第11話 似た者同士
聖愛の豪邸、和風建築の客間のベッドで俺(相模原勇、男、身体は女)はパジャマ姿で横になっていた。
ピンクのフリル付きパジャマは聖愛のおさがりで、胸元が少し窮屈だがもう慣れるしかない。
今日は武彦にも事情を話して仲間が増えた安心感と、氷華の謎めいた笑顔への不安が混じり合い、なかなか寝付けない。
ちなみに武彦は帰宅している。
いつでもすぐに、どこにいても駆けつけると言い残して。
あいつは家族がいるし、犬のきららもいるからね。
それ以前に女の子2人(俺含む)の家に泊まる性格でもないしな。
(……はあ、今日も色々あったなあ)
『君、早く寝なさい。明日もまた学校があるんだから』
脳内に響く「女の俺」の声。
相変わらず冷静で少し上から目線だ。
俺は布団の中で少し体を起こし、ため息をつく。
(そう言われてもなあ。君の世界のことをもっと知りたいんだよ。俺たちの魂が混じってる以上、君の過去は俺にとっても関係あるだろ)
『……まあいいわ。君が寝付けないなら話してあげるわ。ただし、途中で寝落ちしたら殺すわよ』
(はいはい、わかったよ。……で、君の世界はどうやって異世界人に侵略されたの? もう少し詳しく教えてくれ)
『……どこから話すべきかしら。まあ、順を追って説明するわ。私の世界はここと全く同じ。でも、ある日異世界から奴らがやって来たのよ……この指輪の力でね。最初は友好を装ってたわ。交易とか、技術交流とか言って。でも、それが罠だったの。奴らは私たちの世界の資源と土地だけを狙っていた。気づいた時には、もう遅かった』
(……それで、どうなったんだ?)
『奴らは圧倒的な力で攻めてきたわ。魔法で都市を焼き尽くし、アンドロイドを大量に送り込んで人間を虐殺した。私たちの世界の軍隊も抵抗したけど、まるで歯が立たなかった。ミサイルも核兵器も、奴らの魔法結界には通用しなかったのよ。……あっという間に世界は血の海に変わった』
(血の海……)
俺は思わず息を呑む。想像するだけで恐ろしい。
俺の世界だって、もしそんな敵が現れたら同じ運命をたどるかもしれない。
『私は普通の女子高生だったから最初は何もできなかった。ただ、逃げるしかなかったわ。その後の話は、もうしたわよね』
(異世界人の裏切り者に指輪を託された話だよね)
彼女の声は冷静だが、その奥に深い悲しみと怒りが隠れているのがわかる。
俺には想像もつかないような経験だ。
(君以外はどうなったの? 他の人は?)
『……私の世界にも聖愛や戦場君がいたわ。彼らも私を護って戦ってくれた。でも、結局……死んでしまったの。聖愛は私の盾になって魔法使いの炎を浴びて。戦場君は私を逃がすために最後まで戦って……奴らに引き裂かれたわ』
(聖愛と武彦が……)
俺は胸が締め付けられるような感覚に襲われる。
聖愛や武彦が死ぬなんて考えたくもない。
でも彼女にとっては現実だった。
『私は逃げた。指輪を使って、この世界に逃げてきたの。でも、その代償が君との魂の混在だった。……それと右手がマシンガンに変形するようになったのも、私を助けてくれた人が残した遺産よ』
(遺産?)
『その人が私に施した魔法よ。私の右手に魔法と科学を融合させた兵器を埋め込んだの。「これで戦え」って。最初は怖かったけど、使っているうちに慣れたわ。……でも、正直に言うと、戦うたびにあの時の聖愛や戦場君の死を思い出すのよ』
(……君、辛かったんだな)
『ふん、君に同情される筋合いはないわよ。でも……まあ、話して、少し楽になったのは事実ね』
(そうか……でも、もうひとつだけ聞きたい。なんで君、武彦のことがそんなに好きなんだ?)
『……っ! な、なんでそんなこと聞くのよ! 君には関係ないでしょ!』
(いや、関係あるだろ。俺たちの魂が混じってるんだから。君が武彦にキュンキュンしてるせいで、俺までドキドキさせられるんだぞ)
『う、うるさい! 君だって聖愛と一緒にいる時、ウキウキしてるじゃないの!』
(そ、それは……まあ、否定しないけどさ。で、話してくれよ。どうして武彦が好きなんだ?)
『……はあ、仕方ないわね。話してあげるわ。でも、笑ったら殺すわよ』
(はいはい、わかったよ)
『……中学時代のことよ。私、両手が塞がってる状態で教室の扉を開けられなくて困ってたの。先生に渡されたプリントで手がいっぱいで、どうしようもないって思ってたら戦場君が通りかかって……』
(通りかかって?)
『彼、黙って扉を開けてくれたの。「早く入れ」って、ぶっきらぼうに言って。でも、その瞬間、彼の目が優しくて……私、初めて心臓がドクンってなったのよ。それ以来、彼のことが忘れられなくて……』
(……待て待て、それって……)
俺は思わず布団から跳ね起きる。
心臓がバクバクしているのは俺の感情か、それとも彼女の感情か、もうわからない。
(それ、俺と武彦の出会いと同じだぞ! 俺も中学の時、両手が塞がってて教室の扉が開けられなくて、武彦に助けられたんだ!)
『……え? 君も?』
(ああ、マジで! あの時、武彦が「早く入れ」って言って、俺もその目が優しくてなんか安心したんだよ。それで武彦と親友になったんだ)
『……本当に? 性別が違うだけで、こんなに同じ過去を送ってたなんて……』
(ああ、びっくりだよ。君と俺、魂が同じってだけじゃなくて経験まで似てるなんて)
『……君と私が似てるなんて、ちょっと気持ち悪いけど……でも、なんだか、少し安心したわ』
(俺もだよ。君がそんな過去を持ってて、武彦を好きになった理由がわかったら、なんか……君がもっと近くに感じるよ)
『……君、変なこと言わないでよ。ウザいわよ』
(いや、照れてるだろ。……でも、よかった。君の話を聞いて俺たち、もっとわかり合える気がする)
『……まあ君がそう思うなら、いいわよ。でも覚えておきなさい。私が戦場君を好きなのは、君とは関係ないわ。君は君で聖愛と仲良くしていればいいじゃないの』
(はいはい、わかったよ。でもさ、君が武彦を好きでも俺はノーマルだからな。そこは勘違いしないでくれよ。武彦とイチャイチャするのは俺が元の身体に戻ってからな)
『わ、私は別に、イチャイチャなんてしないから!』
(したいけど、できないだけなんじゃ?)
『君、呪詛を唱えるわよ。……でも、君がそうやって真剣に聞いてくれたのは、ちょっと……悪くないわね』
(ハハ……俺も悪くない気分だよ。……君が武彦を好きでも、俺は俺のやり方で君を支えるから、遠慮なく思っていることを伝えてきてくれ)
『……君、時々いいこと言うわね。まあ、君がそう言うなら信じてあげるわ。でも忘れないで。私の世界を滅ぼした奴らを倒すまでは、君にも協力してもらうからね』
(ああ、もちろんだ。俺たちの魂が混じってる以上、君の戦いは俺の戦いでもある。……それに君の世界の聖愛や武彦のためにも、奴らを倒さないとな)
『……そうね。ありがとう、君』
(……おう、君もね)
俺は布団に再び横になり目を閉じる。
彼女の声が少し柔らかくなった気がして、俺の心も少し軽くなった。
彼女の過去、彼女の悲しみ、そして武彦を好きになった理由を知って、俺たちはただの「同じ魂」じゃなくて、もっと深いところで繋がっているんだと実感した。
(……本当に、性別以外は同じ過去を送ってたんだな)
『……そうね。君と私がこんなに似てるなんて、ちょっと不思議だけど……でも、嫌じゃないわ』
(俺もだよ。……じゃあ、そろそろ寝るか)
『そうね。おやすみ、君』
(おやすみ、女の俺)
静かな夜の中、俺は彼女の声を聞きながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
明日はまた新しい1日が始まるが、彼女と一緒にいればどんな困難も乗り越えられる気がした。
俺たちの心の距離が、ほんの少し縮まった夜だった。




