第24話 終盤付近は敵の攻撃が増えるもの
朝の光が教室の窓から差し込む中、俺、相模原勇はセーラー服姿で自分の席に座っていた。
昨日も一昨日も、その前も、アンドロイドの襲撃が続いているが今日はなんとか平和な朝を迎えられた……と思いたい。
いや、待て待て。こんな状況で平和とか言っている場合じゃないだろ。
「……はあ、今日は授業ちゃんと受けられるといいけど」
『君、授業も大事だけど、アンドロイドの襲撃に備えなさい。……昨日も一昨日も敵の動きが激しくなっているわ。終盤付近は敵の攻撃が増えるものなのよ』
(わかってるって。……けど、君のそのゲーム感覚の発言、ちょっとズレている気がするんだけど)
そんな脳内会話をしていると、教室のドアがガラッと開き、聖愛と武彦が入ってきた。
聖愛はいつものようにニコニコしながら俺の席に近づいてくるが、武彦は仏頂面で腕を組んでいる。
……うわあ、なんか武彦の目が俺をチラチラ見てないか?
「勇、おはよう! 今日もアンドロイド来ると思う? 昨日もめっちゃ疲れたよね」
聖愛がそう言うと武彦がムッとした顔で口を開く。
「勇、昨日は俺のバットが大活躍だったな。……けど、お前、もっと俺に任せろ。親友として、黙って見てられねえよ」
「……武彦、ありがとう。けど、俺も戦わないと。指輪の力を使うのは俺しかできないからな。……それに氷華の実験が近づいている。俺たちは準備を怠るわけにはいかない」
『はっ⁉ 戦場君のバット⁉ そ、そんなこと言われたら、私、ドキドキしちゃうじゃないの! ああ、戦場君のバットで私も……キュン……』
(ちょっと待て! 落ち着け! 俺の心臓までドキドキしているんだけど! ていうか戦闘中にそんな妄想はやめてくれよ!)
俺は顔を真っ赤にしながら、内心でツッコミを入れた。
……身体は1つなんだから、モロに影響が出るんだよなあ。
そんな俺たちのやり取りを、クラスメイトたちが遠巻きに見ている。
……うわあ、またあの三角関係の噂が広まっている気がするんだけど。
「ねえ、相模原さん、聖愛ちゃん、戦場くん、また一緒にいるね。やっぱり三角関係なの?」
「最近3人でトイレとか保健室とか同時に消えるよね。絶対何かあるって!」
クラスメイトたちが盛り上がっているなあ。
「は? んなわけねえだろ! 俺はそんなんじゃねえ!」
武彦が真っ赤になって叫ぶが、クラスメイトたちはさらにヒートアップ。
「ほら、戦場くん、顔真っ赤! 絶対意識してる証拠じゃん!」
「ていうか、相模原さん、セーラー服似合いすぎ! 私、惚れちゃいそう!」
「……えっ⁉」
俺は一瞬固まり、顔が熱くなる。……いや、待て待て、俺は男なんだぞ!
そんなこと言われても困るんだけど!
『はっ⁉ 私の身体に惚れるなんて、許さないわ! 戦場君以外に私を渡すつもりはないからね!』
(君の恋心の暴走……変わらないなあ。ていうか俺は渡すつもりないからね!)
そんな脳内会話をしていると、聖愛がニヤニヤしながら俺の肩を叩いてくる。
「勇、あんた、モテモテね。……でも、私のBL妄想には勝てないよ! ほら、勇と武彦くんの絡み、めっちゃ萌えるんだけど! 特に武彦くんのバットが……」
「はあ⁉ 修道院、てめえ、俺のバットを何に使って妄想してんだ!」
武彦がさらに赤くなって叫ぶ。……いや、武彦、顔が赤すぎるだろ。めっちゃ動揺してるじゃん。
『はっ⁉ 戦場君の真っ赤な顔⁉ そ、そんなわけないわ! そういうのは結婚してからよ! でも……でも、聖愛と戦場君が仲良くしてるなんて……嫉妬しちゃう!』
(いや、嫉妬している場合じゃ……)
『でも、戦場君の真っ赤な顔……いいわね』
(落ち着いてくれ! ていうか、俺にダダ漏れなんだよ!)
そんなカオスな状況の中、廊下からじっと見ている影があった。
炎城寺氷華だ。彼女はいつもの優雅な笑みを浮かべながら、俺たちのやり取りを観察していた。
……いや、氷華さん、こんなアホなシーンを見て楽しいの?
2時限目の授業中、俺は窓の外をチラチラ見ながら、アンドロイドの気配を感じ取ろうとしていた。
すると案の定、グラウンドの隅に黒服のアンドロイドが現れた。
……くそっ、また授業中に来やがったか。
「……先生、ちょっとトイレ行ってきます」
俺がそう言うと聖愛もすぐに立ち上がる。
「私も気分が悪いから、保健室に行ってきます!」
武彦も仏頂面で立ち上がり、「俺もだ」と呟く。
……うわあ、クラスメイトたちの視線がめっちゃ痛いんだけど。
「ねえ、また3人一緒に消えたよ。絶対怪しいよね」
「三角関係確定だね。……ていうか、授業中にそんな堂々と出ていくなんて羨ましい! 私も混ぜてほしい!」
そんなヒソヒソ話を背に、俺たちはグラウンドに飛び出した。
「来たか、アンドロイドども!」
俺は右手を念じ、マシンガンに変形させた。
黒光りする銃身が手に馴染み、引き金に指をかける感触が俺の心臓をさらに高鳴らせる。
聖愛は右手に光る魔法のオーラを纏い、癒しの力を準備する。
フレアから預かった力だ。武彦もフレアから強化魔法を受けた力で金属バットを手に持つ。
「勇、俺に任せろ! 昨日よりさらに強く叩き潰してやるぜ!」
武彦がバットを振りかぶり、アンドロイドの放つ弾丸を弾き返す。
カキーン! という金属音が響き、弾丸がアンドロイド自身に跳ね返って命中。
「武彦、ナイス!」
俺はマシンガンを構え、アンドロイドの頭部に照準を合わせる。
ドドドドド! 弾丸が命中し、1体が鉄クズとなって崩れ落ちる。
「勇、私も行くよ! 強化と癒しの力で、みんなの傷を治すから!」
聖愛が魔法を放つと俺と武彦の身体に温かい光が降り注ぎ、疲労が癒され力が増す。
……うわあ、聖愛の魔法、めっちゃ頼りになるんだけど。
そんな中、武彦がアンドロイドに突進しながら叫ぶ。
「勇、俺のバットを見てろ! これが俺の愛だ!」
「……は⁉」
俺が固まっていると、女の勇が脳内で大暴走。
『はっ⁉ 戦場君の愛⁉ そ、そんなこと言われたら、私、昇天しちゃうじゃないの! ああ、戦場君、私もそのバットで愛して……キュン……』
(いやいや、愛するとかやめろ! ていうか、戦闘中にそんな妄想するの本当にやめてくれ!)
そんなカオスな戦闘中、聖愛がニヤニヤしながら俺に近づいてくる。
「ねえ、勇、武彦くんのバット発言、めっちゃBLっぽいよね。ほら、勇と武彦くんの絡み、最高のシーンになりそう!」
「はあ⁉ 修道院、てめえ、戦闘中に何を妄想してんだ!」
武彦が叫ぶが、聖愛はさらにニヤニヤ。
「武彦くん、顔真っ赤! 絶対意識してる証拠じゃん! ほら、勇、もっと武彦くんに近づいて!」
「いや、近づかないから!」
そんなやり取りをしながら、俺たちはアンドロイドを次々と撃退していった。
以前は俺1人で戦っていたが、今は聖愛と武彦がいてくれる。
……本当に、1人じゃないって心強い。
放課後、俺たちは聖愛の豪邸のリビングに集まっていた。
テーブルの上には俺が作ったカレーライスが並んでいる。……正確には女の俺のスキルだけど。
「……勇、10日後の満月の日って、何が起こるの?」
聖愛が心配そうに訊ねてくる。武彦もムッとした顔で俺を見つめる。
「……氷華さんが言うには指輪を使った実験をする日らしい。……けど、俺たちなら大丈夫だよ」
俺はそう呟きながら右ポケットの指輪を握りしめた。




