落ちこぼれ
宿場町エイサムのパトロール隊宿舎、エイムは自室のベッドでつっ伏していた。
「うう……調子に乗ったなぁ……」
3年前、エイムは騎士団領の首都マルボークで新設される鉄砲隊の訓練生だった。
火縄銃……マスケット銃は50年ほど前に完成していたが、人間同士の戦争が途絶え平和な時代が続いていたせいか、軍備としての需要には応えられなかった。問題はいくつもある。発射までの手順の煩雑さ、天候に左右されるユーティリティ性、そのくせに低い命中精度。
戦争が続く時代なら、集団戦術に効果的に組み込む方法も考案されただろう。軍の配備には見送られ、貴族の狩猟の道具になり、払い下げられたものを猟師が使う。その程度だった。
状況が変わったのは5年ほど前、騎士団領に魔物の進入が頻発化したことだった。
街道のパトロール強化で被害は軽微なものになったが、騎士団は魔族による大規模侵攻も視野に入れての防衛体制の構築に迫られた。
その過程で魔法銃が生まれた。騎士団の構想は、魔法銃の部隊を城壁の上に並べて城門に迫る敵を一斉掃射だ。魔力制御できる者をその力の大小を問わず募集し、弓と同様の速射性が発揮出来るように訓練した。
エイムはその中にいた。成績は及第点だったが、正規兵の採用からは漏れた。首都マルボークで働きながら予備役として訓練を続行する道もあったが、街道パトロール隊で実戦経験を積む道を選択した。
「落ちこぼれなのよ……私は」
2年半からの実戦経験で装填速度、命中率ともに向上したとは思う。他の武器種との連携も体感的に出来るようになった。ユウキを救出した戦闘で、エイムは魔物の急所を撃って仕留めた。だけど、急所を外しても当たりさえすれば……いや外していても突撃したゼファーの槍が魔物の心臓を貫いたはずだ。
もっと言えば、ユウキは射線には入っていなかったが、ユウキが転ばなければ安全の為に大きく目標を外して発砲する選択肢もあった。そういう判断がとっさに出来るようなっている。
だが、劣等感が根っこにある。
「無双はないわよ。無双は……。やっぱり支援役だし」
調子に乗ってしまったことに今さら恥ずかしくなってじたばたする。
「……ふう」
深呼吸して心を落ち着かせ、窓を見つめた。
「でも、あの人と話すのは楽しかったな……」
今日は非番だった。じっとしていても仕方がない、と思い
「よし、もう一度会いに行ってみよう」
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次回はユウキの独白回になります。