第5話 女の子の生活しよう
聖愛による、女子高生な俺を目隠ししつつの着替えショー。
何このプレイ? ちょっと意味がわからない。
とにかく、話を続けなければ。
「別世界を滅ぼした異世界人は、この指輪がここにある以上、この世界に無事に渡れないらしい。でも、人間じゃないアンドロイドを送り出して、指輪を盗んだ女の相模原勇の始末と指輪の回収に動いている。なので俺の肉体を預かっていてほしいんだ。俺は……いつ襲われるかわからないし」
「それってさあ、アンドロイドが男の肉体を回収しに、ここを襲撃する可能性があるんじゃないの?」
聖愛の指摘にハッとする。確かにそうだ。
『それは限りなく可能性が低いわ。第一に連中は相模原勇を女だと思っている。第二に女の私は動いて活動している。中身に男有りだけど。第三に指輪も私が持っている。第四に冷蔵庫に入っている男の相模原勇に価値なしだからよ』
冷静で的確な女の俺の声だ。第四以外を聖愛に伝えよう。
「男だった勇と違って、女の勇は知的で冷静で美人でスタイルよくてって、なんか凄い。男の勇は、ずっと目が死んでいる陰キャで、学校でもいるかいないかわからない底辺野郎なのに。……どうしてこの世界で最初から存在して、私の幼馴染にして親友になってくれなかったの! って、叫びたい気分だわ」
聖愛? もう叫んでいますよ?
『男の私……どれだけ価値なしな存在だったのよ?』
(いやいや! 聖愛が昔から俺に当たりが強いだけ!)
聖愛は昔、俺に勝負を挑んで圧勝しては馬鹿にしてきた。
いつしか勝負を挑んでこなくなったが、大人になったのだろうと思っていた。
「アンドロイドとか、別世界とか、異世界からの侵略者ね。……私も調べてみる。勇はこれからどうするの?」
(どうするの?)
『君まで聞いてこなくていいから。そうね……まず直近で重大な問題があるわ』
声のトーンが低くなる。また敵襲か?
『お風呂は目隠し必須、お触り禁止。でもそうすると身体が洗えないわね……どうしよう』
ゴクリ……
『君……』
「違う! 誤解だ! 正直に言う、美人だよ、綺麗な身体だよ! でも自分だし、中身も君がいるんだし興奮しないって!」
つい言い訳してしまうが、しょうがないじゃないか。
「ちょっと勇? 人の家で勇同士で痴話喧嘩しないでよ。私も混ぜろ!」
脳内も室内も騒がしいことこの上ない。
秘密を知った仲間が増えたのは嬉しいが不安も残る。
聖愛は話を信じてくれたが、これからどうなるのか。
「聖愛、ちょっと聞いてくれ。俺、こうやって女の身体になっているけどさ……これからどうやって生きていけばいいんだと思う?」
聖愛は煎餅を齧る手を止め、俺を見る。真剣な目だ。
「どうって……普通に生きればいいんじゃないの? あんた、今の見た目は完璧な美少女なんだから、誰も疑わないよ」
「いやいや普通って言われてもさ! 俺、戸籍は男のままだぞ。学校の名簿も保険証も、全部男の名前なんだ。こんな姿で『相模原勇です』って言っても誰も信じないだろ。最悪、変な奴扱いされて警察に連れて行かれるんじゃないか?」
聖愛は天井を見上げ、ふっと笑った。
「まあ、そうね。たしかに戸籍とか面倒くさい問題はあるかも。でもさ、あんた、今は私の家にいるんだから、しばらくは隠れていればいいんじゃない? 学校も休めば?」
「休むって……そんな簡単に言わないでくれよ。俺、成績は平凡だけど、出席日数だけはちゃんと取ってたんだ。無遅刻無欠席が自慢だったのに……」
『ふん、男の私って本当に小さいことを気にするのね。私の世界じゃ、そんなこと気にしてる暇なんてなかったわ。学校も行くわよ。隠れていても仕方がないでしょ』
(いや、君の世界は滅びちゃったんだから参考にならないだろ!)
「それにさ、学校だけじゃなくて日常生活も問題だよ。買い物とか、電車に乗るとか、全部女の姿でやらないといけない。……ていうか、トイレとかどうするんだ? 男子トイレに入ったら変質者扱いされるだろうし、女子トイレに入るなんて俺の精神が持たないよ」
聖愛は笑うが、笑い事じゃない。
妄想の中で買い物中、レジの店員が「袋にお入れしますか?」と訊ね、その声に反応する自分の高い声に違和感を覚えるだろ?
電車に乗れば、つり革に手を伸ばすたびに細い腕が露わになり、周囲の視線が気になって縮こまりそうになるだろ?
学校のトイレに入る時は、女子トイレのドアを開ける瞬間を想像するぞ。
うん……犯罪者のような罪悪感に襲われたぞ。
「トイレは、まあ、女子トイレに入ればいいんじゃない? 見た目が美少女なんだから誰も文句言わないよ。むしろ男子トイレに入ったら大騒ぎになるでしょ」
「いや、だから見た目はそうでも中身は男なんだよ! 女子トイレに入るなんて俺のプライドが許さない!」
『プライドとか言ってる場合じゃないわよ。君が男だろうが女だろうが、今はこの身体で生きていくしかないの。現実を見なさい』
(……現実って言われても、受け入れるのは難しすぎるだろ)
聖愛がベッドから立ち上がり、俺の肩に手を置く。
温もりが落ち着く。
「たしかに戸籍とかトイレとか、面倒なことはあるけどさ、私がいるんだからなんとかなるって。私、あんたの幼馴染でしょ? 昔からあんたが困ってるときは私が助けてきたじゃない」
「……そうだけどさ。でも今回は規模が違いすぎるよ。異世界の侵略者とか、アンドロイドとか、俺の身体が冷蔵庫に入っているとか。……普通の幼馴染が解決できる問題じゃないだろ。それに最近は喋ってもいなかっただろ?」
「普通じゃないからこそ、私がいる意味があるんじゃない? あんた1人で抱え込むなんて、無理なんだから。……それに私、あんたのことが嫌いだったわけじゃないんだからさ」
少しドキッとした。女の身体のせいだ、絶対に。
でも聖愛の真剣な目を見て、少し心が軽くなった。
『さすが聖愛ね、男の私、ちょっと見習いなさい』
(……君は黙っててくれ)
俺は聖愛に頷いた。
不安は消えないが聖愛が味方でいてくれる。
それだけで前に進む力が湧いてきた。
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