悠希(ユウキ)
「うーん、この世界の今の技術だとリボルバーよりオートマチックの方が現実的か? ……それよりも確かめないといけないことがあるが」
ユウキには宿舎の個室があてがわれた。正式な処遇は数日中に決めるとのことだが、それまではのんびりしてても問題はなさそうだ。そこで転移した時に持っていたメモ帳とシャープペンで、新型魔法銃のアイデアを整理していた。
「メガネかけてる人を見かけたから長距離スコープも作れるよな。スナイパーライフルもいける」
ユウキは元の世界では人文学科の大学生で、歴史オタクだった。史跡めぐりが趣味で、普通の人が知らないような中世の山城跡があると知ると、ハイキングコースもないような山にも登る。
この世界に転移した日もそうだった。電車とバスを乗り継いで史跡のある山のふもとまで行き、1時間ほどで頂上まで登った。そこで空の色が暗転した。晴れていたはずが雨になった。山頂にいたはずなのに平原にいた。おまけに魔物に襲われた。
大声を上げたことで助けを呼べた。異世界に来てしまったことを頭の中で処理しようとしていたが、銃声が聞こえた衝撃で思考が全部吹っ飛んでしまった。
「そういえば……」
あの時の位置関係を整理してメモ帳に書こうとした。自分を中心に後方5メートルに魔物、10時の方向30メートルに弓の女の子、槍の男……昨日まで世話になっていたゼファーは視界に入ってなかったが右5メートルほどを通過中だったはず。そして、エイムは2時の方向……20メートルくらいだっただろうか。
「よくよく見ると十字砲火かけつつの側面攻撃だねこれ。上手いなぁ」
しかし、それより引っかかる問題があった。
「ライフリングのない銃で20メートル超えのヘッドショット? 上手いなんてもんじゃない」
ライフリングは銃口内に刻まれたらせん状の溝のことだ。この溝が弾丸に旋回運動を与え弾道を安定させる元になる。ライフリングのない銃ではそんな命中精度は期待出来ない。これは腕前の問題ではない。
「これは……しかるべき道具を与えたら化けるかもしれない」
昨日のエイムの笑顔がよぎった。
「いや、しかし……。無双とは……なんだ?」
リロード(弾丸の再装填)の概念がないゲームの世界ならそういうのも可能かもしれない。魔法で撃つ銃とはいえ、実弾を使う以上リロードの問題は避けられない。
「こういう世界じゃたぶん近距離の遭遇戦も想定しないといかんし。まだそこは追々考えるかな」
とりあえず腹が減ってきた。教えてもらっていた食堂に行こうかと立ち上がり、ドアを開ける。
そこにエイムがいる。少し驚いた様子だ。
「えっと、どうしたの? 今日は」
「あーー・・・ええ、ランチご一緒しようかなってお誘いに来たんです」
「パトロール隊御用達の食堂があるんですよ。どうですか?」
「いいね。ちょうどお腹がすいてきてたんだ」
「よかった! 行きましょ!」
エイムの柔らかい笑顔が、一人で異世界に来てしまったユウキの心に染みた。
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