体育祭本番
体育祭の開始がアナウンスで告げられる。
赤、白、黄、青の4つのブロックのうち、俺たちは赤ブロックだ。まあ実際何ブロックでもいいんだけど。
中学の時と比べてわりと高校の体育祭の自由度は高い。灼熱の中、椅子に座ったままって結構辛いんですよねえ、中学校スタイル。
「そろそろ集合時間だね!」
「うん、それじゃ行こっか」
自分たちの種目が始まる10分前にスタート地点付近に集合というわけなので、俺たち2人は歩いてそこを目指す。
……みんな来るの早くない?
ハチマキも念入りに結んでますし。お手柔らかにお願いしますよおおお!?
男子×男子のペアの気迫が恐ろしい。てかなんでそいつらと戦わなきゃいけないの、部門分けてくれ。
俺たちがやってきたのを見て、彼らにはさらに闘志が湧き上がってきているようだ。
「ゆうくん、一緒に勝とうね?」
口振りこそ若干柔らかめであるものの、その表情からは男子ペアにも負けない闘志が見てとれる。髪を結んでいて、もう走り出す準備は万端のようだ。
「もちろん!」
俺もハチマキをぎゅっと締め直した。
スタートラインに並ぶ。
200mトラックをだいたい4分の3ぐらい走るようだ。
同じ組は男子どうしのペアと、俺たちと同じように男子女子のペア、女子どうしのペア、そして俺らの計4ペア。
号砲が鳴って、弾かれたように一斉に走り出す。
男子ペアがコーナーに入る前からハイペースで飛ばし、リードを広げる。
しかし、それは想定内。
俺たちは2番手の位置につける。他の2ペアの足音は、後ろの方から聞こえてくる。
コーナーの終盤、数メートル前を行く男子ペアの速度が落ちる。たぶんリズムが合わなくなったんだろう。
これは抜けるな、と思う。
最後の直線。前との差はなくなり、隣に並ぶ。
あとはこのままのリズムを保てば勝てる。
俺たちに並ばれて焦った男子ペアがさらにペースを落とす。
『一着は赤ブロック!』
俺たちは見事に1位でゴールした。
「おつかれー、勝てて良かったね」
結花が額の汗を拭いながら笑顔で言う。まだ余裕そうな表情だ。
「練習通りリズム崩さず行けたね」
「うん、前に出られたときは少しだけ焦ったけど、ゆうくんと息ぴったり合わせて走れたね」
そう言って結花は満足そうな表情を見せる。
なんとなく歩きづらさを感じながら、自分たちの席まで戻ろうとする。
「ゆうくん。二人三脚の布、巻いたままだよ?」
「あ、ほんとだ」
結花はくすっと笑いながら言う。俺も結花につられて、にやっと照れ笑いする。
自分たちの席まで戻ったけれど、総合結果発表までもうすることも特にないので、結花と一緒に自動販売機に飲み物を買いに行く。
「はい、結花」
がらっと音を立てて落ちてきたスポーツドリンクを渡す。前の練習の後に飲んで、美味しいなと思ってたんだよな、これ。
「え、いいの?」
「うん、今日のMVPの賞品ってことで」
俺は、結花に笑いかけながら言う。結花はお礼を言って、そういうことなら……と言い、ペットボトルのキャップを開けようとする。
「……じゃあさ、半分こしない?」
結花はキャップを開けようとする手を止めて、俺に提案してくる。
「……え?」
「二人三脚は2人でやったから……いいよね?」
「お、おん」
もう1本買えばいい話だけど、デレデレモード結花のお願いは断れそうにない。というか断りたくない。
俺、正直者として表彰されてもいいかも。
スポーツドリンクはほどよく甘い、爽やかな味がして、俺たちに夏の訪れを教えてくれるみたいだった。
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