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 アスタの町は灰に包まれていた。元々鍛冶の町だからというのもあるが、この期に及んでは火葬である。兵士の殺めた魔物を焼いているのである。町壁の外は魔物が闊歩する。それを兵士たちは勇敢さを以て撃破している。だから人々は狭い町で灰に染まっていた。炎は燃え盛るばかりである。

 ちょうど勇者が町に入ったときである。勇者の第六感に悲鳴が響いた。勇者は路地裏、二匹のゴブリンに襲われている娘とそれを助けようと拳を構える青年を見つけた。青年は頑張るもゴブリンに吹っ飛ばされた。勇者は「おのれ!」と、迅速にゴブリンを殺め、娘と青年を助けた。

 そこに衛兵が来て娘は保護された。青年は云った。


 「町中に魔物が現れるようになって久しいです。勇者様、急いでプロトン山へ行ってください。何故かは云えられませんが、そうすればこの町もすぐ平和になります。急いでください」


 勇敢な青年は勇者の治癒を受けずに姿を消した。勇者は力が無いのに戦う彼に敬意を示した。

 それはそうと勇者はその話を断った。というのはアスタの町長がアスタ山に採掘者が囚われているから助けてほしいとお願いされたからだ。勇者は善心に富む人、目の前に困っている人がいれば救わなければないと強く抱いていた。

 アスタ山、採掘場は酷く閑散としていた。中に入ればあるのはピッケルの弾く音ではなく、不穏な足音。魔物の所業である。勇者は持ち前の光の力で魔物を倒しながら採掘場の闇へ潜り込んでいった。

 採掘場の奥は闇一色。水というには濁りべっとりとし過ぎたものが足について、埃にしては生臭く鼻を突いてくるものが漂っていた。

 勇者は光の術で照らした。


 「やっと誰か来たと思ったら一人。しかも勇者と来たか。ここをサボるとして、魔王様の土産には持ってこいだ」


 髑髏、髑髏、血肉を貪り骨を捨てれば鳴り響く人の後。目が三つ、角が二本、鍾乳洞のような歯、それから杖を持った魔物がそこにいた。勇者は一目でわかった、いや、知らしめられた、その殺伐を。他の魔物とは格が違う、魔王の幹部だと。邪悪の化身、鬼だと。

 勇者はただちに剣を構える。されど鬼は余裕の佇まい、人の肉を食いながら勇者の様子を見ていた。いや、挑発していた。そう受け取った。勇者は鬼へ斬りかかった。

 されど鬼はそのまま杖で攻撃を弾く。簡単に弾く。三つの目は勇者の動きを完全にわかっているようだった。それだけでない。勇者を弾き飛ばすと、詠唱もせずに炎の玉を出し、勇者にぶつけてみせた。

 おおよそ攻撃は全て弾かれる。だから勇者は黄の力を使った。黄の風が勇者の足を包み込んだ。勇者は目にも止まらぬ素早さで動き出した。鬼の目が回る回る、回ったべつのところから勇者は一撃、また一撃、鬼にとってその攻撃のほとんどは痛くも痒くもない。されどそれが何度も続けば、だんだんと怯みだしてもくる。


 「こざかしい!」


 特に感情、鬼が立つとすかさず勇者はその足を斬りつけ、体勢を崩すとその目の一つを思いきり剣で突き刺した。噴き出る血はまるで死者が勇者を祝福しているようであった。勇者は笑った。

 邪悪の化身は怒りを力にして、魔力を増大させた。火の玉の数を三つ、五つ、十まで増やし、勇者へ放った。されど勇者は速い。容易く躱し、二つ目の目を狙った――が、そこに鬼はいた。つまり勇者は誘い出された。鬼の角が勇者の腹を裂いた。勇者は立てず、蹴り飛ばされた。それを鬼は大笑いした。

 勇者の横にあったのは骨が泥と血に溶けつつある、暗闇の屍。ここにいた採掘者はほとんどやられてしまったこと、その人たちを待つ町の人々を思い出した。その気高さを。勇者は屍に横たわる畏怖ではない。そこから這い上がる勇気である。

 勇者は聖剣を取り出した。眩い刃がそこにある死を露わにし、そこまであった畏怖を掻き消した。刀身は闇を吸い込み、さらに強い光を宿すと、深淵を斬り払う刃を解き放った。

 鬼は人の奇跡に怯み、光に打ち消されてしまった。闇が再び戻ったとき、鬼の姿はそこになかった。聖剣はガラスのように色を落した。


 勇者はこれにて鉱山を取り戻し、アスタの町長は大いに感謝した。これで魔物を倒すための武器をたくさん作れると。兵士たちの士気は採掘者の犠牲を払ってさらに強くなった。

 今、町の灰は増える。その灰はきっと鉄を叩くから起こるものだろう。

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