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4 逃した魚が大きいって!まわりが言うんだよ

「最近ノビーパークさんすごく可愛いよな〜」

「あぁ、今日も俺に笑いかけてくれたぞ!多分彼女俺のこと好きだと思う」

「何言ってるんだよ。彼女ヴァレンタインと婚約してるんじゃなかったっけ」

「え?お前知らないの?ヴァレンタインがまた悪い虫が騒いでさ、もう破談寸前らしいぞ」

「じゃあ俺にもチャンスあるな」

「馬鹿。もう第二のロッティ副隊長が早速食事に誘っているはずだ。それにウォード指導官は実家から自分の釣り書きをノビーパーク伯爵家に送ったらしいよ。

 爵位持ちの本気の人間が名乗りあげてるんだから俺らみたいなペーペーじゃ無理だよ」


 わぁ〜それ絶対勝てないやつじゃん!

 と、他の面子がワァワァと騒ぐのをヴァレンタインは気配を消して食堂の隅で静かに聞いていた。



 あれから一月経った。


 マリアナから「会いたいです」といった連絡は変わらず届かない。

 だが誰が流した噂なのか……


 ヴァレンタインが浮気したのを目撃したという話は夜会から10日もすると騎士団周辺にはすぐに回った。

 マリアナは仕事を休む事はしなかったがヴァレンタインがいる場所には決して近づこうとはしなかった。

 渡り廊下や、団長たちとの会議室で鉢合わせることはあるが雰囲気は一変した。

 ヴァレンタインに会釈はしてくれるが視線は絶対に向けてくれない。


 冷たくなった雰囲気に気圧されて結局一度も話しかけることが叶わない。

 

 それにガチガチに生真面目だった時とは打って変わり、柔らかな男受けするワンピースやニットの組み合わせを着て出勤するようになった。

 鉄面皮という渾名まであった女の変身はあっという間に話題になる。

 王女付きだった時は女官たちと同じように緩みなくまとめ上げていた髪型も今では下ろしたままで年相応に見える。


 他の男に笑いかけたりしなかったマリアナが今は誰に対してもニコニコと対応しているのには動揺した。

 

 たっぷりと揺蕩う腰までの金髪をダウンスタイルにしているだけで、後ろ姿まで華やかである。


 〈美人で明るい性格のうえ仕事が早い〉

 たった一月なのに年配の事務官から、若手の騎士達と幅広い男たちから良い評価を得ている。


 マリアナは騎士団に異動になった当時は精神的にかなり参った時期であった。

 王女とのお輿入れは彼女にとって悲願であったようで、夢が破れた後は抜け殻と化していた。

 ただでさえも静かな女は更に口が貝のように閉じており、落ち着きすぎた22歳は注目を集めなかった。

 表情は暗く、年配女官の指導の成果か衣服もミセス寄りで、真面目な印象の服ばかり。

 若い騎士たちはマリアナより容姿が劣っても愛想の良い女の尻ばかり追いかけていた。


 ヴァレンタインがマリアナの横顔の美しさに気がついたのは偶然だった。

 薄化粧で頬紅もつけていない。しかも地味なブラウスに黒のタイトスカート。その彼女が西陽がさす廊下で書類を拾い上げていた。

 少しだけ落ちてくる前髪を掻き上げたその瞬間『ああ綺麗な子だな』と認識したのだ。

 

 チラチラと盗み見れば所作も綺麗で、魚を丁寧に食べあげる姿に惚れ惚れした。

 最初は興味本位で揶揄った挨拶が、そのうち『一回ご飯食べようよ』に変わった。

 

 だから、最初の食事にやっと来てくれた時、思いの外お喋りなマリアナにヴァレンタインは驚いた。


 幼少期の思い出話は活発なエピソードが多く、意外にもそれは面白かった。

 マリアナは頭が良いがそれを鼻にかけたりはしないし知識をひけらかすことも無かった。

 会話も楽しめたが何より聞き上手なところが良かった。男しか喜ばないような内容でもヴァレンタインの意見を素直に聞いて相槌を打ってくれる。喋りやすく、自分の考えも言うがここぞと言う時は一歩引いてヴァレンタインを尊重した。


 (男を立てる)と言うことが身についているんだわね、と母親のヤスミンが言っていたがその通りだと思う。

 今まで付き合ってきた尻の軽い女達とも違って、誰かれに媚を売るような態度も取らない。

 『誠実』と言うことの大切さをヴァレンタインに初めて実感させてくれたのはマリアナに違いなかった。


 婚約をしたいと考えたのはそういう自分に向けてまっすぐな『愛』を感じたからである。

 

 それが一転した。自分だけに向けてくれていた笑顔を大安売りしている彼女に、ヴァレンタインは複雑な感情に支配される。


 『何で他の男に媚を売っているんだ!』と怒鳴れば『貴方はそれ以上のことをしましたよね?』と言われるだろうし、周りも同調するに決まっている。


 『オシャレなんてしなくても良いんだよ』と嫉妬に駆られて罵りたくなるが、レイチェルと密かに会った後に『マリアナは地味だな。もう少し気を遣えば良いのに』と言った黒歴史がある。


 以前夜会で会ったレイチェルはそれはそれは華やかであった。

 赤いドレスに大振りのコサージュを着けたレイチェルが大輪の大薔薇だとしたらマリアナは薄いベージュのドレスでまるでかすみ草のように見えた。

 悪気はなかったが、(しまった!)と思った瞬間にはもう彼女は傷付いた顔をしていた。

 マリアナは少しだけ寂しそうに微笑い

『王女殿下と行動する私たちは、決して目立ってはいけないから、慎み深い格好を言いつけられていたの。その時の習慣でね』と俯いた。


 『ごめんよ』とすぐに謝れば良かったのにヴァレンタインは「今度はちゃんとしろよ」と上から言葉を投げつけた。


 思い返せば最低の婚約者である。


 他の男たちと笑顔で会話するマリアナを見ていると胸が締め付けられ、彼女を取り戻したい欲求がムクムクと湧き上がる。


 何度も何度も会いに行こうと決意するのに兄のレオンと母親から釘を刺された。


 せめて謝罪の手紙は書かせてくれと頼んで、もうマリアナには五通。ノビーパーク家には二通出した。


 ノビーパーク家の若当主からは『慎重に検討させて欲しい。大事な義妹だから不幸な結婚だけはさせたくない』と返事をもらい、マリアナからは『いかなる理由があろうとも私は今は会いたくありません。今は自分を見つめ直す時間を下さい』と一度だけ返事をもらった。


 マリアナのヴァレンタインに対する無視の仕方は筋金入りで、本当に居ないように扱う。


 ヴァレンタインはこの1ヶ月で体重は5キロ落ち、気がつけばレイチェルは皇国へと旅立っていた。



 レイチェルは皇国のご令嬢たちからの嫌がらせ行為を、上手く皇子に伝えたようで、『騒ぎの発端となったご令嬢たちは皇子からお灸を据えられたのよ』、とヤスミンから聞いた。

 ヤスミン曰く『強かなご令嬢なんですからそれくらい出来て当然です。じゃなければ皇子とお近付きになる筈ないでしょう?虐められた?そりゃあ社交界ですから嫉妬に駆られたおバカさんは沢山いるでしょうね。でもそれは本人も分かっていてのことでしょう。誰が自分の益になるかの篩にかけていただけよ』と冷たく言われた。

 

 シクシクと泣き崩れたレイチェルを心配し、必要以上に寄り添って支えたつもりになっていた。だが結局のところ、彼女はヴァレンタインの助けなど全く必要としておらず自力で問題を解決してみせた。

 そしてヴァレンタインには自分で撒いた種のトラブルだけが残った。


 (大事なものを大事にしなかったら、こんな風になっちゃうんだな……俺はマリアナにこのまま捨てられるのかな)


 足掻いていた当初より、一月経過した今の方がヴァレンタインは萎れていた。


 一日一日と蕾が開いていくようにマリアナが生き生き輝いていくのを眺めていると

 (もしかして俺がいない方が彼女は幸せなのかな……)と考えてしまうようになった。


 騎士団長の言葉も兄の言葉も胸にグサリと刺さったままだ。

 そして、その言葉が、本当だったのだと自覚するのであった。




─────────────

 

 マリアナは夜会の後から休日は最近いつもモリーの家で過ごしていた。

 モリー曰く『リハビリ』だそうだ。

 性的なものを感じさせない少年や若いナッティとドレスや本のことについて喋る時間はマリアナの心の穴を確かに埋めてくれた。

 モリーの家の蔵書は非常に多く、趣味が『本』であるマリアナは歓喜した。


 そして夜会からすっかり遠ざかっているマリアナにモリーとナッティが読書懇親会に誘ってくれた。

 

 この日のモリーはブティックオーナーとしてではなく、一人の作家として出版会社の集まりに顔を出すと言う。


 夜に開かれるこの会は夜会と違ってダンスがある訳でもなければ、色恋もない。

 作家と支援者、出版社たちの横のつながりを形成する為の会。

 定期的に行われるそうだが、多くの作家が未発表の作品や、その年の評価の高い出版物を持ち寄り批評会をするらしい。

 貴族出身者も居れば、平民からスターにのし上がった作家も同じテーブルに着き、本について只管意見を交わす。

 読書家のマリアナには夢のような一日であるのは間違いない。 

 学生の時よりも砕けた読み物が増えたマリアナだ。近年はラブロマンスも冒険譚と合わせ技で描かれていて非常に楽しめる。

 大好きな〈クリスタルビーズの王冠〉シリーズなどは、継承順位がとても低い王子が、隣国の姫と結婚するために、沢山の冒険を重ねて王女を迎えにいくサクセスストーリーだ。

 ドラゴンを倒し、魔法使いの謎解きを見事クリアし、ライバルの王様を退ける。


 そうして勝ち得た愛の深さは数多の女性たちの憧れだ。

 マリアナも幾度も涙を流し、繰り返し読むたびに愛を育む二人にエールを送った。


 まあ、憧れは憧れに終わり、現実世界は厳しいとプライベートで実証済み。

 婚約者との間には障害物は何もないのにぞんざいに扱われ、マリアナ一人が果敢に魔女(元カノ共)と渡り合う羽目になった。


 そして挙句に熱い抱擁を見せつけられる…(愛の試練?)いや、ここ最近のどこかよそ見をしている雰囲気のヴァレンタインが招いた自然災害だと今は冷静に思う。

 (きっと誠実な男性と付き合っていれば起こらなかった……)そこまで考えたあたりで胸がツキリと痛む。

 マリアナはヴァレンタインの軽口で、塞いだ心がいつの間にか助けられていた。

 始めは女好きを公言する男なんて最低だ、と考えていたのに、明るい話題や小さな苦労を労う一言に自然と絆された。

 (それくらいには彼のことが好きだったのよね)

 マリアナはショックを受けたあの晩に一生分泣いたのでは無いかというくらい涙が出た。

 

 


 ……意識が逸れてしまったが、その読書懇親会にお目当ての作家がいる。


 期待の新星作家、エリ・レジスティックは「流星のセレナーデ』で自費出版した本が大当たりした女流作家だ。

 今年一番売れたと言われる本なのに大手出版社を全く通していないその作家は謎に満ちていて、読者層も幅広い。

 

 シリーズで五冊出版されている物語の内容はこうだ。

 神殿に住む孤児のヒロイン〈セレナ〉が冤罪により神殿を追い出されるところから話は始まる。

 神の力を実は宿していたセレナは自分の死に場所を戦地であると決め、数多くの死者が出る最前線に赴く。

 そして献身的な働きを続けるのだ。

 怪我を治療し、呪いを解き少しでも多くの人々を救おうとする。その真っ直ぐな献身の姿にやがて国家も動かされ……


 この物語にマリアナは非常に感銘を受けた。


 冤罪をかけた神官とやがて戦場で再会するシーンは特に涙なしには読み進められない程だった。

 変わり果てた神官が死の淵を彷徨うがセレナは無心で看病に明け暮れる。

 信頼する人間に裏切られたセレナの心情を思うと、過去の自分と重ねてつい辛くなるがヒロインの懐の深さに『私もああなりたいものだわ』と憧れもする。


 ここ半年の中でこんなに読み返した本はない!と周囲に吹聴したほどお気に入りの作家である。


 モリーに『エリも懇親会は来るわ。紹介してあげる』とサラリと言われた日は思わず『では着ていくドレスを購入いたします!!』とモリーのブティックで6着も購入してしまった程だ。

 王宮に勤めてから初めての散財である。


 ナッティのアドバイス通り淡い紫のジャケットに同系色の小物を揃え、ブラウスは白、スカートは萌葱色にしてバランスよく配色して貰った。デザインは凝りすぎた物ではないのに配色が洒落ているだけで鏡の前の自分は若々しく(いや実際に若い)活発な印象に変わる。


 エスコートするナッティもタイを萌黄色に揃えてくれてモリーもドレスをそれとなくマリアナに合わせてきた。

 それだけで一団は一気に華やいだ。


 モリーは本当に顔が広いらしく次から次に挨拶をしにくる人々が後を絶たない。貴族は勿論多いが、平民出身の作家もモリーには非常に親しげに話しかけてくる。「モリー様って誰とでも分け隔てなくお付き合いをされていらっしゃるから、本当に皆様に好かれていますわね」マリアナが素直にそう述べるとモリーは苦笑した。


「私は貴族だけど彼らと同じように目も耳も鼻もあるし、血も赤いのよ。貴族って生まれた場所のことだものね」

 マリアナはモリーの優しさの根底にある強さを見た気がした。

 

 いい加減笑顔が引き攣りそうになった頃一人の長身の男性がシャンパングラスをモリーに勧めてきた。

「モリーお疲れ様、今日は可愛い護衛さん連れだね」

「あら!エリ!遅かったわね」

 そう言うとマリアナにモリーは体を向ける。

「エリ、王宮にお勤めのマリアナ・ノビーパーク伯爵令嬢よ。最近私が仲良くしてもらっているお嬢さんなの。そしてこちらはエリ・レジスティック。本名は本人から教えてもらってね。〈流星のセレナーデ〉の作者さんよ」

 マリアナは両目を見開くとその金髪に紫の瞳を思わず見つめた。


「あ、すみません。私ずっとエリ様を女流作家だと思っていまして一瞬混乱してしまいました」

 マリアナの驚いた表情に二人は悪戯が成功した子供のように微笑んだ。


「噂はお聞きしていますよ。優秀な文官さんなのですよね。私もノビーパーク嬢のイメージが変わりました。もっとお年が上のベテランの女性が来られると思っていましたから。

 初めまして、本名はエリック・レジロンディと申します。私も実は王宮に勤めているんですよ。

 職場は法務部ですから普段お会いすることはないのですが」


 (法務部?!王宮勤めの人間でも学歴が最高学府を卒業していなければ入れない最難関の部署ではないの!!)

 細身で長身のエリックは年齢は30歳。

 レジロンディ子爵家の嫡男でバイデロン侯爵が後見人だと言う。

 義兄のケイオスが落ちた法務試験も合格した天才らしい。

 淡い金髪にあっさりした顔立ちで、柔らかな物腰。


 いつの間にかナッティ達は挨拶回りを再開し、マリアナはエリックと二人で夢中で本について語り合っていた。


「では本当に戦場に行かれたことがあるからあの内容を書かれたのですね」

「ええ、あの日々は忘れようにも忘れられなくって。いかなる理由があろうとも戦争は私は反対なんです。

 罪のない人々が死んでいくのは辛いという言葉だけでは片付かない。私も仕事で赴いたとはいえ、その胸に澱のようなものが溜まってしまってね。それを少しでも浄化したくてあのシリーズを書き始めたんですよ」

 お酒を軽く口に含んでエリックは照れたように微笑った。


 女性を主人公にした時から絶対に男が書いている物語だと悟られたくなくてペンネームを女性の名前にしたのだという。


 そうすれば思った以上に反響があり、今では顔出しも難しくなってしまったほどだと頭を掻いた。


「男性が書いたとは思わなかったですわ。だってヒロインが本当に自立して素敵な女性ですもの。

 私はヒロインのセレナに本気で憧れています。幾度も困難に打つかりますでしょう?でもセレナは決して人に責任の所在を求めないんです。いつも自分と向き合って反省点を求め続ける。そんな姿勢に憧れてしまって……」マリアナが熱く語るのをエリックはニコニコと聞いていた。


「す、すみません。何度も聞かされているような感想つまらなかったでしょう?私感動してしまうとこんな風にお喋りになっちゃうんです。恥ずかしいわ」

 以前ケイオスと二人きりになった時も嬉しすぎてついついお喋りになってしまった。

 男性は女のお喋りには鬱陶しさしか感じないと言うのに、またヤってしまった!と手のひらを口元に当てて次の言葉を呑み込もうとした。


 だが、エリックはクククと笑うと嬉しそうに言った。


「いやいや、寧ろ大歓迎です。

 他のご令嬢達はね、私が王宮勤めの貴族の端くれだと聞くと挙って質問攻めです。『ご結婚されていますか?』『恋人は?』『普段は夜会にご出席なさっていますか?』ってね。純粋に本についてこんなに語ってくれる人なんて皆無ですから」

 マリアナは恥ずかしくて俯いてしまった。


 自分を肯定されたことが面映かったのだ。


「本当に三巻は特に読み返しておりました。あ、すみません、これを話し始めるとまた長くなってしまいますわね。

 お会いできたことがとても嬉しくて、はしゃいでしまいました。お許しください。

 私も夢中でレジロンディ子爵をお引き留めしてしまいましたけれどそろそろ皆様の所へお戻りくださいな」

 だがエリックはゆっくりと首を振る。


「私は今日はモリーに言われたからやっと出席したんです。多分マリアナ嬢を引き合わせるためだったんです。私は普段この懇親会には全く顔を出しませんから。

 今日は〈セレナーデ〉の感想を思う存分聞かせて貰っていいでしょうか?私は貴方の意見を聞くととても元気が出る」


 マリアナはその言葉にすっかり舞い上がり再び激アツな感想を語り始める。

 ヴァレンタインのような派手な見た目の男性でなく、穏やかで線の細いエリックは圧迫感も無かった。

 背の高さは椅子に座ってしまえば関係なくなり、いつの間にか二人の円卓には誰も座っていなかった。

 

 純粋に本の話をするのは楽しかった。

 博識で頭の良いエリックは話題が豊富で本のジャンルも様々読むようだ。しかも女性の好む美容の話にも詳しい。話の振り幅があまりに大きくて時間を忘れるほどであった。


 だから帰り際に食事の約束を取り付けられたことも自然な流れであった。


「モリーの〈クリスタルビーズの王冠〉に出てくる『東の豚亭』に行ってみませんか?庶民の店だけど本当にあそこの〈豚足の煮込み〉は一度食べた方がいい。私は食に興味がある方じゃないけれどあまりの美味しさに二日連続通いましたから」

「まあ!あのお料理は本当に実在しますの!?じゃあ、豚耳の唐揚げももしかして……」

「それは次の楽しみにとっておきましょうよ。二人で食べれば何も怖くないかもしれませんよ?」 

 エリックの提案にマリアナは素直に頷いた。


 ロッティ副隊長からの誘いも、ウォード指導官のお見合いも即お断りしていたのに、エリックとの時間が楽しすぎて性別を超えて仲良くなりたいと本気で考えたのだ。


 モリーが、マリアナとエリックが気が合うと見越していたのかは分からない。

 だがマリアナは読書懇親会を機会に一人の男性と連絡を取り合うことになった。


 男性と二人で会うのは婚約者ヴァレンタインとケジメをつけてからと、マイルールを厳しく敷いていたマリアナにしてはとても珍しいことであった。

 

 モリーに言われた通り、マリアナは本来の自分らしい、お喋り好きの明るい女性へと変化した。元来は、その姿だったのだが、王宮の皆はそれを知らない。

 

 被った猫の大きさにビクビクしながら、その皮を脱ぎ去れば思った以上に周囲の反応は悪くなかった。


 (私の思っていた、『選ばれる女性像』って間違ってたのかな?)

 と考え込んでしまうくらい、自然体のマリアナは受け入れてもらっている。


 何かの呪縛とは、自分で作り上げた妄想の中にあるのだろうか……と考え込むマリアナであった。

釣った魚に餌をあげない男はギャフンと言えばいい!と言う気持ちが込められています笑

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごいかわいい主人子で、すっごい熱心に読んでしまってます ようやく「ヒーロー」登場かしら? [一言] 釣った魚に餌をあげない男はギャフンと言えばいい!と言う気持ちが込められています笑 …
[一言] 普通にこの微笑ましいふたりがくっつけばいいと思う!!めちゃ応援するわ!! 何が悲しくて自分を省みてもくれない不良債権を引き取らにゃならんのかという話だもんね
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