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島の半分はすでに魔王の手中に落ちていた。島の左右に分ける川の向こうには魔王の軍勢がわらわらとプロトン山へ入って行っていた。橋は落とされた。王国軍が落としたのだ。すなわち王国軍は劣勢だった。劣勢のように見えた。しかし違う、王国軍はむしろ戦に飢えていた。邪悪なる魔物を倒そうと武器を掲げていた。
川の横にあるシームの港町には船が未だ沢山ある。噴水が町の豊かさを照らすところでは町民は陽気に踊ってもいた。そこにあるライト王の銅像を囲んで、ただ勇敢に。
勇者はその戦線、プロトン山からやって来る軍勢を勇者の光で退け、王国軍をさらに活気づけた。その勢いのままに王国軍はプロトン山へ攻め込んだ。されど苦戦を強いられることとなった。
プロトン山には今までとは一線を画す強力な魔物が待ち構えていた。勇者は持ち前の光の力で応戦するも、王国軍は疲弊、撤退を余儀なくされていた。
勇者は自分の弱さを悔恨した。味方を死なせてしまったことを悔いたのだ。されど勇者がシームに戻ると、町民は拍手で迎えてくれた。勇者は今度こそは勝つと決意を改めた。
作戦はシンプルだった。プロトン山からやってくる魔物及びプロトン山の内部にいる雑魚を王国軍が引き受け、その間に勇者が強敵を倒す。
強敵は全部で四匹。長身スライム、大蝙蝠、鉄のゴーレム、それから古騎士である。
勇者は、長身スライムを聖剣の刃で打ち破り、大蝙蝠を赤の力で切伏せ、鉄のゴーレムを川に突き落とした。
古騎士には苦戦を強いられていたようだ。古騎士は筋力、素早さ、剣技の三拍子が揃った隙の無い魔物であった。前に戦った暗黒騎士とは種類が違う。実際に勇者は赤の力で叩きのめそうとしても、古騎士のほうが筋力があって攻撃通らない。かといって黄の力の素早さで追い詰めようとしても、古騎士は素早く躱してしまう。純粋に剣技で勝負しても古騎士のほうが上手であった。
さらに勇者は連戦で消耗していた。古騎士は云った。
「弱い者を勇者と言うのならばここを墓場にしてやろう」
勇者は魔物の話す言葉を言葉と思っていない。人を誑かす飾りの吠えとしか思っていない。されどこのときばかりは勇者はそれが言葉と願ったのだろうか。言い返した。人間が魔物に屈したことなど一度もないと。古騎士は息を一つするだけで何も言い返さなかった。返ってきたのは魔物たる無慈悲な剣戟であった。
勇者は吹き飛ばされた。勇者に力も策はない。されどまだ一つ残った力がある。それが青の力、魔力増大の力である。勇者は光の使いであるが、魔法は得意ではない。使える攻撃魔法は火の玉くらいである。つまり一撃。青の力で増大された強力な火の玉を一撃ぶつける。勇者にはその威力にも精度にも自身が無かった。
だが勇者は強かった。この逆境でむしろ持っている力以上のものを解放した。邪悪な魔物に絶対に負けられない。その気高き精神が勇者を奮い立たせた。
青い空気は紅の玉を囲んで膨張した。それはまるで太陽のようだった。光だけではない、そこにある灼熱は人の生命、その象徴。闇たる不死に再び生たる死を与える、神の権化だ。
古騎士はそこに魅入っていた。ゆえにどう足掻いても太陽を避けることはできず、生の内に沈んだ。
プロトン山はこうして人のものに戻った。
この一件は勇者の力を断固たるものと示した。ライト王はもちろんそれを祝福し、ここが好機と見て兵の数を増やした。勇者は一足早く島のもう半分、魔王の領地へ足を踏み入れることとなった。




