2回目の花火と朝の海
海で大はしゃぎしたあと、コテージに戻ってきた。
刺身づくしの夕食も終え、窓の外は暗くなってきた。
「そろそろ花火しに行く?」
そろそろ頃合いかな、と思っていると結花が声をかけてくる。
「うん!」
結花を連れて外に出る。東京と違って、ここでは電灯はまばらだ。 東京で見える星の数ぐらい少ない。
そのおかげで無数の星が見える。俺にとってはなんだか懐かしい風景だ。久しぶりに、こんなに綺麗な天の川を見た気がする。
昨日と同じく、俺たち2人だけしかいない砂浜。
砂を踏みしめる、しゃりしゃりといった音がよく聞こえる。
今日の海遊びの帰りに買った花火の袋を開ける。昨日よりも量が多いものを買っておいた。
燃えるろうそくに花火を近づけると、昨日と変わらない温かな灯がついた。
火の玉がパチパチと弾けるのを、結花と一緒に、ぼんやりと眺める。
「また花火できて良かった」
「うん!」
なぜだか分からないけれど、しみじみとした気持ちになる。楽しい気持ちが大半ではあるけれど。
もちろん昨日と同じようにどっちが線香花火の玉を落とさないでキープできるか勝負した。
結果は俺の勝ち。昨日コツ掴んだんだよね、斜め45度に持ったら長持ちするって。
「もう一回やろ?」
「あはは、そうだね」
幸い、線香花火はまだ手元に何本かある。結花と何回か勝負できそうだ。
結花としゃがんで、線香花火をじっと眺めているこの光景を、きっと夏が来る度に思い出すんだろうな。毎年、この思い出を更新しに来れるといいな。
「終わっちゃったね」
結花の持つ、最後の1本の線香花火の玉が落ちたのを見て、結花が少し寂しそうに言う。
地面に落ちて、火の勢いがなくなり、黒くなっていく玉を見ると、俺も少し悲しくなってきた。
東京帰って花火できるとこないかな……ないか。
「来年も花火しに来よう」
俺はそうとしか言えなかった。もっといい言い方見つけられたら良かったのに。
「……うん!」
でも、結花はにっこり笑ってくれる。花火は消えてしまって、辺りは暗いのに、なぜか結花のその笑顔だけははっきりと見えた。
コテージに帰り着くと、一日中海遊びや花火をしてはしゃいだ疲れが出たのか、ふたりともすぐに布団に入って眠ってしまった。
「おはよ、ゆうくん」
頑張って重いまぶたを押し上げる。まだ5時かー、二度寝したい……。
って、(おそらく)2人だけの朝の海に行く予定でした! 5時なら誰もいないでしょ。明るくなり始めたぐらいかな、今。
起きようとは思っているけれど、体が言うことを聞いてくれない。5時間も寝てないから当然のことではあるが。
「朝だよ」
結花はぐっと顔を近づけて、俺を優しく揺さぶりながら声をかけてくれる。
「おっけ、海行くんだったね」
「うん!」
俺はまだ眼をこすりながら外に出る。結花は全然眠そうじゃないんだが。なんで? エナジードリンクは飲まないんじゃないの?
朝の海、朝日が昇ってくる瞬間とか綺麗だろうな。それこそ夢のような景色かも。
全く関係ないですけど、朝の海ってなんか力士にいそうですよね。うん、なに言ってんだ。
そうこうしてるうちに、砂浜にたどり着く。
ちょうど朝日が昇ってくる少し前で、海が鮮やかなオレンジ色に色づいている。目が覚めるような美しさだ。
話すことも忘れて、昇ってくる朝日を眺める。
俺たちはしばらく時間が止まっていたかのように立っていた。
「2人でこの景色見れて良かった」
俺は、この神秘的な風景に合うような言葉を慎重に選んでから、口を開く。
「私もそう思う。……来年もここ、来ようね?」
「うん!」
確かめ合うように、俺たちはお互いに顔を見合わせた。
……たぶん来年も、そのまた次の年も、きっとここにやって来るだろうという根拠のない自信はある。
言葉を交わしてからも、ちょっとの間、俺たちは朝の海を眺め続けた。
「……ゆうくん、あのさ」
結花がゆっくり歩き出したかと思えば、いきなり立ち止まって言う。
俺は結花に並びかけようとしていた足を止める。
「ん、どした?」
「……手、つないで戻ろ?」
「うん!」
結花の手を優しく握って、コテージへの帰り道を歩いた。
結花の手の柔らかさと温かさを感じながら、いつもより、2倍も3倍もゆっくり歩いた。
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