。勇者にとっては確かにあったことだったのは、光失った刃がそれを証明していた。勇者はついに切り札を失った。

 大蛇は啜り笑った。そして云った。


 「さぁ勇者、選ぶがいい。ここで死ぬか、永遠の命を得るか。不死となって共に愛を謳歌しようぞ!」


 勇者はこの期に及んで恐れることはない。その精神はたしかに勇者のものだった。断ると一言言って、聖剣を握っていた。その目には戦意たる炎がぎらついていた。

 それをも焼き切ってやろうと大蛇は


 「妾の慈悲を無駄にするとはっ! ならば死ね! 骨一つ残さず、無様に焼き殺してやろう!」


 と火炎を放った。まるで竜巻のような炎が息もできない時間、勇者の影を覆った。

 やがて勇者の影が無くなると、大蛇は満足げな顔をした――が、違う。炎はまだ消えていなかった。すでに大蛇は火を吹いていないのに。

 そうである。炎はまさしく竜巻。聖剣は炎を吸い込み、また払っていた。その刀身は聖なる炎を宿していた。そして未だ、勇者の目には正義の炎があった。

 ゆえに大蛇はその全身を大いなる火炎に焼かれた。そこに骨一つ残らず、永遠は灰になったのだ。


 こうして勇者は魔王の幹部を倒した。廃城にはなんと三種の神器の一つ、聖なる盾があった。勇者はこれにて三種の神器を揃えたのだ。

 勇者は魔王のいる魔の大山へ向かっていった。

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