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TS? 入れ替わり? いいえ、女の身体に男の俺と女の俺が存在しています! ~俺の身体は冷蔵庫に保管中~  作者: ハムえっぐ


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第29話 身体は返してもらったわ

 私、相模原勇(女)は、クロノスを前にして立ち上がった。

 身体は泥と汗で重く、力は限界に近づいていたが私の魂は燃えていた。


 指輪が手の中で輝き、校庭全体がその光に包み込まれる。

 クロノスが冷笑を浮かべていたが、その目には初めて焦りの影が見て取れた。


「何⁉ この力は⁉」


 クロノスの声が震えていた。

 私は彼の顔を見据えながら、指輪の力を解放する。


 アンドロイドたちが一斉に私に銃口を向け、弾丸の雨が降り注ぐ。

 しかし指輪の光がそれらを無効化し、校庭がエネルギーの渦に包まれる。


「消えてしまえ、相模原勇!」


 クロノスの腕が振り下ろされる瞬間、私は身体をかわし、指輪の力を使って彼の動きを封じる。

 クロノスの目に、初めて恐怖が浮かんだ。


「何故……まだ動けるんだ!」


 クロノスの叫び声に、私は私に指輪を託したテイアの顔を思い出す。

 その人はクロノスの欲望と愚かさを否定し、魔法と科学を平和のために使うべきだと説いていた。


 クロノスがテイアを殺し、私の世界を滅ぼしたのだ。

 私の心の中で平和が瞬時に崩壊し、聖愛や戦場君が殺された記憶が蘇る。


「クロノス、私はテイアが信じていた理想を守る!」


 私はそう叫び、クロノスに向かって突進する。

 私の右手がマシンガンに変形し、クロノスの装甲に弾丸を叩き込む。


 弾丸が彼の身体に命中するたび、火花が散り、金属の音が校庭に響き渡る。


 クロノスが苦しみ、私の存在を否定するかのように叫ぶ。私の瞳から涙が溢れ、怒りと決意が溢れる。


「なぜ……テイアの理想など……」


 それに応えるように私は再び指輪を輝かせる。

 魔法陣のエネルギーが集まり、私の身体を強化する。


 テイアが信じた未来、魔法と科学の融合がもたらす平和。

 それを私は次こそは間違えないと誓いながら。


 氷華が傷つきながらも立ち上がり、クロノスに向かって魔法を放つ。彼女の表情も決意に満ち、声は力強かった。


「クロノス、私はあなたの言いなりにならない! 私の意志で、実験で、全てに終止符を打とう!」


 氷華の声が校庭に響き渡り、クロノスの目に更なる恐怖が浮かんだ。

 彼女の呪文がクロノスの動きをさらに鈍らせ、私の攻撃を助ける。


 クロノスは、自分の支配を逃れた者たちの意志に恐怖しているようだった。


「フレア、貴様……世迷い言を抜かすな!」


 クロノスの声は震え、私はその隙を突く。

 指輪の光がクロノスの身体を貫き、彼の強大な力が揺らぐ。

 私はクロノスに向かって全力を尽くす。

 私の叫び声は絶望から這い上がる希望の象徴だ!


「我が魂、我が力、この世界の未来を護って!」


 私の身体から光が放たれ、クロノスを包み込む。

 クロノスが苦しみ、金属の身体が軋んだ。


 私の心の中では、消えた世界の思い出が走馬灯のように流れていた。


 私の目から涙が溢れ、クロノスの最後の抵抗を押し返す。


「あああああああ! 何故……何故、俺は負けるんだ!」


「これで終わり!」


 私は力強く叫び、クロノスに向かって再度光を放つ。

 クロノスの身体が光に包まれ、一瞬にして消滅していった。


 しかし私の力も限界に達し、身体がふらつく。涙が頬を伝い、私の声は震える。


「私も、ここまでね……」


 その瞬間、私の意識は真っ白い精神世界に引き込まれた。


 ***


 そこには……彼が……男の勇が待っていた。


「なんだか不思議な気分」

「俺たち、死んじゃったのかな?」


 私が苦笑いしながら言うと、男の勇は微笑んだ。


「身体は返してもらったわ」

「はは、俺も元に戻ったのかな?」


「全く! 君は無茶ばかりして。死ぬ役目は私だったのに。出来の悪い弟を持った気分よ」

「いやいや、俺のほうが可愛げのない妹を持った気分だよ」


 私たちはしばらく睨み合っていたが、やがて笑いだし、爆笑した。

 ここでも出会うとは、なんとも奇妙な運命と思いながら。


 この白い空間は、私たちの魂が最後に交わる場所なのかな?

 私たちの笑い声は、悲しみを乗り越えた証でもあった。


「時を戻る魔法が成功したかはわからないけど、もし戻ったとしても、俺は君のことを忘れないよ」

「私もよ。君みたいなバカを忘れるわけないわ」


 私たちは手を伸ばし、握手を交わした。

 その瞬間の私たちの顔は穏やかだった。

 互いの存在を認め合い、感謝する気持ちが伝わってくる。


 私の涙が彼の手に落ち、男の勇はそれを優しく拭う。

 その手が私にとって希望の象徴だった。


「君、ありがとう。君がいなかったら、俺は……」

「勇、君もありがとう。君がこんなバカでよかったわ」


 私たちは微笑む。

 私たちは互いの存在を確かめるように、手を握り続けている。

 私の声が震え、彼も同じく声を詰まらせる。


 この瞬間が、永遠に続けばいいと思った。


「君の世界、聖愛や戦場君と一緒に希望を見つけて。私は……ここでいいの」

「君、俺も君の世界が救われることを願ってる。君の勇気、俺は忘れない」


 その時、白い空間が歪み始め、私の姿が徐々に薄れていった。

 男の勇は必死に私の手を握るが、私の存在が消えていくのがわかる。

 私の涙が彼の手を濡らす。

 私の魂が消えていくその瞬間、彼の目からも涙がこぼれ落ちる。


「君、待って……」


「勇、もうこれでいいの。君の魂は、君の世界で生き続けるべきなの。私は……」


 私の言葉が途切れ、私の姿が完全に消え去った。

 男の勇はその場に膝をつき、涙を流す。


 私の存在が消えたその瞬間、彼は私への感謝と愛を叫ぶ。


「ありがとう、女の俺……いや、相模原勇」


 彼は私の名前を呼ぶが、返事はない。

 白い空間は無に帰し、彼の意識もまた闇に落ちていった。


 私の犠牲と勇気が、この世界を救った証として彼の心に深く刻まれたんだと信じて。


 現実に戻ることができないこの瞬間、男の勇は私との別れを胸に刻み、私が残した希望と未来を信じた。


 私の魂は彼たちの未来に生き続けるだろう。


 ***


 そして男の勇である俺、相模原勇は聖愛と武彦の声を聞きながら、ゆっくりと目を覚ました。

 目の前には校庭の夜空が広がり、満月の光が彼の顔を照らしていた。

 

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