3.中古車販売店
Zさんは車の買い換えを考えて、近所にある中古車販売店まで妻と共にやってきた。
屋外の展示スペースと、建物の中にも車が並んでいる。店員はそこかしこにおり、客側は気になることがあればその場で店員に声をかけて話に移ることができる。
Zさんたちは屋外の車を見て回っていた。コンパクトカーに乗っているZさんは、乗り換えた際にもコンパクトカーにしようと考えており、妻にもそれは話していた。
「ねえ、またコンパクトカーにするの?」
妻が話しかけてくる。
「今ぐらいの大きさの方がいいんだよ。あまり大きい車だと、狭い道で事故を起こしそうなんだ」
「でも、これから家族が増えたら大きい車の方がいいよ」
家でも繰り返した問答をここでもするのかと、Zさんは少しうんざりした。
2人で喋りながら車と車の間をすり抜けていく。
その間に見たうちの1台にZさんは着目した。今乗っている車と同じメーカーの、最近出た車種だ。
「あ、もう中古車であるんだな。値段はさすがにちょっとまだ高いか」
外観、そして車内を眺めていく。さすがに今のと同じ自動車メーカーだけあって、操作性も変わりなさそうだ。結構いいかもしれない。
「ねえ、ミニバンもあるから一応見てみない? あっ、でもこれ……」
Zさんが見ている車の向かいにはミニバンが展示されていた。妻がそれを見て呼んできたのだ。
「あー、ミニバンか」
気のない返事を返しながらZさんはそちらを見る。
「……」
しばし硬直する。
そしてミニバンの後ろの方にいた妻のもとへ行き、こう言った。
「なあ、他の店も見てみようよ」
「えっ」
妻に告げてZさんは自分の車の方に歩き出す。
慌てて妻も後ろをついてくる。
「どうしたのよ、急に。まだ見たかったのに」
無言で乗ってきた車に乗り込み、Zさんは車を発進させた。
Zさんがこのような行動を取ったのにはもちろん理由がある。
彼は見てしまった。
ちょっといいなと思った車の、向かいに停められていたミニバン。
その運転席のところに、生首が浮いていたのだ。
白髪の、男性の顔だった。
光りの加減や服の色によって首から上だけが見えた、ということではない。
生首は、逆さに浮いていたのだから。
帰りの車の中では話す気になれず、家に帰ってから妻に事情を話した。
荒唐無稽な話として信じてもらえないのではないかと思ったのだが、意外にも妻は得心したような顔つきだった。
「あー、向かいのミニバンね。ちょっと私も、変だなと思ったから」
「え、何が?」
「値段が書かれたボードがあったでしょ。それが28万円ってなってて。ミニバンでその値段っていうのは相当安いから」
Zさんはその後、他の店で車を購入した。結局自身の希望通りにコンパクトカーを選んだそうだ。