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 とある島国に大きな王国がありました。古くあった暗黒の不治から島を守る為の光、そこからライト王国と名付けられました。ライト王国は昔々にいた暗黒の主、魔王を倒し、長きに渡る平和を実現しました。されど今、再び魔王が現れました。

 平原を駆ける黒い馬、黒い骸骨、三人の騎兵と一人の冠。砕け散る大砲、飛び散る兜、行き場を無くした馬、泥に塗れた死体。

 魔王あるところに勇者あり。王の玉座に勇者がやってきました。

 王は云った。


 「古き勇者の栄光に倣い、宝玉、聖剣、聖鏡を集め、魔王を永遠へ葬りたまえ」


 勇者は一言、はい、とだけ言って五百ゴールドと宝玉を貰って魔王討伐へ行きました。それを見送る王と騎士の眼差しはいかにもこの国の未来を表しているようだった。

 勇者は古く貰った家宝の鎧と剣と盾のみ。だから彼が勇者などと市民にも兵士にもわからず、また魔物にもわからない。魔物はゆらゆらした液体みたいなものや、めこめこした蝙蝠みたいなものが、弱そうだ弱そうだと襲ってくる始末である。もちろんこの勇者は容易く蹴散らすが、近くの村に着いたとき、一目散に宿屋で眠ったのはまさしく勇者であろうか。レベルがあがったようだ。


 村の名前はビギンズ。太古、この村から生まれた青年が三種の神器を以て魔王を倒したという伝承がある。王が勇者に宝玉を託したのはここにある。また勇者が探しているものもここにある。

 村はボロ布の自警団が意気揚々とするほどに平和である。近くの丘で狼の群れを見たから倒してきたと自慢して、今日も酒を飲んだくれている。毎日の畑の麦が伸びるのを待つ、見うる山と靡く草のようにのんびりなだらかとした時間が流れる。

 こういうところに勇者がやってきて聖剣はどこだどこだと聞けば村民は嘲笑するよりほかない。


 「観光は嬉しいけどもね。知らねえな。あっちの露店に木刀があるが、それじゃダメか?」


 この具合である。勇者の内心には激しいものがあった。それは自身が馬鹿にされたことではない。今もどこかで魔物に人が殺されているにもかかわらず、知らないふりをしている村民にへである。この正義心によるものである。

 それが威圧になったろうか。この村民は喧嘩の調子になった。勇者にその気はない。しかし腰抜けと草を吹かされたときに一発ぶん殴った理由は決して正義心ではない。

 そこに老いた村長が入ってきて勇者勇者と頭を下げた。して村民も彼の存在を受け入れた。村長は古い話をして、恐らく村の近くにある洞窟にあるだろうと案内した。

 されどその洞窟の入り口には巨大な岩があって入れない。これでは勇気も人のものだなと村長は酷く落ち込んだが、勇者は問題なくそれを一刀両断。岩は少し豪華な入り口の装飾になった。


 洞窟を進んでいくと、落とし穴や蛇が出てきたりと古臭いトラップがいくらかあったが、勇者は難なく突破した。そして最奥へ辿り着いた。

 ひび割れた天井から光射すところに真っすぐ、およそこの世でこれより直線たるものがないほどに真っすぐの剣が台座に刺さっていた。勇者はそれをまじまじと引き抜いた。以外に重い? すっと抜けた。抜け過ぎて転んだ。

 剣を抜いたからだろうか天井の光は陰った。いや違う、それは魔王の刺客。暗黒の騎士の為りをした獰猛がそこからやってきたのだ。言葉も無しに暗黒の騎士は勇者に襲い掛かった。

 暗黒の騎士は魔物といわんばかりに人を越えた素早さ、そして魔物にもかかわらず剣技に優れていた。洗練された動きが着実に勇者を追い詰めた。

 勇者はこの期に及んでも脳筋だった。戦術など知らず、持ち前の才能を発揮した。自身の赤の力によって身体を強固にした。暗黒の騎士の素早さに筋力で戦おうとした。

 すると暗黒騎士の攻撃は蠅のよう。剣がぶつかろうが勇者は怯まず、その攻撃の三倍以上の鈍重な剣で反撃した。暗黒騎士は吹き飛んだ。ならばと追撃をしたいが、この赤の力は筋力はたしかに上がるが、その分足が遅くなる。追撃するには素早さが足りない。

 つまり馬鹿らしく映ったのだろう。暗黒騎士はこう云った。


 「お前を殺した後は村のやつらだな」


 勇者は激昂した。よって彼の精神はさらなる力となった。人間以上の肉体が一時的に再現され、すなわち筋力だけでなく素早さも向上した。暗黒騎士はそれを嘲笑い、また攻撃してくるも、その刃は勇者に掴まれ粉砕。勇者は鈍器じみた剣でただ乱暴に暗黒騎士を吹き飛ばし、追撃――天の光は勇者の影に交わり、刃は暗黒騎士を床に叩きつけた。そしてまた叩きつけた。それからまた叩きつけた。

 暗黒騎士は倒された。その死に際。


 「魔王様はいつでもお前を見ているぞ」


 と脅迫だけして闇の彼方へ散った。

 勇者は一件落着と聖剣を誇らしげに掲げた。聖剣は闇を吸って洞窟は光に満ちた。

 そこに村長がやってきた。慌てた様子である。


 「勇者様! 早く村に来てください! 魔物が村に!」


 勇者は再び帰りのトラップを駆け抜け、急いだ。

 村は骸骨と豚の顔をした野蛮、ゴブリンが襲撃されていた。村民が次々とその餌食となっていた。そこに勇者、栄光がやってきた。勇者は瞬く間にそれら魔物を蹴散らした。

 そしてついに村民は勇者を勇者と讃えた。一つの村、そこに勇者が誕生したと噂は島中に広まった。国民がそこに希望を願ったのは言うまでもない。

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