結花vs後輩ちゃん
「じゃあ、お昼ご飯できたので食べましょうか」
ちょうどいいタイミングで結花が台所からお皿を持って歩いてくる。茹でダコみたいになってた姫宮と一緒にいるのは間が悪いと思ってたんだよね。
「あ、一ノ瀬先輩、敬語じゃなくていいですよー?」
「う、うん。ま、仕事中だったから」
「あれー? もう1人も仕事だったような?」
結花の返事を聞いて、姫宮は俺の方をチラチラ見て煽ってくる。
「ちょっと静かにして頂けますか?」
「あはは」じゃねえよ。あと結花も一緒になって笑ってるじゃん。バチバチしてないんならいいんだけどね。
今日のメニューはグラタン。俺が掃除してる間に予熱とかしてたみたいだ。
俺、予熱とか知ってるじゃん、レベルアップしてる。
「「「いただきます!」」」
「一ノ瀬先輩の料理、毎日食べたいくらい美味しいです!」
姫宮も魅力が分かったか、仲間だな。
俺の方が先に知ってたけどね!
「ありがとう」
結花はクールにお礼を言う。
「あ、一条先輩は普段料理するんですか?」
「いやー、あんまり上手じゃないから」
前よりからは上手くなったけどね。結花のおかげ。
「なら私が作っ……」
「ゆうくんは私の料理が一番だよね?」
姫宮の言葉に被せるように言った結花が、まっすぐ俺を見て尋ねる。心配しなくても一番だから! そんなに圧かけなくても!
「もちろん」
「むー……」
俺が返すと結花はにこっと笑う。可愛いから圧かけられてもいいや。
姫宮は頬をぷくーっと膨らませている。
残念だったな、姫宮。結花と張り合おうとするその不屈の根性は尊敬するまであるけどな。
デザートのプリンを食べながら、またなにか策を思い付いたのか、姫宮は不敵な笑みを見せる。
「一ノ瀬先輩は、一条先輩のどんなところが好きなんですかー?」
「「!?」」
あの……俺、スプーン落としたんだけど。どうしてくれんの。
「私はいっぱい思い付きますよー?」
「へえ……勝負する?」
またバチバチしちゃってるよ!
そりゃカップルとその彼氏を狙ってる後輩が集まったらバチバチもするよね。
……めっちゃ他人事だな。
「私から言うね?」
「どうぞ?」
姫宮はなぜか余裕そうに言う。この後輩、まじで恐ろしいよ……。
「一緒にいて楽しい」
「最初から惚気ですか……。誰にでも優しいところです!」
「人の気持ちに寄り添えるとこ」
「やるときはやるところです」
「努力家なとこ」
「気配りできるところです」
「一途なところ」
「恥ずかしいんで、そこらへんで止めていただいて良いでしょうか……?」
ヒートアップしてる2人に恐る恐る言う。
「ゆうくんが言うなら仕方ない」
「そうですね、ここまでにしておきますか」
「私はまだまだ思いつくけどね?」
「私も思い付きますよ?」
まだ結花と姫宮は火花を散らし合っている。
ほんとむず痒いんだが。「穴があったら入りたい」って言葉初めて使えるかも。
「次は一条先輩1人で私の家来てもらってもいいですよ?」
「いや、遠慮しとくよ、なにされるか分からないし」
「言い方が悪いですね……」
ジト目を向けられる。いや、間違ってないじゃん!
「いつでも来てもらっていいですからね?」
上目遣いで言っても、俺には効かないってば、そのあざとムーブ。
「一ノ瀬先輩も、ありがとうございました」
「うん、こちらこそ!……楽しかったよ」
なんか意味が込められてそうで怖い。
「私もです!」
とりあえず今日は、結花を本気モードにさせたらいけないと学びました。でも普段の表情と違って新鮮でした。可愛かったです、まる。
小学生の社会科見学みたいになってる。
「結花と一緒に仕事できて楽しかったー」
「私もゆうくんとできて良かった!またやろうね」
「うん!」
次は知り合いのところを引きませんように。
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