アン・ブルーフィールド
エイサムのパトロール隊所属のアン・ブルーフィールドは、騎兵隊予備役のゼファーや軍役浪人のエイムと違い冒険者志望の隊員である。彼女はユウキが魔物に襲われていた時に救出したメンバーのうちの弓騎士だ。
冒険者ならばメインの武器が遠距離型でも、突発的な近距離遭遇戦に適した武器の使用にも慣れておかねばならない。普段の任務でも弓のほかに短剣を携帯していた。
彼女も今日は非番で、午前中は鍛錬の為に町の外で身体を動かしていた。昼食のために町に戻ってくると、宿舎から出てくるエイムとユウキを見かける。
「これはこれはこれは! エイム先輩と転移者さん? ここは絡みにいかねば!」
騎士団の首都に向かう隊商はたまにしか通らないため、エイサムの宿は素泊まりしかできない。外食ならば唯一の選択肢がニワトリ亭だ。そのニワトリ亭に、エイムがユウキを案内して入ろうとするところにアンが声をかけた。
「センパイ! こんにちは! 今からお昼ですか?」
「アン……、あんた……」
「私も一緒にいいですか?」
アンは力の限りの笑顔を作った。
「ニワトリ亭というからには、鶏肉が中心なの?」
「そうですね。卵料理も豊富ですよ。養鶏所直営なんです」
エイムが答えた。
「へぇー、じゃあエイムに任せていい? おすすめでお願いします」
そう言ったものの、ユウキは味には期待してない。宿舎での提供食もそうだったが、どうにもスパイスが足りない。香辛料が超貴重品なのは容易に予想できた。何が出てきてもまずいとは当然言えない。
「ところで転移者どのは、センパイの銃にご執心だとか」
食事がひと段落したところでアンが訪ねてきた。
「転……ユウキでいいよ……。そうだね、元の世界じゃ絶対見られないものだから」
「そこで!わ たしの短剣もぜひ見てもらいたくて!」
「自慢の弓じゃなくて?」
「弓はごくごく普通です!!」
アンが自身の短剣を鞘ごとテーブルに置いた。
短剣は全長50センチほど。特徴的なのは「く」の字の刀身。それと刀身の根本近くにあるくぼみだ。くぼみはくの字曲線の内側にある。
「お───! これはククリナイフだね。実物は初めて見た」
「そういえばアンの短剣って他で見ない形だよね。どうしたのこれ?」
「ナイショです!!」
「出どころは大体わかった。砂漠の向こうの東の国からきた隊商でしょ?」
「なんでわかるんですか───!!」
「いやあ、宿舎に大まかな地図があったんで何となく」
「ある日、魔物の襲撃から助けた隊商の積み荷に大量のめずらしい武器があって……」
「盗んだの?」
「貰ったんです!!」
「で、このくぼみの使い方なんだけど、剣を相手にしたときに、斬撃はこっち側で受ける」
ユウキは短剣を持ち、くぼみのある方に剣を振る体でスプーンを当てる。
「そんでくぼみに引っかかるように動かす」
アンはウンウン! と興味津々だ。
「引っかかったら逆方向に払う」
スプーンは短剣の動きに引っ張られた。
「なるほど───! そういう使い方するんですね!」
「いや、知らんかったんかーい」
「なんせいただき物ですし、ね?」
ニワトリ亭に3人の笑い声が響く。
tips:ユウキは「砂漠の向こうの東の国」を漠然とアジア的なものと想像しており、ネパール人が使っていたククリナイフの出どころを推理しました。刀身のくぼみは「チョー」といい、戦闘での使い方はまだ多種に渡るようです。
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