33不仲?
魔女の部屋に入ると、思わず手で鼻をおさえた。薬草や獣の強烈で濃厚な匂いで充満していた。
夢でも現実と変わらぬ五感になったからか、以前よりも実存感が増していた。
魔女の部屋は研究室になっている。本がそこら中に置かれているが、おそらく書庫から引っ張ってきた物をそのままにしてある。窓際に置かれている机には書き留めた紙があった。
魔女は軽く腕を振った。すると隅で使われていなかった椅子と机が動き始めた。部屋の中央まで動くとピタリと止まった。
コンコンと、ドアをノックする音がした。魔女が合図するとドアが開き、使い魔が現れた。
魔女の使い魔は、麻袋で出来たパペットだ。浮遊しながらトレーにコーヒーを乗せて、用意された机の上に置いた。
僕たちは椅子に座り、机を囲んだ。
僕はコーヒーを口に含んでみる。うん、味覚もある。でも現実だとブラックコーヒーは飲めないはずなのに夢では飲めてる。不思議だ。
「勇者様は最近なにをなさっていましたか?」
「そうだな、新種の花を探したり、友好関係を結べそうなモンスターと話してみたり、そんな感じかな」
「地下の大型モンスターを倒したと聞きました。流石勇者様です」
魔女は僕を観察するように、じっくり、目を離さずに言う。いつも通りといえばそうだけど、いつも捕食されそうな気分になる。
「やっぱり噂になっちゃうか。注目されるっていうのは苦手だな」
いっそ、みんなから僕に関する記憶を消すかとも思ったけど、気は進まない。すべて僕の創造物だとしても、記憶という唯一無二の産物を無かったことにするのは惨い。だからやらない。
「良い評判が広まれば、交流を広げるも同義。勇者様は世界中の方々と関係を深めたいようですし、噂など利用できる道具と思えばいいかと」
「そこまで図太くなれないよ」
「そういえば、勇者様に伴侶が出来たことは広まっていないようですが」
チラリと魔女は空子を見る。空子は険しい顔をする。
多分、大型モンスターを倒したことは獣の国にとって大きなニュースだから広まったのだろうけど、空子のことはガウやライムが話さない限り、知られないだろう。
「まだ数人しか知らないんだ。別に隠してるわけじゃないけど、やっぱり自分の噂が広まるのはちょっとね……」
「わかりました。誰にも言いません」
「……ねえー、なんか魔女さん、ボクのこと嫌い?」
「そんなことありません。出会った時に言いましたが、私にとって空子様はもう他人ではありません。どうして嫌いになりましょうか」
「ふーん、それにしてはボクを見る視線が冷たいような、ボクを低く見てる気がするけどなー」
空子は思ってることを全部言う。
僕は割って入るように、
「ま、まあまあ。それより本題に入ろうか。えっと、また研究が進んだようだけど、その話聞かせてもらえないかな?」
「ええ、もちろん」
魔女は手首をスッと曲げる。すると窓際の机にあった紙が風に舞うようにして浮いて魔女の手におさまっていった。
「では、お話します」




