夏休みなのでバイトします
「……バイトしようかな」
もちろんクーラーガンガン、20度に保たれている部屋の中で呟く。外行こうって絶対ならないやつじゃん……。
内職すべき? 製品の組み立てみたいなのとか。
「どうしたの?」
「いやー、夏休み遊びまくるためにはお金が必要かなと」
実際、夏休み前半にも伊豆とか奥多摩とか行ったからなあ……出費が。
結花がなにか思い付いたように両手をパンと鳴らして合わせる。
「最近の家事代行って、2人1組でやったりするらしいよ」
「そうなんだ」
久しぶりに家事代行って聞いたな。初めて結花に頼んだのはもう1年以上前ってことか。時間の流れが恐ろしい。
「一緒にバイトする、ゆうくん?」
「もちろん! お願いします」
「私の分のお給料は今後のお出かけに使ってもらっていいから」
「え、いいの?」
「うん!」
なにそれ。バイトも一緒にできてお出かけもできるという。この夏休みは結花詰め合わせセットかなにかかも。
それから1週間後。俺たちは依頼主の家の玄関前までやってきていた。
「なんか緊張するなー」
「まあ、大丈夫だよ」
俺、自分の家事も満足に遂行できてましたっけ……。掃除ならできるか。
依頼主の家のインターホンを鳴らす。
「どうぞ、よろしくお願いします!」
スピーカー越しに聞こえてくる声、なんか聞いたことあるんですが。嫌な予感しかしない。
「あ、一条先輩じゃないですか~」
やっぱりか……。ニヤニヤしながら言う姫宮を見て、つい額を押さえる。
「本日はよろしくお願いしますね?」
近寄ってくる姫宮を見て、結花が言う。笑顔なんだけど、目が笑ってないんだよなあ。今も牽制球投げつけてるみたいだし。
なんでここを引いちゃうかなあ、初日から。どういう確率だよ。
「じゃあ、私はお昼ごはん作りますね」
そう言って結花は台所に行ってしまう。俺も掃除始めるか。
「どこ掃除したらいい?」
「全部お願いしてもいいですか? あ! 私の部屋は自分でします」
「そうしてもらえると助かる……」
友達(?)だとしても、流石に部屋には入りたくない。
俺はリビングの隅から掃除機をかけていく。
「先輩って、ほんとに彼女さんのこと好きなんですね」
「え……?」
いきなり姫宮がこぼした言葉に、目を丸くする。姫宮の方を見ると、少しすねたような表情をしていた。
「だって、ずっと目で追ってるじゃないですかー」
「ほんと?」
作業をしてたから、そんなつもりはなかった。仕事中だから、もうちょっと集中しないと……。
「ほんとです、たしかに一ノ瀬先輩は女子の私から見ても可愛いと思いますけど」
「わかる」
台所でテレテレして、もじもじしてる結花さん、バレてますよ。
「やっぱり一ノ瀬先輩は強敵ですね、ラスボス級の」
「……その不穏な発言はやめていただけます?」
結花は褒められたことで今さっきの姫宮の発言は耳に入っていないみたいだった。良かった、のか……?
「ま、姫宮のそういう素直なところはいいと思う」
「へ……?」
姫宮も顔真っ赤にしないで!
俺の周りにはチョロインが多すぎて困る。
天使は1人だけだけどね!
最初のバチバチしてた空気が緩んでほんわかとした(?)空気で昼食を迎えられることに安堵した。
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