第2球
薄暗い選手控室のロッカーでうなだれながら俺は淡い期待をしていた。
確かに決定打となる場面でチャンスを潰してしまったが、彼女は俺がグラウンドを去るまで応援してくれた……だから……まだ…………。
「なんだよあの脱力した構えは……」
脳内を笹追との今後の可能性についていっぱいにしていると、両肩をガシッと掴まれ荒っぽい声で現実に戻された。
「最後決める気あったのかよっ! なあ? 今思えば始まる前から上の空だったよな?!」
「そんなことねえよ、ちゃんと集中してたよ」
自分のミスを責められムッとし、つい素っ気ないトーンで返してしまった。
それがいけなかった。
次に口を開こうとした時、言葉は鈍い頬の痛みに掻き消された。
チームメイトはキッとこちらを睨みつけてさらに声色に憤りを滲ませる。
「おまえのそういういい加減な態度が気に食わないんだよ! 居残り練もしないでいつも自分だけ早く帰りやがって!」
殴られた衝撃で思わずコンクリートの床に倒れ込む。受け身を取った腕にひんやりとした感覚が伝播していく。
「うるさいな、居残りマウントとる割に今日も大して打ててないじゃん、あの時間一体何してたの?」
試合に負けたのは確かに俺のせいだ。でもそれまで碌にチャンスも作れなかったチームメイトにも責任はある。
最後の最後に重圧のかかる場面で回ってくるメンタルを責める全員に味わってほしい。
「いい加減にしろおまえらっ! 仲間同士で粗探しするな見苦しい」
険悪な会話の応酬に止めに入ったのはこのチームのキャプテン件田著緒央。眉毛と眼力の主張が激しいのが特徴。
「負けたのはチーム全員の責任、全力を持って闘ったのだから胸を張れ。酢軽はアイシングで頭冷やせ、環丸は外行って空気吸ってこい。いいな?」
「なんで俺だけ出ていかなきゃ……」
「いいから早く」
不満を零す間も与えずキャプテンに背中を押され控室から閉め出された。
「そんなの必要ないんだけどな。まあいっか、トイレ行って適当に時間潰そう」
やや腑に落ちないが向きを曲線の廊下に移し、蛍光灯の光を反射する漆黒のコンクリート上をもたもたと歩き始めた。
「約束は果たせなかったけど笹追さんなら受け止めてくれるよね」
甘い幻想が試合での失態を優しく包み込んだ。