コスモスの墓
小説家になろうラジオ大賞5 参加作品。
テーマは「コスモス」です。
新婚一年目を前にして妻は事故に合った。
妻は秋桜が好きだった。
毎年この季節に沢山の秋桜をプレゼントした。
そしてまたこの季節、妻がなくなる日がやって来た。
「綺麗ね」
花束を抱え妻は喜ぶ。
「結婚式、皆来てくれるかな?」
「来てくれるさ」
「新婚旅行、どうしよう?」
「海外にでもするか」
無邪気に笑顔を見せる。
だが、
結婚式は既に済んでいる。
新婚旅行も終わってる。
妻は事故で一命は取り留めたものの脳に障害が残り、新しい記憶が一年続かなくなった。
結婚式は質素だが思い出に残る素晴らしい式だった。
もちろん親族、友人など皆参加し、妻の心配は杞憂に終わった。
そんな出来事も忘れてしまっている。
新婚旅行も海外へ行っている。
空港で迷子になったことも。
向こうの文化に驚いたことも。
食事が不味かったことも。
きっと忘れてるのだろう。
新たに式をやり直し、旅行へ行ってもいいのだか、どうせ一年経つと忘れてしまう。
妻は26歳のあの日から死んでいるのだ。
肉体は歳を取るが、精神はあの頃のまま。
一生永遠26歳を繰り返す。
未来の無い妻に一体何があるというのだ。
いつからか私は、妻に贈った秋桜を押し花として残すようになった。
その年で妻が一番気に入った花を残す。
それを彼女の本の中に挟む。
読みかけの小説は97ページで止まっていた。
その後、何度読んでもそれ以降のページの内容は忘れてしまう。
まるで妻のようだ。
終わりの無い、結末の来ない物語。
次第に私の心も衰弱していく。
怒鳴ることも多くなった。
どうせ忘れるのだから。
そんな諦めが漂うようになった。
そして秋桜の押し花だけが毎年増えていく。
まるでミイラのような秋桜の墓。
秋桜は一年草だ。
芽が育ち花が咲き、そして枯れる。
冬を越すことはできない。
一年限りの花。
枯れる前に種を残し、それが翌年に芽を出し花を付ける。
その繰り返し。
毎年同じ場所で咲く秋桜も、それは別の花。
妻の記憶も同じ。
一年経てば枯れてなくなる。
そして今年も……
「押し花、たまったわね」
「そうだな」
「きれい」
「そうだな」
「このピンクの……って
一昨年の?
だっけ?」
「え?」
「去年は確か……黒?」
「憶えて……?」
自分こそ忘れていた。
「最初は黄色かしら?」
「……ああ、そうさ。
この小説、
最後どうなったか、
憶えてるか?」
君は秋桜なんかではない。
「もちろん。私の好きな話。
主人公は苦労するんだけど、
ハッピーエンドなのよね」
「その通りだよ」
私の最愛の人なのだと……
いつも読んでくださる方、
何かの気まぐれで発見された方、
彷徨ってたらここにたどり着いた方、
お読みいただいた皆様に感謝いたします。
今回の小説家になろうラジオ大賞5の企画。
この作品にて全テーマコンプリートです。
興味がある方はタイトル上部のリンクから飛べると思いますので、よかったらご覧ください。
まだ期限に時間がありますので、もしかしたら追加で投稿するかも?
では皆さん、メリークリスマスと良いお年を。
またどこかの作品でお会いしましょう。




