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【平均評価4.3】異世界のガンガールは引き金を引かない  作者: ひめくり
魔法銃と転移者
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遭遇



 街道の宿場町ロコモーティに夕刻の始まりを知らせる鐘が鳴る。

 町の中心部にある騎士団の詰所、その奥の部屋で出撃の準備をする二人の少女がいた。

「朝こっちに来るときは持ちましたけど、雲が厚くなってきてましたね。途中で降り始めるかもです」

「えー? やだなぁ。こいつは濡らしたくないんだけど」

 金髪ポニーテールの少女が腰に装着した革製のホルスターに手を当てる。

「雨の日でも撃てるってすごいですよね、それ」

「濡らすとバラして乾かさなきゃいけないんだよ。寝るの遅くなっちゃうから今日は何事も起きてほしくない」


 彼女らの仕事は街道のパトロールだ。

 騎士団領の首都マルボークから砂漠の入口にあたる商業の街サノセクまで、南北に走る長い長い街道。ここに時折出現する魔物から旅人や隊商を守るのがその任務である。

 魔物は街道の東側から出現し、西側にある騎士団領の穀倉地帯を目指す。その阻止も主たる任務だ。


「銃の手入れにちょっと時間かかるかもだけど、待っててくれる?一緒にご飯食べよ」

 馬屋に向かう途中、金髪ポニーテールが青髪ショートの少女に尋ねる。

「待ちます待ちます! 今日はあったかいもの食べなきゃ!」

「そうね」

 2人はそれぞれの馬に手早く馬装を施し、騎乗して騎士団の詰所前の広場に出る。隊長の男が待っていた。

「じゃあ、行こうか」

 隊長がそう言うと、馬首を北門に向ける。


 3人は騎士団というには軽装だった。ラフな麻のシャツにポケットがたくさん付けられているカーゴパンツ。鉄製のアーマーなどではなく、革製の胸当てと胴巻きが鎧替わりである。

 彼らのように街道の要所要所でパトロールをしている者は正規の騎士団員ではない。わかりやすい言い方をすればアルバイトだ。

 パトロールのアルバイトは彼らにとっては本格的な冒険者になるための足掛かりである。冒険者は主に街道の東側に広がる草原を超え、騎士団領の外、魔族の支配域で活動する。極めて危険な行動だ。なので実戦経験を積みつつ万全の装備を組むための資金稼ぎをする。


 ロコモーティの北門を抜け、三人は街道に出たところで雨がかすかに頬を濡らしているのに気が付いた。大雨にはならなそうだが、回復は見込めなさそうである。

「あーあ、もう降ってきた」

 隊長のゼファーは優男風だが勇敢な戦士だ。午前中のパトロールでも突撃から槍の刺突で大オオカミ種の魔物を3体仕留めた。

「今朝みたいにやみくもに突っ込まないで下さいよ。突っ込むなら突っ込むで、こちらの射線を意識してくれないと、援護できません」

「ああー、そうだったねうん。銃使いと組むの初めてだからさ」

「ていうかパトロール隊で銃使いってセンパイ以外います?」

「……希少種なのは認める。けど訓練受けてたのは私だけじゃないし、私の銃も特注品って訳じゃないから他にもいるはず」

「そうなんだねー」

「だから早く慣れてください」

「はーい」


 パトロール任務は1日2回。午前中に拠点の街から隣の街まで行き、午後は拠点に帰る。馬に乗り、並足と速歩を繰り返して2時間強の行程だ。霧のような雨な中、行程の半分が過ぎ、拠点の街エイサムからロコモーティに向かうパトロール隊に出会う。互い隊の無事と、異常の有無を報告しあったのち、それぞれの方向に進む。

「今日も街道を通る隊商はなし、ですね」

「まあ、砂漠を越えてきた隊商はほどんど王国や公国へ直接向かうから、騎士団領にはあんまり用は無いよね。エイサムやロコモーティは宿場町の(てい)ではあるけど、実際は付近の農場で働く農夫たちの村だし」

「防壁もあるし、住居が固まってた方が安全ですもんね」

「で、穀倉地帯の奥に侵入した魔物は本職の騎士団で対応……と?」


 ピカッ


 と、音は鳴らなかったが、雷のような閃光があたりを覆った。

「雷か?」

 隊長のゼファーは空を見上げた。しかし3秒、5秒と待っても雷の音はしない。普通、雷ならば音が遅れてやってくるはずだし、雷鳴が届かない距離で雷が落ちたにしては光が強烈すぎた。そんなことを考えていると───。

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 100メートル前方、こちらに向けて懸命に逃げてくる男がいた。その後方を人狼型の魔物が追いかけている。人狼型は二足歩行ゆえ足はそれほど速くはない。だが並の人間ならすぐに追いつかれるはずだ。極めて危険な状態だった。

 パトロール隊の3人は即座に反応して男を助けるために馬を走らせた。だが隊長の馬がひと足速い。あぶみを短めに取っていたゼファーは腰を浮かせて前傾姿勢になり、馬の頭の後ろに左手を置き短く巻き取った手綱を操作する。槍を逆手に取った右手は穂先を目標に定め、刺突の構えを取り突撃していった。

「隊長!」

 金髪ポニーテールの隊員が声をかけると、ゼファーは目標に向け曲線を描くように左前方に進路を取る。

「そうそう! アンは右に開いて! 弓で牽制して!」

「了解です!」

 後方の2騎は左右に広がった。アンは射線を確保したと見ると、魔物の足元を狙って矢を放つ。

 突撃してくる騎馬と弓、左右からの攻撃に対応を決めかねて魔物が立ちすくむ。と、そこで───。


 ズシャ!


 追われていた男が転んだ。

 金髪ポニーテールの少女は心の中で(ナイス!)と叫び同時に「フッ」と、ろうそくの火を消すように息を吹く。


 パァン!


 銃声が鳴った。

 構えられていた銃は人狼型の魔物に向けられていた。

 弾丸は眉間に命中した。


 助けられた男は、うつ伏せに倒れたまま「信じられないものを見た!」という顔をしていた。



 金髪ポニーテールの少女が握っていた銃には引き金が無かった。

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