サファイアに恋して
サファイア様のブルー推しが効いたのか、ガチャの中身からブルーが消えていた。欲しいと思う時は出ないもので、二度目の挑戦で本来の本命はあっさりと転がり出て来た。
目当てだったはずのクリームソーダ。セピアコーラに次いでメロンスカッシュを獲得したのだから、喜びに満ちた報告を、ちょっとした自慢を発信出来たはずだ。
しかし────私の心は誰よりも深くサファイアブルーに染まっていたようだ。
エメラルドの女神が私に微笑みかける。貴女は最高の女性だ。勝利の女神は、私にも優しく加護を与えてくれたというのに、私の目はサファイアに向いていた。
あれほど熱狂的に持ち上げておいて、酷い裏切りだ。いや裏切ったわけではない。捻くれた私の心は、去りゆく夏と共に‥‥色褪せて消えゆく青色の声に、魅入られてしまったのだ。
私は残りの硬貨を確認する。電子マネーに慣れた弊害だろう。財布にパンパンに詰まっていたかつての小銭入れと違い、今の財布の中にある数枚の硬貨は、黒ずんだ銅貨のみだった……。
現実は残酷だ。望んで手を伸ばそうとするほど、スルリと機会を逃す。今さらサファイアへの恋に気づいた私に、彼女は微笑まなかった。
クリームソーダを愛する皆様を異色のブルーで巻き込んでいながら、本当は誰よりも私が青色の世界を渇望していたというのに。
これはエメラルド色の女神を拒み、サファイアに恋した呪いなのだろうか……。
あれほど暑かった夏の日差しが弱まり、クリームソーダに熱狂した皆も、落ち着きを取り戻してゆく。たかがクリームソーダ、いつかそう笑い合いエメラルドの女神を見て懐かしむ日が来るのだろう。
後遺症祭りはクリームソーダへの未練や、消化しきれなかった想いを吐き出し、楽しむために開かれたという。
クリームソーダを愛しているが、その愛が届かない男。
理想のクリームソーダに出会えず、漂流した男。
夏が過ぎても、クリームソーダに引きずられている者がいる男。
主催者の一人は漂流を運命づけられた男だ。もがき苦しみながら、理想のクリームソーダを求めて旅を続ける熱き男だ。
『だから誰よ、その漂流者は』
……幻聴だろうか。愛しきサファイアの声が聞こえた気がする。
『あれは漂流することになる運命というより病気よ。紫を引き直して喜んでいるけれど、BOXの事を忘れているわ』
これは幻聴ではなく、お告げのようだ。
漂流者の呟きを覗いて見た。確かに「ブルーなクリームソーダ&チェリー」 を求めるような発言をしているが、何やら様子がおかしい。漂流に疲れて迷走しているのか?
『あれはいつも迷子よ』
サファイアはBOXと言っていた。調べると出て来たのは、あそび研究所365なるメーカーの『オーシャンズメロンソーダ』 だ。BOX限定カラーが記事に掲載されていた。
ガチャにはないBOX専用の『ブルーなクリームソーダ&チェリー』 本流はきっとこの『オーシャンズメロンソーダ』 なのだろう。
『知らぬが華というものよ。伝えるのも野暮な事ね。それとあなたも肝心な事を忘れているわ』
私にも何か忘れている事があるのだろうか?
『私の青き力‥‥例え秋が深まりをみせようと消えたわけではないわ。それに‥‥私を愛する者達を私は応援するわよ』
澳 加純さま提供・サファイア様
美しいサファイア様のお姿がそこにあった。バナーだけにとどまらず、まさかのファンアートが届いたのだ。私は漂流者のように、見放されたと勘違いしていた。
『どうかしら? 顕現させてくれたカズミ・サマーに感謝なさいな。もっともあなたに────ではなくて、私に届いたのよ』
────青の奇跡が起きた。ただし私にではなくサファイア様に。ちっぽけな私の青い恋など、どうでもいい。
何故なら世界に唯一のサファイアブルーはここにあるのだから……
お読みいただきありがとうございます。
この物語は『サファイアの逆襲』 をもとに作られた作品です。澳 加純様にいただいたファンアートを活かすために、企画で生まれたキャラクターを登場させています。
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